“天使のようでいて、リアル” 令和の若者が共感し陶酔するnyamura、新たなポップカルチャーとしての魅力

コラム・特集
2023.8.14
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2023年8月9付けのbillboard JAPAN TikTok Weekly Top 20で、nyamuraの「you are my curse」がついに1位を奪取した。6度目のチャートインで初の首位である。同時に、2023年6月13付けでSpotifyバイラルチャートでも2位に初登場して以降、依然上位をキープしている。これら一連のヒットは、国内ポップカルチャー/ポップミュージックにおける大きな事件として捉えられるべき出来事のように思う。

 
SoundCloudシーンで頭角を現したnyamura

というのも、nyamuraは数年前からユース層を中心にアンダーグラウンドで大きな盛り上がりを見せているSoundCloudシーンで頭角を現した一人であり、今回の件は、ついにその界隈がオーバーカルチャーへと陽の目を浴びた一つの象徴的な出来事であると言えるからだ。本楽曲はnyamuraが6月にリリースした2ndシングルだが、昨年までSoundCloudでロングヒットを記録していたナンバーでもある。つまり、すでに地下シーンではサンクラ・アンセムとして認知があったうえでの今回のヒット。突然ピックされたわけではない、きちんとファンベースが築かれている楽曲である点も重要だ。実際、昨年からライブでもイントロが鳴った瞬間に歓声があがる人気曲である。

そもそも今回のバイラルヒットの要因をたどっていくと、背景には昨今大きなトレンドを生んでいる“天使界隈”への注目があるように思う。地雷系・水色界隈・天使界隈というトライブが改めて今年の春から夏にかけてメディアで取り上げられ、SNSのトレンドワードにも幾度となく浮上した。中でも、最も言及を呼んだのが天使界隈である。以前より呼称としては存在していたが、“あの”や“ぬた。”などのいわゆる水色界隈が一つの大きなジャンルを形成していく中で、より透明感と儚さを求めるファッションがいわばエーテルで“天使”な存在として新たな潮流を生んでいったのだ。

nyamura自身のファッションは天使界隈ではないが、その音楽・世界観については大きな共通点を見せる。彼女は「you are my curse」の正式リリースにあたりアートワークにてぐれを起用、そこではまさに天使の輪と羽が描かれ、より一層この楽曲における“天使”性が強調されることになった。世間における天使界隈への注目と、この曲に込められた天使ソングとしての特長がリンクしていったのは大きいのだろう。もっとも、その魅力がより一層凝縮されているのはサウンドと歌詞において。おぼろげに鳴るイントロのオルゴール、骨組のみを残し贅肉を削ぎ落したトラップビート、そしてどこか平成のJ-POPを想起させる懐かしい旋律。「忘れちゃった輪廻のレジデンス/もう一回転最後にお願い/四肢解体し見えた全部/黒く濁った愛だけ頂戴」という退廃的な描写に「あなたの髪で/あたしを殺して」という破滅願望をつなげる歌詞。ここには、“生と死”や“現実と夢”の境界を行き来しながら、おぼろげに揺らいでいくような天使の表象が紡がれている。

“天使のようでいて、リアル” 令和の若者が共感し陶酔するnyamura、新たなポップカルチャーとしての魅力

nyamura「you are my curse」

 

TikTokからのヒット

TikTok上ではサンリオのキャラクターとともに映る自撮りや、動画編集アプリ「Cap Cut」のテンプレートを用いたスライドショーにBGMとして多く使われている。切り取られているのは歌詞でいうと「何度も殺した/忘れないであたしとのメモリ/嘘でもいいからなんて嘘だった/ひび割れてたの最初から/期待しないよもう痛い痛いよ」という部分で、この「何度も殺した」という殺伐とした情景を冒頭に持ってきた点が多くのユーザーの心を掴んでいるように感じる。nyamura本人が「はーどもーどかのじょのその先、慈愛が愛憎に変わる瞬間の歌です」とコメントしている通り、本曲の魅力は、同じくTikTokでバイラルヒットしている「はーどもーどかのじょ」からの連続したストーリーで捉えると分かりやすい。それはつまり、天使界隈で流通している音楽や漫画、SNS投稿における物語構造に多く観察できる「共依存関係から怨敵へ」というテーマである。「殺したいほどだいすき」「死ぬ時もずっと一緒だよ/2人だけの世界作るから」(「はーどもーどかのじょ」より)から「何度も殺した」(「you are my curse」より)への変化。リアルにおける特定の個人との関係とバーチャルにおける観衆との関係性の間に挟まれながら、何とか自分自身を保ち辛うじて生をつなぐ界隈の人にとって、この曲の狂気は共感と陶酔を呼ぶのだろう。

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この記事の執筆者
つやちゃん
文筆家。音楽誌や文芸誌、ファッション誌などに寄稿。著書に、女性ラッパーの功績に光をあてた書籍『わたしはラップをやることに決めた フィメールラッパー批評原論』(DU BOOKS)等。