【このリリースがすごい!】Timmy『fractal』| 普通の日々を普通に歌って、浮かび上がる明日のこと

コラム・特集
2026.3.3
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音楽ファンは要チェック、注目のリリースをレビューする特集企画『このリリースがすごい!』。今回は、Timmyのアルバム『fractal』をご紹介。


電車の窓越しに温度を分け与える太陽光、言ってしまったことと言えなかったことに責め立てられるベッドの中。日々の些細な景色に近い音と言葉が鳴っていて、だからすぐに浸透するし、いつまでも並走し続けてくれる。長く愛されることを予感させるとともに、時間が経つごとに輝きが増すのを確信させるアルバムだ。

2022年の夏に千葉で結成されたTimmyは、ソングライターの堀川愛里(Gt,Vo)と、超☆社会的サンダルでも活躍するタケマスター(Gt)を中心にサポートメンバーを加えた4人編成のバンド。Laget’s Jam Stackや國らを擁する2st Recordsからリリースされた本作は、ライブハウスの照明を受けて煌めくギターロックらしい音像も相まって、オルタナリバイバルやエモの文脈に彼らを配置し、その存在感を一層シーンの中で際立たせるだろう。一方でこの作品は、居場所を見つけるための戦略ではなく、内側を見つめ続ける視線によって完成したからこそ、リスナーの胸を打つはずだ。

堀川はロックバンドのフロントパーソンという役割を背負いながらも、あくまで自らから湧き出るものに素直な、歌と詞の人なのだと思う。アコースティックギター(+ソファを叩くようなパーカッション)の弾き語りによる1分半の小曲「墓まで」には、カネコアヤノからの影響も色濃い。トレブリーなコードストロークで道を開き駆け抜ける「普通」においても、「見てた?見てた?猫が歩いているのを」とその目線は日常をはみ出さない。トラックリストにはぶっきらぼうに短いタイトルが並ぶが、それは日々に仰々しい表題を付けて飾り立てることを拒否するようなしなやかさでもあるのだろう。

『fractal』にある想像力の射程は遠い幻想まで届かず、品川から江ノ島までの一時間をゴトゴトと揺れるビート上で5分間に圧縮する程度にとどまる(「江ノ島」)。もう思い出せなくなった記憶にも、想像すらできない将来にも、堀川は無理にピントを合わせようとしない。だけど、「最近さ…」と語る言葉に昨日と今日と明日が折り重なっているように、彼女が歌う現在は確かに、過去にも未来にも繋がっている。いまがすべてと同じ形をしていて、『fractal』という冠が示す自己相似性を浮かび上がらせる。

そんな素朴なTimmyというバンドの存在自体を「味気ない音楽も文学も/いつか救いになるはずなんだ」というフレーズで肯定しようと試みる「渦巻く」。ディレイとリバーブによりタケマスターのアルペジオが飽和していく「Interlude」が、その裏にある入り組んだ思いを描写する。このアルバム中盤の流れは、タケマスターのギターが堀川の感情に輪郭を与えるバンドの構造を象徴している。

最終曲「春風」で、誰かが「明日のことは明日の俺が解決するよ」と言う。それは投げやりでも軽口でもなくて、明日も同じ形で現れる現在を生きるための誠実な宣言だと、この作品とともに流れる時間を過ごした我々は知っている。

 


Timmy『fractal』

Timmy『fractal』各サブスク

Timmy『fractal』歌詞

 
 

この記事の執筆者
サイトウマサヒロ
1995年生まれ、フリーのライター。インタビュー、ライブレポート、コラムなど書きます。