【コラム】儚く切なく幻想的 ― 注目3人組バンド雪国が紡ぐ、美しい音楽世界
音楽に対して「美しい」という言葉を形容するとしたら、このバンドにこそ送るべきではないか。東京発・2023年に結成された3人組インディーロックバンド、雪国というバンドに、だ。それくらいに、雪国が紡ぐサウンドは透き通っていて、洗練されている。2年半のキャリアの中で、1stフルアルバム『pothos』、2ndフルアルバム『shion』をリリースしているが、その根本は一切揺らがない。川端康成『雪国』に由来するバンド名のごとく、儚く切ない雪景色を思わせる世界観を作り上げる(必ずしも、どの歌も冬をテーマにした歌というわけではないが、バンドアンサンブルが雪景色を思わせるような幻想感を解き放っている)。この記事では、そんな雪国の音楽的な魅力を複数の観点から紐解いていきたい。
ジャンル性の中で揺れ動く絶妙な楽曲構成
雪国の楽曲は、スロウコア的なゆったりリズムを基盤にしているものが多い。そして、オルタナティブロック/インディーロック/ポストロック/シューゲイザーといった区分で形容される音色とビートメイクを味わうことができる。あえて言えば、初めてRadioheadと出会ったような衝撃に近いと感じた。緻密でありながらスリリング。淡々としているけど、ふいに意表を突く。優しくて美しいけど、ときに狂気にも似た激しさを魅せる。そういうドキドキを雪国の作品からいつも感じるのだ。
どの歌も、アルペジオで紡ぐギターが印象深い。このサウンドだけでも、幻想的な音世界を作り上げてみせる。ベースとドラムは不規則なリズムワークを規則的に組み立てていき、アンサンブルが紡ぐジャンル性を強固なものにしていく。そんな音の空間の中で、溶けていくように透明感のあるボーカルが歌のテーマを融和させていく。
特に「シオン」では、10分以上の尺をかけて幻想的な音楽世界を作り上げていくので、インパクトが強い。前述したようなサウンドメイクの中でじんわりと歌の世界を作り上げていく。そのうえで、楽曲の後半では「語り」のようなパートを取り入れており、ふいに歌のトーンを変えていく展開も確認できる。まるで重厚な短編映画のように。言葉以上にサウンドが雄弁に何かを語り、音の深淵に誘われていく。派手な楽曲展開ではないけれども、繊細な機微を歌声に載せるからこその没頭感。時間をつかって描きあげた世界だからこその、ポスト・ロック的なカタルシスの解放は、尊い感動を与えてくれる。
クールでさりげない、丁寧なサウンドの魅力
先ほどの項目でも述べたが、雪国のサウンドはジャンル性を感じるものが多い。一方で、ジャンルに囚われない広がりを感じる楽曲も多い。というよりも、ジャンルが先行するのではなく、歌の物語や視点が先行した結果、そのテーマにふさわしいサウンドが構築されていき、その果てにオルタナティブ・ロックと形容されるものだったり、インディー・ロックとしての装いを持ち合わせていくような発展をしていくように感じるのだ。
実際、「Blue Train」だったり「星になる話」だったり、雪国の代表する楽曲を聴き込んでみると、似たような歩幅の中でも、その楽曲だからこそのサウンドスケープを感じさせるものが多い。とはいえ、ギターのアルペジオが軸を握り、ミニマルながらも正確なビートメイクで歌を展開させていき、美を追求したハイトーンな歌声で歌のテーマを掘り下げていくという大元の部分はどの楽曲も通底している。なので、雪国は多様性のあるバンドとも言えるし、通底した美学を研ぎ澄ますバンドでもあると言えるように感じる。
なお、雪国の音楽は自問自答するようなペースで楽しめることが特徴であるように感じる。SNSが台頭する現代の音楽シーンにおいては、端的に、キャッチーに、即座に伝わることが重要とされることが多い。そんな中において、雪国の音楽は良い意味で贅沢に音の時間を使っているように感じるし、楽曲の構成だったり歌のテーマを丁寧に掘り下げていくからたどり着く興奮(あるいはクールダウン)があるように感じる。そういう意味で、雪国の音楽は雪景色を堪能できる街の風流があるとも言えるし、純文学にも似た奥行きがあるとも言える。
クリアに響く優しげなボーカルの魅力
雪国のボーカルは、クリアで囁くようなトーンから、感情の爆発へ移行するダイナミズムが魅力である。雪国の音楽はポスト・ロック的な部分もあれば、シューゲイザー的な部分もあるんだけど、どの歌も<あるタイミング>でがつんと音圧を上げる部分がある。そのタイミングでボーカルのモードが変化する瞬間を目撃することができて、そこに極上の興奮を覚えることになるのだ。繊細で、日々の生活で見落としてしまいそうなものにも鋭い視点をもって、内省的でストイックに美を追求する歌声だからこそ、切り替わったときのゾクゾク感がたまらない。さらに言えば、ファルセットだったり、ビブラートだったりを必要な場面で適切に使いながら、歌の中で描かれる感情の振れ幅を丁寧に辿るからこそ感じる美しさであるように思う。「君の街まで」「東京」のように、歌の中で景色を描きつつも、哲学的で根源的なテーマも並走する感じにおいて、このボーカルのあり方があまりにもしっくりくる。だからこそ、雪国の音楽は美しくて、綺麗で、切なくて、儚げなのだと感じるのである。
まとめ
雪国の音楽は、現代のバンドシーンではなかなか出会えない感動を持ち合わせている。だからこそ、深くその音楽に潜り込んだときの喜びは他に代えがたいものがある。楽曲構成も、サウンドも、ボーカルのあり方も、雪国だからこそが際立っているからこそたどり着く境地。トンネルを抜けて雪国にたどり着くような、そんなかけがえのない音楽体験をぜひ雪国の作品の中で行ってみてほしいと切に感じる。
雪国 2nd アルバム『shion」
https://linkco.re/UmXbphFt
【トラックリスト】
1. 白色矮星
2. 君の街まで
3. セスナ
4. 生きる地図
5. 秘密基地
6. 羽化
7. ひぐらしの夢
8. 窓辺のノア
9. 海月
10. 星になる話
11. シオン
12. ほしのおと
