【セ・ラ・ノ#12】Modern Jazz War『Holes in Modernity』セルフライナーノーツ
アーティストによるセルフライナーノーツで作品の魅力を深堀りする連載企画「セ・ラ・ノ」。
第12回となる今回は、Modern Jazz Warが登場。
昨年9月に2作同時発表されたうちの、1st EPとなる『Holes in Modernity』について、セ・ラ・ノ。
Track 1「Here」 & Track7「There」
Michi(Vo./Gt.) (以下 Michi)
HereとThereは単体では成立しないのでまとめてここに書こうと思う。この2曲があることで、このEPは全体として無限ループできる構造になっている。
制作時、最も参考にしていたのはSonic Youthの『Bad Moon Rising』 混沌としてダークでありながら、楽曲同士がノイズによってシームレスにつながっていくこのアルバムは、アンビエント作品のような側面もあり、聴き終えたときに映画を一本観たような感覚が残る所が大好き。
MJWを始める前から、「次のバンドの最初の作品てはこの手法を使う!」って決めていた。
他にも、Merzbow、Brian Eno、Tim Heckerをレファレンスとして挙げていたかな。
自分たちはあくまでポップミュージックを作っているが、実験的な音楽の要素をどう落とし込むかは、ずっと考え続けてきた。
結果として、いわゆる“歌”やポップス的展開よりも、ノイズ的な要素が時間的に多くを占める構成にしようと思った。
そして、この2曲が軸となって全体がシームレスにつながっているのは、クリックなしの一発録りという録音方法だからこそ実現できたことだと思う。
Track 2「Lost in Static」
Michi
この曲は、ライブで常に一曲目に演奏している曲。「これから始まるもの」のためのオープニングとしての曲が作りたかった。
2010年代前半、NYCや渋谷で自分が目にしていた光景が、今の社会基盤の“幕開け”のように感じていて。
あの頃、街に宗教や政治に対するネガティブな主張を書いたプラカードを掲げる人達がいて、とくに「聖書を信じないと地獄に落ちる!」と叫ぶ、正体不明の宣教師のような存在が強く印象に残っている。
そうした光景を曲で描きたくて、ある種のプロパガンダ放送や、アザーン(礼拝の呼びかけ)や読経のようなものをイメージし、反復するオケの上に、最小限のメロディと詩の朗読を乗せる構成を考えた。
Patti Smithの「Spell」から着想を得つつ、SwansやNEU!の影響も強く受けている。
ラストは、Rioと自分で即興的にノイズを爆発させ、そのまま次の曲へシームレスに繋がって行く。
この演出はもともとライブでやっていたものだし、そもそもこのEP自体、ライブでやっていることをそのまま形にしただけなのだが。
Rio(Gt.) (以下 Rio)
ドラム、ベース、ギターが同じフレーズをひたすら繰り返す曲。反復ありきの構成だから、ギターは機械的にならないように、細かいニュアンスをどれだけ残せるかを意識した。
半音でぶつかるフレーズも相まって緊張感が出ていると思う。
後半は即興性を強めて、美術でいう”オートマティスム”のような感覚で弾いている。
Ryoga(Ba.) (以下 Ryoga)
フレーズは変わらないが演奏していて一番楽器を弾いているなと感じる曲。ひりついたスタートから緊張感を保ったままじわじわと熱量が上がっていく。
上限のないアクセルを1cmずつ踏み込んで、衝突する前まで見てみようという感じがある。
モンタージュ的にさまざまな象徴的シーンが流れる歌詞だけど、僕にはなぜか夜の静謐な街を歩くイメージが浮かんでいて、それは実のところライブでステージに上がった瞬間の空気に由来するんじゃないかと思う。
メッセージ性がかなり強い一方で説教臭さもありがたみも感じないのは、Michiの語り口の妙と反復による催眠効果。
音はでかいが収録曲の中では最もアコースティックなプレイをしている。
Takuya(Dr.) (以下 Takuya)
ちっちゃく平面的なものだけで世界を知った気になっている矮小さへのアイロニカルな批判。世界は本当は収まりきらないくらい不条理で、もっとドロっとしている。
そんなマクロ↔ミクロの視点をもった曲だと解釈している。
なので、楽曲の展開もそういう陰陽的(?)な二項対立を意識した。
ワンコード・ワンフレーズという一見ミニマルな反復に、暴力的な大きなうねりを与えたいと思ったので、とてつもない強弱のドラミングにした。
スイッチのON/OFFとか二進法とか、そういう類のコントラスト。
Track 3「C2 (Scared to Name It Me)」
Michi
バンドでのセッションから生まれた初めての楽曲。原型はもっとスローで、展開を付けずメインのベースリフの上を淡々と進んでいくイメージだった。
少くとも俺の中ではね。
だけど、Ryogaが持ってきたアレンジがとても良くて、展開が変化しながら疾走して行く現在の形を採用することになった。
セッションの段階から “drifting and wasting / I wish I could tell you the truth” というフレーズがあり、歌詞にする際もそのまま使った。
どこへも行けないまま、歳だけを重ねていく自分自身の亡霊を、他人事として受け入れながら日々をやり過ごすような、そんな感覚を書いた曲。
言えなかった思い=過去の亡霊というイメージから、「死人に口なし」という言い回しを少し洒落っ気を持って使っている。
だからシングルカット版のアートワークには梔子の花を使用した。
このデザインはYUCKのMax Bloomに相談して制作してもらったもの。
彼はバンドや楽曲との親和性から「手触り」をとても大切にしてくれた。
実際に紙でコラージュを作り、それをスキャンしてアートワークに落とし込んでいる。
その制作方法は、MJWの録音手法とも共鳴していて、個人的にとても気に入っている。
エンディングの “youth wonʼt stay as the lights grow dimmer. Am I wrong or are we just burning out?” というフレーズは、まるで自分自身に言い聞かせているようで特に好きな一節。
曲順は逆だが、この言葉は「Bleeding for Nothing」への、自分なりの答えでもあり、抗いとして書いたものだと思う。
Rio
EPの中でも特にグルーヴが印象に残る曲。リフ自体はかなりシンプルだけど、Belle Epochをショートディレイで一回だけ返るように設定して音に影のレイヤーを足してる(個人的にこれは地下鉄の反響みたいなイメージをしてる。実際は知らないけど)。
リズムの隙間の埋め方とか、ダークな空気感をちょっとした音作りの違いで表現した。
Ryoga
中盤以降のアイデアは皆に聞かせるのにすごく緊張した。まあなんか手を動かしていたらできちゃったんだよね、でもどうだろうね、という具合で相当及び腰で提案した記憶がある。
一方で、当時の既存曲はすべて(インプロのHIMを除く)ソリッドな展開だということがわかっていたから、外したことをしたいという意図があった。
曲中の動きは大きいが、より大きなタームで見ればこれも反復。
この曲でEPがしまった感じがある。
ダンスじゃなくて大味な勢いが欲しかったから、元のテンポに戻る直前のコード感はSonic YouthのDirty Bootsっぽいロール感やグランジのリピート性を意識した。
トランジションは強引だがスムースで、元のテンポに戻るときは着地というより一度ほおったグルーブをキャッチするイメージ。
たまにぐちゃっとなるけど僕は割にそれが好きで、今思えば録音ではかえって小綺麗になりすぎた感もある。
ベースはとにかく歌みたいなフレーズが多く、以前ボーカルをやっていた影響が強く出ている。
Takuya
何者かになりたいなりけど、なれないまま社会を揺蕩うように生きる自己の虚無さを軽妙にうたう曲だと感じた。なので、ある種の気まぐれさを反映したかったというか、クリスピーで軽快なフレージングを意識したと思う。
後半で疾走するパートは急にFoo Fightersみたいなパワーヒットになるが、それも気まぐれということで。
Track 4「Holes in Modernity」
Michi
もともとは、ライブ中にRioと自分が交互にチューニングをするための“つなぎ”として演奏していた曲だった。そこに即興の詩の朗読(内容は毎回違っていたと思う)を乗せていた。
レコーディング前、最後の調整リハーサルの段階で、Rioが弾いていた即興のギターがサックスのように聞こえて面白くて、「これを主役にしよう!」という話になり、急遽ボーカルを排したインストゥルメンタル曲へと変わった。
スイングするようなフィードバックの上に、下手くそなサックスのようなメロディが漂うこの曲は、混沌としたEP全体の世界観をよく象徴していると思う。
タイトルナンバーにふさわしい一曲だし、俺は一番気に入っている曲だな。Rio
インプロヴィゼーション的なカオスを感じられる曲。ギターをギターとして扱うのを一回やめて、サックスみたいに吹いたり歌ったりする感覚を意識した。
いかにギターっぽいフレーズを避けるかを考えながら、スケールも無視して思うままに弾いてる。
もちろん演奏するたびに気分によって変わる。
Takuyaの呪術的なドラムフレーズが効いてる。
Ryoga
ジャングルでトランスするような曲。アヤワスカ効いてそう。
終盤に邪神が出てきそう。
Rioのギターは怪鳥が叫ぶ声のようで甚だ不気味だし、左からは何かがひしゃげる悲鳴がずっと聞こえる。
Takuyaのビートは、物語に出てくる仮面を被ったシャーマンを煽動するようで大変良い。
真ん中で鳴ってるベースノイズはモメンタリースイッチのディレイと歪み、キルスイッチなんかを多用しながら打楽器みたいに演奏して録った。
Holes in Modernity、穴とは言うが見通しは利いておらず、少なくともこの曲においてはルツボを覗き込んだ先でぐつぐつと煮えているものというイメージがある。
そう考えると現代の穴というのは皆が抱える呪いにも似ていて、人を呪わばというのもある種腑に落ちるところがある。
Takuya
セッションで生まれた曲で、構想とか意味は後付け。まさにEPにおける穴みたいな曲。
コンセプト発進というよりセッションから自由に作ることができたので、ここだけは他とは全然違うアプローチを試したくてロック文脈ではないリズムを入れ込んだ。
アート・ブレイキーの『チュニジアの夜』という曲が昔好きで良く聴いていて、爆音ジャズドラマーで有名だったし、Modern Jazz Warというバンド名ともなんか合うんじゃないかと思って、それを半分速にしたコンガのようなラテンのリズムにした。
バンド内ではアフリカ屋さんと呼ばれているが、本当はラテンアメリカなのにな、と思いながら未だに訂正できていない。
Track 5「Untitled」
Michi
Rioと自分によるハーモニクスの掛け合いは、ライブの中で自然に生まれたもの。 その流れをそのままレコーディングでも再現したという感じ。
Track 6「Bleeding for Nothing」
Michi
この曲は、MJWを始めるにあたって作った最初の一曲。むしろ、この曲があったからこそ、MJWをやろうと思った。
シンプルなベースリフに、ギターのハーモニクスやフィードバックをありったけ叩き込み、ぐちゃぐちゃにしたままの爆発力を、そのままポップミュージックとして成立させたかった。
Merzbow、Boris、そしてSonic Youthへの憧れがかなりストレートに表れていると思う。
歌詞で描かれているのは、ネット空間にあふれる誹謗中傷や、漠然とした社会不安、行き過ぎたポリコレやリベラル思想から生まれる同調圧力について。
そこから派生する、何に対して苦しんでいるのかすら分からないまま、確実に疲弊していくような不安や苦しみ。
その感覚は、庄司薫の『赤ずきんちゃん気をつけて』で描かれているものに近いと思いながら書いていた。
歌詞の冒頭には、村上春樹『風の歌を聴け』への言及も含まれているしね。
10代後半から20 代前半にかけて、自分が強く影響を受けてきたものを、とにかく全部詰め込んだ一曲。
Rio
ハーモニクスと半音移動のメインリフが印象的な曲。F#F#GGAAというSonic Youth由来のチューニング(このEP全曲で使っている)を活かして、同じ音階をあえて違う弦で弾くことで、コーラスっぽい効果が出るのが面白い。
このEP全曲に言えることだけど、全く同じことをもう弾くのはもう無理だね。
Ryoga
バンドが始まる以前、久しぶりに連絡を取ったMichiが良い曲ができたと言うから宅録を手伝った、そのときからある曲。文字通り初めてベースで弾いたのがこのフレーズで、当時は弾いてみてと言われたから弾いてみたら弾けた、くらいのものだった。
意外と奥深かったけど。
バンド全体でうねりをつくっていくイメージがあって、反復フレーズという点ではLISと同じだけど、あちらが静的なものだとすればこちらは動。
パンチライン故にWe are bleeding for nothingというコーラスはどこか宣言のように聞こえるし、ともすれば煽るようにもとれる。
音もでかいし、ミッドテンポは行進しやすい。
だけど実のところ僕にとっては事実を淡々と言っているだけのように聞こえている。
空虚にさえ感じられて、個人的にはこの歌詞とサウンドの乖離が好きなところ。
だいたいライブの最後あたりでやるから、その頃にはみんなすっかり疲れ切って興奮している。
でも存外そういうのはこの曲の本質にマッチしていて、やるせないというわけでもないけどやけになっているわけでもない、そんな微妙な平坦さのまま熱狂するのが楽しくなる秘訣。
みんなにも踊ってほしい。
Takuya
バンド初期からずっとある楽曲で、一番ハードヒッティングなドラミングをしている。これは意図的というより、自分がそもそもパンクとかハードコアで育った人間なので結果的にそうなった。
表題のBleeding for Nothing=意味のない出血(痛み)には自暴自棄的な危うさ、終末観のある精神性が反映されていると思っている。
自分のプレイは、ある意味空気を読めていないが、それが楽曲の精神に呼応するアンバランスな危うさを生んでいて欲しいと思う。

Modern Jazz War