ちゃくら ― 新進気鋭のバンドが切ない言葉と飾り気のないサウンドで描き出す青春の煌めき(今月のおすすめ)
ちゃくら
東京・八王子発の4人組ロックバンド・ちゃくら。2022年6月に、ワキタルル(Ba./Cho)が、専門学校の同級生であるサクラ(Vo./Gt.)、まお(Gt.)、葉弥(Dr./Key.)を誘い結成されました。作詞はワキタが、作曲はワキタと葉弥が担当。チャットモンチーやyonigeといったシーンの先達を彷彿とさせながらも、彼女達ならではの感性が随所に込められたストレートなギターロック・サウンドを武器に、都内で精力的なライブ活動を行っています。
2022年11月には、初のミュージックビデオ「海月」を公開。恋愛に揺れる心をクラゲに喩えた歌詞と、四つ打ちのビートに乗せたキャッチーなメロディーが反響を呼びました。同MVのYouTube再生回数が30万回以上(2023年3月現在)にのぼるなど、邦ロックリスナーの間でじわじわと注目度が高まっているちゃくら。
2023年3月14日には、待望の新曲「あいつ」がサブスクリリースされました。切なさ満点のアカペラから幕を開ける同楽曲。透明感のあるサクラと、憂いを帯びたワキタによる異なった声質のツインボーカルがメリハリを生み出し、サビで美しいハーモニーを織りなす巧みな楽曲展開には、思わず唸らされました。まおの奏でる柔らかいトーンのギターフレーズも、儚い世界観に寄り添います。また、バンドを支えるリズム隊の演奏にも要注目。特に、葉弥の一聴するとたどたどしくも感じられるようなタメのあるドラミングは、熱すぎず冷めすぎない独特の温度感を楽曲に与えています。
歌詞で描かれるのは、「海月」に引き続き、切ない人間関係の終わり。かつてはともに幸せな時間を過ごしていた2人が、次第にすれ違い、お互いに思い出の中の存在に変わっていくという、誰もが経験したことのあるほろ苦い別れ。心の奥底にある感情まで吐き出すような、赤裸々で叙情的な言葉には、胸が締め付けられます。
サブスクリリースに先んじて、2月16日に公開されたミュージックビデオでは、ライブやリハーサル、レコーディングに励むメンバーの様子がドキュメンタリー風に撮影されました。お茶目で眩しい4人の姿を見ていると、このバンド活動が彼女達にとっての青春そのものだということが伝わってきます。しかし、ちゃくらの楽曲は、一度しかない季節を前のめりに駆け抜ける瑞々しさというよりは、かけがえのないこの時間を精一杯噛みしめながら味わうような、切実な思いに満ちています。彼女達が、コロナ禍で制限された青春を過ごしたZ世代の共感を集める所以は、その痛切さにあるのかもしれません。
結成1年にも満たないながら、既に多くのファンを惹き付けているちゃくら。これからの躍進にも目が離せません。
(文・サイトウマサヒロ)