【Interview】音圧爆上げくん | 「アーティスト/クリエイターにはクオリティアップと時間短縮に使ってほしい」キャッチーなネーミングでも人気の国産自動マスタリングサービス開発背景とその目指す先とは?

2019.7.19

音圧爆上げくん ―― そのインパクト大なサービス名を持つ自動マスタリングサービスについては、知り合いのビートメイカーが教えてくれました。なにやら若手のラッパー、DTMerのあいだでかなりの使用頻度だと。誰でもストリーミングサービスで楽曲が配信できるようになった一方で、限られたイニシャルコストの中でもクオリティを追求したいこれからのアーティストにとって、音質を上げる選択肢の一つとして有効にワークしているようです。今回は気になるそのサービスについて、音圧爆上げくんの開発者であり、サービスを運営する株式会社音圧爆上げくんの代表である福勢さんにお話をききました。


音圧爆上げくん | 「アーティスト/クリエイターにはクオリティアップと時間短縮に使ってほしい」キャッチーなネーミングも気になる国産自動マスタリングサービス開発背景とその目指す先とは?
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音圧爆上げくんの開発経緯

——まず、音圧爆上げくんの基本的なサービス内容を教えてください。

音圧爆上げくんはマスタリングを自動で行うウェブサービスです。音楽制作を行う方の、「マスタリングをうまく行えない」、「マスタリングに時間がかかってしまう」 といった課題を解決します。

自動マスタリングサービスはLANDRなど他にもありますが、音圧爆上げくんの特徴は、音圧を爆上げできる、つまり、ラウドネスを大きくできることが特徴です。料金プランは、月額課金の使い放題プランと、音源単位の都度課金プランがあります。

——サービスを立ち上げられた経緯というのは?

音圧爆上げくんは、大学時代の研究と自分用に作ったツールをベースに作りました。2012年、大学時代、音質を維持したまま音圧を上げるリミッターの研究を行いました。2013年、私自身マスタリングがうまくできなかったことをきっかけに、周波数特性とダイナミックレンジを任意のリファレンス音源に近づけるツールを作り、個人的に使っていました。

そして2016年、それらをウェブサービスとして使えるようにして、音圧爆上げくんとしてリリースしました。

——ネーミングの妙と言いますか、サービス想起がダイレクトですし、非常にキャッチーなサービス名ですよね?

サービス名は、直感で決めたんです。Twitterでネーミング起因でときどきバズるので、マーケティングの面では得をしてるなと思います。

 

設計のこだわり

——サービスの設計においてこだわられているところは?

サービス設計でこだわったところは、「ユニークである」ことです。理由は、後発なのでユニークでないと存在価値が無いからです。自動マスタリングサービスのLANDRは2014年にリリースされましたし、音圧爆上げくんはその後にリリースされているのでユニークな機能が無い限り、LANDRを差し置いて音圧爆上げくんを使う理由はありません。なので、他に無い機能を優先的に作るようにしています。

——UIで意識されているところは?

UIでこだわっているところは、情報設計ですね。UIに工数をかけられないので、後ろ向きではありますが、ディティールにはこだわらず、UIライブラリをそのまま使うようにしています。そのかわり、UIの階層構造がなるべく自然になるようにしています。

 

ユーザーについて

——音圧爆上げくんを利用しているのはどういったユーザーが多いですか?

ユーザーは打ち込みで音楽を作る、いわゆるDTM界隈の方が多いと感じています。フィードバックを得るために、定期的にTwitterでエゴサをしますが、音圧爆上げくんに関するツイートをする方はDTM界隈の方が多い印象です。

——ラッパー/ヒップホップの、特に若い世代からの利用も多いとみかけたことがあります。

 

 
ラッパー/ヒップホップ界隈でのユーザーが増えたきっかけは正直分からないんですよね。ラッパー向けのマーケティングも特に行っていませんし。

仮説ですが、今までラッパー/ヒップホップ界隈のユーザーに認知されていなかったのが、なにかの拍子に認知されることとなり、その後はTwitterやリアルの口コミで広がったのではと考えています。

 

サービスの現状

——音圧爆上げくんはリリースから数年経過して、現在のサービスの成熟度合いや、他のサービス/マスタリングソフトとの棲み分けをどのように考えられていますか?

2014年に自動マスタリングサービスLANDRがリリースされてから5年経過していますし、音圧爆上げくんとLANDR以外にも複数の自動マスタリングサービスがリリースされてきました。

その間、自動マスタリングサービスに起きた変化は、LANDRが音楽配信サービスを提供するようになったくらいで、あまり大きな変化が起きていません。なので、まだ大きな変化を起こす余地はあると思います。

自動マスタリングサービスの棲み分けは二通り考えられます。

一つ目は、機能差による棲み分けです。音圧爆上げくんの特徴は圧倒的に高いラウドネスを得られることです。LANDRの特徴は有名であることや音楽配信が行えることです。このように機能差によって棲み分けがされる場合、機能のバリエーションはそれほど多くなく、かつ、ユーザーにとって同じ機能を持つサービスは一つで十分なので、あまり多くは生き残らないと思います。

二つ目は、VSTのような棲み分けです。VSTプラグインは、機能としてそれほど差が無くても、新製品がでると気になったり、買い替えたり、比較したりしたくなりますよね。VSTには音の特徴、UIの使い心地など、言語化できない「好み」の要素があるからだと思います。自動マスタリングサービスもVSTのように、好みによって棲み分けがされる場合は、同じ機能を持った多くのサービスが生き残る可能性があります。

——音圧爆上げくんは海外向けのブランドもありますよね?

海外向けと日本向けは、ブランド名と入り口(ランディングページ)が違うだけで、中身に違いはありません。

ちなみに、海外向けのブランド名は AI Mastering です。ブランド名を変えた理由は、音圧爆上げくんのニュアンスは日本語ネイティブにしか理解できないと思ったのと、私は英語圏のネイティブ感覚がわからないので下手に凝らずにサービスの内容をそのまま表す名前をつけたほうがマーケティング面で有利に働きそうだと思ったからです。


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音圧爆上げくんの音圧に対するスタンス

——いわゆる音圧戦争などの議論もありますし、現在、音圧に対してアーティスト/クリエイターは様々な考え方を持っていますが、福勢さんの音圧に対する基本的な考え方やスタンスはどういったものでしょうか?

私の音圧に対するスタンスは2種類あります。

一つ目は、音圧戦争に武器が必要なら提供するというスタンスです。極限まで音圧を上げることには賛否両論ありますが、そのニーズは確かにあるので、そこに対して音圧爆上げくんというエクスカリバーを提供します。

二つ目は、音圧戦争の元凶となっていると思われる都市の騒音を排除したいというスタンスです。持論ですが、都市の騒音が大きくなると、人は高い音圧を求めるようになります。なぜなら、騒音下では音圧が高いほうが音質が良くなるからです。

例えば、ダイナミックレンジの大きい音源を騒音下で聞くと小さい音が聞こえません。そもそも音が聞こえないのは、音質的には最悪です。そこで、音圧を上げてダイナミックレンジを狭めると、それによる音質劣化はありますが、騒音下でも小さい音が聞こえるようになるのでトータルで見ると音質が改善されます。なので、都市では人は高い音圧を求めるようになります。もしこの説が正しければ、音圧を下げるには騒音を下げれば良いわけです。

騒音に対する既存の解決策はノイズキャンセリングイヤホンです。しかし、ノイズキャンセリングイヤホンはまだ理想に到達してません。VR、AR、MRのような概念は、視覚的な側面が強調されることが多いですが、聴覚でもあり得ると考えています。スマホ、AIスピーカー、VRメガネのように、VRイヤホンのような概念が次世代デバイスとして提唱されて、ノイズキャンセリングイヤホンがそっち方向に進化すれば、都市でも快適に音楽を楽しめるようになると思います。もし、クラウドファンディングでこのようなプロジェクトがあったら自分でも買うでしょうね。

また、根本的に都市の騒音を減らせば、音楽とか関係なくみんな嬉しいと思います。

——音楽に関していうと、ストリーミングでの視聴環境がメインになってきている現状をどう思われていますか?

現行の音圧のトレンドは追えていないのでなんとも言えませんが、仮説として、今後、音圧を上げたいニーズは減りませんが、ストリーミング配信によって音圧は下がると考えています。

まず、都市の人口密度は上がり続けると思うんです。持論ですけど、人口密度が上がれば幸福度が上がるからです。例えば、東京の人は深夜でも徒歩でコンビニに行けますよね。病気のときも、通える範囲に複数の総合病院があり、好きな病院で医療を受けられますし、他にもさまざまな集約のメリットがあります。このようなメリットがあるので、人口密度は上がり続けます。そして、人口密度が上がると騒音が増えます。結果として、前述のように、騒音が減らない限り音圧を上げたいニーズは減りません。

一方で、ストリーミングだとラウドネスノーマライゼーションを強制的に適用できるので、音圧は一定レベルまで下げられることになると思います。

——アーティスト/クリエイターには音圧爆上げくんをどのように活用してほしいですか?

アーティスト/クリエイターには音圧爆上げくんを、クオリティアップと時間短縮に使ってほしいです。

これも持論ですが、人が音楽を作る理由は、知的好奇心とコミュニケーションの二つだと思います。そして後者が圧倒的に多いと思います。コミュニケーションが増えると幸福度が上がります。そう思う根拠はSNSが流行ったからです。

言語で例えるなら、自動マスタリングサービスは自動校正ソフトです。英語をうまく書けない人にとって、自動校正ソフトは正しい書き方を教えてくれるので、クオリティアップにつながります。英語をうまく書ける人にとっては、すばやくミスをチェックできるので、時間短縮につながります。

日本は識字率が高く、ほぼ全員がTwitterやブログで世界とコミュニケーションできますが、音楽はそうではありません。

音圧爆上げくん単独では全てを解決できませんが、今後、誰でもかんたんに音楽でコミュニケーションできるようになったらいいと考えています。

——そういった中で、ミックスやマスタリング含め、AIでDTMはどこまで進化すると思われますか?

現在の技術でできそうで、かつ、面白そうなのが、音楽を聞かせると、1秒先までの音源を予測して作ってくれるAIです。あまり情報を追えていないので、もうすでにあるかもしれませんが。

スプラトゥーンなどのネットワークゲームでは、ネットワークのラグがあるので、他プレイヤーの真の現在位置を知るのが難しいです。なので、他プレイヤーの動きを予測し補間することで、違和感のないように処理します。音楽でも同じことができれば、ネットで快適にジャムセッションができるはずです。

最終的には、やろうと思えば音楽制作の全行程がAIでできるようになると思います。今みんなが作っている音楽が、AIの学習データとなり、後世に受け継がれたらエモいですよね。

 

音圧爆上げくん開発者はどういう人?

——ネーミングのインパクトが強く、その印象が強くなりがちなのですが、福勢さんのパーソナルな部分も少しお伺いしてもよいでしょうか?

はい、どうぞ。

——個人的にお好きな音楽はどういったものですか?

好きな音楽ジャンルは2種類あります。

一つ目は、知的好奇心起因で好きなジャンルです。この意味では全てのジャンルが好きだといえると思います。特に、聴いたことの無い和音を見つけて分析するのが好きなんですよね。今までに発見した和音で印象に残っているのは、例えば、低音側から、[C G B E A C#]と積んだ和音や、[Bb Eb Ab C E]と積んだ和音です。これらは広く知られている音楽理論では説明しづらい一方で、耳馴染みが良いので不思議です。詳しい方がいたらTwitterからでも教えていただければと思います。

二つ目は、快楽起因で好きなジャンルです。この意味では、J-pop、アイドル、アニソン、ジャズなどが好きですね。快楽のツボはコード、メロディー、リズムです。コードは、[C Bm7b5 E7 Am7 Gm7 C7 F]など一般受けする進行が好きです。メロディーは、童謡の「赤とんぼ」、「あめふりくまのこ」のようなシンプルで無駄のないメロディーや、J-popのような涙腺を刺激するメロディーが好きです。リズムは、Hank Mobleyの「Remember」のリードのような感じが好きです。

——音を仕事にされている方がどのようなイヤホンやスピーカーを好んでいるかも興味があるのですが。

特にこれといったものはありませんが、こだわるとしたらかまぼこで耳に優しいものが良いです。Creative EP-630というイヤホンは好きですね。

——また、Blogを拝見すると様々な新しいサービスのご紹介もされていますよね?あれはどうしてですか?

ブログでサービスを紹介する理由は、自身の興味、コンテンツマーケティングです。面白そうなのに日本語の情報が少ないものは紹介しています。

過去に紹介した、音源からボーカルを分離するPhonicMindというサービスは、Twitterでボーカル分離サービスを作ってほしいという要望があり、作る前に既存サービスを調査するなかで見つけたものです。PhonicMindは実際試してすごかったし、ブログのアナリティクス的にも検索回数が増えているので、伸びるかもしれないです。

もう一つ過去に紹介した、ブロックチェーンで報酬をやり取りするChoonという音楽ストリーミングサービスは、ビットコイン投資視点での情報はありましたが、音楽視点での情報がなかったので紹介しました。

——あと、猫のデザインをけっこう使われていますよね?

ロゴは海外用のランディングページを作るときに作ってみました。猫を起用したのは、具体的なものをモチーフにすることで、覚えやすくしようと思ったからです。猫は媚びないところが好きですね。

——差し支えなければ音楽以外のご趣味というのは?

趣味は仕事です。

 

音楽以外への展開

——最近、御社は音楽だけじゃない動画の利用シーンにも注力されていますよね?

音圧爆上げくんを動画市場に売ろうと思った経緯は、動画市場が伸びていてかつ、LANDRなどの競合が自動マスタリングサービスを動画市場に積極的に売っていないので、試しに売ってみたら売れるのではと思ったからです。

——運営において、インディペンデントでエッジのきいたスタンスをかなり感じるのですが、ビジネス的に意識していることは?

あまり考えていないんですけどね。ただ、インディペンデントなスタンスについては、もしかしたらTwitterやランディングページに感情がこもっていないところが、そう感じさせるのかもしれませんね。これは意図ではなくスキルの問題です(苦笑)。

——今後はどのような展開を考えられていますか?

音圧爆上げくんではAPIを提供しているので、音楽に限らず他サービスとの連携が増えれば面白いと思います。

 
(2019.07.21 update)

 

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この記事の執筆者

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