【このリリースがすごい!】平田楓『LAST GAME』| モードを選んでね。今日は何と戦う?
音楽ファンは要チェック、注目のリリースをレビューする特集企画『このリリースがすごい!』。今回は、平田楓のEP『LAST GAME』をご紹介。
たとえば着る服を選ぶ時、あるいはSNSのアイコンを変える時、私たちは自分がどうなりたいかではなく、自分が何と戦いたいかを表明しているのかもしれない。平田楓の最新EP『LAST GAME』を聴いて浮かび上がったのはそんな気付きだった。
平田楓は、ドラマーとしてのバンド活動を経て2022年8月に初の楽曲「by my side suicide」をリリース。シューゲイザーの甘美な憂鬱をベッドルームの中に閉じ込め、徐々に電子音の比重を高めながらその音楽性を発展させてきた。2025年にはAVYSSによるネオ解釈邦楽カバーコンピ『i.e』にてCwondoとともにtricot「potage」をカバーしたことも記憶に新しい。
今年に入ってからは、作編曲やピアノ演奏を担う宇都宮が「平田楓というひとつのプロジェクトに加入する」という形でジョイン。新体制の幕開けとなる本作はこれまでのディスコグラフィーとは一線を画し、“引きこもり”でありつつも外部の存在に自覚的な——ゲーム画面の向こう側やインターネット回線の繋がる先という限られた範囲の、だからこそ妙に現実的な——楽曲が揃った。
一曲目のインスト「SELECT MODE!」で、私たちはスナック菓子に齧り付きながら、勝負相手の選択を迫られる。「B.N.R.」ではインスタントに報酬系が満たされ続ける社会が、「毒」では他者不信および自己嫌悪が、「Final」では愛の不確かさが立ちはだかる。カッティングギターから幕を開けてダークなサイケへと至るこの3曲では、サウンドから徐々に有機性が失われていくとともに、“敵”はより曖昧で巨大な存在へと変わっていく(難易度が上がっていく、と言い換えてもいいかもしれない)。そして祝祭性を纏う「エンドロール」へと至りながら、その先でも戦いが続くことが示唆され、作品は閉じられる。
対峙する何かがボヤけたままそれでもサバイブしなくてはならない現代の感覚を、余白を保ちながらも、ムードではなくディテールで描いているのが本作の強靭さだ。平田楓のボーカルはブロークンでどこか離れた場所に響いているが、トラックのプロダクションは明瞭で、そのギャップが現実への違和を際立たせる。マスタリングエンジニアを務めたのはkurayamisaka、せだい、yubioriらの作品を手がけるオルタナシーンのキーパーソン、島田智朗。平田楓のバンド時代からタッグを組んでいる彼が、ほぼ全編エレクトロな本作にも携わっているのは興味深い。歌詞のみならず、コンセプトや構成、サウンドの質感のバリエーションなど、絡み合う様々な要素によって、言葉に変換しきれない態度と目線が示されている一作だ。
