FUJI ROCK FESTIVAL’22 「ROOKIE A GO-GO」ライブレポート

2022.9.13

今年のFUJI ROCK FESTIVAL‘22は、公式発表によると前夜祭からのべ4日間で69,000人が来場し、天候にも恵まれた。多くのオーディエンスが来場する中、新人アーティストの登竜門とも言われる「ROOKIE A GO-GO」ステージには、FUJI ROCK FESTIVALとTuneCore Japanが共同で実施したオーデイションで選出された全9組(音速ばばあ、downt、xiexie、鋭児、The ティバ、Glimpse Group、Kanna、鈴木実貴子ズ、Khamai Leon)が熱いパフォーマンスを行った。パフォーマンス後のショートコメント、そして先日公開されたばかりのオフィシャルライブムービーもあわせて、ライブレポートをお届けする。

取材・文:カービィ少佐
ページトップフォト : 宇宙大使☆スター

 
DAY1 (7月29日)

 
音速ばばあ(11:30-12:00)

2022年のROOKIE A GO-GOのトップバッターは、2021年に結成したばかりのニューフェイス・4人組バンドの音速ばばあ。一般的なバンドサウンドかと思いきや、ベースの打ち込みとフレッシュなメロディーが印象的な新曲「supercreek」からスタートし、観客を引き込んでいく。この曲はエンジニアのYamakagebeatsが手がけた楽曲。トップバッターの冒頭にこの楽曲を持ってくるとは挑戦的なグループだ。続く2曲目「Cricket」のサマーチューンで会場を盛り上げる。

バンドの構成は、ベースとドラム、ツインギターで、曲によってヴォーカルが入れ替わるスタイル。ザラついたギターと少し荒々しいヴォーカルが、若者の刹那的な青春を連想させ、夏の苗場と相まってなんだか懐かしい気持ちになる。

終盤に差し掛かり、力強いドラムとシャウト、疾走感のあるメロディーが印象的な「Youth」、その勢いのままラスト「Cat Around The Dog」。全力のセッションと叫びで駆け抜けた。

掴みで実験的な取り組みをしている一方で、シンプルなセッションでも観客を魅了する。若さや未来を感じるこのバンドが、これからどういう成長・変化を遂げていくのか見逃せない。

 
 
downt(13:10-13:40)

2組目に登場したのは東京・吉祥寺を中心に活動しているバンドのdownt(ダウント)。こちらのグループも、音速ばばあと同じく(なんとレーベルも同じだとか。)2021年結成と新進気鋭のアーティストである。まさにルーキーと呼ぶにふさわしい1日目だ。

最初に「AM4:50」、2曲目は「mizu ni naru」をプレイ。静寂と緊張感に包まれたスタートから徐々に熱が上がっていく。続いて「地獄で夢をみる」ではペースを上げ、唸るギターとアグレッシブなベース・ドラムの轟音で観客を圧倒した。軽快ながらどこか不穏さを持った危ういメロディーラインが印象な「11511」も演奏。

パワフルかつ強固なサウンドをバックに、透き通ったヴォーカルのコントラストが映える。さらに、メロディーやリズムの展開が面白く、スリーピースバンドながら多彩なアプローチで聴く人を魅了し続ける。あと、演奏の合間に見せる富樫の笑顔が眩しい。

ベースの河合が「結成時からいいね数とか投票数とかフォロワー数とか関係ないと思ってた」といった話をMCでしていた。確かに彼らの音楽は、現行の流行りとか大衆への意識というより、純粋にやりたい事を貫いてるんだろうなと感じる。そのピュアさが中盤演奏された「I coulen’t have done this without you.」の歌詞に垣間見えた気がする。

ラストではガラッと雰囲気を変えて清涼感溢れる「minamisenju」を演奏。どこかもどかしい感情を、疾走感溢れるメロディーに乗せて歌っていた。

30分という短い時間ながら、様々な表情を見せてくれたdownt。エモいという言葉だけでは全然足りなくて、静かな熱や危うさなどをはらんだ不思議な魅力のあるバンドだった。

 
 
xiexie(15:10-15:40)

「ヤッホ xiexieです!」と冒頭で挨拶したのはヴォーカルのMeari。程よく力の抜けたメロディーとオルタナティブなサウンドで、どこか懐かしさを感じさせるバンド・xiexie(シェシェ)が、1日目のラストに登場した。

1曲目には7月27日にリリースしたばかりの新曲「sea bird」をプレイ。タイトル通り海を連想させるチルなムードの楽曲。他のバンドとはまた雰囲気が変わって、脱力感がクセになる。続いてアップテンポな楽曲「city」で会場を盛り上げる。ヴォーカルのMeariはギターとタンバリンの二刀流で、タンバリンを軽快に叩いたり、頭に被ってみたりと非常にチャーミングな一面を見せてくれた。

「narrow sea」では再びレイドバック。再び海がテーマの楽曲だが、メンバーは海が好きなんだろうか。フジロックは山だけど、サマーチューンはいくらあっても構わない。続けて流れるように疾走感溢れる楽曲「13」を演奏。彼ら特有の脱力感・サイケ感は中毒性があって引き込まれる。また、「da da」では、キャッチーなリズムが印象的だった。

ラストは2曲続けて新曲を披露。メロディーが異国情緒溢れるムードでクセになる。最後は激しくセッションし会場の盛り上がりもピークに。一貫してリラックスしたムードかと思いきや、こんなにもパワフルな音も聴かせてくれるxiexie。他にないミステリアスな魅力があるグループだ。

 
 
DAY2 (7月30日)

鋭児(11:30-12:00)

2日目・朝一にも関わらず、ROOKIE A GO-GOのステージにはスタート前から多くのヘッズ達が集まっていた。鋭児という2019年に結成した未だ若いこのバンドは、コアなファンを既に獲得している様だ。

1曲目の「Jam Session」では妖艶なベースラインで始まり、緊迫感を保ちながらヴォーカルの御厨が怪しく歌い出す。最初はしっとりと聴かせて、観客を徐々にペースに巻き込んでいく。続く「突然変異」では一気にアッパーに。キリキリ鳴るキーボードに唸るギター、シャウトで会場を沸かせる。また変わって、浮遊感漂うサウンドの「World is Mine」は夏の空によく合う、開放感溢れる楽曲だった。

序盤の3曲だけでも全く異なる表現を見せてくれた鋭児。ジャンルレスなサウンドだけでなく、ヴォーカル・御厨もタイトなラップをしたり、ゆっくり聴かせるように歌ったりと多彩な表現で存在感を示している。

続く「$uper $onic」は彼らの中でもキラーチューンなのだろうか、明らかにファンのテンションが高まり会場では踊り出す人が続出。「Fire」ではジリジリとギターが鳴り熱気を加速させていった。ラストはバラード「銀河」では、ゆっくり聴かせて観客を魅了。

エネルギッシュなパフォーマンスとクロスオーバーなアプローチが印象的だった鋭児。今後、今以上に人気が出る予感がしている。

 
 
The ティバ(13:10-13:40)

オルタナティブでどこか温かみのあるサウンドが印象的な2ピース・バンドのThe ティバが中盤戦に登場!

最初に疾走感溢れる「Ideals」で会場を温め、「fade」、「Through the dark」で少しスローダウン。ゆっくり鳴らして会場を魅了する。続く「Summer Ends」はタイトル通り、まさに夏の終わりの切なげなイメージ。ジリジリとしたギターとメリハリのあるリズムでエモーショナルに聴かせる。

ラストは更に情緒的な「Go back our home」。途中からドラムのリズムで、展開がアッパーに変わっていくのが印象的な楽曲だ。曲の中に2面性があると、ストーリーを感じ曲により没入してしまう。

The ティバは特にMCがなく、序盤に「enjoy!」とだけ伝え演奏を進めていく様はストイックでクールだったし、マヤの気怠げで奥行きのあるヴォーカルは耳に残った。

 
 
Glimpse Group(15:10-15:40)

2日目ラストは湘南出身のバンド・Glimpse Group(グリンプスグループ)。冒頭の「My Girl」を聴き、ソウルフルなヴォーカルに、まるで歌謡曲の様な懐かしい響きがあると感じた。2曲目「Hurricane」では、夏を感じさせるメロディーにブルージーな歌が映える。

彼らの音楽性には湘南という土地柄も関係しているのだろうか。「湘南マザーファックシティ藤沢からやってきましたGlimpse Fuckin Groupよろしくどうぞ。」と挨拶していてロックだった。

終盤「Devil」、「Make Me Lion」ではレイドバックしムーディに聴かせる。ライブの構成にメリハリがあって色んな雰囲気を楽しめた。ヴォーカルの藤本のパワフルな歌声に圧倒されたし、ヴォーカルだけでなくメンバー全員の演奏の熱量も高く、聴いてるだけでパワーを貰ってしまった。

 
 
DAY3 (7月31日)

Kanna(11:30-12:00)

最終日のトップバッターは、名古屋からやってきたKanna(カンナ)。MC・NOUCHIとギター・KOSHIという2人組の構成だ。配信はシングル2曲のみと、謎に包まれた2人。どういうパフォーマンスをするのか期待が高まる。

1曲目に「Kanna教」、続いて「Super Junky Monkey」とリリースされている楽曲を披露。アグレッシブなギターにタイトなラップがめちゃくちゃマッチしている。情報が少なかったので、ライブ経験があまり無いかもと勝手な先入観があったのだが、上手くて驚いた。後で調べてみたら、どうやらストリートでライブを重ねているらしい。

中盤「Because Of Me」からスローダウンし「那津」へと繋いでいく。攻撃的な序盤から比べると内省的でエモーショナルだ。かと思いきや、最後は畳み掛けるラップとアップテンポなメロディーの「空」で、クライマックスを迎えた。

名古屋はクラシックでクールなラップをするアーティストが多いイメージだったが、NOUCHIも例外ではなかった。リズムの取り方や声の出し方のセンスがずば抜けていて、聴くと自然に身体が動いてしまう。ギターのKOSHIも能動的なプレイで、MCと共鳴し聴きごたえがあった。

 
 
鈴木実貴子ズ(13:10-13:40)

バンド結成から今年で10年を迎える鈴木実貴子ズ。登場した際に、「僕らはバンド名を覚えると、メンバーの名前も一緒に覚えられます。鈴木実貴子と、ズです。」と観客を笑わせ、会場の雰囲気を一気に掴む。

そして1曲目「音楽やめたい」でアコギの弾き語りからスタート。先ほどの和やかなムードから一変、緊張した空気に。力強い歌声が会場に響きわたる。続く「アホはくりかえす(or 生きてしぬ)」では更に切迫感が増し、会場の熱を高めていく。

その後のMCではヴォーカル&ギターの鈴木実貴子がFUJI ROCKへ出れた事への嬉しさを「めちゃめちゃどうしようって感じ!」と包み隠さず語っていて、このストレートさがこのバンドの本質だと気づいた。その後、投票の事を言うズに対し、「先のことは言うな!」と叫ぶ鈴木実貴子。対照的な2人の掛け合いが微笑ましい。

「最期は正々堂々と死にたいです。」という言葉から始まった「正々堂々、死亡」では、疾走感溢れるメロディーに「最終目標、正々堂々、死亡」という直情的な歌詞が刺さる。曲の最後には、全てを出し尽くしたかのように、鈴木実貴子がステージ上に崩れ落ちる。ラストは新曲の「夕やけ」を披露し、拍手喝采で幕を閉じた。

 
 
Khamai Leon(15:10-15:40)

3日間通して晴れてたというのに、ステージ直前に振り出した雨。ラストにKhamal Leon(カメレオン)が登場し、冒頭から怪しいフルートの音色で、会場を更に不穏なムードに誘っていった。

1曲目「the ray of youth」からその世界観に驚かされる。まずフルートがバンドにあるのが新鮮だし、ラップは切れ味いいし、ギターとキーボードは二刀流なんだと、初見としては情報量が多い。しかし、その音や展開のバリエーションが唯一無二というか、彼らの世界を創り上げている要因なのだと納得。また、音大・藝大出身のメンバーから構成されており、その音楽的センスやスキルは折り紙付きのようだ。その上に実験的で挑戦的な音楽性が成り立っている。

「ubiquitous」は不協和音というか、違和感を感じさせるメロディーが印象的だった。曲中「優れた noise」という歌詞があるのだがまさにその通り。絶妙な、一歩間違えれば不快になってしまうような危うさがあって引きこまれる。「小径」では途中朗読があり、パフォーマンスも楽しめて面白い。また、ラップも「Grrrrrrr!」とスピットしたり、アグレッシブで畳み掛ける場面があったりと多彩だ。ラスト「Do you hear the hymn??」では、緩急のあるリズムと展開の多さで聴衆を翻弄しながら、Khamal Leonワールドを締めくくった。

「こんなバンド見た事ない!」というのが率直な感想。トリッキーなメロディーがじわじわとクセになっていくこと間違いなし。

 
 

この記事の執筆者

カービィ少佐

元fnmnlライター、アニメとレコードとお散歩が好き