【このリリースがすごい!】Wiz_nicc「憂いを食べる」| 独創的な言葉選びの「揺れ」と「幅」がもたらす懐の深い音楽体験

コラム・特集
2026.2.27
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音楽ファンは要チェック、注目のリリースをレビューする特集企画『このリリースがすごい!』。今回は、Wiz_nicc「憂いを食べる」をご紹介。


Wiz_niccが生み出す音楽は感情をテーマにしたものが多く、本来であれば「絵ではない要素」を紡いでいるはずなのに、頭の中に情景が立ち上がってくることが多い。新曲「憂いを食べる」もまた、そんな楽曲のひとつだと思う。

そもそも、タイトルの「憂いを食べる」という着眼点が独特だ。

普通、憂いは「抱える」ものだし、「晴らす」ものだ。少なくとも「食べる」ものではない。でも、歌詞を読んでみると、確かに自分の感情を「食べる」という描写を掘り下げることで、そこから浮かび上がる機微を丁寧に表現している。

この眼差しに、Wiz_niccというアーティストの面白さを感じるわけだ。

ところで、「憂いを食べる」で描いているテーマは、これまでのWiz_niccの作品で描かれたものと通じているように感じる。2024年にリリースされたアルバム『Goodbye Eyes』を振り返ってみても、ほとんどの楽曲で等身大の鬱屈とした感情を軸にして言葉を紡いでいるし、そこに対する着地のさせ方も含め、「憂いを食べる」は過去の作品のテーマの延長線上にあるように感じた。

「憂いを食べる」の楽曲をもう少し掘り下げていきたい。

今作もWiz_niccの魅力のひとつである「中性的で透明感のある声」が冴え渡り、アコースティックなサウンドで彩られたシンプルな音の世界と柔らかく調和する。また、1番と2番で音を重ねる数を明確に変えることで、変化を感じやすい構成になっているのも印象的だ。2番ではエレキギターの音が合流したり、打ち込みの音を加えることで、より歌の中の物語がドライブする感覚を覚える。そのため、歌全体で静謐な雰囲気を持ちながらも、波のような波紋を歌の中で味わうことができるし、歌の中で語られる「僕」の感情がよりリアルに響くことになる。最後のフレーズで再びアコースティックのサウンドに戻る構成も美しくて良い。

憂いを「食べる」と表現した今作。この「食べる」の言葉の裏側にあるのは、ある種の救いであり、ネガティブな感情と折り合いをつけるうえでのひとつの道筋だったように感じる。抱え込んだり押し流したりするのではなく、自分の内側に取り込んで咀嚼しなおすようなイメージを受けたからだ。

とはいえ、結局のところ、この歌を聴いてどういう印象を覚えるのかはリスナーによって異なるだろうし、そのどれもが正解なのだろうと思う。Wiz_niccの楽曲が面白いと感じるのは、言葉を大切にした音楽だからこそ感じることができる「揺れ」と「幅」の広さだ。ひとつの答えに行き着くわけではない、でも確かに自分ごととして言葉が届くような懐の広さを内包しているからこそ感じることができる聴き心地だ。そのため、今回の【このリリースがすごい!】では言葉を軸にしてWiz_niccの「憂いを食べる」を紹介した、そんな次第。

 


Wiz_nicc「憂いを食べる」

Wiz_nicc「憂いを食べる」各サブスク

 
 

この記事の執筆者
ロッキン・ライフの中の人
ロッキン・ライフという音楽ブログとイベントを運営している中の人です。