シンガー/トラックメイカーのSUKISHAに聞く「インディペンデントアーティストとお金、収益」

アーティスト向け
2022.3.10
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インディペンデントアーティストがチャートのトップになり、億を稼ぐ時代となりました。全世界でインディペンデントアーティストは存在感を増し、日本でも例外なくその勢いは拡大しています。

そんなインディペンデントアーティストのためのWebメディア『THE MAGAZINE』が、音楽家に無料法律相談サービスを提供するMusic Lawyer Collective「Law and Theory」代表の水口瑛介弁護士(アーティファクト法律事務所)とともにインディペンデントアーティストをサポートするため、音楽活動に関するトピックや役に立つ情報などをお届けするPodcast番組『THE MAGAZINE talk』を昨年開設。アーティストエンパワーメントプログラムを発信しています。

本稿では、ゲストにシンガー/トラックメイカーのSUKISHAを迎えて『インディペンデントアーティストとお金、収益』にまつわるトークを展開した、#7、#8のエピソードをご紹介。SUKISHAのバックグラウンドから、音楽配信収益が1,000万円を超えていることを示すTuneCore Japanの管理画面のスクリーンショットをSNSでシェアした理由など、お二人のトークをみていきます。

(L to R) SUKISHA, 水口瑛介弁護士

 

TuneCore JapanによるWebメディア・THE MAGAZINEのポッドキャスト番組『THE MAGAZINE talk』。音楽家に無料法律相談サービスを提供するMusic Lawyer Collective「Law and Theory」代表の水口瑛介弁護士(アーティファクト法律事務所)をMCに迎え、インディペンデントアーティストをサポートするため、音楽活動に関するトピックや役に立つ情報などをお届け中

 
 
■ニートから“音楽で食べていく”まで

水口 : SUKISHAさんがそもそも音楽活動を始めたのはいつ頃からなんでしょうか。

SUKISHA : 音楽活動を始めたのは結構遅くて、9年前の2013年ですね。当時27歳の時に活動を開始しました。

水口 : それまではどういった活動をされていたんですか?

SUKISHA : うーん、立ったり座ったり……ご飯食べたりトイレしたり、普通のそういう生活(笑)。

水口 : (笑)。

SUKISHA : 仕事はバイトや派遣社員をしたりしていました。音楽以外何もできない人なので、うだつのあがらない人生を過ごしていましたね。「俺はこのまま朽ち果てていくのだろうか……」と考えたこともありました。

水口 : そのときから音楽はやられていて、本格的に活動としてやりたいと思って始められたんですか。

SUKISHA : そうですね。当時から人に聞かせるわけではないですが、ずっと曲は作っていたんです。人前で披露する気にはなれなくて、録り溜めた曲はあったけどそこからは何もせずに過ごしていましたね。

水口 : 制作はずっとされていたんですね。

SUKISHA : 曲作りは22歳くらいかな。大学4年生の頃から始めていましたね。

水口 : 最初のアーティストキャリアとしては別名義でやられていたんですよね。

SUKISHA : そうですね。最初の3〜4年くらいは本名の”池澤寛行”で、シンガーソングライターとして活動していたんですが全然ヒットしなくて。そんなこともあり、名義や方向性もガラッと変えようと今のSUKISHAになりました。そしてSUKISHAとして「4分半のマジック」という曲を出して、そこからうまく回り始めましたね。

水口 : 「4分半のマジック」がいきなりヒットしたんですか?

SUKISHA : ヒットというか、まるっきりの無名からSNSで見てくれる人が増えたという感じですね。


https://linkco.re/n0Qp2dS1

 
水口 : SUKISHAさんはそのときニートだったという話を聞いたんですけど本当ですか?

SUKISHA : 本当です。SUKISHAを始めたときはすでに仕事をすべて辞めていて「音楽で食っていくぞ」という感じでした。当時は家賃3万5,000円の八王子の家に住んでいたし、ガスが2年止まっていたこともあります。お金がないのは当たり前で友達に飲みに誘われても「俺は水しか飲まないから、奢ってくれるならいいよ」と言ってお酒を奢ってもらって帰ってくるという生活をしていました。

水口 : そういった生活から脱して、音楽で生活できる状態になるまで何年くらいかかったんですか?

SUKISHA : SUKISHAを始めてからは早かったですよ。2年くらいじゃないですか。

水口 : それは夢がありますね。

SUKISHA : 今の生活ともまた違うんですけど、制作の依頼が入ってきたことも大きいです。ある意味、これまでのバイトの形が変わった感じですよね。「こういった曲を作ってください」と依頼を受けて作るものって僕が好きな曲を作っているわけじゃないから仕事だし、バイトじゃないですか。そういった仕事が増えたのが SUKISHAを始めて2年くらい経ってからですね。

水口 : とはいえ2年で音楽だけで食べていけるようになった、というのはすごい話ですよね。

SUKISHA : たしかに早かったですよね。「Feat. ソニーミュージックオーディション」(ソニーのオーディション)が「4分半のマジック」をリリースした後だったんですけど、そのくらいのタイミングの話ですね。当時は無職ってTシャツ着てたり、ニートって書かれた帽子被っていたり、「お金はないですけど音楽作っています」というのをオープンに言っていた時期ですね。

水口 : なるほど。曲作りの話になりますが、歌もトラックメイキングもご自身でされていて楽器を演奏しているのもSUKISHAさんなんですか?

SUKISHA : 打ち込みも多いんですが、自分の音楽に関わっているのは基本自分だけですね。

水口 : 最初からそういうスタイルだったのでしょうか。何種類も楽器を使っているようですが。

SUKISHA : 最初からです。うちに置いてある楽器も現在進行形で僕のじゃないんですよ。ギターやベースは同級生が使っていないから借りてたり、クラシックギターは母親が昔使っていたものだったり。鍵盤は元々は大学の後輩に借りていましたが、新しいものを「Feat. ソニーミュージックオーディション」の資金で買いましたね。

水口 : 演奏スキルが必要になりますが、それはどうやって身に付けたんですか?

SUKISHA : 子供の頃からクラシックピアノをやっていたんです。高校生からは軽音部に入ってベース、ギター、ドラムをまるっと経験した感じですね。大学生の時に少しだけベースを習ったことはあったんですけど、それ以外は基本独学が多いです。最近ピアノをたまに習っていますが。

水口 : 制作はどういった流れで行っているんでしょうか。

SUKISHA : 曲にもよりますが、ドラムの打ち込みから始めたり、コード進行だけを決めたり。もしくはサビのメロディが先に出てきたらそこから作るとか。ただトラック作り全体の話だと基本はドラムからですね。

水口 : 過去に通ってきた音楽ジャンルはどんなものがありますか。

SUKISHA : ロックでしたね。高校生、大学生のときは「ロックンロールじゃないと音楽じゃねぇ」と思っていました(笑)。今のヒップホップキッズたちと同じような構図っていうか。

水口 : アルバム『Kiss The Knowledge Knives』の「はだか」という曲が素敵だなと思ったんですが、これはジャズっぽいトラックでソウルっぽさも感じる楽曲ですよね。そういう方向性もお好きなんですか?

SUKISHA : 入り口がロックだっただけで、大学に入ってからはコピーバンドサークルとジャズ研に入っていて、そこのジャズ研で多大な影響を受けました。そこでブラックミュージックのRH factorやD’Angeloといった人たちを知って、衝撃を受けたんです。そこから自分なりにかっこいい音楽を模索していった結果が今になりますね。

SUKISHA
SUKISHA:独特にして普遍的な音を追求し、世界へ発信するシンガー/トラックメイカー Hiroyuki Ikezawaによる”音楽”のプロジェクト


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■1,000万円収益のツイートを投稿した理由

水口 : SUKISHAさんがTuneCore Japanの収益が映っている画面の写真をTwitterに投稿した時は話題になりましたよね。内容としては1,000万円を越える収益が入っていることが映っていましたが、このツイートをした理由をお聞かせいただけますか。

SUKISHA : 理由はいくつかあります。インディペンデントアーティストに希望を与えるというのもあるし、知らない人には「音楽って今はこんなに稼げるんだよ」というきっかけになってほしい、あとはドヤ顔をしたかったというのもあります(笑)。僕は音楽を本格的に始めるのが遅かったので、周囲の人から反対されていたんです。「音楽で食べていくなんて、どうせ無理だよ」といった風当たりの強さを思い出してムカつくことがあったんですよね。この額面を見たとき「ほら見ろ」という気持ちが湧いてきて、この投稿をしたのも理由のひとつとしてあります。

 
水口 : ミュージシャンの場合っていくらくらい稼げるのか見えないから明確に数字を出されると夢があるし、これから目指す人にとっても指針になりますよね。

SUKISHA : 仕組みをわかってない人が多いと思うんですよね。調べることもしないし、TuneCore側は献身的にいろんな知識を授けようとしていますが、その2つの関係性が目標としているところに辿り着いていないんじゃないかと思うんです。なので、そういうのをうまい形で繋げられたらもっといい思いする人が増えるんじゃないかと思い、投稿したのもありますね。

水口 : ミュージシャン自身は自分が一体いくら稼いでいるのかわかっていない人って結構いますよね。

SUKISHA : それは事務所に所属していて権利関係が複雑になっているとか、固定給をもらっている場合は自分の曲が1曲あたりどれくらい稼いでいるのかわからない人はいると思いますね。僕は自分一人で曲を作る人間なので、自分で全て管理してしまうのが楽なんですよ。それが結局、収益も一人で取れますし。

水口 : 一人でできるなら自分でやったほうがいいですよね。

SUKISHA : あまり難しいことはないと思うんですよね。TuneCoreもアドレス登録して曲を配信するだけですから。管理する能力といってもTuneCoreが極力減らしてくれているから“できないという言い訳ができない”レベルまできていると思います。

水口 : このツイートする際は緊張とかされました?

SUKISHA : それは全然なかったですね。こういったお金の部分をオープンにすることに抵抗はないんです。そもそもニートも公言していましたし。お金の流れ、ビジネスって日本は教育でしてくれないじゃないですか。だから、自分で働いてお金を稼ぐってどうやればいいのかわからないって人が多くなってるんだと思うし、そうするとインディペンデントでやっていこうっていう気持ちになる人間も少なくなりますよね。それって音楽に限らない話だと思うんですよね。いまだにブラック企業で働く人が減らないのもそういうことだと思うし。そういう教育を学校とかでやってくれないんだったら、やっぱり自分らで後続を育てていかないと意味がないと思うので。だから「お金をこういう風に稼げるようになりましたよ」って発信をするし、「どうやって稼げるようになりましたか?」って聞かれたら真摯に答えるようにしています。それは僕みたいな人とか、すでに音楽で食っている人間たちが教えていかなきゃいけないと思っているので、その姿勢の一つですね。

水口 : 実際にそういった相談も来ているんですか?

SUKISHA : 曲作りに関連した質問はありますね。個人的に、「短絡的な人が多いな」という印象があります。いつかレーベルが拾ってくれて、レーベルに入ったらお金が稼げるようになるんじゃないか、と思っている人が多い。そんなに単純じゃないと思うんですよね。その部分をいろんな人に気づいてほしい。音楽業界と関係ない人は未だに昔のミュージシャンの稼ぎ方が主流だと思っている人が多いと思います。僕みたいな人間がいくら稼いでいるとか想像できないと思うんですよ。いってしまえば、時代遅れの人がずっとそのままで居続けてしまっているととても感じるんですよ。僕なんかよりよっぽど稼いでいるインディペンデントアーティストもいるわけじゃないですか。にも関わらず、その事実や可能性、やり方を知らない人が多いのはよくないと思うんですよね。TuneCoreで1,000万円以上の収益を出しているインディペンデントアーティストは、一般の方が想像されている以上にたくさんいると思うんです。

水口 : 誰かが見つけてくれたら稼げるようになるという話がありましたが、それは音楽家だけではなくていわゆる普通の会社員でも多い考え方ですよね。やりたいことあって、それで稼げるようになるには自分で考えてやらないと絶対そっちにはいけないですし。その行動を SUKISHAさんはやられている印象でした。

SUKISHA : まず、いい曲を作るって当たり前のことじゃないですか。「いい曲を作るぞ」って決めて10年、20年活動していたら絶対1曲はいい曲作れると思うんです。毎回いい曲が作れたらレーベルも寄ってくるし、ファンもついてくるし、お金も稼げるようになります。だけど、いい曲を作れればなんとかなると思っている人は、そもそもいい曲を作れていないことが多いし、いい曲を1曲作れたとしてもそれが全然売れなかったら「報われないじゃないか」って諦めてしまうパターンとかあるんですけど、人生たった一回で良くなるようなことはほとんどないし、全然売れなかったらまた作ればいいじゃんって思うんですよね。簡単な話じゃなくて、厳しい世界のなかで楽しくやれる人は一握りだから修羅の道ではあるけど、気を引き締めてやらないとこっちになれないと思うし。いろんな可能性を提示していくなかで、甘いことはないよと伝えていきたいと思っています。
 


 
以上、『THE MAGAZINE talk』#7、#8のエピソードをご紹介しました。また、続くエピソード#9、#10では楽曲を多くの人に聴いてもらい長くアーティスト活動を続けていくにあたって、上辺だけの方法や言説ではなく、インディペンデントアーティストとして実際に日々活動し、音楽で生活できる環境を自ら切り拓いたSUKISHAだからこそ語ることのできる本質的な考え、お金との向き合い方、ストリーミング時代に生きるアーティストとしての気付き、SUKISHAからの後進のアーティストへのアドバイス、またなぜ収益/お金の話をするのか、その裏にある自身の音楽に対する熱い思いや覚悟などさらに深堀りしたトークが展開されます。そちらも次回テキスト記事でお届けする予定となっています。エピソードは、すでにポッドキャストには全編配信されているので、ぜひチェックしてみてください。
 
 
THE MAGAZINE talk #7, #8

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この記事の執筆者
aya/綾
株式会社arne / Webメディアで編集&ライターもやっています / 趣味→Spotify / 好き→焼肉 / エンタメマーケ勉強中