Sailing Before The Windインタビュー 「“これはSBTWにしか作れないスタイルなんだ” という確信がモチベーションになっている」
国内メタルコアシーンにおいて大きな存在感を示しているSailing Before The Wind(以下、SBTW)。リリースされている二枚のEP『Judgement』、『Sanctuary』が、先日Apple Musicに新しく創設されたメタルジャンルのランキングに度々チャートインするなど、アクティブなライブ活動とあわせ、その勢いは日々増しています。そんなSBTWのファウンダー/リーダーでもあり、ベースプレイヤー、コンポーザー、プロデューサー、果てはレコーディングエンジニア、マスタリングエンジニアまでこなすというメンバーのBitokuさんに、ストイックとも言える音楽性のバックグラウンド、DIYな活動スタイル、デジタル音楽サービスの利用についてなど、幅広く話をうかがいました。
曲のクオリティに徹底的にこだわる
——SBTWのこれまでの活動状況について教えてください。
バンドは2011年の2月に結成しました。そこから最初の1年半ほどはライブをせずにひたすら音源を制作して、ディスクユニオンなどに販売委託する形でリリースしていました。
——1stデモ『HORIZON EP』はSTMでも高い評価を受けていましたね。
ごく一部とはいえ、当時得た反響によるモチベーションが今に繋がっていると思います。その後、2012年の9月から本格的にライブ活動をスタートしたんですけど、2014年の12月に僕以外のメンバー4人が全員脱退しまして。それで、そこからは正式なメンバーは自分だけで、他のメンバーはライブメンバーという体制に切り替えて活動しています。
——Bitokuさんはベーシストであり、曲も作って、エンジニアもやって、バンドのプロデューサーでもあるとマルチな活躍ですね。Crystal LakeやAlphoenixなど様々なバンドでもサポートプレイヤーを担当していますね。
基本ライブやツアーがあって、その間にエンジニアの仕事や曲作りをして、なんとか上手く時間を回しています。
——SBTWの音楽性は基本メタルコアだと思うんですけど、その中でもかなり叙情性が強くて、海外の大陸的なスケールの大きさを感じさせる楽曲が多いですよね。
その辺はかなり意識していますね。メロディアスなハードロック、いわゆる80〜90年代の「HR/HM」ってあるじゃないですか。
——「BURRN!」的な(笑)。
そうそう(笑)。それをいかに上手く消化してメタルコアと融合させるかが自分の中でテーマとなっています。元々80〜90年代のスケールの大きなスタジアムロックとかアリーナロックがすごく好きで、その影響というのは自然と出てるかもしれません。あと付け加えるなら、自然の景色からもインスピレーションを受けることもあります。家の近くになんの変哲もない普通の山があるんですけど、そこに登った時にメロディーが降りてきたり。
——そのメロディアスなハードロックとメタルコアを融合させるというテーマを追求しようと思ったきっかけは?
自分自身が元々そのどちらも好きでどんどん追求していくうちに、その二つを合体させたようなバンドが聴きたいと思ったんですけど、好みのアーティストがあまり見つからなくて。メロハーなギターメロディもあるんだけどDjent要素やブレイクダウンもあって、さらにメロデスっぽいリフもあるみたいな。それで、ないならじゃあ自分で作るかと。
——活動を開始した時期でいうと、PeripheryとかSumerian Records周りが流行ったぐらいですかね?
ちょうどPeripheryが日本のマニアの間で騒がれ始めたぐらいだったと思います。Peripheryというよりは当時のSumerianのバンドには影響を受けました。とにかく僕がこだわっているのは曲のクオリティで、そこはかなりストイックにやっています。いわゆるとってつけたようなリフではなく、僕が好きなそれぞれのジャンルの音楽を分かっている人に届けられるように作り込んでいます。
——SBTWが特徴的なのは、そういった分かっている人に届けるというところがありながらも、例えば「Drift Apart」のようにメタルコア好き以外のリスナーにも訴求できるキャッチーさや幅広さも持ち合わせている部分だと思うのですが。
幅広いロックファンに「届け!」と思いながら作ってはいません、万人受けを目指して作られた音楽は他に山ほどあるので…。かといって、限定しすぎているつもりもなくて。ルーツの半分であるハードロックは市民権を得ているジャンルなので、キャッチーさはそこからきていると思います。広い層への訴求性について、そういう文脈で感じてもらえることは嬉しいです。
——歌詞の内容も、その音楽性に紐づいたものだったりしますか?
『Sanctuary』の歌詞に関しては、割と自分に起きたことそのままという内容です。楽曲での割合でいうと、曲がまず100%で、そこに加算的に歌詞を載せるというか。歌詞を軽視しているわけではありませんが、SBTWの場合は曲の完成度ありきになっています。
SBTWサウンドのルーツとは
——Bitokuさんはそういったストイックさからか、膨大なインプットとアウトプットがあって、メタルコアやDjent、チャグとかその辺に詳しくなりたかったらBitokuさんのプレイリスト追っていたらある程度は大丈夫なぐらい掘っていますよね。そういったキュレーターとしての側面もお持ちだと思うのですが、普段はどのように音楽を探していますか?
最近はもっぱらSpotifyを使っています。探す時はプレイリストを経由するというよりは、自分でどんどん探しに行くスタイルで、なるべく自力で見つけたい。
——もっと昔、まだネットでそれほど気軽に音楽が手に入らなかった学生時代は、どこで音楽をディグっていたんですか?
図書館ですね(笑)。CDを借りることができる図書館が家の近くにあって。そこはバーコード情報で借りる申請をするところなんですけど、受け取るまでジャケットが見れないんですよ。だから聴いたら「なんじゃこれ!?」みたいな音楽にもたくさん出会いつつ(笑)、当時はずっとそういう形で音楽を聴いていました。
——TSUTAYAでもなくて図書館というのは、いいエピソードですね(笑)。その当時はどういうアーティストに影響を受けましたか?
Edge of Sanityです。
——おぉ、Dan Swanö!
音楽自体もそうなんですけど、音楽の活動スタンスという点でもDan Swanöに影響を受けました。あの人ってマルチプレイヤーで一人で全部やれて、Edge of Sanity=Dan Swanöというイメージが強いし。ああいう形態でも良い音楽を作れるんだって思いました。
——そこも今のSBTWに通ずるんですね。他に、もう少しメロディアスなロックの影響ではどうですか?
Bon Joviですかね。もともと親が聴いていてそこから入って。あとは80〜90年代ぐらいのメロハーバンドで、TNTやHarem Scaremとか。あの頃のメロハーバンドっていきなりグランジに走ったりするケースがめちゃくちゃ多かったじゃないですか。それにちょっと悲哀を感じるというか(笑)。その感じもすごく好きで、そういったアーティストはたくさん聴いていました。
——グランジショックありましたね(笑)。ちょっとストリーミングの話に戻るんですけど、アーティストとしての立場からはApple MusicやSpotifyのようなデジタルの音楽サービスはどうみていますか。バンドシーンでは割とフィジカルにこだわるアーティストもいらっしゃるようですが。
もうそれは、みんな(デジタルサービスを)利用すればいいんじゃないかなと思います。最近は周りもストリーミングに流れてきているような感じもありますね。それこそレコ発が名目のライブでもCDは置いてなかったりしますし。あったとしても、白盤でコードが封入されていたり。僕らも結成当初からリリースした音源は全部Bandcampにアップして、EPも全部YouTubeでも聴けるようにしてきました。実際自分が音楽を知るきっかけもデジタルだったりするんで、そこに抵抗はないですね。とは言え、バンドによってはビジネスもあると思うんで、国によってセグメントを切って展開する場合もあるようですが。
理想の音楽は、自分で生み出さないと聴けないことが原動力
——以前のインタビューで、バンド活動に関してはDIYを拡大解釈しすぎないでやっていきたいとおっしゃっていましたね。
それを言葉で説明するのはちょっと難しいんですけど、要はセルフコントロールの範疇を超えたところで、自分のバンドの音楽が扱われることに違和感があります。DIYと言いつつ、バンド活動に関する業務で誰かに委託したりする範囲が目の届かないところまで広がっているとしたら、それはもうDIYではないかなと。
——SNSやOfficial Siteなども自分で運用されているということですが、運用の際に気をつけていることなどはありますか?
何かを否定することで、自分が勧めたいものを肯定しない、というのありますね。なるべくネガティブな言い回しの情報発信はしないようにしています。
——バンドのセルフブランディングの部分に関してはいかがでしょうか?
最初ライブをやり始めた時点で言えば、それまで長くライブをこなしてきているバンドにライブ力で到底勝てるとは思えなかったので、視覚的な要素、それこそ着るものをウィンドブレーカーで統一してみたり、動きを合わせてみたり、海外のアンダーグラウンドにある新しい要素を持ち込むことで勝負しようとはしていましたね。今はそれだけじゃなく、パフォーマンスも力はついてきたと感じています。
——バンドの活動において、具体的にプランニングして動いていたりしますか?
このバンドの場合はメンバーの入れ替わりが激しすぎて(苦笑)、正直存続させることで精一杯でした。安定してきても、結局プランニング通りにいかないケースが多いですね。
——そこはやはり人数が多い“バンド”という形態そのものが難しくしている側面もあるかもしれませんね。メンバー脱退や辛い時にバンドを存続させていこうとモチベーションとなったことはありますか?
理想の音楽は、自分で生み出さないと聴けないことが原動力の一つです。辛かった時も、客観的に自分の曲を聴いて、他にこういう音楽性の曲があるのかを改めて研究しました。極端な例えですが、「Smoke on the water」を知らない人が、たまたま「Smoke on the water」と同じリフの曲を思いついて、気づかないまま発表したとします。そして、それを“オリジナリティ溢れる”とか自称していたら……。自分はそうはなりたくなくて。
好きだといってくれる人達(バンドが続く大きな要因です)に対して、オンリーワンなものを提示することは必須であると思うし、メタルコアは王道の美学もあるからこそ、その両立に対しては妥協なくシビアでいないといけない。音楽を片っ端から聴いて聴いて聴きまくって、それでも崩れない「これはSBTWにしか作れないスタイルなんだ」という確信が、モチベーションになってきました。自分自身が自分の次の作品を聴きたいから続けている部分もありますね。
——そうやって活動されてきた中で、表現者として成長したなと感じる瞬間というのは?
一つ思うのは、僕らのようなある程度複雑な曲をプレイするバンドが大きな会場でやる場合、細かいフレーズが伝わらなかったり、複雑なリズムがぼやけて聞こえちゃったりというのがあると思うんです。それで、ノリや分かりやすさを重視して音楽やステージングを簡略化する方向に流れるケースもあるとは思うんですけど、自分の場合は逆に、それを経験したからこそ音楽単体としてのクオリティを保ったまま、そこにライブならではのエナジーを載せて曲をオーディエンスに伝えたいと意識するようになりました。
——なるほど。今後はライブでその部分にも改めて注目させていただきます。最後に、アーティストとしての目標を教えてください。
何十年か後に、僕と同じような音楽オタクがSBTWの音源を聴いた時に「スゲェ!」って感じて狂ってほしいですね(笑)。パイオニアとして、短いスパンではなく、長い年月を経た後も残る作品を創ることができたらと思っています。遅くとも2019年には新しい音源を出す予定です。待っていてくれる皆さんありがとう、そして最後まで目を通していただきありがとうございました。
↓2019年3月2日にリリースされた『Revised Standards』 (2019年4月追記)
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