【セ・ラ・ノ#8】秋山璃月『フラットランド』セルフライナーノーツ

コラム・特集

2025.11.28

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アーティストによるセルフライナーノーツで作品の魅力を深堀りする新連載「セ・ラ・ノ」。

第8回となる今回は、秋山璃月が登場。

10月に発表された、全編宅録で制作されたという、箱庭的ポップチューンが目白押しのEP『フラットランド』について、セ・ラ・ノ。

Track 1「サウンドチェック」

このアルバムがどんな気分なのかを表したくて作りました。アルバムのサウンドチェックの役割です。
題名「フラットランド」について。
このアルバムで表現したいテーマは、僕が10代の頃から持って作り続けてきて、そろそろ何曲か取り上げてまとめておきたい思ってました。
一昨年「フラットランド」という昔の小説をたまたま見つけた時、全体の方向性がまとまったという感じです。
歌ってる内容は一度聴いただけでは伝わり切らないと思ったので、音楽自体はなるべくキャッチーに作ることを心掛けました。
ポップスとして（ギリギリでも良いので）成立させたかったです。

Track 2「新しい知性」

荒川修作、マドリンギンズの著作「建築する身体」「意味のメカニズム」が着想となり作った曲です。
10代に作りました。
根本から作り直そうとするエネルギーを歌っています。
当然と思っていたことが覆り、捉え直して行くことになった時の、ゴミ箱すらもないまっさらな状態。
再建築ですらなく、新しく建てる時、その変化に瞬間でついてくる、準備をしていた新しい人たちで、どうするか話し合いをします。そんな状況を想像してます。

Track 3「矢印を探そうよ」

ここでの矢印は座標で使う、x軸y軸のことです。
学校で問題解く時には図を書きました。
ある授業から、平面に一本z軸を足して、一気に三次元になりました。
どんな生徒も簡単に、平面の時では考えられなかったような方向へ、ただ一本の矢印を書き加えられるように、新しい気づきや新しい世界、新しい見方はとてもすぐ目の前にあるんじゃないかということを、このアルバムでは表したいです。

Track 4「着陸装置と千年定規」

占いを信じることは時間感覚を捨てること、鏡を割ることは境界面を壊すということです。
当たり前と思ってるものを根底から覆されるとき。
境界面では、その外側と内側のそれぞれの情報や要素を交換したり、示したり、隔てたりしています。
マルセルデュシャンの大ガラスや稲垣足穂の1001秒物語など、境界面に関係すると思ったモチーフをいくつか取り上げて表現しています。

Track 5「ドアを考える人」

ドアは二つの空間を移動する唯一の繋ぎ目です。
だけどその存在が怪しいなと考え直していくうちに他の全ての存在も同じように不安定だと感じるようになる。

Track 6「FOLD SOUND」

折り目についての歌です。
折りたたむこと。
折り紙などでは最も遠い対角同士を一回の畳み込みで重ね合わせることができます。
僕の中で、折り紙は次元のモチーフです。折りたたむことは二次元に三次元的な操作をすることです。
さっきの矢印と似た話です。
自分たちの常識の外から、外側の者にとっては（外側のものがいるかいないかは置いておいて）簡単な操作をすれば、内側の自分たちにとってはありえないことが起きます。
意味とか言葉を、私たちは簡単に決めたり変えたり色々して、身の回りを思い通りに認識してる。
自由に簡単にそうできたのに、それにがんじがらめになり、やがて自分の中の、物事への認識を変えることは不可能だと錯覚してしまう。
それはまるで折り目が一度つくと、まっさらの綺麗な紙には戻せないように。
でもだからってその紙には、折り目をつける前と変わらず無限の遊び様が、そのまま変わらずあるんです。

Track 7「オルドバイ」

オルドバイはタンザニアの地名です。
人類の始まりの地言われています。
地続きの気分、昔から今へ継ぎ続けた大きな流れのイメージ。
この曲はフラットランドを作る時に最後にできた曲です。
イントロのギターフレーズは気に入っています。
へんてこな地平線から出てくる太陽は得体の知れない真っ赤なまんまる。

Track 8「複雑系」

複雑系というのは数学の分野の一つで、圏論とも言われます。
17歳の時に作った音楽です。フラットランドでは1番古い曲です。
多数の要素がそれぞれ関係し合って、全体はつくられてる。
考え方で作りました。
サビは複雑系自体と直接の関係は薄いですが、生きること死ぬこと、心臓で動いてる自分のことがなぜかこの曲にしっくりきたのでそのまま形にしました。
関係性の上でのみ人間は人間でいられます。
すれ違うだけの人とも、ものすごい大きな視点ではちゃんと緻密に強烈に関係してるんです。
もし関係してなかったら、人間同士ですれ違えるはずがないんです。