【連載】アーティストのための法と理論 ビギナークラス — エピソード7「ビートメーカーが持つ実演家の権利」

2023.8.31

■水口瑛介弁護士による解説

 
実演家とは?

楽曲のレコーディングに際して、歌ったり、ラップしたり、ギターを弾いたり、ドラムを叩いたりすることを「実演」といいます。DTMでの楽曲制作においてMIDIノートを打ち込むことも、この「実演」に該当します。そして、「実演」をした人のことを「実演家」といい、実演家の権利を持つことになります。

つまり、トラックを制作したビートメーカーも、「実演」を行った「実演家」になります。

 
実演家の権利とは?

実演家が有する権利は、大きく二つに分けられます。

1つ目は自分の実演を勝手に他人に使われることを禁止する権利です。レコーディングの際にギターで弾いたフレーズを第三者が勝手にサンプリングして使ってしまった場合に、その使用の差し止めや損害の賠償を求めることができるといったものです。

2つ目は、お金を請求する権利です。テレビやラジオで流れたり、CDがレンタルされたりした場合に、その対価を請求することができるといったものです。この対価は、著作権法においては、二次使用料、報酬、補償金などと呼ばれています。

※実演家の権利は、著作隣接権とも呼ばれています(著作権法的に厳密には同一ではありませんが、同一のものと理解して大きな問題はありません。)。

 
第三者による使用を止めることができる?

トラックの中の印象的なフレーズについて、第三者が勝手にサンプリングして別の楽曲を制作して配信してしまったとしましょう。

この第三者の行為は楽曲の原盤権を侵害する行為ですが、今回のようにビートメーカーが原盤権を持っていない場合には、ビートメーカー自身がこの権利を行使することはできません。

しかし、この行為はビートメーカーが有する実演家の権利を侵害する行為でもありますので、これを理由に、第三者に対して配信の停止を求めることができるのです。

 
お金がもらえる?

実演家は、楽曲がテレビやラジオで流れたり、CDがレンタルされたりした場合に、二次使用料などをもらう権利を持っています。しかし、何もせずにお金が銀行口座に入金されるわけではありません。また、これを受け取るために実演家がテレビ局やレンタル店に直接自分でお金を請求することができるわけでもありません。

では、どうすればこのお金を受け取ることができるのでしょうか。

これらのお金については、実演家著作隣接権センター「CPRA」が徴収業務を行っており、さらに「JAME」(一般社団法人日本音楽事業者協会)、「MPN」(一般社団法人演奏家権利処理合同機構MPN)、「FMPJ」(一般社団法人日本音楽制作者連盟)、「PRE」(一般社団法人映像実演権利者合同機構)を経由して、最終的な分配が行われています。

つまり、実演家は、これらの団体に加盟することで、お金を受け取れるということになります(現時点では、CDでリリースされている楽曲については分配が行われていますが、配信のみでリリースされている楽曲に関しては完全な分配は行われていないようです。将来的には、配信についても分配が行われるものと思います)。

なお、インディペンデントに活動する実演家は、個人でも加盟が可能であるMPNに加盟することが多いようです。加盟の手続きは簡単にできますので、MPN(https://www.mpn.or.jp/)に連絡してみると良いでしょう。

 
契約によっては実演家の権利を持っていない場合も…

ここまで説明したように、ビートメーカーは実演家であり、実演家の権利を持っていることになります。

もっとも、契約で実演家の権利が他者の手に譲渡されてしまっている場合もあります。

例えば、ラッパーとの間で締結するレコーディング契約や、レコード会社との間で締結する専属実演家契約においては、実演家の権利がビートメーカーの手から離れることが規定されていることが多くあります。

ラッパーやレコード会社と契約を締結する際には、実演家の権利の扱いがどうなっているかについても気を配る必要があるでしょう。

 


 

今回の内容をはじめ、音楽に関する法的知識を身につけたい方は下記のバックナンバーもぜひチェックしてみてください!

『アーティストのための法と理論 – Law and Theory for Artists』バックナンバー
https://magazine.tunecore.co.jp/taglist/law-and-theory-for-artists/

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この記事の執筆者

水口瑛介弁護士

弁護士(アーティファクト法律事務所)。音楽家のための無料法律相談サービスを提供するMusic Lawyers Collective「Law and Theory」を設立し、2022年まで代表を務める。アーティスト、レーベル、音楽関係企業などをクライアントとする案件を多く手がける。

https://twitter.com/eisukewater