【セ・ラ・ノ#10】cambelle『Magic Moments』セルフライナーノーツ

コラム・特集
2025.12.25
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アーティストによるセルフライナーノーツで作品の魅力を深堀りする連載企画「セ・ラ・ノ」。

第10回となる今回は、cambelleが登場。

11月に発表された、様々な音楽要素を昇華し、渋谷系的アプローチを図った『Magic Moments』について、セ・ラ・ノ。



『Magic Moments』各サブスク

Track 1「Magic Moments」

市原諒(Prod./Programming) (以下 市原)
間奏のEMaj7→DMaj7の動きが生む冷ややかさが、この曲全体を象徴しているように思えます。
The Singers Unlimitedのような、古きアメリカのコーラスグループのようなコーラスワークから始まるこの曲。
フォークトロニカ的という評もいただきましたが、たしかに有機さと無機さのバランスがアイスランドのmumなどと近いのかもしれません。
冷ややかだけれども、熱情のこもった一曲。

 

Track 2「Gloom / 親密さについて」

川上遥(Key./Vo./Tp.) (以下 川上)
ブラジリアンポップス・MPBのニュアンスを込めたエレピリフと、イタリア映画のサントラから採用した、少し変わった重心のドラムビートが、独自のレトロソウル感を演出していると思います。
リズミカルな前半部から一転、後半に訪れるサビでわーっと景色が開ける感じが気持ち良いです。
「朝と夜とが交差する〜」という詞で始まるサビですが、その裏ではアナログシンセサイザーのMoogと、エレキギターがうねるように交差するという仕掛けも面白いかと思います。
聴きごたえはしっかりあるものの、3分間ポップスという軽さがある、絶妙なバランスで成り立っている曲だと思います。

 

Track 3「A White Heron / 白い鷺」

熊谷慶知(Vo./Gt./Pf./Vn.) (以下 熊谷)
僕自身おそらく一番自然に出てくる作風である、Todd Rundgren的なバロック感が最も反映されている曲ですが、川上によるアレンジの、Moogのストレンジな響きによってサウンドが現代的に感じられるようになっている気がします。
アウトロのリフレインの、イタリア映画のサントラみたいなE.Gtと、宅録のヴァイオリンが思いの外馴染んでいて、あのアウトロの展開を聴くための曲と言っても過言ではないのかもとさえ今は思います。
この曲を作っていた頃に歩いていた、冬の街の風景がちゃんと閉じ込められているのも気に入っています。

 

Track 4「Giddy Parades / 街場」

市原
1960年代のアメリカにThe Left Bankeというバロック・ポップのバンドがいるのですが、まさしく彼らをネオな感覚でやろうとしたのがこの曲です。
チェンバロをいかにアンサンブル内で活かせられるか。
志向していた音楽性が古いものだっただけに、技巧面ではかなりモダンさを意識しています。
間奏での演出に対して、皆さん色々な名前を挙げてくれるのですが、正解は謎に包まれたままです。

 

Track 5「Interlude」

熊谷
ブライアン・ウィルソンの訃報を聞いた時、あからさまに世界が一瞬ぐらついたような感覚に陥りました。
アルバム制作も佳境で、ミキシング作業をしていた頃。翳があるブライアンのメロディとハーモニーがいくつも脳裏に浮かんでは消えていきました。
カッコよく言うなら、ブライアン・ウィルソンに捧ぐ、みたいな曲です。
サックスの中澤さんのアドリブが冴え渡っていて、不思議なシリアスさと「冬の山小屋の中」のような暖かさが同居するムードが、ドリームポップのそれともまた違っていて結構気に入っています。

 

Track 6「Dream in Bossa / しずかなふたり」

川上
このアルバムには一定のムードがありつつ、Interludeを挟んで前半の世界、そして後半の世界があるように思います。
ポーン、という柔らかなビブラフォンの音が、後半世界の幕開けを告げます。
深いリバーブに包まれたボサノヴァは、まさしく夢のような心地になります。
徐々に幽玄なムードへ移り変わるアルバムの、ターニングポイントになっていると思います。

 

Track 7「Our Suburban Friends / 火粉」

市原
ベルギーを拠点に活動する、農家を営みながら歌を紡ぐ’’ファーマー・ソングライター’’ことCatbugに想いを馳せながら作った曲です。
ずっとアシッド・フォークは作りたかったのですが、このようなドラッギーな仕上がりになるとは予想していませんでした。
12弦アコギが呻く幽霊を召喚したなと思います。
通な音楽ファンの友人から評価が高い曲な気がします。

 

Track 8「Christopher / クリストフ」

熊谷
アルバム全体を通して見たときに必要なピースとして、アンセム的な歌モノを作ってほしいと市原に言われて作ったネオアコ的な曲です。
元々構成や歌メロが全く違っていたのですが、共同プロデューサーの川島健太朗さんの大規模なテコ入れによってこの形になりました。
川島さんのアウトロのギターソロは、完璧だと思います。

 

Track 9「Sleep Warm / 微睡の午后」

市原
着想元はイタリアの映画音楽からですが、サルサに端を発する、60年代ポップス〜ロックに存在するスローなビートを巧く昇華できたなと思います。
冷ややかな夏の夕方に突然降る夕立ちのような静けさが魅力的だと思います。
Sleep Warmはフランク・シナトラの歌の題名で知られる言葉ですが、この言葉の持つ絶妙な親密さが非常にお気に入りです。

 

Track 10「Akegata / 明け方のブルース」

川上
ニューエイジ歌謡を意識したアレンジは、聴こえてくるほとんどがアナログシンセサイザーDX7の音です。
実機で多重録音したことにより重厚感があります。
制作時には、山口美央子の『夕顔 -あはれ-』や尾崎豊の『米軍キャンプ』などを参考にしていました。
静かな暗闇から徐々に日が昇り、新たな朝へ向かってゆく様を、丁寧に描けたように思います。
美しい詞と伸びやかな歌声、それを包み込むDX7の音色、ぜひご堪能ください。
皆さんの日々が循環するように、このアルバムは循環しています。
Akegataからアルバム冒頭へと戻るのも面白いと思います。

 

最後に
ここまでお読み頂きありがとうございます。サカサノカサさんのデザインによるCDがとても良いものになったので手に取っていただけましたら幸いです。
また、こちらのGoogleフォームでアルバムへのコメントを公募しております。
どなたでも、ぜひ感想をお寄せください。



【セ・ラ・ノ#10】cambelle『Magic Moments』セルフライナーノーツ


cambelle
熊本出身の熊谷慶知(Vo,Gt,Pf,Vn)、東京出身の市原諒(Prod,Programming)、石川出身の川上遥(Key,Vo,Tp)が出会い、2024年に結成。
60年代ポップスや70年代ソウルといった古典への愛着を出発点に、AORやボサノヴァ、ニューエイジなど、古今東西の膨大なリファレンスを自在に取り込みながら、現代のポップシーンとも共鳴する新世代インディーポップバンド。
その音楽は、日常のあわいに溶け込む「世界のどこにもないようだけど、でも身近にあったはずの音楽」として、静かに街に響いている。
作品リリース前から積極的にライブ活動を行い、インディーシーンにおいて日に日に存在感が高まっている。

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