703号室 インタビュー 「音楽でひとりぼっちの人を救いたい」幅広い層から支持を集めるSNS時代の鬼才アーティスト
今やYouTubeでの再生回数が2,000万回を超える楽曲「偽物勇者」で音楽シーンに颯爽と登場し、以来コンスタントに作品をリリースし着実にファンを増やし続けているシンガーソングライター・岡谷柚奈(おかや ゆうな)のソロプロジェクト、703号室。今年夏にソールドアウトした1stワンマンライブに続き、早くも2ndワンマンライブもソールドアウト。SNS世代はもちろん、老若男女幅広く支持を集める彼女に、活動のスタンスから楽曲制作、そして今後の展望にいたるまで話を聞いた。
703号室の名を知らしめた「偽物勇者」
——まず703号室を語る上で、2019年にTikTok発でヒットとなった「偽物勇者」は外せないと思います。「偽物勇者」はどういった経緯で生まれたのでしょうか?
2019年の4月くらいに作った曲なんですけど、売れたらいいなとかそういう感じで作ったわけでもなくて。作る前の時期にちょうど菅田将暉さん主演のドラマ「3年A組」がやってましたけど、私自身も心無いコメントを書かれたり、学生時代、友達に裏垢でめちゃくちゃ悪口書かれたり、そういう経験があって。それで学校に行けなくなっちゃった時もあったんですよ。自分の正義を他人に押し付けることってありがちで、でもその正義だと思ってることは狂気にもなるなと感じたし、私は言葉というものは人と人を繋いだり、人を勇気づけたり、そういう素晴らしい力があると思うんです。そんな言葉の力を人を傷つけることに使ってしまう世の中に対して、色んな想いが沸々と込み上げてきて。そういう思いが募ってできた曲でした。
——今となってはTikTokでバズって、そこからApple MusicやYouTubeとか他でも再生が伸びる流れはヒット曲として普通になりましたけど、当時は「偽物勇者」はその先駆けというか、早かったですよね。
そうなんですよね。当時は私自身も訳がわからずというか、とりあえず配信リリースしてみたら、ある日妹からすごい再生されてるよって言われて。「え、なにこれ!」みたいな(笑)。YouTubeのアートトラックがすごく再生されてて、何でだろうと思ってたら、どうやらTikTokで『鬼滅の刃』のMAD動画ですごく「偽物勇者」が使われているからってことが分かって。奇跡のようだって、本当にびっくりしました(笑)。
——そういうあまり前例のない形かつ急激なヒットを経験されて、音楽や音楽活動に対する考え方の変化はありましたか?
狙って作るのはやめようと思うようになりました。あと、「偽物勇者」が生まれるまでは、ポップな路線というか自分の負の感情を出すというよりは楽しい幸せな曲を歌うアーティストを目指したいと思っていたんですけど、「偽物勇者」をリリースしたことで、自分のアーティストとしての味に気づいたというか。自分は、基本的には人に好かれたいと思っている部分があるので、普段は「明るい性格の自分」を表に出しているんですけど、本当は負の感情、怒りのエネルギーがかなり強くて。でもその怒りの部分はなるべく隠して生きてきたんですけど、「偽物勇者」でやっとその放出先を見つけた気がして。それを音楽にすることで自分にしかできない表現や作品になるのかなって。なので、作る曲の雰囲気は「偽物勇者」の前後でだいぶ変わりましたね。自分の嫌な経験や劣等感を昇華させて表現することが、人を救うことに繋がるかもしれないって考えたら、怒りとか今まで隠さなきゃと思って溜め込んできた負の感情も大事にできるようになりました。自分にしかできない音楽はここだって気づいた感じですね。
——「偽物勇者」が伸びて、さぁこれからという時にコロナ禍に入ってしまい、当時活動もだいぶ制限されたと思うのですが、その状況をどう感じていましたか?
そもそも当時はお客さんがいないライブハウスで歌うことがほとんどだったので、心境的にも集客で苦しくなることが多くて。それが原因でライブをすることもあまり好きじゃなかったので、コロナでライブが出来ませんってなった時に、あ、これで曲作りに集中できるなって、むしろ良い方向に考えてました。外に出れない期間は、自分を見つめ直せる時間になったし、こんなことを言うとよくないかもしれないですけど、その時間がけっこう自分としては有意義だったから、そのポジティブさをみんなにお裾分けできたらなと思って。それをするためにSNSでの発信を本格的に考えるようになりましたし。
——ある意味ピンチをチャンスにというか。
そうですね。
バンドからソロプロジェクトに
——ソロプロジェクトになったのもそのコロナの最初の時でしたよね?
はい、音楽の専門学校の卒業と同時にソロになったんですけど、卒業式もコロナでできなかったりして。
——ソロになっての変化で、具体的にどういったことがありましたか?
より歌詞に力を入れるようになりました。バンドの時はメンバーの意見も聞きながらだったんですけど、自分だけになってからは自己との対話、自問自答を何度も繰り返すことを通して、心のもっと深い部分までさらけ出せるようになったのかなと思います。
——ソロとバンドで、それぞれ良い面と逆に大変な面がありますよね。
もともと中3でシンガーソングライターとして音楽をはじめた時から高3までずっとソロでやってて、バンドを組みたくて専門学校に入って2年間だけバンドをやったんですけど、自分としては、結局ソロに戻るってことは自分に合ってるのはソロなんだなって思っています。自分が頑固なのでメンバーと意見が衝突することもあったし、申し訳ないことをした時もあったかもしれないんですけど、ソロだと自分のペースでできるのでいいのかなって。でもやっぱり一人だと寂しい(笑)。
——ソロに戻っても、名前は703号室のままというのはどうしてだったんですか?
もとの名前に戻そうとも思ったんですけど、「偽物勇者」で703号室という名前を知ってくださった方もたくさんいましたし、せっかく「偽物勇者」が少しは説得力のある曲として広まったんだったら、その名前は大事にしたいなと思って。言葉って”誰が言ってるか”によって説得力も違ってくると思うから。
あと、703号室っていう名前だと、未来に対するビジョンがすごく湧いてくるんですよね。最初にバンドとして組んだ時、本当に音楽で食べていけるかもしれないってすごいワクワクしたんですよ。そういう気持ちを忘れたくないからっていうのもあります。
他にも、絶対他と被らないし覚えやすい、字画も調べてもらったらめっちゃ良かったっていうのもあるかな(笑)。
バラエティに富んだ703号室サウンド
——これまで12曲のシングルをリリースされていますが、ノリのよいロックな曲からアコースティックなもの、スケール感のあるバラードまで、703号室の楽曲は非常にバラエティに富んでいますよね。楽曲の制作はどのようにされていますか?
基本的にはアコギ1本で作っています。言葉とメロディが同時にでてくるタイプなんですけど、適当にアコギを弾きながら、いいのがでてくるのを待つ感じで。
「人間」という曲はDTMにチャレンジして作りましたね。専門学校で中途半端になっていたDTMを一粒万倍日を機にもう一回やってみようということでできた曲です。そこからDTMやキーボードでも曲を作るようになりました。
——「人間」はDTMの日が浅いとは思えない完成度ですね。
実は、最初「人間」は冒頭の部分しか浮かばなくて。それですごい困ってた時に、ラムシーニさんとたまたまご縁があって、コライトをさせていただけることになって最後まで仕上げることができました。自分だけじゃでてこなかったようなメロディや語感が生まれた曲となったので、とても勉強になりましたね。自分でも703号室の新たな側面に気づきました(笑)。
編曲はできた曲に合わせて、信頼しているアレンジャーの方々にお願いしているんですけど、曲の土台はフルコーラスまでは一回全部自分で作りますね。リフも自分で考えたりしますし、メロディになるものは自分で考えたいタイプなんです。
——先ほどにもありましたが、703号室は聞く人をはっとさせるような言葉のチョイスも含めて歌詞も非常に個性的ですが、歌詞はどういったことからインスピレーションを得ていますか?
私、お寺や神社がすごく好きなんです。両親が昔、滝行をやってて、幼い頃からそれについていったりしてて。なので神仏がすごく身近にあって、般若心経の意味やお釈迦さまがなにを伝えたかったのかとか、そういうことを考える機会が多くて。それと同時に、例えば正義と悪がはっきり二分化されるのはおかしいなとか、お金や権力って勝手に人間が作り出したもので他の生物からしたら何の意味も持たないよなとか、色んな違和感を感じるようになって。そういう感覚や考えが自分の全ての歌詞の根底にはあると思います。そこをもっと洗練して突き詰めたいなと思っています。
また、最初にでてきた言葉をそのまま歌詞にすることはなくて、703号室だったらどう言うか、どう伝えるか、そしてどういう言葉だったら興味を持ってもらえるかについては、めちゃめちゃこだわっています。
——そういった深いこだわりがあると、曲ができるまでやっぱり時間がかかる?
それは場合によってで、例えば「片想いうぉーかー」は30分くらいでばーって出来たり、反対に「裸足のシンデレラ」はものすごく時間がかかったり。そこに何の違いがあるのか自分でも分からないんですけど、傾向として恋愛系の曲は時間がかかる気がしますね、なんか照れくさくて(笑)。
ただ、こだわってはいますけど、自分しか意味がわからないとか、聴いてくれる人を置き去りにするような単なる自己満足にならないようには気をつけています。なので、ライナーノーツもできる限り曲が理解できるよう丁寧に書くようにしています。
「音楽でひとりぼっちの人を救えるかもって本気で思う」
——ファーストワンマンライブにお伺いした際、パフォーマンスのクオリティはもちろんなのですが、オーディエンスが老若男女、世代も幅広いことが印象的でした。幅広い支持を得ている原因を自己分析するなら、どんなところだと思いますか?
色んな世代の方が来てくださったことは、自分でもびっくりしました。SNS、特にTikTokでは若い世代の方に知っていただくことが多いだろうなと思っていたし。本当の原因は分からないんですけど、毎週火曜の早朝にラジオ番組のパーソナリティをやっているのでその影響は少なからずあると思います。「偽物勇者」だけでそうなったかというとそうではないと思っていて、やっぱり老若男女の幅色い世代の方が聞いていらっしゃるラジオというメディアを通して、自分のパーソナルな部分を知ってもらえるようになったというのは大きいのかなと思いますね。
——703号室さんの人間性も知ってさらにファンになると。そういったアーティストとしてのイメージをはじめ、MVなどのクリエイティブに関してはどういうところを意識していますか?
MVとかも、妥協のない作品作りを心がけています。一卵性の双子の妹がいるんですけど、音楽に興味を持つきっかけをくれたのが妹で。その影響で自分も歌うようになったので、私がアーティストになれているきっかけをくれた彼女とずっと何か一緒にやれたらいいなと思っていて。妹は今イラストレーターなので、最初のMVは妹にお願いして全部作ってもらいましたし、「青星」のMVも妹が描いたイラストをスマホで編集して作っているんですよ。妹とは自分がしたいことを本音で言い合えるので、妥協のない作品作りを追求できる存在が身近にいるのは大きいですね。
アーティストイメージに関しては、聴いてくださる方それぞれに応じた存在でいられればいいというか。ある人には身近な存在だったり、またある人にとっては憧れてもらえるといった風に。自分の発信する曲や言葉を受け取ってくれた方が自身で判断してもらえればと思っています。
——活動のスケールに関してはいかがですか?海外などは?
海外にも出て行きたいですけど、まずやっぱり日本というか、いつか絶対東京ドームに立ちたいと思ってます。中3で音楽をやろうと思った時から夢ノートをつけてて、そこに「ドームに立つ」って毎年の目標として書いてるんですよ。いつか絶対にかなえたいと思ってるので。
音楽活動をすればするほど、音楽って本当にすごいなって身に沁みて感じるんです。お客さんが少ない小さいライブハウスでも、自分の曲で涙を流してくださる人がいたり。そういう経験をすればするほど、音楽でひとりぼっちの人を救えるかもって本気で思うし、配信リリースするようになって、自分の知らないところで何かのきっかけで聴いてくれて、元気になりましたってTwitterでリプしてくれたりとか。一生で会いに行ける、出会える人って限られてると思いますけど、今の時代のスタイルでリリースすれば多くの人に届く可能性があるし、その1曲3分が届いた人の人生を変えられるかもしれない。だけど、ドームを埋めるくらいのアーティストにならないと、私が救いたいと思って人に届かないと思うから。
ファンへの感謝、そして今後の展望
——確かにそこまで認知があれば届く可能性は違ってきますよね。現時点でも楽曲を届けるにおいて、TikTokにしても703号室さんはかなり上手に活用されていますね。
TikTokはとにかく研究しましたし、分析も徹底的にします。トレンドになってる動画の雰囲気、文字の出方、光の差し加減、顔の露出具合、投稿時間、コメントしているユーザー層とか、そういう基本的なところ含めて全部チェックしてて。曲自体は狙っては作らないんですけど、TikTokの動画はバズを狙って工夫してやってます。あと、そもそも好きなんですよね。すぐに結果が出るし。伸びないのはすぐ消したり。
——SNSだったりで疲れてしまうアーティストも今は多くいますが、703号室さんはそういったことは?
そうですね、聴いてほしいっていう気持ちが強すぎて、一時期自分自身が音楽アレルギーみたいになった時はありました。新しい音楽とか、テレビや街で鳴ってる音楽も全然聴けない、聴きたくなくて。それでもやっぱりコメントだったりワンマンライブでの応援だったりが立ち直るきっかけになったし、今この時点で曲を聴いてくださっているみなさんには本当に感謝しています。
——アーティスト活動において、共感する、影響を受けたアーティストはいますか?
Mrs. GREEN APPLEさんが本当に好きで。表には見えないところで色んな思いを抱えて乗り越えてきているんだろうな、という気がして。いつも刺激を受けます。作詞・作曲でもめちゃめちゃ影響を受けてるんで、いつかお会いしたいですね。あとRADWIMPSさんには特に作詞の面で人生観や恋愛観や死生観などで影響を受けていますし。日食なつこさんもそうですね。かなうのであれば、いつかそういったアーティストの方々と共演や共作の機会があればもうたまらないですね。
どういう人生を歩まれてきたんだろう、どんだけ傷ついてきたんだろう、どれだけのことを乗り越えてきたんだろうとか、そういうことが気になってしまうアーティストはやっぱりすごいなって思います。なので、自分も楽曲はもちろん703号室という存在が気になって、好きになってもらえるようなアーティストになれたらって思います。
——今後の活動でやっていきたいことはありますか?
アルバムはやっぱり出せたらって考えています。フィジカルでもリリースしたいですね。あと、絵本とかで曲が物語として進んでいくような作品を作りたいですね。それが、映画になったりも。
——では最後に10月10日のセカンドワンマンライブへの意気込みをお願いします。
ファーストのワンマンって、最初だから行ってみようっていう人もいると思うんで、だから本当のスタート、勝負はセカンドワンマンからだと思ってるんで、より703号室の深くまで、真髄まで見せられたらなと。ライブタイトル「ADDICT」の通り、703号室中毒になるくらい、ガシってオーディエンスの心を抱きしめたいなって思っています。さっきも言いましたけど、今のファンの方には言葉では言い表せないくらいもう本っ当に感謝しています。これからも頑張りますのでよろしくお願いします!
703号室
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