【Who’s NXT】THE BORING TAPES | DIY&深淵なスタンスでストイックに音楽を追求し続けるベッドルームレコーディングユニット

2019.12.1


THE BORING TAPES インタビュー

東京・江戸川を拠点に活動するベッドルームレコーディングユニット THE BORING TAPES。中学・高校の同級生だった Hiromu Koinuma と Sota Kodera からなるTHE BORING TAPESは、それぞれがストイックに音楽を追求し、多様なジャンルのサウンドを吸収しながらコンスタントに作品を発表し続けてきた。今回、そんな日々のインプットを改めて最大限に注ぎ込んだ3rd EP『Samsara』をリリース。チルウェイヴ/ヴェイパーウェイヴ/ドリームポップ好きはもちろん、幅広いリスナーにも届くであろう良質なサウンドが展開される意欲作となっている。

Who’s NXT : A series of interviews with featured artists


THE BORING TAPES

Hiromu Koinuma
(Vocal,Guitar,Bass,Keyboards & Programming)

Sota Kodera
(Chorus,Bass,Keyboards,Percussion & Programming)

2018年、東京都江戸川区にて結成。
Indie Rockを軸に、Shoegaze、Dream Pop, Chill Wave, Lo-Fi Hiphopなどの音楽性を取り入れており、作品毎に多様なサウンドスケープを見せる。
ベッドルームレコーディングやセルフミックスを始めとする、DIYなスタイルが特徴。

 
——まず、お二人がそもそも音楽に興味を持ったきっかけを教えてください。

Koinuma : 初めて音楽に触れたのは、幼少期に始めたヴァイオリンです。最初はヴァイオリンを通して、音楽の基礎的なことや表現を学びました。それからいろいろなジャンルの音楽に無作為に触れてきましたが、14歳の頃にGalileo GalileiやBUMP OF CHICKENなどに出会いギターを始めたことが、ロックというジャンルに興味を持ったきっかけです。その後 彼らの音楽を糸口に、ルーツであるUK/US のIndie RockやShoegazeを聴きあさるようになり、そういったジャンルの音楽を作るようになりました。

Kodera : もともと母が家の中で たま、岡村靖幸、大江千里、Jackson 5などを流していました。興味の原点はそこにあるんですが、他のJ-POPを聞いたときあまりにそれらと違っていて、衝撃を受けたことも一因としてあります。バンドを組むまでは自分でHipHopのトラックを作ったりしていたのですが、Koinumaに誘われたことで初めてIndie Rockというジャンルを聴くようになりました。

 
——THE BORING TAPESはどういった経緯で結成されたのですか?

Koinuma : もともと一人でデモを作っていたんですが、曲数も増えてきて、何らかの形で作品化したいと考えた時に、主にビートに自分以外のエッセンスを加えたく、当時HipHopのトラックメイキングをしていたKoderaに声をかけたのがきっかけでした。家も近かったので二人で何度か集まっているうちに 1st EP『LUGGAGE』のデモが完成していったのですが、二人での共同制作にやりやすさを感じ、その流れのまま、今まで来ています。

 
——現在の活動拠点はどの辺りになりますか?

Koinuma :主には江戸川区にある自宅で、制作やベッドルームレコーディングをしています。ライブは下北沢mona recordsですることが多いです。

 
——最新作とその聴きどころをご紹介ください。

Koinuma : 12月1日に3rd EP『Samsara』をリリースしました。サンスクリット語で輪廻転生を意味する”Samsara”になぞらえ、輪廻や循環、回帰をテーマにした曲を多く収録しました。6月に配信リリースした「Black Water, White Rainbow」から引き続き、ライブでのサポートメンバーも務めるSatoshi、Tommyと共同制作したのですが、4人それぞれが共通して好きなジャンルである、Chill Wave、Dream Popや、Lo-fi HipHop、Electronicaなど、様々な形態の電子音楽のサウンドが取り入れられています。影響を受けた音楽の年代も様々で、80s的な雰囲気や、より現代的なシンセサウンドなど、バラバラとも言える要素をグラデーション的に取り入れました。僕ら自身、古き良き音楽がリバイバルという形で様相を変え、現代に残ることについて再考した作品でもあります。そういう意味でも輪廻というテーマが、このEPにはマッチしていました。


THE BORING TAPES インタビュー

『Samsara』 各配信ストア : https://linkco.re/MqZG00Nm

「Portal」
バンドとして初めて作ったインストの楽曲です。様々な音色が交替でメロディーを構築するところや、その重ね方が聴きどころです。トランジッションに瞬間的に挟まるパッドシンセやボイスサンプルが、スピード感を演出し、各セクションをつなげる役割を担っています。また、ドラムのフレーズのパターンも我々の曲の中ではかなり多く、緩急を支える重要なポイントになっています。Tychoなどに影響を受け、Electronicaとオーガニックなサウンドの中間点をどこに置くかということを意識しました。

「Butterfly」
80s的なシンセサウンドとChill Wave的なサイドチェインの融合を意識して作った楽曲です。精神的な連環を、蝶がカゴの中をもがくように飛ぶさまになぞらえ、抜け出せないループについて歌っています。極端にバリエーションを抑え、ワンパターンにまで削ぎ落としたメロディーと、全体に漂う緊張感が聴きどころです。

「Quiet Room」
HipHopとCity Popの中間にある楽曲だと思います。シンセの広がりやリズムギターによって、サウンドの落ち着きと高揚感を両立した楽曲です。ボーカルが入って一気にCity Pop的になるところと、全体を通して流れる粗いビートが特徴的です。また、歌詞にある1つ1つのオブジェクトから多角的に背景を見せることや、部屋の内外の風景の繋がりを短い距離感で描くことで、より立体感に拘った作品でもあります。

「Art」
全体に漂う空虚さと、自然な楽器の増え方が持ち味ですが、サンプルを使用したことによる独特の質感も聴きどころの1つです。歌詞については、なにが情景描写で、なにが心理描写なのか、その境界を曖昧にすることによって、ある場所に居ながらも様々なところに意識が散る感覚を表現しました。曲の最後にはシューゲイザー的なギターを取り込んでいるのですが、それによって空いていた空間が満たされるような、不思議な密度の曲になりました。

「Black Water, White Rainbow」
初めて4人で作った楽曲なだけあり、様々なエッセンスが混ざっています。SatoshiさんのFunkをルーツとするギターによって、楽曲に軽やかなリズム、グルーヴが加わり、またTommyの影響から、Washed OutなどのChill Wave、Beach HouseなどのDream Popのサウンドを取り入れました。パッドシンセやコーラスの多さによる層の厚さは意識しましたが、同時に豪華になりすぎないこと、空虚さを保つことも念頭に置いて作りました。Tommyが弾いたベースのタッピングが叙情的なエッセンスを加えてくれていて、いろいろな意味でバランス感覚を求められる楽曲制作でした。

「Sailboat」
デモを作っている段階で、映画のエンディングのようなスケールの大きい楽曲になっていきました。歌詞はそのようなスケール感や透明感から、船での帰郷と祈りをテーマにし、情感を意識しました。音が持つイメージを言葉にも反映させていきながら、歌詞の最後では抽象的な言葉をあえて入れていくことでより情景を広げ、このEPの終わりに合った世界観になりました。また、この曲ができたことによって、このEPの輪廻や回帰といったテーマ性が確立されました。

 
——詳細な解説ありがとうございます。さらに、他にTHE BORING TAPESを知る上で、おすすめの楽曲をあげるなら?

Koinuma : 2nd EP『visible(in)visible』より「Rorschach」です。制作時にハマっていた、80sの音像に影響を受け、ゲートリバーブが効いたドラムやボーカルエフェクトなど、80年代のサウンドを研究し、勉強になった曲です。また、歌詞が特に気に入っていて、インクの染みから何を連想するかを元に精神分析を行う、「ロールシャッハテスト」のモチーフと、自らの内面的・精神的な内容を表裏一体に描けたことで、僕らのソングライティングの軸を見つけられた作品でした。また同時に、見えるもの・見えないもの・その間のもの という2nd EPの題材を形作ったきっかけにもなる曲でした。

Kodera : 僕は2nd Singleの「At Dawn」です。これは名前の通り夜明けの情景の曲で、歌詞とメロ、コードのデモが一番早くできた曲でもあります。聴きどころは、後半の楽器の増え方、特にパーカッションの増え方が気に入っています。後は変則ビート。特にここは悩み抜いて作ったので、思い入れの強い曲です。

 
——THE BORING TAPESでは、普段楽曲の制作はどのようにされていますか?

Koinuma : 楽曲によって様々ですが、メロディーやコード進行から作ることは少なく、DAWを使いながら、デモ全体を一気に作っていくことが多いです。そのため、ヴォーカルのメロディと歌詞は一番最後に作るケースが多いです。デモの核を作るのも2人でゼロからやる場合と、どちらかがある程度作ってきて2人で詰める場合とがあります。ビートやフレーズの作り方にループを多用するなど、HipHop的な方法論を用いる点は制作スタイルの特徴かもしれません。また、デモ制作からレコーディング・ミックスまで、自宅の居室に籠って2人でやっています。


THE BORING TAPES インタビュー

 
——まだTHE BORING TAPESを知らない人に、その特徴を伝えるなら?

Koinuma : 好きな音楽のジャンルを横断し、グラデーション的な音楽を作る点で、現代的なバンドと言えるかもしれません。楽曲制作の多くの工程を2人でやっていて、特に決まったパート分けがないことも、その原因の一つだと思います。

Kodera : アルバム・シングル毎に違う色を出しつつ、その中に共通したエッセンスや思想があることだと思います。さらに、1つの楽曲の中で2人の持っている価値観や思いが色々な比率で混ざったりもしているので、そこから生まれる独特な視点が一番「バンド的」だと思っています。

 
——お二人はどんなアーティストに影響を受けてきましたか?

Koinuma :

Galileo Galilei(BBHF)
ベッドルームレコーディングというスタイルを知ったきっかけになるバンドでした。また、自分たちが影響を受けた楽曲をブログやTwitter等で紹介していたことなどから、自分にとってUK/US Indieへの架け橋となったバンドでもあります。そういった思想は自分のような若者たちにとって、とても重要な価値を持ったものだったと思っています。

DIIV
初めて聴いた時、Vocalをはじめとする独特な音像に衝撃を受けました。一般的に日本のPopsは明瞭なVocalを中心に据えた音作りが多いと思いますが、その固定観念を打ち破られた点で、多大な影響を受けています。また歌詞についても、英語が母国語ではない僕でもアート性を強く感じられるもので、より深く理解したいという思いを起こさせるほどの魅力があります。

New Order
今作では特に、サウンドに影響を受けているかと思います。シンセのビビットな音づかいを取り入れながらも、現代的になりすぎず、悪い意味でのチープさを出さないことを意識していたため、とても参考になりました。

 
Kodera :

Men I Trust
サウンドスケープの上でかなり影響を受けています。80sを思わせる不思議な、どこかマットな空気感とグルーヴは今作にも反映されていると思います。

Tame Impala
同じく80s感のあるアーティストですが、ヒップホップビートと鋭めのリードシンセの粗野感と曲構成の緻密さのバランスにおいてかなり勉強になりました。シンセ主体でありながら、背景にロックを感じさせるのも好きな理由の一つです。

Ginger Root
ブラックミュージックの影響が濃く出ていながらも、粘っこくない爽やかで軽やかな音楽性であるという点が非常に大好きです。自分がインディーポップに本格的に興味を持つきっかけのアーティストでもあります。

 
——楽曲でいうと、どういった曲に影響を受けましたか?

Koinuma : これらは今作に限ったものになります。

Phoebe Bridgers – Smoke Signals

サウンドの透明感と、温かい空気感の両立は、デジタルな音源で曲を作っていく際にとても参考になりました。

 
Men I Trust – Norton Commander

シンセのローファイな雰囲気やうねりに影響を受け、Pad系のシンセにVibratoエフェクトを多用するきっかけになりました。

 
Washed Out – Feel It Around

Chill Waveの代表格として Tommyと出会った時に、よい共通項となりました。その影響が今作に強く出ています。

 
Kodera :

POP ETC – Running In Circles

80s的なシンセの使い方と固いノリ、そしてネオンカラーのMVに非常に影響を受けました。「人力レトロフューチャー」感が堪らないですね。

SUPERCAR – STROBOLIGHTS

透き通った真っ直ぐな音使いと、グルーヴ感のあるテクノは非常に参考になりました。

Crumb – Nina

硬さと温かみを両立した楽曲は他のアーティストにも様々な曲がありますが、今回は最近よく聴いているこれを選ばせていただきました。

 
——音楽への真摯なスタンスが伝わってくるTHE BORING TAPESですが、音楽活動にあたって何か特に意識していることはありますか?

Koinuma : 自分たちの内面的な部分を切り出し音楽に落とし込むことのみに集中し、誰かに何かを伝えることや、経済的整合性などの、別の目的意識を安易に重ねないことです。また、新鮮なアイディアや原動力を保つために、常によい音楽を聴くこと、いわば先行文献研究を怠らないことを重視しています。

Kodera : Koinumaにないものをいかに忍ばせるかは割と重要視しています。自分の得意分野はKoinumaとは違ってビートやシンセなので、「その手があったか」と思えるようなフレーズを乖離しすぎないレベルで織り込むのが自分の役割だと思ってます。

 
——現在の音楽を取り巻く環境やシーンについて、何か感じることはありますか?

Koinuma : 音楽においての商業的なことについて、あまり関心がない原因でもあるのですが、「商業としての音楽」と「文化としての音楽」の間には大きな乖離を感じます。シーンを通して、添加物としての”キャッチーさ”や”エモさ”などが求められすぎているようにも見えます。

Kodera : これは踊ること、パーティーをすることが一般的でないからだと思うのですが、ライブやクラブが非日常であるという図式が蔓延していると感じていて、逆にそういう場所に向いてないような日常的な音楽の閉塞化、サブカル化もそこから生まれていると感じています。例えばフェスの増加はライブと日常を地続きにすることと必ずしも繋がらないと思っていますし、アーティスト側でなくリスナー側の働きかけがなければこの壁は突破されないと思っています。

 
——今後の活動の展望や予定は?

Koinuma : デモや楽曲の種を作り続けていきます。

 
——最後にメッセージを。

Koinuma : 3rd EP『Samsara』がApple Music、Spotify等のストリーミングサービスで配信中です。僕らなりの よい音楽を詰め込んだので、是非一度聴いてみてください。フィジカルの制作も予定しているので、各種SNSをチェックしていただけると幸いです。マイペースなバンドですが、今後ともよろしくお願いします。


THE BORING TAPES インタビュー

 

THE BORING TAPES
Twitter
Instagram
YouTube
bandcamp
TuneCore Japan


THE BORING TAPES インタビュー | DIY&深淵なスタンスでストイックに音楽を追求し続けるベッドルームレコーディングユニット【Who's NXT】

この記事の執筆者

THE MAGAZINE

国内のインディペンデントアーティストをメインに新たな音楽ムーブメントを紹介するウェブメディア