MASS OF THE FERMENTING DREGS(マスドレ)はなぜ世界のリスナーを魅了するのか 欧米ツアーソールドアウト続出、インディペンデントな“日本が世界に誇るロックバンド”の快進撃

2024.8.23

MASS OF THE FERMENTING DREGS(マスドレ)

文 : 柴 那典

 
タイアップなしでも欧米ツアーは軒並みソールドアウト

MASS OF THE FERMENTING DREGSが、今、海外での支持を大きく広げている。

2023年に行われたバンド初の北米ツアーは全公演がソールドアウト。今年3月のヨーロッパツアーも軒並みソールドアウト。2024年9月から10月にかけて開催される2度目の北米ツアーは1,800人クラスの会場などさらに大きなキャパを予定しているが、すでに多くの公演がソールドアウトしている。

バンドのオフィシャルYouTubeチャンネルに公開されている昨年11月のNYでのライブ映像を観れば、現地でのリアルな熱狂が伝わるだろう。ライブハウスは後ろまでぎっしりと埋まった満員。フロアを埋め尽くすオーディエンスは心地よさそうに演奏に身体を揺らし、たびたび大きな歓声が上がる。

 
相当すごいことになっているのである。

アニメ主題歌などのタイアップがあったわけでもない。大きなプロモーションも、レコード会社など資本のバックアップもない。TikTokでバイラルヒットが広がったわけでもない。どころか、国内メディアがこの状況を報じたり伝えたりしていることすら、現時点ではほとんどない。

それでも評判が評判を呼ぶ形で、どんどん「日本が世界に誇るロックバンド」になっているのだ。

なぜ、どのようにして、このような状況が生まれたのだろうか?

MASS OF THE FERMENTING DREGS(マスドレ)

 
 
なぜマスドレは海外のリスナーを魅了するのか

MASS OF THE FERMENTING DREGSは、すでに20年以上のキャリアを持つバンドだ。略称は「マスドレ」。轟音ギターサウンドと透明感ある歌声が同居する楽曲が評判を集め、2010年にメジャーデビューを果たすも、2012年にバンドは一時活動休止。2015年に再始動し、現在は宮本菜津子(Vo&B)、小倉直也(Gt&Vo)、吉野功(Dr&Cho)の3人編成で活動している。

現在、バンドは事務所にもレコード会社にも所属せず、インディペンデントなスタイルで活動している。配信はTuneCore Japan経由で自ら行い、CDとアナログ盤は大阪・南堀江のレコードショップ「FLAKE RECORDS」が主宰するインディーズレーベル「FLAKE SOUNDS」からリリースしている。

何が海外人気のきっかけになったのか? 宮本菜津子さんとFLAKE RECORDSのDAWAさんにDMでコンタクトをとり、その経緯について話を聞くことができた。

2018年、マスドレは8年ぶりのアルバム『No New World』をリリースしている。その当時は海外展開への意識などは「まったくなかった」(宮本)とのこと。それでも兆しはあった。2016年にUSのグランジ・バンド、Cancersの来日ツアーで対バンしたときに、Cancersのメンバーはすでにマスドレのことを知っていた。しかも2009年のアルバム『ワールドイズユアーズ』収録の「青い、濃い、橙色の日」という曲がお気に入りだったのだという(当時は日本でも特に人気曲ではなくライブのレパートリーにもあまり入っていなかったというが、現在ではSpotifyで最も再生回数が多いのがこの曲になっている)。FLAKE RECORDSにも海外からの注文が増えてきていた。コアな音楽リスナーの口コミをきっかけに、バンドの存在は徐々に国境を超えて広がっていった。

 
それを最初に実感したのはコロナ禍の2020年。『MASS OF THE FERMENTING DREGS』、『ワールドイズユアーズ』という初期2作のストリーミング配信をスタートすると、予想以上の反響があった。それが再生回数の数字となって現れた。「私たちがライブもできない間のことで。何もしてないのに、めちゃめちゃ回ってるぞ!?ってなったのを覚えてます」(宮本)

 
2022年には現時点での最新作『Awakening:Sleeping』をリリース。キラキラと透明感あるギターサウンドが印象的なドリームポップ「Dramatic」から、中毒性あるクラウトロック「1960」、Bo NingenのTaigen Kawabeをフィーチャーしたハードコアナンバー「Helluva」など多彩な楽曲を収録した意欲作だ。

 
「このアルバムのときはどれだけ世界の隅々まで届けられるかみたいなテンションでした」(宮本)と、バンドのマインドも大きく変わってきていた。この年8月にはイギリス・ブリストルで開催されたロックフェス「ArcTanGent」への出演も果たした。「最初はめちゃめちゃ不安だったんですけど、いざステージに立ってみたら、音楽ってすごい! 伝わるんや!みたいな気持ちになって。本当に感動しました」(宮本)

MASS OF THE FERMENTING DREGS(マスドレ)
MASS OF THE FERMENTING DREGS(マスドレ)

 
その実感は2023年に行った初の北米ツアーでさらに確かなものになった。現地のブッキングエージェンシーとのやりとりなどは、tricotなど数多くのアーティストに携わってきたKOKOO RECORDSの阪谷友二さんの尽力も大きかった。各地のライブハウスに赴くと、そこにはマスドレを「待っていた」ファンがいた。

「10代の子とかがいるんですよ。大学生の時から聴いてたっていう20代の子がその時の仲間と来てたりもした。本当になんでなのかわからない、みたいな感じです。どこで知ったのかもわからない。でも、みんな本当にマスドレのことをよく知ってくれているし、愛してくれていて」(宮本)

 
 
「もっと活動の場を“地球”にしたい」

何がきっかけになったのかは本人すら知らない。それでも海外のファンを魅了する何かがあった。DAWAさんはこんな風に言う。

「マスドレって、ちょっと日本的な部分があると思うんですよね。J-ROCK的なところがあるし、それでいてオルタナでもある。向こうではマスロックバンドとも言われてるし、シューゲイズとも言われている。バランスが独特なんです。あとはパフォーマンスの格好よさだと思います」(DAWA)

2024年3月にはライブアルバム『LIVE IN JAPAN』がリリースされた。それを聴けばパフォーマンスの迫力はきっと伝わるはず。また、その作品も含めマスドレのジャケットやアートワークは互いのデビュー前から親交があるという漫画家のこざき亜衣が手掛けている。一貫性を持ったイラストのビジュアルイメージもひとつのポイントになったのかもしれない。

 
「海外のフェスに出たい。とにかく待ってくれている人のいるところに行きたいし、もっと活動の場を“地球”にしたい」(宮本)

今後の野望についてはこんな風に語ってくれた。結成から20年以上を経て、マスドレは、今、キャリアの絶頂期を更新しようとしている。ぜひ注目してもらいたい。

MASS OF THE FERMENTING DREGS(マスドレ)

 
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▼以下、MASS OF THE FERMENTING DREGS 海外公演/ツアーの様子(写真)▼

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写真提供: MASS OF THE FERMENTING DREGS

この記事の執筆者

Tomonori Shiba

柴 那典(しば・とものり) a.k.a シバナテン。音楽ジャーナリスト/執筆/編集。1976年生。著書に『平成のヒット曲』『初音ミクはなぜ世界を変えたのか』『ヒットの崩壊』。共著『渋谷音楽図鑑』『ボカロソングガイド名曲100選』

https://twitter.com/shiba710