なぜSugar Goose「Fast」はバイラルチャート1位となったのか ベールに包まれたラッパーの曲が今夏を振り返る若者のサウンドトラックに

2023.9.6

Sugar Goose

突如シーンに現れ未だベールに包まれたアーティスト、ラッパー・Sugar Gooseの楽曲「Fast」が、SNSで今一番話題の楽曲をランキングするSpotifyの国内バイラルチャートにて、2023年8月28日に初登場でいきなり1位を獲得(Spotify Charts調べ)。その後も、約1週間にわたりトップをキープし、9月6日現在でも4位にランクインするなど、上位に位置している。今年の夏後半、無名かつインディペンデントなラッパーの躍進に、シーンはざわついた。

 
謎のラッパー・Sugar Gooseが描くメロウで繊細なサウンド

大阪・名古屋を拠点に活動するラッパー・Sugar Goose。今年5月31日に初のサブスク配信楽曲「Only you」をリリースし、以降、6月に「OK」、8月に「Fast」と「Lonely」と、現在計4曲を各音楽ストリーミングサービスで聴くことができる。また、それ以前からSoundCloudにて楽曲を発表しており、現時点でさかのぼることができる最古の楽曲は、2022年7月10日に投稿された「Neverland」。以来ハイペースな制作を続けており、11曲入りのアルバム『Grow up』を含む36曲を公開している。

それらの楽曲に共通の特徴として挙げられるのは、メロウで繊細な質感である。彼のディスコグラフィーをなぞってみると、クリーンギターのアルペジオをフィーチャーしたビートが多く使用されており、Juice WRLDをも彷彿させるエモラップを得意としていることがわかる(なお、SoundCloudではLil Uzi Vert「The Way Life Goes」のリミックスも公開されており、再生回数は10万回を超える)。そのサウンドはSugar Gooseの儚く独りごつような歌声と相性抜群。“君”とのすれ違いを描くリリックが、ビート・歌声と渾然一体になり、心の奥底まで染み渡る切ない楽曲を構成している。

Web上を検索しても得られる情報は極めて少なく、その素性やパーソナリティは完全な謎に包まれているSugar Goose。そんな彼の楽曲が今年の夏に突如バイラルチャートを賑わせるきっかけとなったのは、やはりTikTokだ。「Fast」は約1万6500本(2023年9月6日現在)の動画で使用されており、Sugar Goose自身が投稿したショートバージョン&歌詞動画は累計約70万回再生を記録している。

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