【Who’s NXT】霊臨(TAMARIN) | 鮮烈な印象を残すリリックセンス、注目のヒップホップクルー・三次元遊戯のラッパーがソロアルバム『Baka City』リリース
霊臨(TAMARIN)
東京を拠点に活動するヒップホップクルー・三次元遊戯のラッパー。ソロ名義でのリリースも活発に行っている。日常生活での怒りや不満を、歯に絹着せぬ物言いとユーモアで吐露するラップスタイルが話題を呼んだ。諸事情による前リリースの配信停止を経て、12月に復帰作アルバム『Baka City』を発表。クルーメイト、美兄(binny) との姫かわラップユニット 「めぞぴあのきゃんでぃ」としても活動中。
Who’s NXT : A series of interviews with featured artists
——まず最初に音楽に興味を持ったきっかけを教えてください。
今はヒップホップ、ラップアーティストとして活動しているのですが小学校の頃くらいからヴィジュアルロックにハマりだして「いつかバンドを組みたい」ってずっと思ってました。中学に入ってからは周りのみんながハマっているような流行りの曲とかも聴いていたんですが、深夜アニメとかも見だして、アニメソングのCDを近くのTSUTAYAで買うようになっていきました。当時ニコニコ動画が全盛期だったので、その影響も大きかったです。あまり10代に流通していないというか、給食の時間には流れない(笑)、みたいな音楽の方が自分は好きだなと思い始めて、どんどんのめり込んでいった感じです。
ヒップホップに出会ったのは高校に入ってからです。幼馴染の変な子がいて、彼の家に行くとレゲトンとか、いろんな国のリズムミュージックが流れてて、それがきっかけで興味を持ち始めました。
——自らも音楽活動をやるようになった経緯というのは?
先程の幼馴染の変な子が実は三次元遊戯の元ビートメーカーなんですが、音楽を始めたのも彼に”歌わされた”のがきっかけです(笑)。ある日家に遊びに行ったらGarageBandでビートのようなものを作ってて、「いまから録音しろ」って言われました(笑)。歌詞とかないから、当時は僕もラップって言ったら “YO!チェケラッチョ!てやつでしょ?” くらいの認識だったので、フリースタイルなんて出来ないし、そんな言葉も知らなかったですね。その時はぎりぎりガラケーの世代で、モバイルスペースやデコログっていう簡易的なブログがあって、それをみんなやってたから適当にクラスメイトの青春ポエムを読み上げて録音してみることにしました。それがめちゃくちゃ楽しくて、2人で大はしゃぎしながら片っ端からクラスメイトのブログ記事とかをレックしていきました。ただその幼馴染の子がタチが悪くて(笑)、それをクラスメイトに聴かせまくってしまい、僕が裏声とかで他人の日記を歌ってるってことで当然ですがめちゃくちゃ嫌われました。それで「もういい自分で書く!」ってなったのがきっかけです。
——現在主に活動しているシーンや地域はどういうところになりますか?
東京のライブハウスを中心に活動を行なっています。クルーでの活動も杉並区を軸に都内を行ったり来たりしてる感じです。ゆくゆくは活動の場を広めたいと思ってます。
——先日12月5日に11曲収録のニューアルバム『Baka City』をリリースされましたね。サウンド、そしてリリックの世界観含め、一聴して霊臨さんに興味を持ちました。
アルバム『Baka City』は”バカなやつ以外全員消えた街”っていう設定で作られています。要するに歌い手も「バカ」なので、”おもしろ”がベースになるというか、そうすることで曲で伝えたい不満や怒りを笑いに変換したかったです。
——どういった作品になっているか、それぞれの曲について教えていただけますか?
では少し長くなりますが、それぞれの曲について解説してみます。
【1曲目「bakacity」】
この曲はアルバムの導入的な役割で、この歌い手がバカだって事を完全に証明する曲です(笑)。聴き手がこのバカに夢中になるように没入感と疾走感のあるトラックを選びました。気に入ってる歌詞は「男と女は黙れ!」ですね。いや全員じゃん(笑)みたいな。でもどっちかに黙れって言ってたら炎上するじゃないですか、昨今は。だからこいつは奇跡的に助かってるんです、バカだから(笑)。
【2曲目「なんでも言っちゃうぜ」】
今回のアルバムで1番聴いてほしい曲です!
「なんでも言っちゃうぜ、メインストリームのラッパーになるぜ!下ネタ大喜利言っちゃって♪売れんだろケッケッケ♪」
少し前にヒットした有名アーティストの「なんでも言っちゃう系」の歌があるんですが、たまたまそれに似たイントロのタイプビートを見つけたので、よし、やってみようと(笑)。あの曲は大好きですし、彼らに対してはリスペクトもあるし何の恨みもないです(笑)。ただヒットを記録したメインストリームのヒップホップ曲としてフォーマットをお借りしただけです。
曲の構想自体は以前からあって、数ヶ月前にメンバーが脱退したりしていろいろ活動に変化があった時期にめちゃくちゃ売れたくなって、メインストリームの音楽をひたすら聴き漁るみたいな事をしている時に、いまだにマッチョイズムが格好良いとされてるんだみたいな事を再認識させられました。あらゆる楽曲でブスとかビッチとかストレートな悪口?がポンポン出てくるし、まあたぶんそういう曲を聴いてきたから無意識に出ちゃうクセみたいになってるんでしょうけど、別に笑えないし不快だなーって気持ちはあって、結局そういう前時代のラッパーのプロトタイプみたいなのをなぞらないと生き残れないのか?誰がさせてるんだ?これ。みたいな(笑)。流れを断ち切らない限り永遠に続くし、若者に聴かれる音楽でもあるから、聴いてもらうならおもしろい形で世直ししたいな♪♪♪て思っちゃいました。これをメタ的に自分がやることでかなりおもしろくできるし、強いメッセージにもなるなと思って作りました。皮肉満載に仕上がって凄く気に入っています。
【3曲目 「アフロタトゥー社畜」】
Baka Cityということで主人公はバカなんですけど、この曲は「仕事辞めたいと言える勇気はないのに、クビになるために奇行に走る勇気ならある」っていう要領のわるい人がどんどんおかしな方向に進んでいく話です。過剰な表現はしていますがこれに近い人を実際に見ていて、おもしろいなと思って曲にしました。要領の悪い部分って誰にでもあって、僕も感情を優先する時とか沢山あるから、僕は好きですそういう人も。
【4曲目 「オセロ」】
これは「なんでも言っちゃうぜ」のケツ拭き的な曲で、「ビッチ」って過剰に連呼するのですが、めちゃくちゃ優しい曲にしました。”私もあなたもビッチ、みんなビッチ、わっかつくっておどりましょ♪” みたいな感じです。言葉に罪はないので、そんな感じならいいなと思って作りました。
【5曲目 「TRICK ♡R TREAT ft.雑魚ドール」】
以前から雑魚ドールさんのファンで、お誘いして一緒に作りました。ハロウィン間近にできた曲で、お祭りっぽくしようとしましたが、「当然のようにお菓子をもらえると思ってんなよ?奪え!」みたいな曲になってしまいました(笑)。客演の雑魚ドールさんに叙情的な部分は信用しきっていたので、自分はポリティカルな要素を足す事で、その化学反応がみたい!みたいなオタクの好奇心で作りました。結果とても良い感じになって気に入っています。
【6曲目「ベーグルに指を」】
たまにがっつりラップしたくなる発作を詰め込んだ曲です。気に入ってます(笑)。「俺が世界一のラッパー」って言ってみたくて、フックから書きました。
【7曲目 「INUNUGASHI(prod. Itaq)」】
シングルで先行リリースした曲でラッパーのItaqさんがビートを送ってくれて、そこにバースを乗せました。曲のタイトルは対義語コントで”猫かぶり”からの”犬脱がし”です。猫がかぶれるなら「犬も脱がせる」という事で、不可能はないみたいなテーマの曲にして高らかに歌っています。バカなので(笑)、気持ちよかったです。
メンバーだったビートメーカーが脱退して、曲を全部失ってしまったんですが、その時Itaqさんがすぐにビートを作って送ってくれた事で、活動が途切れずに済みました。この恩は一生忘れませぬ!大切な1曲です。
【8曲目「自由ヶ丘Tinder」】
「品数が少ない自由が丘のパン屋。 2m間隔で置かれたカニぱん。」
これを地域差と経済格差が生んだ心の距離に例えました(笑)。自由が丘は高いパンケーキとかが売っていて1,500円とかザラですね。僕の拠点は高円寺なので…パンケーキっていうかふさふさの綿?(食える)しか売ってなくて、せいぜい80円とかなので、その差にはビックリしました。
Tinderの人に友達を紹介したいと言われて、自由が丘の駅に降りたちました。若者が路上に座ってるのは高円寺と変わらないんですがみんな襟付きの白シャツ着てMacBook開いてて、死ぬかと思いました。高円寺でMacBookを外で開こうものなら一瞬で破裂しますから、それだけ自由が丘の空気が澄んでるって事です。まず地べたに白シャツで座っても平気なんですよ彼らは、なぜなら昨日買った服を明日には捨てますから。一方で僕は大昔の服を、それも中古で買って死ぬほど大切に着ていましたから、それは浮きますよね。いざ相手が友達に僕を紹介するとき、そこにいる全員が動物園のパンダを見る目でこちらをみていたんですよね。”もの珍しい生き物を連れてきた!”てみんな喜んでました。僕はあなたたちと同じ人間なのに。
【9曲目 「帰路」】
1秒天使9さんというTwitter上でラップを上げている方がいて、それを聴いたときにめちゃくちゃ格好良かったんです。それでDMしてみたら、奇跡的にアカペラを頂けて、それを軸に1曲書きました。前の曲「自由が丘Tinder」は東横線なんですが、僕は杉並区民で西武新宿線を使う事が多く、乗り換えのタイミングで西武新宿駅まで歩く事になります。自由が丘で傷心して帰る道中の鬱屈とした気持ちから自宅に近づくにつれて前向きになるみたいな感情の変化をそのまんま歌いました。だからタイトルは「帰路」で、新宿のモチーフが多く出てきます。1秒天使9さんの歌詞もすごく好きで、だめだめな友だちの事を歌っているんですが、泣き笑いって感じで暖かいです。おかげで幸せなムードの曲になりました。
【10曲目 「Outro」】
今まで挑戦してこなかったガチ恋ソングですが、Baka Cityなのでせっかくだしチャレンジしてみました。ヒップホップでは音楽に対する愛を恋愛対象になぞらえて歌うのは常套手段となっていて、この曲も例に漏れずそのような捉え方もできるように書きました。僕のI still love H.E.Rです(笑)。
他とちがうのは歌詞がめちゃくちゃ具体的なところと、あとは曲調です。いわゆるゴツい音とかヒップホップ的な甘い音(抽象的ですみません笑)でない形でやりたくて、ラブソングってこうだよねみたいな思春期を抉られるようなぞわぞわ感を出したくて…結構がんばりました。
あと実話なので録音中普通に泣きましたね。「ありがとう」てところは歌詞欄に乗せてなくて、実際のリリックは「さよなら」とかだった気がするんですけど言えなかったですね、とっさに「ありがとう」が出ました(テラワロス)。
【11曲目 「ずっとバカではいられない!」】
Outroで終わらないんかい!というボケがしたくてこれをつくりました。タイトルにある通り、Baka Cityを歌いあげた主人公(バカ)が天才として生きていく決意を表明するというバカの二枚重ねソングです。お気に入りのフレーズは「好きか嫌いかじゃなく天才的な頭で考えろ!」と「クールビズも頭良いけど。オレらの方が絶対に頭良い。」です。異常に前向きなテンションで駆け抜ける歌なので妙な爽快感があって本当に賢くなった気になれるのですごく気に入っています。次作天才になった彼の再登場を期待してしまう自分がいます。
——この解説によって『Baka City』をさらに楽しむことができそうですね。ちなみに、他にこれまでリリースされた作品の中で、イチオシの曲とかはありますか?
前リリースが諸事情により配信停止になっているため、詳細が言えませんが「東京」という曲と「アートかっこいいじゃん」という曲が気に入っています。いずれリメイクして配信しようと思っているので、楽しみにしててほしいです。
——楽曲の制作はどのような環境やプロセスで行っていますか?
歌詞は生活の中で思いついた瞬間にiPhoneにメモしています。ある程度溜まったら整理して、その作業の中で完成させることが多いです。ずっしり座って歌詞を書くみたいな作業はもうしなくなりました。鮮度が落ちる感じがするのであまり書き直しもしません。
録音は基本宅録です。FL StudioとGarageBandでミックス等をやるのでほぼ家で完結してます。
——例えばまだ自分のことを知らない人にアーティストとしての特徴を伝えるとしたら、どんなところになりますか?
かわいくてふわふわなうさぎさんなところと、かなりおもしろいワードセンスのラッパーだと思います。
——霊臨さんはどんなアーティストに影響を受けましたか?
1人目は四街道ネイチャーのマイクアキラさん。この方からSWAGの全てを教わりました。着飾らない事のかっこよさや、スキルで測れないラップの魅力に気づくきっかけになった人です。今でも大好きです。
そして2人目はシャカゾンビのオースミさん。僕は音楽と同じくらい服も好きなので、今自分を構成するものの両方にこの方が一枚噛んでる状態です。ソロ名義のアルバムの繊細な心の描写がとても好きで、彼の作る服にもそれが反映されているように思います。どちらの業界でも結果を残していてカッコイイです。
——音楽活動をする上で、なにか特に心がけていることはありますか?
孤独になっても1人だけで曲を完成、配信できる環境を作るべきだと思いはじめて、アルバム『Baka City』は全て1人で作ったので自信になりました。スキルを磨いていきたいです。やるからには人が前向きになるようなものを作りたいし、自分の後に続くようなアーティストになれたらと思っています。
——そういった意識の中で、リスペクトあるいは共感するアーティストはいますか?
valkneeさんです!三次元遊戯のメンバー美兄と僕がやっている姫かわラップユニット「めぞぴあのきゃんでぃ」は結成自体がvalkneeさんの曲を聴いた事がきっかけではじまりました。その後valkneeさんの活動を追っていく中で、彼女が友人とやられているポッドキャスト「ラジオ屋さんごっこ」に出会い、ラップだけでなくアーティストとしての姿勢や、生き方、思想も知りどんどん好きになりました。あるタイミングでこの「ラジオ屋さんごっこ」がリニューアルを掲げてクラウドファウンディングを始めた時期があり、その中のリワードで「出演権」があったんです。当時、僕のクルーはバカみたいに大量に曲を作っていたので、一旦聴いてもらおう(笑)と思い、クルー「三次元遊戯」として出演させていただきました。
その後、ライブ現場が一緒になる機会も増えました。シーンに僕達を繋いでくれた恩人でもあります。
——現在の国内音楽シーンや音楽業界についてなにか感じることはありますか?
1リスナーとしては、大手音楽メディアは数字に対して保守的なところが多いのでピックアップされるアーティストも似通っていてあまり情報収集には向いてないなーと感じます。今はSNSで個人のライターや小規模なWEBメディアが独自の観点でアーティストをピックアップしていたりするので、そこから好きなアーティストを見つける事の方が多いです。
プレイヤーとしてもSNSが凄く便利な時代だと感じています。無名アーティストにもいろんなチャンスが溢れているし、そこに意識を向けることが大事だなと思います。
また、作品だけでなく、人となりを凄く重視するリスナーが増えているようにも感じていて、そのため露出の数を増やすこと、思ったことを発言することにつとめていきたいと思うようになりました。
——では最後に今後の展望をお願いします。
最終的には独立したまま大きな影響力を持つのが目標です、無敵なので(笑)。今の音楽シーンならそれができると思っています。
霊臨(TAMARIN)
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