【セ・ラ・ノ#9】The Prims『LOST』セルフライナーノーツ
アーティストによるセルフライナーノーツで作品の魅力を深堀りする新連載「セ・ラ・ノ」。
第9回となる今回は、The Primsが登場。
全編を通じた朧げな音像が印象的な11月に発表されたアルバム、『LOST』について、セ・ラ・ノ。
『LOST』各サブスク
Track 1「lost」
粟飯原(作詞/作曲)
わたしは美術館など行くと、すぐに展示の解説を読んでしまうタイプなので、このアルバムの最初にもそういうものを持ってきました。
意味よりテクスチャーなんてことも言われる時代ですが、わたしはずっと物語のようなものに魅了され続けてきたので、そういった意味でもこの曲が必要でした。
杉野(サウンドデザイン)
(今回アルバムのサウンドデザインを手掛けています。杉野です。今回こちらでは主にサウンド面についてコメントできればと思います。)
次曲「川」のコード進行を用い、ロックスターは過去の存在だということを踏まえ、undertaleや任天堂のような、おとぎ話のような雰囲気を目指しました。
品川(Gt.)
アルバムがリリースされてから初めて聴きました。
バックで流れている音楽と、ラジオのような質感の粟飯原の語り。
世界が終わったのかと思いましたが、悲しくはなりませんでした。
白根(Dr.)
「永遠」という重たい言葉を初っ端から繰り返し突きつけられ、理解する前に曲が始まって頭の中が現在から離れ、記憶の旅に強制連行される。
粟飯原の歌や言葉の前に抵抗を辞めざるを得ない気持ちになった。とてもいいね。
Track 2「川」
粟飯原
川ってやっぱり好きなんですよね、物心ついてから何回か引っ越したのですが、ずっと川のある街で暮らしています。
ちなみにこの曲は、去年インドに行って会った人や見た景色、考えたことをもとに作りました。
杉野
粟飯原が少し前まで手がけていたプロジェクト「枯れ葉」のミックスマスタリングをした際に初めて聴いた曲です。
川、というものを表現する上でBotanicaのようなジャンル、あるいはギターとダンスミュージックの調和を用いて表現しました。
大きな力を持っている曲だと思います。
品川
踊れるのにどこかデッドな雰囲気で、無機質だけど冷たすぎないギターで気に入っています。
白根
以前ブラシを使ってドラムを叩いたことがある楽曲で、その当時感じていたゆったりとしたニアンスは残っていながら、杉野の手がけるビートに背中を押される。
曲名のとおり川の中を流れている気持ちになりました。
Track 3「秋風」
粟飯原
去年と同じ秋風/君も少し変わったか/外はこんなにもいい香り♪
くりかえしているが、少しずつ変わってゆく、螺旋のように同じ座標でも、少しずつ少しずつ、みたいな。
あと「外はこんなにも〜」の歌詞が、はっぴいえんどの「外はいい天気」の歌詞みたいで気に入っています。
杉野
アルバムの中で一番好きな曲です。
ブラックミュージックのような、DijonなどのAlt-R&Bのような雰囲気が出せたらと思い、ドローンや潰れたドラムを採用しています。
品川
私がノイズや即興演奏に傾倒していたころのボイスメモが後ろでずっと流れています。
誰もいない夕方の遊園地で流れるアナウンスのよう。秋が1番好きな季節です。
白根
粟飯原の声色の美味しい部分が1番発揮できている曲だと思う。
聞いたあとに最初に浮かんだ言葉は、「うん」でした。
Track 4「転校生」
粟飯原
転校生ってだいたい二学期にやってくるから秋、自分も転校生だった経験があります。
杉野
予想ですが、この曲がなければこのアルバムは生まれなかったのかなと思います。
トラックはフランクオーシャンのBlondeのような雰囲気を意識しました。
品川
秋の暖かい日、ひだまりで少し眠くなる昼下がりに気になっている女の子が廊下を通った時みたいな感じです。
白根
これは名曲ですね。
ベースラインがちょうどいい主張でシンプルなビートなので、体がゆっくりと前後に揺れる曲。
Track 5「初恋」
粟飯原
この曲は“MAGA”とか“Golden Age”とか言ってるドナルド・トランプの曲でもあります。
杉野
結果的にプリムズをやってきた中で一番激しい曲になりました。
“俺は”や”逆立てた”など散りばめられた力強い言葉も噛み合って、聴いていて気持ち良いです。
品川
最も気に入っているギターのフレーズです。
即興で弾いたので2度とこのギターは弾けません。
現実もそうです。昔楽しかったことを今になってやってみても、思い出ほど楽しくなかったりとか。
でも初恋の記憶はずっと輝いています。
白根
本当に粟飯原の世界を理解するのに時間がかかって、制作中は「曲調が急に変わるじゃん!これあってる?」という気持ちでした。
けれど完成してから、ドラムの生々しい音と電子音、歌の気だるさがちょうどよくマッチしていて、ほぼ完成の段階でようやくこの曲の姿を理解しました。
Track 6「garden」
粟飯原
最初らへんのフィールドレックは多分インドのマナリって街で歩いてるときのかな?
大麻がたくさん自生していて大変よい街でした。
杉野
いくつかのフィールドレコーディングを用いて作成した、「グッドナイト」のイントロにあたる楽曲です。
品川
晴れた日にお庭で昼寝してたら瞼越しに見ていた太陽のせいで視界が真っ白になる感じ。
白根
初恋のあとに一旦寝なさいと言わんばかりの落ち着きようですね。
Track 7「グッドナイト」
粟飯原
坂本龍一の最後のドキュメンタリーを観終えたときの感情、最近眠れないという相談、自分も眠れずに迎えた朝、季節の変わり目、いろんないろんな、、
杉野
軽快なメロディとビートが続く、いつまでも聴いていられるような曲です。
この曲を初めて聴いた時、粟飯原はほんといい曲作るなと、少し感動したことを覚えています。
品川
永遠の眠りを白い光で包み悲しみで終わらせない、ふとした時に思い出すあの人の笑顔。
白根
耳に残るギターのフレーズがいい。
また、淡々と流れる軽快なビートの中でオープンハイハットの音が繰り返し使われいいアクセントになっています。
Track 8「瞼」
粟飯原
途中まで作って、なんとなくガットギターだけ持って多摩川行って完成させました。
嘘ついたことないです、人生で。
杉野
“この人生が2度でもあれば”という詩が好きです。
普段は嘘ばかりつく粟飯原ですが、彼の刹那的な人間性が正直に現れている曲だと思います。
品川
個人的に生々しい弾き語りの録音が好きで、みんなでマスタリングしている時も、エフェクトをかけない方がいいと、珍しく口を出しました。
いい曲です。
白根
粟飯原が漠然と抱える不安や羨望の念が生々しいほど伝わりました。
Track 9「ハンバーグ (lost mix)」
粟飯原
品川と10代のときに録音した音(ボーカルとギター)をそのまま採用しているのですが、ナヨナヨしすぎだろって感じで面白いです。
杉野
過去に粟飯原が作った曲をリミックスしました。
アルバムの文脈や曲調を踏まえ、単なる四つ打ちではなくgarageに分類されるようなリズムを採用しました。
品川
私が粟飯原と初めて作った曲です。
元気がない時に白根のMCを聴きたくなります。
白根
この僕のアホみたいな声が所々入ってますが、最初粟飯原に「なんか声でやってみて」と言われた時は意味がわかりませんでした。
ただ一生懸命この曲を冷やかしてやろうと思いました。
すると品川や杉野、粟飯原からはかなりの好評価。
とても嬉しくなりました。そんなお調子者の僕とそれをよそに美しい世界の捉え方をする粟飯原の歌声のコントラストがとても笑えます。
Track 10「iruka」
粟飯原
メタというか、意味に還元させすぎない、物語ってか今、みたいななんかそんな感じ、最近観た『見はらし世代』っていう映画にもそういうシーンがあったんですよね。
いるかレストランというポッドキャストをやっているのでよかったら聴いてください!
杉野
おそらく30分ほどの収録だったのですが、ここが採用されるのかと驚きました(笑)。
僕らはボソボソ喋りすぎなんですよね。
品川
我々がやっているラジオを模した雑談ですが、ケンタッキーを食べています。
その荒さも我々らしいと思います。
白根
日常にありふれた、喪失から記憶を辿る会話になりました。
この時食べているご飯の事は忘れないでしょうね。
Track 11「lost the prims」
粟飯原
せっかくなのでそれぞれの曲のリファレンスを一曲目から記します。
ニーチェ(永劫回帰) / インド(ガンジス川) / 秋風(散歩中の) / おやすみプンプン(漫画) / EUPHORIA(ドラマ) / ティルマンス(写真家) / 小沢健二(春にして君を想う) / 個人的な反省 / ダイアパレス淵野辺Ⅱ(品川がかつて住んでいた) / 見はらし世代(映画) / icecream(プリムズのファーストシングル)
杉野
プリムズは4年ほど前に僕が粟飯原を誘って始まったプロジェクトです。
私も当初は作詞作曲を手掛け、ギターボーカルとして野心を持って立ち上げたツインボーカルのバンドでした。
どんな曲をやろうかと始まった一発目に粟飯原がこのdemoを持ってきて、正直勝てないなと思ったのは今だからできる話かもしれません。
紆余曲折あった私も今では生活の中で自分なりのリズムを獲得しつつあり、音楽活動を邁進しているとはとても言える状況ではないですが、音楽は私にとってのライフワークになっていると言えます。
ここまで語ったことは安いドラマでも、思い出話でもありません。
このアルバムを耳にしてくれた、リスナーでもありプレイヤーである私たちはまたきっとどこかで交わるに違いないでしょう。
とりあえず、このアルバムを聴いてくれてありがとう。
品川
このアルバムのエンディングテーマであり、僕の青春のエンディングテーマです。
ちょうど4年前の記憶、上京したての万能感、もう過去に戻れない悲しさ、未来に対する微かな希望が、揺れ動くシンセの音から見え隠れします。
白根
このエンドロールのような曲で、The Primsはなにか形を変えたなと実感しました。
何かを喪失し何かを得たという事実を突きつけられました。
最後に
まず、このような機会をいただきありがとうございます!
アルバムを聴いてくださった皆様のおかげです。
そしてバンドメンバーにも感謝、品川、杉野がそれぞれやっている、Oct47ps、orcarayというソロ名義の音源もぜひ聴いてみてください!
またアルバム作りたいので、たくさん聴いて、たくさん広めてください!お願いします!!
