【このリリースがすごい!】よすが『yoridokoro』| 平熱と反復に耳を澄ませて

コラム・特集
2026.3.27
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音楽ファンは要チェック、注目のリリースをレビューする特集企画『このリリースがすごい!』。今回は、よすがのEP『yoridokoro』を紹介。


よすがは2024年に結成された4人組バンド。昨年10月にリリースした初音源の1st EP『haru』が話題を呼び、翌月には東京・渋谷TOKIO TOKYOによる対バンイベント『LOOSE PLAY』にオープニングアクトとして出演。Hammer Head Shark、iVy、タデクイと共演を果たした。そうして東京のインディーロックシーンで着実に存在感を高めている彼らが、前作から半年足らずで完成させたのが本作『yoridokoro』だ。

この作品を聴きながら、映画『PERFECT DAYS』を観た時のことを思い出していた。役所広司が演じる中年のトイレ清掃員・平山は、毎日変わらぬ順序で小物をポケットに押し込み、居酒屋で決まったメニューを頼み、文庫本の文字をなぞりながら眠りに落ちる。静かで満たされた日々を過ごす彼は、実のところ喪失と忘却を恐れる臆病な人間なのではないかと思った。「丁寧な暮らし」のルーティンをただ繰り返すのは、むしろ日ごとの差分を際立たせることで、何かを失う瞬間を見逃さないように、何かを忘れたことを忘れないようにするためだ。

よすがの音楽もまた、ゆるやかに反復する。一曲の中でのコード進行とビートのバリエーションは決して多くない。しかし、その丹念に保たれた平坦さは退屈を招かず、むしろリスナーの感覚を鋭敏にさせる。歌声が独り言の領域を超える瞬間。言葉が独白とメッセージの境界線を密かにまたぐ瞬間。ファズが起動して、ギターが音を奏でる道具から感情の延長に変わる瞬間。さりげないそのすべてを、私たちは、繰り返しの中でこそ見逃さずに発見する。

平熱の範囲内で上下動する思いを表現することに、よすがは自覚的だ。EPは6分半におよぶスローナンバー「時計」から幕を開け、じっくりとそのフォーミュラを聴き手の身体に馴染ませていく。一見すると挑戦的な構成に感じられるかもしれないが、それこそがよすがの紡ぐ世界を鮮やかに、そして確かなドラマとともに描くための最適な手段なのだろう。

実質的な表題曲「拠り所」では、ローファイな弾き語りにやがて輪郭が与えられ、それからバンドの推進力を得るとともに、孤独な歌がいくつもの声の重なりに開かれていく。シンガロングというよりも合唱と呼びたくなるその慎ましいハーモニーは、誰かの感動を煽るものではない。それでも私たちはそこに抑え込まれた思いの滲みを感じて、思わず胸を打たれてしまうのだ。

 


よすが『yoridokoro』

よすが『yoridokoro』各サブスク

よすが『yoridokoro』歌詞

この記事の執筆者
サイトウマサヒロ
1995年生まれ、フリーのライター。インタビュー、ライブレポート、コラムなど書きます。