【セ・ラ・ノ#3】Linen Frisco『natura』セルフライナーノーツ

コラム・特集
2025.10.9
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アーティスト自身によるセルフライナーノーツで作品の魅力を深堀りする新連載「セ・ラ・ノ」。

3回目となる今回は神戸を拠点に活動するLinen Friscoが登場。

高い演奏技術でライブシーンから評価を受けている彼らが、様々な要素を昇華させた2nd EP『natura』について「セ・ラ・ノ」。


『natura』各サブスク

 

EP「natura」
 
林(Dr.) 以下「林」
「natura」というタイトルを付けたのは、ある程度収録曲が完成してからだったと思います。
まず初めに「nunobiki」という曲ができていて、じゃあ新しくEPを作ろうってなったときに、「nunobiki」を中心として、自然を描いていくコンセプトアルバムとして制作しようという話になりました。
EPという形をとるのなら、曲の寄せ集めではなくて、曲たちが一つの塊として集結しているからこそできる表現の形を取りたかったんです。

作り始めた時は、なんとなく自然を描写するようなEPになるかなと思っていたんですけど、曲をみんなで作っていく中で、このEPで表現したいものは僕たちが接する表層としての自然ではなく、自然というものの本性、本質としての自然、言い換えれば表層としての自然の背後に横たわる純粋なもの、絶対的なものなんだなということが分かってきました。

naturaは、natureよりも幅広いものを指す語です。山とか森とか、そういうことではなく、万物の純粋本質、それがnaturaであり、そういったものを自然との体験から抽出し描き出す。それが「natura」というEPになります。

 

Track 1「-明」
 
榎本(Gt.) 以下「榎本」
このe.p.にはインタルードが3曲入っているんですけど、この曲たちは他の歌有りの曲のレコーディングがほとんど終わってから宅録で作りました。
Linen Friscoの普段のライブでは曲だけを演奏するわけではなく、曲と曲の間にアンビエントをしたりセッションをしたりしているのですが、音源でも曲をただ並べるだけではなく、曲同士の繋がりを表現したいなと思い、e.p.にしてはかなり多い3曲のインタルードを作りました。
どのインタルードもそれぞれの曲の思い描いた景色と景色を繋げるような気持ちで作りました。
-明はギターで作ったノイズとドローンをメインにしながら、細かいピッチシフト系のテクスチャと落ち葉の上を歩いているフィールドレコーディングの音を入れています。夜から明け方にかけて歩いている中、滝に近づき飛沫が少し飛んで来ている、滝の周りだけ明るいような景色をイメージして作りました。

 

Track 2「nunobiki」
 

家の近くに布引の滝という滝があって、よく行くんですけど、そこに平安期の短歌の歌碑とかがあるんです。平安時代って言ったら千年前とかですよね。
そして、それよりもっと昔から布引の滝はそこにあったわけです。
「ぼのぼの」っていう漫画に、「自分たちが見ていない間も滝が本当に流れ続けているのか確認する」っていう回があるんですけど、本当に、滝ってずっと流れ続けてるんですよね。
僕にとって、そういった「滝の存在する場」は、途方もない大きな時間が流れた故に、その中では過去や現在、未来の区別はなくなってしまって、全てが入り混じっている、そういう「場」なんです。
時間の流れっていうものもよくわからないもので、観測者がいなければ時間なんてものは流れていないんじゃないかな、と僕は思います。
そういった時空間の遍在性みたいなものを描きたかったのかなと思います。
 
高橋(Vo./Gt.) 以下「高橋」
最初のギターリフはDrの林が作ったと思います。そこからテーマに沿って広げていったんですが、水の曲線的な流れを表す上でも6/8はスムーズに考えられました。滝に向かってうねりながら下に流れて行く矢印を感じられるような構成になってるかと思います。
後半のパートは、嵐の日に荒れた滝や水流を実際に体験しているように感じられる内容にしたかった為、コードと拍子の不安定さで前述のうねりを増幅させることに重きを置いています。
歌詞に関しては、MVを撮影する際に見に行った碑石を参考に、水の流れと繊維の類似性を意識したキーワードを散りばめました。

 

Track 3「るゝ」
 
榎本
滝と火山という、属性でいえば真逆に近いものを繋げる気持ちで作りました。みずタイプとほのおタイプみたいな。滝から火山の道の中で核となる景色は変わらないけど、天気や気温などの細かいテクスチャが変わっていくイメージです。ギターのアルペジオを軸に、水の流れる音とスタッターのかかったギターで道中の少し速く歩いている気持ちをつくり、ファズとリバーブの高音で風の様子などを表現しています。
ちなみに、インタルードなどに入っている水の音や歩いている音などですが、ドラムのはやしが山などをよく歩きに行っているので、いい感じの音を録ってきて!とお願いしたら録ってきてくれました。いい感じです。

 

Track 4「火山」
 
榎本
僕は曲を作る時に林からテーマをもらって作ることが多いんですけど、この曲のテーマは火山でした。めっちゃそのままですね。
ただ別に火山の噴火だとかそういうものを表現しようとしたわけでは無く、火山に対する畏れであったり、火山の圧倒性に対する火山信仰、活と静のバランスや多面性、シンプルな存在としてのデカさなどを思い描きながら作りました。また火山に伴い火山の熱を利用する生態系だとか、火山を覆う自然まで表現しようと思いました。
音楽的な面でいえば、この時期とにかく「パキっとした曲が作りたい」というのを口癖のように言っていた記憶があって、その意識が強く出ているなあという気がします。イントロのリフでいえば、とにかく強い音で録りたくて普段弾かないレスポールでレコーディングしました。
あとこの曲のメロディはびっきー(Vo.高橋)がつけたんですけど、サビのメロディがとても良いですね。とても。

 

Track 5「鹿」
 
高橋
nunobikiや火山は、水流の落下や噴火の様な自然現象のサビ的な場面をそのままサビに配置する作り方だったので、鹿は大分違う雰囲気になってるかと思います。
”悠久”な雰囲気を出すために、想起される映像のスピード感・線形な場面のつながりを意識して、はやしが書いた詩を参考に、歌詞を書きました。
構成を練り直す中で歌詞の順番やメロディの節回しが結構変わっているんですが、結果的に起伏が均されて良かったと思います。
 

初めてこの曲のデモを聴いたとき、浮かんできたのは鬱蒼として霧がかった森の中にいる印象でした。
森の中、小雨が針葉樹を濡らしているような中で地面に横たわると、自分と環境が溶け合うような、主客未分の状態を強く感じるんです。
環境と主体は互いに接触することで互いが同時に生成され始める。主体と環境、そこに境界はなく、全く分かれない大きな本質、naturaがそこに立ち現れます。
自分が他者へと移り、また他者が自分でもある。鹿と目が合うときには、鹿の目を通して自分をまた見つめている。
演奏するときは鹿になって演奏しています。マジで。

 

Track 6「;michi」
 
榎本
この曲は湿度が高めで木の葉っぱで覆われて暗い森だけど、雨は降っていなく、木々の隙間から光の道がさしてきているイメージで作りました。
僕はこの曲が個人的に1番気に入っています。GOODHERTZのLossyというプラグインで作ったコードのリフの音色が最高なのと、ピッチシフト系の音声が多く入っているけどテクスチャがトゲトゲしくなく、とても優しいのがお気に入りポイントです。ドラムのはやしの家で録音したパーカッションにエフェクトをかけまくる時間も楽しかった記憶がありますね。このインタルードを作った時期はKnobsのアルバム”Stipple”や冥丁のアルバム”古風””Komachi”などの明るめのアンビエントをとにかく聴きまくっていて、そこからの影響がかなり大きく感じます。

 

Track 7「紫陽花」
 
森中(Ba.)
音楽面
コード感とかはサンダーキャットのイメージを引っ張ってきて、展開の奇抜さや途中入ってくるコーラスの温度感は、タイラーザクリエイターを参考にしました。メロディーは響さん(Vo.高橋)がまとめてくれました。

タイトルについて
紫陽花の、枯れても花弁を落とさない性質から、紫陽花が枯れることを「しがみつく」と表現されることもあるようです。仏教的な世界観に現世の人間が死ぬまで欲望に惑わされ苦しんでいるというのがありますが、紫陽花の花びら(花弁)が枯れてもしがみつくところが、人と似ていると感じ、このタイトルにしました。

歌詞について
基本的には私が出会った人たちと関わり合っていく中で、私の世界の捉え方に起きた変化、のようなことを記しています。はじめの場面からの移り変わりを感じてもらえると幸いです。
 

後半部分の歌詞が、言語によって分節された世界の底に姿を現す未分節の世界、naturaというものを良く表しています。「natura」というEPを締めくくる一曲にふさわしいなと思います。

 

最後に
 

自分たちで色々と書きながら、意外と聴いてくれた人から曲の感想をしっかり聞く機会ってないなーと思って、なのでライブで会える方はライブで、ライブに来れない方は何かしらの方法で感想聞かせてくれたら嬉しいです。
2026年にはフルアルバムを出します。そちらも何卒よろしくお願いします。
ありがとうございました。

 



【セ・ラ・ノ#3】Linen Frisco『natura』セルフライナーノーツ
 
Linen Frisco
2023年4月活動開始の神戸出身4人組バンド。 ブラックミュージックやアンビエント、インディーポップなど幅広いジャンルから影響を受け楽曲を制作。 2024年1月に1st EP「Kilimanjaro」をリリース。2025年2月には2nd EP「natura」をリリースし、大阪・神戸でのリリースパーティを敢行。 楽曲制作と関西でのライブを中心に活動中。

 

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