【このリリースがすごい!】Naked Identity Created by King『VIRTUAL MISS∀』 | 仮想世界のミサに響くラウドでカオスな福音

コラム・特集
2026.4.1
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音楽ファンは要チェック、注目のリリースをレビューする特集企画『このリリースがすごい!』。今回は、Naked Identity Created by Kingのミニアルバム『VIRTUAL MISS∀』を紹介。


サントリーから発売中、話題の「NOPE」飲んでみた!99種類のフルーツ&スパイスが混ぜ合わされて黒くなった炭酸飲料は、開栓した瞬間に複雑な香りで鼻腔を染め上げ、強烈な甘みが脳味噌をとろけさせる。一口で既に満足感を覚え、改めてラベルを見てみると、「ギルティ炭酸」の文字。そういえばいつからか人は、高カロリーで健康志向とは程遠い飲食物を「背徳的」あるいは「悪魔的」などと表現して、むしろ強く求めるようになった。

なるほど今日においては、理解の限界を超えてエクストリームで、破壊的だとしても甘美なものに躊躇なく手を伸ばすことが「罪」なのだろう。だとすれば、Naked Identity Created by King(N.I.C.K)がリリースした新作音源『VIRTUAL MISS∀』は、罪深さの極地であり、同時にそれを赦す儀式のような作品だ。

バンドのコンポーザーであるYuppe(Syn)ことゆよゆっぺは、2008年にVOCALOID楽曲の動画投稿を開始。以降、BABYMETAL、ももいろクローバーZ、花冷え。らの楽曲を手がけ、別名義のDJ’TEKINA//SOMETHINGでは自主制作の1stアルバムがamazonダンスチャートで首位を獲得するなど、ジャンルを横断しながら活動してきた。ヘヴィなメタルコアからフロアライクなダンスミュージック、あるいはキャッチーなアイドルポップやアニメソングまで。彼のカオスな脳内は、本作において濃厚なまま全7曲に凝縮されている。

モダンメタルコアなリフによる低音弦の震えが、正気を失ったグリッチノイズと同期する「Dr∀in」。リリースカットピアノやスラップベースが心地良い現代的グルーヴを紡ぎながらも、大胆なエディットが意識ごと遮断する「TapH∀ck」。過剰な楽曲が、過剰な音圧で展開され続ける。増殖するドーパミン中毒者たちに歓迎されるであろう本作だが、N.I.C.Kが描くのはインスタントに快楽を得るための手続きではなく、オーバーフローしてバグった先にこそ立ち現れる自己解放の美学だ。多方向に足跡を残しキャリアを経てきたYuppeだからこそ実現した圧倒的情報量が、唯一無二のミクスチャーサウンドとなって、その歩みそのものを肯定する。仮想世界のミサでは、あらゆる欲望に従ったものこそが祝福を受ける。

Yuppeが初音ミクや巡音ルカの歌声を加工して歪ませ強烈なシャウトをさせていたこと、そうして生まれた音楽をスクリーモと言い切っていたことを思えば、テクノロジーを強制加速させることで既成概念を破壊するという彼の革命の方法論は結成以前から変わっていない。一方、前身イージーコアバンド・GRILLED MEAT YOUNGMANSからの改名、Yuppeから40へのボーカリストの交代といった紆余曲折を経て、N.I.C.Kはバンドとしての強度も充実したフェーズに突入している。前作ではラップも披露するなど器用なスキルを持つ40の歌唱表現力はさらに進化。ラストトラック「∀byss」での振り絞るような歌声は、ミームのように拡散することで主体性を失っていきかねないN.I.C.Kの音楽を、個の深淵の中に閉じ込めることに成功している。

 


Naked Identity Created by King『VIRTUAL MISS∀』

Naked Identity Created by King『VIRTUAL MISS∀』各サブスク

Naked Identity Created by King『VIRTUAL MISS∀』歌詞

この記事の執筆者
サイトウマサヒロ
1995年生まれ、フリーのライター。インタビュー、ライブレポート、コラムなど書きます。