【このリリースがすごい!】私は浮かびながら沈む『日記帳』 | 孤独故にオリジナル、自らを問う大作

コラム・特集
2026.4.10
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音楽ファンは要チェック、注目のリリースをレビューする特集企画『このリリースがすごい!』。今回は、私は浮かびながら沈むのアルバム『日記帳』を紹介。


深海に潜るダイバーは、時に上下感覚を失くして、水面へ向かっているつもりがかえって深みへ迷い込んでしまうことがあるという。自らをも見失うほどの深い闇の中で、救いを求めながらも底へと落ちていく。そんなアイロニカルな人間模様を音楽で描いているのが、その名も「私は浮かびながら沈む」だ。ヴィジュアル系ロックバンド・Develop One’s Facultiesのフロントマンとして2023年12月まで活動していたyuyaによって、2024年5月に始動した同プロジェクト。作詞作曲編曲はもちろんのこと、自ら様々な楽器を操る独自のソロスタイルで活動を続けている。

2025年3月にリリースされた1stアルバム『人間とは』と同じく、今作には全20曲(配信版は19曲)を収録。その大作志向は、彼の湧き上がる想像力を裏付けるものと言えるだろう。特筆すべきはリズムワークで、全編にわたってロックの基本となる8ビートはほぼ登場しない(というか、ベーシックなドラムセットが使用されてすらいない)。電子パーカッションやジャンベ、コンガを駆使したトライバルなリズムが人間の手触りを感じさせる作品全体のトーンを規定しつつ、エレクトロなビートが緩急を加えていく。M4「I wish」のドラムンベースなサウンドと、その推進力に導かれるような00年代ミクスチャーロック的ボーカルもかえってフレッシュだ。

打楽器の響きのみならず、M6「manic depression」やM8「a present for a liar」に見られるアイリッシュ音楽的なアンサンブル、M13「logic ver2.0」でのクラシックの引用、M19「ひとみごくう」で響く和楽器の音色が絡み合って、既存のシーンとは一線を画す多国籍感が立ち上る。それは転じて、孤独なアーティストの所在のなさともリンクしている。

前作『人間とは』になぞらえるなら、今作は「自分とは」を問うようなアルバムと言えるだろう。誰にも見せるつもりではなかった日記帳に綴られた言葉のように、苦しみも痛みも生々しい。そして、一人の人間からのみ生み出された音は徹底的に心象風景となって、詞と強く手を取り合う。M3「nightmare」の文字通り悪夢のような旋律は“格好良さ”を巡る思考に飲み込まれるyuyaを取り囲み、M5「大丈夫」は、自らの弱さに打ちひしがれながらやがて再生に至る様が言葉と音の両面で表現されている。

ページをめくりながら、自らの息苦しさや孤独の理由を探し求める。しかし、溢れ出る思考をそのまま具現化したようなM12「人」や理想のパートナーを脳内に閉じ込めるM16「脳内lovesong」など、混乱は深まっていく。『日記帳』は、安易な救済や露悪的なバッドエンドに陥らず、人間のパーソナルな揺れをそのまま、リアルでオリジナルな形に記録したアルバムだ。あるいは、5月2日に発売されるフィジカル版に収録されるラストトラック「3 minutes」に、トゥルーエンドは待っているのかもしれない。

 


私は浮かびながら沈む『日記帳』

私は浮かびながら沈む『日記帳』各サブスク

私は浮かびながら沈む『日記帳』歌詞

 
 

この記事の執筆者
サイトウマサヒロ
1995年生まれ、フリーのライター。インタビュー、ライブレポート、コラムなど書きます。