【Who’s NXT】大瀧ヌー |「長く誰かの心に残るものを作ることに挑戦していきたい」1/fゆらぎのスモーキーボイスを持つオーガニックSSW

2019.12.28


大瀧ヌー インタビュー

Who’s NXT : A series of interviews with featured artists


大瀧ヌー

YouTube動画投稿をきっかけに、2013年に作詞作曲を始め、シンガーソングライターとしての活動をスタートさせる。天性の1/fゆらぎをもつと言われるスモーキーボイスに叙情的なメロディライン、物語的でエモーショナルな世界観に定評がある。

アートワークやイベントディレクションまでを一貫した表現として自らで手がける。絵画やキャンドル・映像・茶道や伝統芸能とのコラボレーションなど、常に独自の表現を模索。主催イベントは軒並みソールドアウトとなるなど、音楽ファンのみならず幅広い層から支持を集めている。

2015年に1st Album『いとおしいのはいつも不完全』、2017年に2nd Album『その幻にふれる』をリリース。2018年のSingle「Lantern」リリースイベントでは、クラウドファンディングによる野外劇場での単独ライブ・全員でのスカイランタン打ち上げを成功させる。2019年5月に3rd Album『かぎりのないグラデーション』をリリース、全国ツアーを敢行。同年8月には初のコラボシングル「夏の煙」を配信リリース。

演奏の形態によって、「大瀧ヌーバンド」、「大瀧ヌーTrio」などの名義でも活動している。

 
——まず大瀧ヌーさんが音楽に興味を持ったきっかけを教えてください。

子供の頃から大きな音や雑音が苦手だったのですが、自分の部屋というものがなかったので、イヤホンをつけて自分の世界を保つようにしていました。イヤホンで音楽を聴いている時は救われるような気がしていて、それで音楽を必要とするようになったんだと思います。

 
——自ら音楽活動をやることにしたきっかけというのは?

サラリーマンとして仕事一色の生活をしていた頃、その後の人生に敷かれたレールが見えてしまったような気がしました。それで、短期間ですが仕事を休み、いわゆるバックパッカーとして旅に出たんです。その旅先、アジアのある国で、大きな川に数時間流されるという経験をしました。濁流の川で全く岸に上がれず、99%”死んだ”と思いましたが、原住民の方の助けもあり、奇跡的に助かったんです。そこから紆余曲折あり、何とか無事に帰国してから、それまで特に生きたいと感じたことのなかった自分の命の使いみちについて考えるようになりました。そして、自分というものから目をそらさずに表現すること、その方法として音楽を使うことをしてみようと心に決めました。ただそこからが大変でした。それまで歌の経験はほぼ皆無で、ギターを弾くこともそうですが、人前に出ることが死ぬほど苦手だったので、初めはYouTubeへのカバー動画投稿を始め、作曲ができるようになり、本当に少しずつ人前で歌えるようになり…という感じで今に至ります。

そんな中で、今のバンドメンバー達と出会い、「大瀧ヌーバンド」チームとして一緒に音楽やイベントを作り上げるようになりました。今では、僕にとってなくてはならない存在で、メンバーと一緒にどんな経験をするかということが、一つの大きなモチベーションになっています。


大瀧ヌー インタビュー
大瀧ヌーバンド

大瀧ヌー インタビュー

大瀧ヌー インタビュー

大瀧ヌー インタビュー

 
——現在どの辺りを中心に活動していますか?

愛知県、名古屋市を拠点に活動しています。最近は東海エリアのほか、関東・関西・東北圏にも少しずつ行けるようになってきています。

 
——最新作とその聴きどころのご紹介をお願いします。

2019年5月に、3rd Album『かぎりのないグラデーション』をリリースしました。

『かぎりのないグラデーション』Trailer

3rd Album『かぎりのないグラデーション』は、気づいたら自分のスマホのカメラロールが空の写真ばかりになっていることに気づき、聞いてみると似たような人が多くいたことから「人はなぜ空を見て感動するのか」に興味を持ったことがきっかけで作りました。正解は分かりませんが、考えていて、「空には境界線がなく、色も形も無限で、圧倒的に自由」だなって思ったんです。そして、空に感動する人は、自分を含め、そんな「境界のなさ」にどうしようもなく惹かれる人なんじゃないかって。僕の作る作品は、本質的には自分に向けて作っているものなんです。だから、僕の音楽を求めて聴いてくれる人は、本質的な部分でどこか自分と似通った人間であり、極端に言うと「同じ」心を持つ人間なんだと思っています。この作品は、空を始めとした物事のグラデーションはもちろん、自分と他人との境界も概念のグラデーションであるという一貫したコンセプトで作られています。ぜひアートワークまで楽しんでいただきたいです。サウンド的には、バンドサウンド中心でありながらドラムを用いず、アコースティックで少しアンビエントなものを目指しています。言葉や振動が伝わり、情景が浮かぶようなものになっていたらいいなと思います。

1.「エイプリル」
「ヤマアラシのジレンマ」をテーマにした曲。アコースティックギターとペダルスティール、カホンのみの編成で、焦燥感と疾走感を表現しています。情景が浮かぶようなメロディとコーラスワークが聴きどころです。

2.「閉じた時間的曲線」
人にとっての永遠のテーマである「時間」について歌った三拍子の曲。初めてピアノから着想した曲で、ギターレスでピアノを主体としたリズミックで切ないアレンジになっています。

3.「Lantern」
誰もがどこかで求める「光」について書いた壮大なミディアムナンバーです。シングルとしてのリリースパーティーでは、クラウドファンディングを成功させて野外劇場を貸し切り、全員でスカイランタンを打ち上げるイベントを行いました。イベントの様子はYouTubeにもアップされています。

大瀧ヌーバンド「Lantern」【Music Video】

「ひかり〜”Lantern” Release night〜」2018.10.27 大瀧ヌーバンド presents【Short ver.】


大瀧ヌー インタビュー

 
4.「棘」
ライブでも人気のあるパーカッシブなナンバー。アコギ・ベース・カホンのシンプルな編成ですが、勢いを大事に制作しました。「目覚めと喪失」がテーマになっています。

5.「月明かりと咳」
シンパシーをテーマにした切ないバラードです。アコギとバイオリンのみの編成で、「長く一緒にいた2人の最後の夜」のお話を表現しています。歌い上げるような演奏が聴きどころです。

6.「ミノホドシラズ」
セミが長い幼虫期を地中で過ごす時に、地上に出て羽ばたくことなんて想像しただろうか?という疑問を出発点に作った曲です。ガットギターのリフを中心としたドライでアコースティックなバンドサウンドが特徴で、「身の程知らずの夢なんて絶対にない」という、全ての人に送りたいメッセージを込めています。

大瀧ヌーバンド「ミノホドシラズ」【Music Video】

 
7.「wandering」
唯一のガットギターによる弾き語りの曲です。アレンジは極力シンプルにしてまっすぐに届けることを意識しました。「大人になるほどに絡まる糸を、逃げずに少しずつ解いていこう」というメッセージが込められてます。

8.「レイトショウ」
ピアノとボーカルのみでドラマチックに歌い上げるバラードナンバーです。近づくほどにすれ違うどうしようもない切なさを、映画に見立てて表現しています。

 
——他にこれまででおすすめ、あるいは思い入れのある作品をあげるなら?

正直どの曲もお勧めなのですが、先ほどお話しした3rd Albumと、1st Album 「いとおしいのはいつも不完全」、2nd Album 「その幻にふれる」とは三部作のようなイメージで制作しています。機会があれば併せて聴いていただけたら嬉しいです。

『いとおしいのはいつも不完全』Trailer

 
『その幻にふれる』Trailer

 
また、夏に配信リリースした「夏の煙」は、愛知県のシンガー「くすり」とのコラボシングルです。女の子を主人公に、夏の終わりの空気と、やるせない切なさを表現しています。僕にとっては初の他のシンガーとのコラボになります。

夏の煙 – くすり×大瀧ヌーバンド(Official Music Video)

「夏の煙」 各配信ストア : https://linkco.re/SuDB4Gtt

 
——大瀧ヌーさんは楽曲の制作はどのようにされていますか?

作曲に関しては、浮かんできたフレーズをボイスメモ等に残しておき、それがタイミング的に熟したときに、ギターで弾き歌いながら詞とほぼ同時に作ります。決してオカルトな話ではないんですが(笑)、フレーズが曲になりたがっている時に一気に出来る感じです。それを録音し、移動中に聴きながらブラッシュアップしていくことが多いです。

バンドアレンジを作る時は、そうして出来た弾き語りの曲を、バンドメンバーで一度バラバラにして、何をどう伝えたいかを話し合いながらスタジオで組み立てていきます。

レコーディング環境は、メンバー含めリラックスして楽しめることを重視して選んでいます。ミックスやマスタリングは信頼できるエンジニアさんの力を借りて、メンバーで話し合いながら細部まで妥協せずに行います。新しいアルバムは、自然豊かな山の中にあるスタジオでレコーディングしました。そのおかげで、広がりを感じられる仕上がりになっていると思います。


大瀧ヌー インタビュー

 
——まだ大瀧ヌーさんを知らない人に、その特徴を伝えるなら?

そうですね…癒し効果が高いということでしょうか(笑)。1/fゆらぎを判定するソフトというものがありまして、有名な曲でも1/fゆらぎ判定が出ることはかなりレアなんですが、ある時、僕の音源をそんな複数のソフトを使って判定してもらったところ、8割以上の曲が1/fゆらぎありという結果が出たんです。本当のところどうなのかは僕にもわからないですが(笑)、僕の曲を聴くと涙が出たりよく眠れたりするという話を聞きますので、実際ヒーリング効果は高いみたいです。

音楽としては、アコースティックサウンドを中心に、心を震わせられるような物語を感じてもらうこと、言葉をまっすぐ届けることを信条にしています。

それと、活動にかかわるほぼ全てのものを自分で手掛けることで、一貫した世界観を表現しているのも特徴だと思います。音楽のための音楽に止まらず、他の様々な要素と融合させて、楽曲のストーリーの中に深く入り込んでもらえるような物語性の強い世界観を表現していることが、自分のアーティストとしての特徴・強みじゃないかなと思っています。


大瀧ヌー インタビュー

 
——大瀧ヌーさんはどういったアーティストに影響を受けてきましたか?

アーティストと言えるかは微妙なんですが、、子供の頃は鳥の声を集めたレコードばかり聴いていました。変な子供ですね(笑)。

そのせいか、今でも、音楽らしい音楽を作りたいというよりは、何かを伝える、何かを感じてもらうためのものを作りたいという気持ちが強いです。環境音楽的なものに近いのかもしれません。ちなみにライブでは、鳥の声を始めとした様々な環境音をミックスしながら演奏します。


大瀧ヌー インタビュー

 
——音楽活動にあたって意識していることはありますか?

(1)実感のない言葉は使わないこと、(2)気持ちの良い人間であること、そして(3)本質を見失わないことです。

(1)については、自分が自分として音楽の世界において存在する価値があるとしたら、とにかく「自分であること」が条件だと考えていて。当たり前かもなんですけど(笑)。ステージでは、衒わないように、自分を偽ったりしないように。発する言葉については、自分にとってリアルでない言葉・他人の言葉は使わないように心がけています。

(2)ですが、僕は芸術を学んだことはほとんどないですし、音楽やアートに触れ始めた時期も非常に遅いです。だからこそ、”普通”の感覚を持って表現に接することができること、これが強みだと思っています。なので、気難しいアーティストではなく、まずはいち人間でありたいと思っています。人にはリスペクトを持って気持ち良く接する人間でありたいです。

(3)は、音楽以外にも言えることですが、とかく情報が多くて大事なことを見失いやすい時代なので、何が物事の本質かということは必ず意識するようにしています。例えば音楽においては、テクニックよりも人の心に届けることを第一に考えてますし、数字や特定人からの評価など、目に見えやすく強力な指標になるべく影響されないように心がけています。


目に見えやすく強力な指標になるべく影響されないように心がけています。

 
——現在の音楽を取り巻く環境や現状について何か感じることはありますか?

それほど音楽に詳しくない僕が言うのもおこがましいんですが……色々な意味で選択肢が多様になって、ある意味自由になった分、ぎゅうぎゅうに縮んだバネのような大きなエネルギーが無くなっているんじゃないかなと感じることがあります。バネが伸びた状態で、音楽が商業だけではない部分をどうやって保ち、どんな新しい発展をこれから遂げていくのか、半分不安、半分楽しみに思っています。

 
——今後の活動の展望や予定はどういう感じでしょうか?

リリースの関係が色々落ち着いたところなので、大きな予定として公言できるものは今のところないんですが、ライブはソロもバンドも求めてもらえる限りしていきます。あとは制作がしたいですね。バンドのメンバーと一緒に。一瞬で過ぎ去るものではなくて、長く誰かの心に残るものを作ることに、引き続き挑戦したいです。

 
——最後にメッセージを。

否定や糾弾の多い息苦しい時代ですけど、僕はそのカウンターの部分を担えたらいいなと思ってます。例えばその日どんなことがあってどんな人生でも、結果的に肯定できるように。曲を聴いてくれたりライブを見てくれた方が、少しだけ息のできる場所になれるように。涙や笑顔の理由であれるように。自分の限り、裸になって表現を続けていきます。一度ぜひ曲を聴いてみてください。もし気に入ってくれたらライブに来てみてください。あなたを肯定する何かがあると思います。


大瀧ヌー インタビュー

 

大瀧ヌー
Official
Twitter
Instagram
Facebook
YouTube
TuneCore Japan

この記事の執筆者

THE MAGAZINE

国内のインディペンデントアーティストをメインに新たな音楽ムーブメントを紹介するウェブメディア