【セ・ラ・ノ#4】水いらず『水を捨てよ、内へ還ろう』セルフライナーノーツ

コラム・特集
2025.10.16
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アーティストによるセルフライナーノーツで作品の魅力を深堀りする新連載「セ・ラ・ノ」。
 
第4回には異形のサウンドを探求する4人組、水いらずが登場。
 
多様なゲストを迎えた、約5年ぶりとなる2ndアルバム『水を捨てよ、内へ還ろう』について「セ・ラ・ノ」。



『水を捨てよ、内へ還ろう』各サブスク

 

Track 1「oboeru」
 
井上真(Vo./Gt.) 以下「井上」
過去は過去としてではなく、いまここにありありと存在する。ありありと感じられる。そんな感覚を表現しようとしました。
大学時代に作った曲をリアレンジしています。
個人的には微分音を使った美しい和音に注目してもらいたいです。
 
小宮山節己(Dr.) 以下「小宮山」
井上さんの部屋にメンバーが出入りしつつ、最後には全員集合して大円団を迎えます。
 
辻本秀太郎(Ba.) 以下「辻本」
デモの時点で興奮しました。
そこからちゃんとバンドの楽曲にもなっていき、嬉しかった。
「自棄な虚勢には飽きている」という歌詞とメロディの載せ方が好きです。
 
桜井晴紀(Key.) 以下「桜井」
水いらずに加入前、この曲の原型がとても好きでした。
おおよそ、8年越しに結実し、su-muから連なる微分音の扱いも1つの形にすることができました。

 

Track 2「hanasu」
 
井上
バンドメンバーで山登りしながら歌詞を考えたり。payaさんと交換日記をしたり。hanasuという題名の通り、コミュニケーションの不確実性を表す制作過程だったと思います。何だかんだで一番聞きなおすことが多いお気に入りの楽曲です。
 
小宮山
印象的な声のパルスの16ビートをライドシンバルが受け継ぎ、最後にそれらが一体となります。重層的だけどシンプルで美しい曲です。
 
辻本
「夢の魔法」と聴こえるかもしれないが、正しくは「梅の魔法が解ける前に」と歌われている。
paya(幽体コミュニケーションズ)さんの歌詞が美しいです。
 
桜井
ミニマルな展開の中で美しいメロディと言葉が立ち上がってきます。
井上さんの体験がpayaさんの言葉に還元されて、それを聴く人がまたその意味をとりこんでいくのは曲で会話をしているようです。
※小宮山さんのドラム聴きどころです。

 

Track 3「bakeru and enjiru」
 
井上
ある種の病理をコミカルに作れたと思います。老成した声。はきはきした声。こじゃれた声。色んな発声を試せました。
 
小宮山
何回聴いても怖いです。
 
辻本
4月某週、急にスイッチが入ってインストのトラックを1日1曲作り始めた。
そのなかのひとつをメンバーが気に入ってくれて、朗読を加えことになり、曲ができていった。
ヴィンセント・ギャロのレコードを買ったことがインスピレーションになっていた気がする。
 
桜井
辻本さんのクールなトラックです。ユーモアに富んだ円了の見ていた世界もこんな形だったのかもしれません。

 

Track 4「bakeru」
 
井上
この楽曲は3つのパートに分かれます。
前半は妖怪を撲滅する立場。中盤は化ける側の論理。最後は現実の自分としてどう考えるのか。
化けるものに対しての懐疑心から始まった本作ですが、固定化しやすいイメージを偶然に溢れる現実で再定義していく。
希望に満ちた楽曲になっていると思います。
 
小宮山
後半の展開で何かから解放されたかと思いきや、最後の「られる」で急に現実に引き戻される気がして、そこに怪談っぽさを感じます。
 
辻本
最初のヴォーカロイドのパートのベース・ラインがまったく思いつかなくて、メンバーに家に来てもらってみんなで半日考えた結果、ツェッペリンでいこう! となった記憶があります。
 
桜井
楽器でケチャを再現してみようというところから始まり、無限に複雑化していくリズム、音階を組み上げました。
露悪的にも見えるかもしれませんが、やっと現代社会とつながることができたと思います。

 

Track 5「uturu」
 
井上
オノマトペは現実を表す言葉ではなく、むしろ現実の主観的なイメージを身体性を伴って表せることにあると思います。
主人公がオノマトペが描写する背景を生きていく。その風景を楽しんでもらえたらと。
 
小宮山
DAW上で構成された断片的なリズムと言葉の組み合わせからの、急に現れるストレートなキックと歌詞にドキドキします。
 
辻本
ライターのフガクラ氏がレビューのなかで“アイドルソング”と評した曲。
鋭いと思う。少なくとも、僕が最後のパートで弾いたベースは“推し”に捧げられている。
 
桜井
これまでの制作を生かして交響曲を作ろうと思いました。
擬態語で擬似的な世界を作って、その中を登場人物が歩いているような音楽です。この曲が何なのか未だに分かりませんが、音を観てください。
※作曲の初段階で井上さんと、トボトボとかぶつぶつ呟きながら、秋葉原を歩きました

 

Track 6「tutau」
 
井上
一つ一つの点をむりやり線にしていくような感覚で作りました。
フランケンシュタインが人体を縫っていくような、そんなイメージを桜井くんと共有した気がします。
 
小宮山
捉えどころのないメロディとタイトなベース、ダルダルにチューニングされたタムなどが合わさり、奇妙なグルーブになっています。
何拍子の曲なのか意識しながら聴いてみてください。
 
辻本
米津裕二郎さんのミックスや、録音のディレクションが素晴らしかった曲。
私のハイトーン・コーラスにも注目です。
 
桜井
歌詞を普段書くことがないので苦労しました。個人的な歌です。
曲全体の和声は日本和声を参考に作りました。自分の心地よいメロディとリズムだけ詰め込みした。

 

Track 7「su-mu」
 
井上
この楽曲から全てが始まったと言っても過言ではありません。
アジアのイメージをどうバンドサウンドに還元するのか。
長い時間をかけて完成した意欲作です。
 
小宮山
直線的なスリップビートと複雑怪奇な拍子が共存している曲です。耳馴染みの良さの奥に狂気を感じます。
 
辻本
鍵盤の桜井くんと一緒に作ったベース・ラインをすごく気に入っています。
ベーシストの発想では出てこないメロディと、ベーシストからしか出てこないグルーヴの両方が入っていると思う。
 
桜井
2021/5/7 都内某所でこの曲の最初期のデモを聴かせてもらい、コーラスワークに衝撃を受けました。
そこから研究に明け暮れる長い絵巻物のような日々が始まるのです。

 

Track 8「oboeru and wasureru」
 
井上
大学時代に作った一篇ですが、ようやくその意味が理解できた気がします。
昨日が今日に滲む。いまを侵していく。その感覚を表現したかったんだなぁ。
 
小宮山
銅鑼の使い方が良い。
 
辻本
遠くから太鼓の音や祭囃子が聴こえる、この季節にアルバムを出せてよかったなと思います。
 
桜井
陳腐と言われても結局こういう言葉凄くリアルなんじゃないかなと思います。

 

Track 9「inoru」
 
井上
自分たち、水いらずのグルーブを探求しました。踊念仏、遊行寺の踊りをリファレンスにしています。
ぜひ踊りながら聞いてもらえると嬉しいです。
 
小宮山
ハネずにノることを目指した曲です。自宅でもライブ会場でも、ぜひ各々の動きでノッてください。
 
辻本
「液晶に霊性を 空港に送り火を」という歌詞をはじめ、シビれる言葉がたくさんあります。
アルバム全篇、歌詞も読みながら聴いてみてほしいですね。
 
桜井
音楽を祈りとするのが凄く嫌いでした。もっと音楽に向き合って欲しかったし、向き合いたかったです。
この曲で、祈りというものに対して、自分の納得する一種のあり方を作れた気がしました。
※はじめて3管でアレンジできて嬉しかったです!

 

最後に
 
10/26(日)渋谷wwwにて「水を捨てよ、内へ還ろう」リリース記念ライブがあります。
ぜひ皆さんお越しください!



【セ・ラ・ノ#4】水いらず『水を捨てよ、内へ還ろう』セルフライナーノーツ

水いらず
2016年に結成された、東京を拠点に活動する4人組インディロック・バンド。“思想や概念から作曲を始める”、“アジアの民族音楽の再解釈”、“スタンドアローン・コンプレックス”、といったスタンスを意識しながら、独自の音楽を生み出している。2020年12月に1stフル・アルバム『ほとんど、空』をリリース。以降も「su-mu」(2021年)、「bakeru」(2022年)、「uturu」(2023年)と発表を重ね、アジア的なリズムや音階をバンド・サウンドに還元するアプローチが注目を集めている。 2025年2月には、ファッション・ブランドamokの2025ー26年秋冬コレクションのランウェイ音楽を手がけるなど、活動の幅を広げている。同年8月8日にはBen Nobuto、Cwondoによるリミックスを収録した12インチ・シングル『uturu/bakeru』を発売。8月29日(金)、約5年ぶりとなる2ndフル・アルバム『水を捨てよ、内へ還ろう』をリリースする。

 
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