【連載】アーティストのための法と理論 ビギナークラス — エピソード6「ラッパーとビートメーカーのコラボ」

2023.7.1

音楽家に無料で法律相談サービスを提供する弁護士コレクティヴ・Law and Theoryの弁護士メンバーによる連載【アーティストのための法と理論 ビギナークラス – Law and Theory for Artists beginners’ class】。

音楽活動をはじめたばかりの方やまだ音楽に関する権利等に詳しくない方へ向けて、マンガを解説する形で役立つ情報を発信しています。

エピソード6のテーマは「ラッパーとビートメーカーのコラボ」。

前回は「ディストリビューションサービス」について学んだジロー(前回のエピソード5はコチラ)。今回は、ディストリビューションサービスを通じて配信リリースしたEPが好調でラッパーから声がかかったジローに、弁護士エーちゃんがコラボリリースの注意点をアドバイス。
 

Law and Theory × THE MAGAZINE
漫画 : mot / Produced by PARK

 

【連載】アーティストのための法と理論 ビギナークラス — エピソード6「ラッパーとビートメーカーのコラボ」

 
 
■琴太一弁護士による解説

 
コラボ楽曲の著作権

まず、基本の知識ですが、楽曲の著作権は「曲」と「歌詞」にそれぞれ発生します。作曲者・作詞者が、それぞれ曲・歌詞の著作権を持つことになるわけです。

では、ラッパーとビートメーカーが協力してつくった楽曲の著作権はどうなるのでしょうか。曲のベースとなるビートはビートメーカーが創作するので、当然ビートメーカーが作曲者=著作権者になります。一方で、ビートに乗るラップのフロウ(歌い回し)が曲のメロディやリズムを構成する大きな要素になることもあるので、フロウに創作性があるといえる場合には、ラッパーも作曲者だと考えることができます。

したがって、このようなコラボ楽曲の「曲」は、基本的にはビートメーカーの著作物と考えるものの、フロウの創作性によっては二人で共作した共同著作物という扱いになり、この場合の著作権はラッパーとビートメーカーが二人で共有することになります。

なお、楽曲のうち「歌詞」(リリック)については、通常はラッパーが一人で創作することになりますので、歌詞の著作権はラッパーのみが持つことになります。

 
 
コラボ楽曲(音源)の原盤権

楽曲の著作権とは別に、音源をつくって配信をする場合には、音源に関する権利である原盤権(レコード製作者の権利)のことも考えておく必要があります(原盤権については本連載エピソード2参照)。

ラッパーとビートメーカーがコラボ音源をつくる場合には色んなパターンがあるのですが、今回のケースでは、楽曲のビートの制作からラップのレコーディング、その後のミキシング/マスタリングまで、全てジローが自宅スタジオで作業をするので、原盤権の発生と帰属についての原則的な考え方からいくと、完成した音源の原盤権はジローが持つということになります(なお、二人で音源データを交換しながら制作を進めていくパターンなどの場合は少し違う考え方になります。詳しくは本連載シーズン1 – vol.6参照)。

もっとも、一般的なケースとして、ラッパー名義のアルバムの収録曲などでは、ラッパー側がビートメーカーに一定の対価を支払うことにより、原盤権の譲渡(または利用許諾)を受けるということが行われています。原盤権の所在としては、その方が実態に合っていると考えられているようです。

 
 
対価の支払、収益の分配

コラボ楽曲を制作した場合、ラッパー側からビートメーカーに対して金銭の支払が行われることが一般的ですが、権利に関する認識にズレが生じないよう、この支払がどんな意味合いを持つものなのかは事前に確認しておいた方がよいでしょう。上記のような原盤権の買取なのか、買取ではなく利用許諾なのか、あるいは曲の著作権の買取まで含まれるのか等です。

ラッパー側が原盤権を買い取りたいという場合、一度にまとまった金額が支払われることが多いですが、そうではなく将来の楽曲の収益を一定のパーセンテージで定期的に分配するケースもあります。いずれにしても、ビートメーカーとしては、原盤権をラッパー側に譲渡(または利用許諾)する場合に、ちゃんとそれだけの対価性があるのかを見極める必要があります。

なお、対価の支払いを将来の収益から定期的に分配することにした場合は、当然その分の手間がかかってしまうわけですが、TuneCore Japan経由で配信をする場合には、スプリット機能を使用すればその手間は大幅に軽減されるはずです。

 
 
著作権を共有する場合の留意点

上記のようにコラボ楽曲の原盤権をラッパー側が買い取る場合であっても、曲の著作権については、前記のとおりラッパーとビートメーカーとの共有となる場合もあります。

曲の著作権が共有となる場合の留意点ですが、著作権を共有していると、将来どちらか一方がコラボ楽曲を別の形で利用したいと考えた場合には、他方の同意を得ないといけないことになります。

例えば、ラッパーがどこかのレーベルと契約してコラボ楽曲をCDやレコードでリリースしようと考えた場合には、それをビートメーカーに同意してもらう必要があるわけです。

この一手間が面倒だったり、あるいは不仲になってしまうと同意が得られないというリスクがあります。この点は少し意識しておくのがよいかと思います。

 


 
今回の内容をはじめ、音楽に関する法的知識を身につけたい方は下記のバックナンバーもぜひチェックしてみてください!
 
『アーティストのための法と理論 – Law and Theory for Artists』バックナンバー
https://magazine.tunecore.co.jp/taglist/law-and-theory-for-artists/

この記事の執筆者

琴 太一弁護士

音楽家のための無料法律相談サービスを提供する「Law and Theory」メンバー。  音楽、ファッションをはじめカルチャー領域に関する案件を幅広く手掛ける。Law and Theoryきっての南米音楽フリークであり、ブラジルへの渡航経験あり。

https://twitter.com/kottinho