【このリリースがすごい!】気がする『a ritual without witness』| シューゲイズとドリームポップの境界を曖昧に溶かした音像の集積
いま注目すべき最新リリースをレビューする特集企画『このリリースがすごい!』。今回は、“気がする”のEP『a ritual without witness』をご紹介。
2026年1月、気がするが待望のEP『a ritual without witness』をリリースした。4曲入りのEP作品で、どの楽曲も同一のジャンル性を持ち合わせた美しい作品になっている。あえてそのジャンル性を形容するならば、シューゲイズとドリームポップの境界を曖昧に溶かしたような音像の集積、といったところだろうか。囁くように優しく響く透明感のあるボーカルと、儚げながらも鋭さのあるアンサンブルが響く快作だ。ポスト・ロックとしての含みもあり、色んな点から堪能できる面白い作品である。
EPのリード曲となる「巨鯨」だけでも、そのインパクトを十全に感じられる。この楽曲は音の耳触りがまず良い。リバーブとディレイが織りなす霧のような音世界とでも言えばいいだろうか。粗さと繊細さを両立したディレクションなのである。さらには歌の構成も見事だ。冒頭は分厚いサウンドでパンチ力をもって始まったかと思えば、30秒を過ぎたあたりでふいにしっとりとしたムードに切り替わる。さらに驚きなのは、2分50秒を過ぎたあたりの流れ。そこで「巨鯨」の第一章が終わったくらいには歌の流れががらりと変わるのだ。数秒の無音を経た後、そこから五月雨のようにエッジの効いたサウンドが空間を埋め尽くしていく流れは圧巻だ。洪水のように展開するサウンドの中、浮遊するようなボーカルの差し込み方も絶妙で、どこまでも歌の世界を幻想的に響かせている。
2曲目の「fast enough to disappear」は2分30秒ほどの短い楽曲だ。なるべくシンプルになったリズムの中で、疾走感のあるリズムメイクで駆け抜ける。「巨鯨」は空間に対する音像の破壊力や後半にかけてのサウンドの余韻も含めて、どこまでも”残る”歌だったが、「fast enough to disappear」は歌のアウトロが唐突にぶちぎられる展開も含め、良い意味で余計なものを”残さない”気持ちよさのある楽曲になっている。
3曲目の「room at the end of faith」はこれまでの楽曲に比べると、一番リズムにトリッキーさが宿った楽曲であろう。ドラムのビートメイクがより自由になることで、節ごとに良いメリハリがついている印象を受ける。さらに音そのものの強弱の付け方も独特で、音を波形でみたらきっとこの楽曲は「波形がダンスしている」ような自由さでもって展開しているように感じる。この歌も2分30秒ほどの楽曲だが、歌詞は一般的なJ-POPのひとかたまり程度しかなく、でもその中で景色も感情も過不足なく描いて見せる点も注目ポイントだ。
ラストを飾る「oxide」は、3分ちょっとの楽曲。全体でみると、一番ディープな楽曲かもしれない。なんというか、サウンドの中にある種のドロドロさがある印象を受けるのだ。故に、良い意味で音の中に”濁り”を感じさせてくれる。まるでカセットテープが劣化していくことで生まれた歪みを美しさに昇華するかのような。どことなく全編に漂うローファイ感は、最終的にこのEPならではの余韻を生み出すことになる。
サウンドを軸にしながらも、色んな方向から味わうことができるのが、気がするの『a ritual without witness』の特徴だ。故にポスト・ロック的な観点でみても、このEPは意欲作だと感じる。メインストリームにいるバンドサウンドに飽きたリスナーがいるのだとしたら、ぜひこの作品を強くおすすめしたい作品だ。

気がする『a ritual without witness』各サブスク