【コラム】挫・人間「はじけるべき人生」 ロックバンドにこだわり続ける執念が生み出した新たなアンセム
9月3日にリリースされる挫・人間のニューシングル「わりきれないよ」の収録曲で先行配信もされていた「はじけるべき人生」。翻弄されるという表現が妥当なほど自由に展開していくバンドサウンドが時に噛みつき、時に踊らせ、そして突如ある衝撃が走ったのち、盛大に祝杯をあげるフィナーレに達するという前代未聞かつ奇跡的な2分20秒。一体どういう曲なのか理解に苦しむ方は、まずは実際に音源を聴いてみてください。ともかく、二人体制になってもなおロックバンドという形態にこだわり続ける下川リヲ(Vo&Gt)の執念がまた、挫・人間の新たな代表曲を生み出したのだ。
2008年に当時高校1年生だった下川を中心に熊本で結成された挫・人間は、幾度かのメンバーチェンジを繰り返し現在は下川と声児(Ba&Cho)、そしてサポートドラマーのタイチサンダー(ex. 爆弾ジョニー)、サポートギタリストのキョウスケ(ex. 爆弾ジョニー)とともに活動している。彼らのパワフルなバンドサウンドがもたらす最新作「はじけるべき人生」の暴力的なほどのハイテンションには、誰もが有無を言わさず巻き込まれるはずだ。嵐のような1曲なのに聴き終えるとなぜかパワーと幸福感が湧いてくるとんでもない曲、というのがこの曲の第一印象だった。その意味では、一見エキセントリックなようでいて、実は人を選ばない懐の深いロックミュージックとも言える。さらに言うと、ロックバンドの可能性は無限なのだという発見もあった。
『才能ないつまんないって感じ』といった剥き出しの下川の言葉が牙をむくパンキッシュな序盤。どうでもいい人間の御託を吹き飛ばすバウンシーなビートがリスナーの精神を一気に解放していくと、いつのまにか森川由加里的な世界観へと変貌し、狭くて暑苦しいひとり部屋にもディスコを出現させる。正気と狂気が入り混じる歪なムードと『教えたる(フワフワ) はじけるべき人生(人生)』という魅惑的な歌に身を委ねているといきなり切り込んでくるのが、「おめでとう御座います!!!」というあまりにも強力なフック。染之助・染太郎のそれのような迷いのない爽快な響きだ。ここで曲は一気に覚醒するし本題に入る。もちろん、挫・人間の音楽性は元々バラエティに富んでいるし、「セルアウト禅問答」をはじめ曲調が急変するアヴァンギャルドな音楽性は持ち味であるが、これほどフルスロットルな行いは新境地と言える。
そんな最高潮の祝福ののろしを受けて、堂々と放たれるのが『We are the champion!!』という合唱。下川と声児が出演する踊ってみた動画では、ここでタオルを振り回し、肩を組む二人の姿がある。続く『君の街にも ボクが来るんだ!!』『ボクの街にも 君に来て欲しい!!』というシンプルな表現は、バンドとリスナーとの唯一無二のかけがえのない関係が端的に表出されているようでとても素敵だ。10月に開催されるツアー『We are the champion!!〜君の街にも僕が来るんだ〜』はこの曲で幕を開けてほしいと望んでしまうほど挫・人間のライブアンセムになりそうな「はじけるべき人生」。また、『We are the champion!!』から想起されるのはあのクイーンのロックアンセムだろうが、少し前からネットスラング的に出てきた“優勝”という表現が筆者の中ではリンクした。たとえば、「餃子にビールは優勝」とか「今日の推しのコーデ大優勝」だとか。部外者には取るに足らない些細な出来事でも最高だと言って胸を張っていたい心境を大肯定してくれるような気がしたのである。
@zaningen0 「はじけるべき人生」#踊ってみた動画 #ダンスチャレンジ #邦ロック #NewMusic #RecommendSong ♬ はじけるべき人生 – 挫・人間
「はじけるべき人生」は、インタールードや2番がなく、加減というものを知らない全体像にもわきあがるものがあって、掲げた楽曲タイトルを裏切らない。今後もリスナーのストレスフルな場面を破壊してくれる、プレイリストに欠かせない1曲になるはずだ。この夏の音楽シーンにおいても、最もアガる新曲のひとつなのではないだろうか。そして最後に触れておきたいのが、曲の締めくくりに綴られた『愛をもっと もっともっとほしい』という実直な願いだ。元を辿れば、「全人類への復讐」を目的に結成されたのが挫・人間であり、既にその目標が達成されたのかも今もその目標が存在しているのかどうかも分からないが、バンドとしても、下川リヲという一人の人間としてもさまざまな経験を味わい、中堅と言えるキャリアを積んだからこそリリースされた新曲であることは間違い無いだろう。生き物としてのロックバンドのドキュメンタリーが感じられるという観点からも意味深い作品だと思う。
だが改めて念押ししたいのが、「はじけるべき人生」は決して体裁の良い楽曲ではないということ。そこは挫・人間の楽曲なのだから。敵意を剥き出しにし逆襲を誓う精神性が前提にあり、思い切り噛み付いているからこそ、これほどリアルな一体感や共闘関係がリスナーとの間にも生まれるのだと思う。その精神性は、ニューシングル「わりきれないよ」でもきっと聴くことができるはずだ。


挫・人間
Official site
X
Instagram
TikTok
TuneCore Japan