サンクラキュレーターshe is rough(shirafu)と辿るサンクララップシーンの現在地
SNSで話題の楽曲をランキングするSpotifyのチャート『Viral 50 – Japan』に、SoundCloud発の楽曲が入ることはもはや珍しいことではなくなりました。最近では、swetty「junkie」やJ1rock「Seasons」、MarsBoy「promise (feat. swetty)」、Яu-a「お前の彼氏寝取ってやったの。」、iyan D1KE「ゆるして猫!! (feat. 429)」などをはじめ、少し遡ればSugar Goose「Fast」「Yozora」、XAN「SKI MASK」、Icekun「Selfish girl」「For Darling」、Ame lil melo「slow down」、LOM「SECRET NIGHT」、Ccn「LONELY」、ILL Fine「Haikei」などが同チャートを賑わせていました。誰でも楽曲がリリースできるようになったいま、音楽ストリーミングサービスより自由度が高く、様々なジャンルが複雑に交配を繰り返し続けるサンクラ発の楽曲は、時にバイラルの枠を超え音楽シーンメインのチャートに入ることすらあります。そこで今回は、サンクラ楽曲をメインにキュレーションし、おすすめ楽曲をYouTubeなどで発信しているshe is rough(shirafu)さんに、シーンの現状についてお話を伺いました(インタビューの最後に、shirafuさんが最近注目するアーティストのリストも掲載しています)。
サンクラに絞っておすすめ曲を紹介
——まずshirafuさんの活動について教えてください。
主にラッパーを中心に、YouTubeでサンクラ発のおすすめ曲を紹介しています。それに加えて、ライブ現場に行ってライブ映像を撮らせてもらったり、そのライブ現場に密着したVlogもアップしています。はじめたきっかけは、もともと中学からヒップホップが好きで最初はバトルやサイファーに行ってたんですけど、そのうちサンクラにハマって色々掘っていくうちに、アンダーレイテッドというか、もっと伸びてもいいなっていう曲にたくさん出会うんですよね。そういう良い曲がもっと広まったらいいなと思ってはじめました。Instagramでも色々ポストしています。
https://www.youtube.com/@she_is_rough
https://www.instagram.com/she_is_rough/
——どうしてサンクラにフォーカスしようと思ったんでしょうか?
最初はAaronsとかを参考にしてました。でも、やっぱりサブスクで出てる曲だとプレイリストも山ほどあるし、SNSにもキュレーターが多くいるので、自分なりに差別化しようということでサンクラに絞ることにしました。
——活動はいつからですか?
はじめたのは2021年くらいからです。最初は海外のアーティストもチェックしてたんですけど、2022年から今の方向性になりました。毎月気に入った曲を30〜50曲まとめて投稿するっていう。で、昨年からはライブも撮りはじめて、Vlogもアップしています。やっぱり曲だけじゃなくて、そのラッパーの人となりも見えた方がいいなと思ったので。今は週に2本くらい動画がアップできたらいいなくらいの気持ちでやってます。
——サンクラではどうやって曲を探してますか?
毎月まとめてた時は、毎日チャートをチェックして、フォローしてるアーティストのフィードが更新されたら全部聞いたり。けっこう時間をかけてやってました。あと、自分のまわりにもラッパーがいたりもするんで、教えてもらったり。
——おすすめ曲をキュレーションする基準というのは?
基本自分の好みではあるんですけど、だからこそ偏りすぎないように意識しています。あと、あくまで個人的な視点ですけど、新しいジャンルで新しいことをやってても、リリック含めてちゃんとラッパーとしての要素が垣間見えるというか、そこは気にしています。とはいえ本当に感覚なんで言語化するのが難しい(笑)。
サンクララップのシーンは「どんどん若くなっていってる」
——shirafuさんは今のサンクラを中心に活動するラッパーのシーンについてどう感じていますか?
とにかく、どんどん若くなっていってるっていう印象です。14、15歳のラッパーはもう当たり前というか。レコーディング環境が揃ってない中高生とかは、2〜3年前まではほとんどの人がスマホのGarageBandを使ってたと思うんですけど、今BandLabっていうアプリもけっこう普及してるみたいで。BandLabはプリセットもいっぱいあるし、オートチューンのかかりもけっこう良くて、そういうツールの広がりや進化によって、2~3年前に比べてもどんどん曲が作りやすくなってることが、若年化に拍車をかけてるんじゃないかなって感じます。あと、YouTubeにも曲作りのHow to動画がもうめちゃくちゃあるし。若くなってるのはラッパーだけじゃなくて、例えばVANDE GEEKだとトラックを作ってるfiendboiiさんはまだ中学生だったり、ビートメイカーもどんどん若くなってる気がします。なので、中学生のラッパーでもトラックを作れる仲間がいたら、タイプビートじゃなくてそのビートを使うといったケースも増えていると聞きます。
——ちなみにshirafuさんはVANDE GEEKとはどういう関係なんですか?「junkie」のライブ映像もアップされていましたが。
VANDE GEEKは、彼らがグループになる前から、サンクラをディグってる中でそれぞれの活動について一方的に知っていました。それでライブのタイミングで撮らせてもらって。「junkie」がバズった時は、やっぱり自分がアップしていたライブ動画もすごい勢いで伸びました。あの曲ってワンオクのTakaさんが紹介したのがきっかけで一気に広がったと思うんですけど、普通にワンオクのファンの方がswettyと勘違いして自分のところにDMしてきたり(笑)。それくらいたくさんの方に見ていただいています。
——本当に話題になりましたよね。それで、先ほどのようにプレイヤーが若年化している中、shirafuさんがチェックしているサンクラのラッパーたちのあいだでは今どんなビートが流行っていますか?
最近だとPlugg系とかNew Jazz、あとハイパーポップ、emo rockなタイプビートとかもまだ全然多いと思います。とはいえ、派生ジャンルがもう多すぎて、みんなどんどんマイナーな方向に細分化していってる傾向を個人的には感じています。もともとサンクラはそうですけど、本当にそれぞれが色々なジャンルを好きにやってるというのがあると思うんで。
——そうすると、サンクラシーンのラッパーがみんな共通して聞いてるアーティストというのも……
いるかもしれないんですけど、個人的にはそれも細分化してるんじゃないかと思ってて。Spotifyのマンスリーリスナー1,000人以下の海外のラッパーをみんな普通にディグりまくってるし、その中にめっちゃいいラッパーもいっぱいいて。だからみんな誰が好きとかを特定するのってすごく難しいんじゃないかな。知名度とか関係なく、好きな曲、アーティスト、ジャンルをそれぞれが深く聞いている印象があります。
——一方で、いまのサンクラのラッパーやシーンが好きなリスナーってどんな層なんでしょうか?
それもいろんな人がいすぎて正直わからない(笑)。ライブのお客さんでいえば、そのラッパーの同年代のファンが多い気はしますけど。