【セ・ラ・ノ#1】田山ショーゴ『宇宙旅行』セルフライナーノーツ
アーティストによるセルフライナーノーツで作品の魅力を深堀りする新連載「セ・ラ・ノ」。
記念すべき第一回は田山ショーゴが登場。
今年2月に発表され、1stアルバムでありながらコンセプトアルバムに挑戦し、その完成度の高さで各所で話題となったアルバム『宇宙旅行』の「セ・ラ・ノ」をお届け。
Track 1「発射」
さあ、宇宙へ飛び出そう。多分この部屋は土星へと繋がっているから。
このアルバムは、僕の全て。
Track 2「逃避行に行きましょう」
確かこの曲を書いたのは18歳か19歳の東京に来たての頃だった。小沢小山田を自認してボーダーシャツを着る、トランス・フリッパーズギターだった。見返したくはないけどスマホのガレバンにはぐちゃぐちゃのデモが残っているはず。ネオアコバンドを組みたかったから、こんな調子の曲が沢山あった。
渋谷系の音はカラッとしたギターの音に爽やかなリバーブが効いているけど、この「宇宙旅行」の一曲目にするにあたって、もっとエキセントリックで浮遊感のあるサウンドにしたくて、ギターのフレーズやエフェクトをじっくり考えていった。エンジニアの横山さんも完璧に要望に応えてくれた。
結果的に単に渋谷系リバイバル的なものではなく、宇宙への旅立ちという文脈に渋谷系を取り込んで、少しだけ新しいものが作れたような気がしている。
曲というのはタイムカプセルで、黄門と納豆しかない町から東京に出てきてシティボーイぶっていた頃の浮かれ気分を思い出す。他人事のようにすら感じる。あらゆる物事への見積もりが甘くて、希望に満ちていた。
Track 3「天使のすみか」
このアルバムのために作った曲で、何度もトライアンドエラーと思考停止、逃避を繰り返し、遂には忘れ去られた曲も幾多ある中、この曲は1番サラッと作り上げられた気がする。一日中作っても何も浮かばなくて、夕刻を過ぎた頃、チューニングをDADGADにして適当に弾いてたらなんか出来た。
ブライアンイーノや坂本龍一など、アンビエントを聴き出したタイミングだった。アンビエントを聴くような感覚で口ずさめる歌物を作りたかったんだと思う。
僕の人生に天使がいなかったことはない。それが本物であるか偽物かは関係ない。人かもしれないし只の音楽かもしれない。
きっと誰も、それ無しじゃ生きていけないのだ。
Track 4「Doze」
確か、この曲と「逃避行」と「ember」が先にできていて、そこから宇宙コンセプトアルバムを着想したはず。あらゆるジャンルの音楽を、宇宙という抽象概念で繋ぎ合わせるというアイデアに辿り着く上で重要な曲だった。発想の出発点は意外に思えるかもしれないが、くるりの「潮風のアリア」という曲だった。
こういうドラムに、マイブラやシガーロスみたいなイマーシブなサウンドが掛け合わさったら面白そうだなと思って、ドラムとギターとシンセベースだけのトラックを作っていった。すると段々視覚的イメージが湧いてきて、メロディや歌詞を作っていって、ギターも実験的に色んなエフェクトをかけて重ねていく。楽しかった。
ドラムはMagic Sonから山本直親さん。他はライン録りやソフトシンセで作り上げた。
Track 5「Chapter 0」
僕のスマホのフォルダにあった動画をサンプリングした。中学生の頃から地元で2回ほどバンドを組んでいた。どれも取るに足らないバンドだが、あの時間こそが僕のChapter 0である。
あんなに仲の良かった彼らは、内輪で恋をしてはいけないという教訓だけを得てばらばらになった。
でもなんか今年の夏に皆が集まれて嬉しかった。
最後に流れるのはテルミドールという僕が組んでいた3ピースバンドの「地平線を越えてこうぜ」を解散ライブから。
Track 6「ember」
1番大切な曲。不思議なもので、時間を経るごとに大切になってくる曲がある。僕の場合は「地平線〜」と「ember」だと思う。
19歳の時に作った曲で歌詞も構成も変わっていない。
引用しているサン=サーンスの「白鳥」は「瀕死の白鳥」というバレエ作品の表題曲にもなっている。生命の儚さ、神秘性を見事に表現した作品だ。
もがきながら結局白鳥は息絶えてしまう。
僕は残火がある限り、どうにか生き続けたい。
この曲があったから、歯車が詰まって何もできなくなっても、音楽を辞めずにアルバムを完成させられたんだと思う。
いざボーカルを録ろうとすると涙が出てくるから困った。でももういいやと思って、ひたすら不器用にテイクを重ねた。
これからこの曲を何回歌うことになるのだろうか。一緒に育っていければいい。
Track 7「怪獣の光線」
東京に移り住み、10分でも歩けばビルが並んでいるような部屋に一人篭り続けると、何だか鉛の宇宙船の中にいるような浮遊感を感じる。遊びに東京に来たわけではない。しかし、何も始められてもいなければ何も成長すらしていない。そんな身で軽々しく帰れないなと思いながら、地元のライブハウスに呼ばれたら足軽に帰っていた自分が情けなかった。
夜に常磐線の上りで東京に戻ると、ビルの赤いライトがビカビカと点滅している。それは何だか悍ましい怪獣の光線みたいだと思った。
もう変えることのできないことが起こって、それ全て受け入れたら何もしたくなくなって、今はただ音楽聴いてお酒をちょっと飲んで、物思いに耽ることしかできない。
変化の兆しがあるかもしれないと思いながら、東京の宇宙船の中でスマホと一緒に横になることしかできなかった。
Track 8「パウルクレー」
夜勤の休憩中に七尾旅人の『ヘヴンリィ・パンク:アダージョ』を聴いていた。大気圏を越えて軌道に乗ってしまえば最後、もう引き返すことはできない。
ここからは電波も通じないから最後のメッセージを送る。
そんな曲。
Track 9「Heaven」
姿を消したのは他の誰かなのか。自分自身なのか。Euphoric Albumというバンドのテア君という人間に僕は会ったことはない。
どこかで出会えたら親友になれたかもしれないし、全然気が合わなかったかもしれない。
一つも知らない身だけど、少し自分と重ねてみたりした。
しかし実際は、遺された人と音楽と、その他の記録がただ存在しているだけ。僕もただ曲を作って放つだけだ。
ひより、MVを撮ってくれてありがとう。
Track 10「around」
「こんなの作りたい!」と思って、やっと作れた曲。色んなパターンのデモを作って、1番時間がかかった。前までの僕では書けなかったし、不器用さは残るものの少し自分を超越した曲が作れたと思う。今の時代、アルバムの終盤まで聴いている人は少ないかもしれないけど、クライマックスにこの曲がおけて良かった。改めて聴くと、この曲に限らず、僕の筆は生きたがったり死にたがったりしていたみたいだ。
ドラムの音が前半と後半で変わっているのはミックスエンジニアの横山さんのアイデアで、前半はドラムのデータをアンプで出力し、それをマイクで再録音するという手法がとられている。
「同じ景色を見ているようで、実は別の世界になっている」という解釈を加えてくれたのだ。彼がいなければ、このアルバムはなかった。心から感謝したい。
ところで、フリッパーズギターの「ドルフィンソング」過ぎることをもっと指摘されると思っていたけど、「ヘッド博士」がサブスク解禁されていないのだから仕方ないか。
Track 11「帰還」
「幼年期の終わり」とか「猿の惑星」とか、そういう終末的な作品に影響を受けた曲だ。実際、今どこかでは戦争と虐殺が繰り広げられていて、誰かにとって地球はもう終わっている。
しかし、まだ地球は青々と存在し続ける。
僕はコンビニで買ったコーヒーを飲みながら、Logicを開く。ローファイなサウンドで良かったから、ベッドに寝っ転がりながら家にある安いマイクでギターと歌を録った。
所詮モラトリアムを与えられた坊ちゃんの戯言でしかない。
最後に
アルバム『宇宙旅行』聴いていただけたでしょうか。つらつらと書きましたが、僕がどんな気持ちで作ったかよりも、皆さんが聴いてどう感じたのかの方がずっと大切なんです。
好きなように使ってください。ずっと配信し続けますので!
曲を聴いていただいた皆さんにお会いしたいです。是非ライブにお越しください!
あと、リリース記念ZINEではこのアルバムの制作に至るまでのことを書いているので、物販で手に取っていただけたら嬉しいです。

田山ショーゴ
茨城県水戸市出身/2002年生まれ。都内を中心に、弾き語りライブや自主音源制作などパーソナルな活動を展開。『柔らかな声と、不意に滲む狂気。優しさの奥に、ふとした不安を孕むような音楽。』オルタナティブロックやポップスに影響を受けつつ、都市の隙間を漂うような気まぐれなメロディを紡ぎながら、2020年代の音楽表現を探る。2025年2月 1st Album『宇宙旅行』をリリース。