春日勇人 (MAGNIPH レーベルオーナー) インタビュー | 個性豊かなアーティストを厳選してリリースする唯一無二のレーベルのオーナーが語る現在の音楽シーン/マーケット
インディ・レーベル「MAGNIPH (マグニフ)」。2011年に設立され、エクスプロージョンズ・イン・ザ・スカイやMONO、サーファー・ブラッド、スプーン、アルバート・ハモンドJr.などフォーカスを絞った国内外のアーティスト作品をリリースすることによって、唯一無二のレーベルとしてのポジションを確立。またボー・ニンゲンやMONO、クラン・アイリーンといった国内アーテイストのマネージメントも行ってきた。元BMGジャパン・インターナショナルの宣伝課長というキャリアをもつ、マグニフのファウンダーでレーベルオーナーの春日勇人さんに、設立の経緯から、国内外に及ぶマグニフ所属アーティスト、音楽マーケット、シーン、メディアについてまで、お話をうかがいました。
目次
レーベル設立の経緯
——MAGNIPHの設立経緯を教えてください。
2011年からですね。僕は元々レコード会社で洋楽の制作をしていたんですが、そこを辞めて、フリーランスの洋楽ディレクターとして洋楽のA&Rのような仕事をずっとしていました。実際にレコード会社さんとお取引をするのに個人よりかは法人の方が先方もお取引しやすかったりすることもあるので、2008年にライヴリィ・アップという会社を作って、そこで人づてにご紹介いただいた邦楽のマネージメントだったり、洋楽のライセンス契約のお手伝いを始めたんですね。
ただ、自分で契約して自社からリリースをしたかったので、自社内にMAGNIPHというレーベルを立ち上げました。ライヴリィ・アップと同じ名前にすると他社さんとのお付き合いの際に混乱してしまうこともあり、別にレーベルを立ち上げて、タイトルをリリースし始めました。
Albert Hammond Jr. 「Born Slippy」
それで、海外のアーティストをリリースするときにレーベルを探したりだとか、知り合いのレーベルさんにリリースしていただいたりしてフリーランスで動いていたんですけど、洋楽のタイトルが売れなくなってきたというか、CDが売れない状況が徐々にマーケット的に顕著に表れてきて、各レーベルさんも早々リリースまでなかなか漕ぎ着けなくなってきていたんです。
リリースする条件面がうんぬんというよりかは人手だとか、売り上げが低いとリリースに対してコストをかけることが会社だと厳しくなってきたので、今までの経験で流通面もお付き合いもあるし、自社で立ち上げてリリースをしようと思いました。最初は友達や知り合い、前のレコード会社からの付き合いがあったアーティストやマネージメントの作品をリリースするために立ち上げた感じです。
——以前から独立の構想はお持ちでしたか?
次第にというか。前のレコード会社では12年くらい洋楽の制作・宣伝をずっとやっていたんですが、洋楽のマネージメントやアーティストとやりとりしていく中で、大きいメジャー・レーベルではできないことが増えてきたことを感じたし、自分のやりたいことが見えて形になってきたんです。メジャー・レーベルだと大きなタイトルをいかに大きく売るか、どのようにヒット曲を作るかということを考えないと大きな会社は運営できないですよね。CDが売れなくなってきて、音楽マーケットが縮小していく中で、メジャー・レーベルに求められている役割と、僕の個人的な嗜好の部分で違和感を感じたので前職を辞めて、知り合いや自分の嗜好に近いものを丁寧にやれればと思ってスタートしました。
——レーベル名「MAGNIPH」の由来というのは?
名前はThe Crashの「The Magnificent Seven」という曲名からとりました。
The Clash「The Magnificent Seven」
レーベルのアーティストについて
——現在、MAGNIPHに所属されているアーティストはどのくらいいらっしゃいますか?
年間10~12組くらいですね。僕の場合、年によって増減はありますが、ライセンス契約で2年から3年のタームで切り替わっていきます。その年間10~12組の洋楽タイトルに加えて、日本のアーティストが数組入る感じですかね。
——多数の海外アーティストやレーベルとやりとりしていくにおいて、海外とのコネクションは、どのようにして構築されてきたのでしょうか?
基本的にはアーティストと、レーベルというよりかはマネージメントとの直接の繋がりですね。例えばCult Records(カルト・レコード:The Strokesのヴォーカル、ジュリアン・カサブランカス主宰のレーベル)っていうストロークスのメンバーがやってるところだと、元々、前の会社でストロークスのアルバム1枚目から3枚目までを担当していた関係で、マネージメントとも直接連絡を取れていたんです。その関係でリリースをにつながっていたりだとか。
海外のアーティスト、マネージメントとは日本のマーケットへのレップみたいな感じでお仕事させていただいています。そういう意味でメジャー・レーベルで制作・宣伝をやっていた経験は大きかったと思います。
Julian Casablancas+The Voidz「Where No Eagles Fly」
Julian Casablancas+The Voidz「Human Sadness」
——では、国内アーティストの場合は?
ずっと洋楽でお仕事させていただいていたので、日本人のアーティストや音楽事務所との繋がりは全然なかったです。2007年に人づてにご紹介いただいて、邦楽のマネジメントで初めてお仕事させていただいたのが8ottoとモーモールルギャバンでした。
今やっているKlan Aileen(クラン・アイリーン)やJesse Ruins(ジェシー・ルインズ)、MONO(モノ)などのバンドも人づてにご紹介頂きました。僕が海外のアーティストを扱っていることもあり、海外でリリースの多いJesse Ruinsや1年の半分は海外にいるMONOとはシンパシーも強かったので、そこから徐々に繋がりができていきましたね。
Klan Aileenに関しては田中宗一郎さんのお話を伺って、バンドを見に行ってという感じで始まりました。メンバーと話をして、そのうちリリースまでもやるようになりました。邦楽は本当に人づての紹介からお付き合いが始まったという状況です。
Klan Aileen「STOP MY LIFE IF YOU WANT MY HEAVEN」
(MAGNIPHよりリリース中の「Dazzlingly Rooms」収録曲)
レーベルも全て一人でやっていることもあり、なかなかライブハウスに行って出会うといった形は難しいです。新しいアーティストを見る機会といえば、所属アーティストのライヴで一緒に出演しているバンドを見るくらいで。Soundcloudチェックしてライブも見に行って、というところまでできれば本当はいいんですけどね。
——先日のMAGNIPH主催イベントに関していえば、sanm(サンマ)もJesse Ruinsと対バンしていましたよね。
はい、sanmも今まさにレコーディングしていたりして、年末か来年くらいにアルバム作ろうと進めています。
ひとりでのレーベル運営
——現在、全ておひとりでレーベル業務をやられているということですが。
そうですね、具体的にいうと、プロモーション関係でいろんな方とリレーションとりますし、流通周りの手配、商品を売るための制作作業も。海外だとマスターを取り寄せて発注して、アートワークも取り寄せて、ライナーの原稿を発注して歌詞対訳をチェックしたり。発売元としては商品の企画制作や、ライブがあればプロモーションをしたり、海外アーティストが来日するときにはアーティストの希望に沿って日本で調達できる機材の確認といった細かいことや、海外と契約などの確認も。
海外とは時差があるんで、朝は早く起きて海外メールのやりとりをしています。その時間帯って海外とやり取りするのにベストタイミングだったりするんですよ。こっちが朝4時~5時ならニューヨークは15時くらいだし。ロンドンはちょっと間に合わないんですけどね。朝型にしたら仕事がやりやすくなりました。でも夜は弱くなりましたが(笑)。メールでは、主にプロモーションの内容や売り上げなどについてのレポート、次の作品の構想や、契約についてやりとりしたりしています。
海外と日本の音楽マーケットについて
——海外のアーティストやマネージメントからは、日本の音楽マーケットはどのように見られていると感じますか?
日本自体のマーケットはやっぱり大きく見られていると思います。海外に比べるとまだCDが売れる国だし、ライブに関してはFUJIROCK FESTIVALやSUMMER SONICなどの大きなフェスティバルもありますし。ロックのマーケットに関してしかわかりませんが、日本はすごく認知されていると思います。日本というマーケットで何かできないか、自分たちのバンドが何かベースを作れないかっていうことは、僕たち日本人が想像しているよりも期待されているのではないかと思います。
ただ、日本でどういうプロモーションがされているかというのはイメージしづらいかもしれません。日本語で書かれているし、ディスク・レビューがこれだけ載りましたって言っても褒めてあるのか悪く書いてあるのかもわからないわけだし。レポートする時はなるべくアーティストのプロモーション状況やチャート状況など、相対的に比較して提出するようにはしています。
——海外音楽市場ではすでにデジタルが主流なんですよね。
マスの部分ではすでにそうだと思います。まず音楽との出会いという意味でストリーミングをはじめ、デジタルで出会うことが多いのではないでしょうか。もちろんライブ会場に行ったときはLPやマーチャンダイズなどのフィジカル商品を買うとは思いますし、実際LPやカセットも販売数はヴォリュームはそこまで大きくないですが、伸びていると思いますが。
また日本もそうかもしれませんが、海外ではCDはどんどん買える場所が減っている印象です。最近は大都市を中心にLPなどアナログ盤を扱う小規模のショップが増えていたりしますが、地方だとどうしても配信や通販がメインになってきてますよね。音源を聴いて「おもしろい」と思ったり、何かを読んで「聴いてみたい」と思ったものは配信で音を聴いて、その地域にバンドがツアーで来るとなれば、会場に行ってTシャツだったりLPだったりバンドのものを買ったり、バンドやお気に入りのお店から通販で買うというのが、多いんじゃないでしょうか。のではないかと思います。
日本はCDショップがまだあるし、LPも買えますよね。海外の人は、渋谷でタワーレコードのビルを見てみんなびっくりしますよね、「すごい!CDこんなにあるの!?」って(笑)。今や、CDドライブがついているPCも減っていますしね。だからCDにダウンロード・コードを付けてくれって言われることもあったりします。パソコンにCDが取り込めないんですよね。なので、今ってCDにダウンロード・コードが付いてても、カセットにダウンロード・コードが付いてても、LPにダウンロード・コードが付いてても多分一緒なんですよね。やっぱり。「CDってどこに入れるんですか?」みたいな話になってきているんです。ダウンロード・コードが付いていれば音源がとれるし、モノ(CD)も記念みたいな感じでコレクションとして持っておける。CDは今まで思っていたデジタル・データが入っている万能ツールではなくなってきているんだなって気がしました。
——それは海外の方との話しだったりしますか?
いや、日本の方からなんです。レコードやカセットにダウンロード・コードを付けるのは言ってる意味は分かるんですけど、「CDで?」と思って。でも話を聞くと「なるほど。そういう時代ですか。」って思いましたね。CDってレコードに比べれば簡単に良い音で聴けるツールだと思うんですよ。レコードは再生装置とスピーカーがある、ある程度の環境の中で聴かないと良さがわからないと思うんですけど、CDって一体型のコンポでも割といい音で聴ける利便性はCDの良さだし、昔は車で聴く場合はレコードだとカセットに落とさないと聴けなかったんですが、CDは買ってすぐ聴ける。CDは利便性と音の良さがあるツールだと思うんですが、若い世代にとってはCDもLPもカセットも一緒で変わらないんだなって、最近改めて知らされた感じです。
——春日さんご自身はどのように音楽を聴かれますか?
ストリーミング・サービスはやっぱり使ってみると便利ですよね。僕が若い頃はレコードがメインでしたが、どんどんレコードが出なくなって、音楽を聴く媒体がCDに移っていきました。でも当時買っていたレコードはまだあるし、今でも聴きますね。やっぱりレコードで聴くと違いますよね。
——春日さん自身の音楽の趣味というのは?
僕は王道の洋楽です。The PoliceやDuran Duran、Culture Clubみたいないわゆる80’sポップスから、ガンズ・アンド・ローゼスとかチャートもの、ヒップホップ含めて聴いていました。そこから、60年代70年代の音楽を後追いで聴いていったり。
イベントへの取り組み
——ちなみに、取材前にtigerMos(タイガーモス)の音源を聴いていたのですが、tigerMosとはどんなきっかけで知り合ったんですか?
tigerMosはバンドの繋がりで紹介されましたね。メンバーの荒木(正比呂)くんは「レミ街」ってバンドだったり、CMの音楽を作っていたりしていいて幅広くクオリティの高い仕事をしているアーティストなんですけど、彼と話しているうちにアルバムを出したいって話を聞いて。音源もほぼできていたし、うちからリリースすることになりました。彼らはほとんど名古屋から出ていなくて、音楽性も国籍がわからないような感じだったし、どこまで売れるのかは僕も見えなかったんですけど、ただクオリティがすごく高いし、彼らがホームである名古屋でライブをする時にちゃんと売れればいいなって感じからスタートしました。まずはCDでリリースをして、9月末の東京のリリース・パーティーが終わったのでそこから配信もスタートしました。
——tigerMosしかり、MAGNIPH所属のアーティストは洋邦問わずクオリティがとても高いですよね。9月のショーケースライブに出演していたLet’s DADADAのライブを拝見したのですが、やありかっこよかったです。
Let’s DADADA「DEAD STOCK DANCE」
あの日の彼らのライブは大評判でしたね。彼らはライブ自体が2回目だったんですよ。元々彼らは大阪でマッカーサーアコンチというインディー・バンドをやっていてたんですが、活動休止してその後にLet’s DADADAを結成して、10inchをリリースしたんです。
——そのショーケースライブを組んだ経緯というのは?
もともとLet’s DADADAのリリース・パーティを東京でやりたかったのと、Boys Age(ボーイズ・エイジ)も新譜を出したばっかりだったし。当初は他のアーティストを呼ぼうかと思ったのですが、Let’s DADADAもBoys Ageも同じうちのレーベルだし、だったらうちのレーベルのアーティストをまとめて見ていただく形にしようと、5バンドでレーベルの動きが見えやすくなるようなショーケースイベントにしました。こういう企画イベントをこれからもやっていきたいですね。
——次のイベントの構想はもうありますか?
次もなにかやりたいとは思ってて。でもレーベルの中のアーティストだけでやっていても広がりが作れないので、レーベルのアーティスト数組にゲストを呼ぶ形にしたりだとか、そういうものはどんどんやってみたいです。逆にどんなイベントが見てみたいですか?こういうイベントやってほしいな、みたいなものってありますか?
——レーベルのイベントというと、周年記念など、区切りのときに開催されることが多い気がします。
5周年記念、みたいな感じですかね。そういうのもやれるといいですね。先日のMAGNIPHのイベント自体は、「リリパ プラス ショーケース」的な感じでやったんです。インディで今頑張っているバンドって実はライブの機会がなかなかなかったりもするじゃないですか。例えばワンマンできっちり400〜500人とかオーディエンスが入るバンドはいいですけど、そうじゃないバンドたちはノルマじゃなくても機材費とか、お金を払ってライブをやっている人がいる訳で。ライブ自体は機会があればあるほどいいなって僕は思っていて。そこにリリースとかがかぶって、イベントができる状況で、出られるバンドがあれば、1人2人でも見てもらえればいいかなとは思っているんです。だから5周年、10周年だからやろう、っていうまでにはMAGNIPHはまだ至っていないですが、そういうイベントができるようになれればとは思います。
とは言いつつ、いろんなバンドのライヴを見てるとライブの本数自体は全体的に落ち着いてきた気もしているんです。音楽イベントに行くこと自体にはハードルが下がってきたけど、“みんなが行きたいイベント”っていうのが定型化してきた気がしていて。邦楽ファンの若い世代にとっては、ROCK IN JAPAN FESTIVALがあって、COUNTDOWN JAPANに行って、春のVIVA LA ROCKに行って、みたいな感じで年に3回行けばお腹いっぱいって子たちが増えてるんじゃないかなと感じることがあります。実際それだけでも金銭的に大変ですしね。洋楽のファンだとフジロックに行って、サマソニに行って、あとは1~2公演好きなアーティストの単独公演には行くけどと。それでも充分コア・ユーザーだとは思いますが、そのお客さん達がそろそろ固定化されてきた感じがします。
だから新しくフェスを立ち上げたとしても、そこにどうオーディエンスを呼ぶか、というのが以前よりもさらに難しくなってきている気はします。既に音楽ファンのお客さんが行きたいと思う1番手のイベントがそれぞれ決まってきているので、今は「じゃあ、このライブも行ってみるか」って思ってもらえることが非常に大変になってきていますよね。もちろんそこで張り合うレベルではないですが、僕らもイベントをやるんであれば色々と考えないとは思います。
ワールドワイドにリリースできる時代だからこそ取り組むべきこと
——最近は、活動の最初のステップとして配信をするアーティストも増えてきていると思いますが、レーベルを運営されている立場から見て、インディペンデントで活動しているアーティストに向けて何かアドバイスなどありますか?
僕がアドバイスを欲しいくらいなんですが(笑)、 これまでも、今も日本人アーティストが海外に出るって、なかなか難しいですよね。僕も出来るようにしたいなと思いつつもなかなかできていないわけです。MONOは配信もインターネットもない時代から、ひたすらライヴで口コミを頼りにという凄まじい経験を経て、今世界中でライヴができているわけですが、いま日本で音楽をやっているインディペンデントのアーティスト達に明日からアメリカとかイギリスに行って半年、ツアーを回ってこれるかって言ったら、なかなか出来ないですよね。
あと、最初のステップとして配信をしてみるって話がありましたけど、これは最初から最後までそれはやらなきゃいけないことにもうなってると思います。それこそファイナル・ステージでもやることじゃないですか。最初は配信するけど、セカンド・ステージ、サード・ステージになったらやらないっていうことはもうないと思うし。
MAGNIPHで言うと例えばJesse Ruinsや Boys Ageもストリーミングで聴かれていて、それがたとえ5回でも30回でも100回でもどんな回数でも世界中で聴かれている訳です。聴かれている数字がグラフで毎日見られるわけで。それをきっかけにその国のメディアに向けて何かやってみるとか。その数字を見ながら、どうすれば回数が上がるか考えてみたりして。今、こういう配信サービスを基本のインフラにして自分でPRもできる時代だし、海外の雑誌、ウェブサイトの音楽メディアはニュースリリースを受けるメールアカウントを必ず持っているわけだし。そこに対して自分の音源を送りつけることは当然できるわけで。
もちろん音源や情報を送ったからって必ず聴いてくれるわけでもないけど、それでもApple Musicや海外のストリーミングのシステムに自分の曲が乗っかっていて、聴いてもらえるチャンスは海外の新人アーティストと同じです。この状況は10年前に比べるとはるかに海外もターゲットにしやすい状況のはずなので、その点ではみんな同じスタートラインなんだと自分を励ましてもらって。
もう幸いにもワールドワイドでリリースできる時代なので、そこから先を考えたいですね。地道ですけど。レーベルとしてもそこで工夫をして今ある環境をどう生かせるかのアイデアを、ということを求められているわけで、僕らもみなさんと同様にそこを頑張りたいなと。もちろん音楽自体の魅力は絶対的ですが、実際に曲を出してすぐに、みんなに「すごいね!」って言ってもらえて大ヒットになるわけっていうのは考えにくいですし。環境はあるから、皆さん頑張りましょうってところですね。
Jesse Ruins「L for App」
音楽メディアだからこその影響力
——データに基づいた戦略と地道なアクションが大事だと。
実際にJesse Ruinsが去年『Heartless』っていうアルバムを出してPitchforkを始め、あちこちにプレスリリースを送ったら、Pitchforkで7点って点数がついたんです。で、レビューが掲載されるといきなり次の日のSoundcloudの視聴回数が数千回規模で上がってるんですよ。それはやはりワールドワイドの数って違うな、と実感しました。
Pitchforkってそのぐらいワールドワイドで影響力のあるメディアだし、いきなり世界で何千人が聴いてくれたりするので、それは頑張っていいものを作ってみんなに聴いてもらえるように、ストリーミング配信もきちんとしてくださいって感じです。
日本にはPitchfork的メディアは無いですよね。日本の音楽メディアで中々あそこまでの批評はできていないように思います。媒体/メディアのそもそもの成り立ちの違いとかもあるのかもしれませんが、でも音楽批評/テキストの力がすごく大事だというのは実感しています。それは音楽自体に匹敵するくらいにパワーがあるものだとも思います。例えば去年、MAGNIPHからジュリアン・カサブランカスのソロ・アルバムが出た時、田中宗一郎さんがthe sign magazineに長めの文章を書いて頂いて、それがアップされた時はすごい反響があったんです。それを読んで、作品を聴いてみたという感想もすごく多かったです。
僕はいわゆる良いインタビュー記事だったり、レビューにはすごく強い力があると思っています。音楽が鳴っているだけでは振り向かないリスナーを振り向かせるパワーや、ミュージシャンよりも的確にそれを説明できるテキストの力は、やっぱり必要だと思います。ただ、それがどこで読めるのかが、日本はちょっとわかりにくいのかなと。
海外のメディアって口調がどぎついし、「ちょっとどうかな?」と思うことも多いですが、その責任はとってる気はするんです。自分たちのシーンに対する基準というかルールもしっかりアピールしていて、その基準に照らし合わせて良ければ褒めるし、外れてれば大物でも褒めない。もちろんただ切り捨てるだけじゃなくて、キチンとシーンに貢献していて愛のあるメディアじゃないとただ嫌われて終わってしまいますし、実際嫌われたり、好かれたりは繰り返していると思いますが。
あとこれは多くのミュージシャンに言えることじゃないかと思うんですが、意外と(音楽を)作っている方が気付いていない、後から指摘されて気づく、もしくは言語化はできていないことが往々にしてあると思うんです。実際に録音している時とリリースには半年とか少なくても3ヶ月くらいの開きがあったりしますよね。その曲作ってるときは1年前2年前みたいな話になってしまうわけで。それをどう言語化して今、目の前のオーディエンスわかりやすくシェアしてもらえるか、という意味で音楽メディアや音楽ライターだったり批評はすごく大事だと思ってます。実際に「だからすごい」みたいなことが言いきれるし、いわゆるシーンだったり、これまでの歴史だったりこのアーティストはこういう役割を果たしていて重要なんだ、っていうことを言葉で説明してくれることの力って大きいですよね。なんで良いのか。なんで悪いのか。なんで前回は良かったけど今回はダメなのか。またはその逆なのか。言葉で説明してくれる批評ってシェアできるじゃないですか。聴かなくても聴いた気になってしまうくらい。その批評の説得力は強いですよね。
レーベル運営のやりがい
——春日さんが考えるレーベル運営の醍醐味ややりがいとは?
やっぱり売れることじゃないですかね。少しずつレーベルのカラーができてきて、音源やリリースの相談が来ることも嬉しいですし、海外のアーティストからオファーが来ることや、アルバート・ハモンドJr.、SHELLAC、The Ordinary Boysとか来日が決まることもそうだし、レーベルとして前に進めてる感覚があって嬉しいし、MONOやJesse Ruins、Boys Ageは海外でも活動しているので海外で評価されるのはやっていて興奮があります。
人だったり、音楽だったりも含めてレーベルの中でトラフィックが増えて、いろんな意味でアーティストや作品に貢献できているのが実感できると、すごくやりがいがあると思います。
The Ordinary Boys 「Four Letter Word」
——なかなかしぼれないと思うのですが、今、MAGNIPHイチ推しのアーティストをあえて挙げるなら?
もちろんレーベルの全アーティストイチ推しですが、直近だと10月17日にYUNGっていうアーティストの2枚目のEPが出たんです。1枚目はTough Love RecordsというUKのレーベルから出していて、2枚目も同じレーベルからリリースされるんですが、アメリカのFat Possum Recordsっていうレーベルと新たに契約を結んで、さらに来年、アルバムを出そうという話があるんです。UKに続いてアメリカでも契約がとれて、今、徐々にいい流れの中にいるアーティストなので、ぜひ注目して欲しいと思っています。来年、デビューアルバムもMAGNIPHからリリースされる予定です。
YUNG「GOD」
マーケットのクロスオーバーが理想
——最後に、レーベルとして今後さらにやっていきたいこととは?
やっぱり国内外のアーティストを手がけることが一番ベストですね。手がけている日本のアーティストが海外でも評価を得てライブやツアーができて、もちろん日本でもツアーができて。逆に海外のバンドを日本のマーケットでやるときはMAGNIPHからリリースして、また日本でツアーも出来たらベストだし。だから洋楽邦楽とかじゃなく、どこに住んでるかは別にして、マーケット同士がクロスオーバーしていくといいなって思っています。いろいろな国のオーディエンスと、自分たちが良い、気に入っている音楽を共有できるフォーマットになるのが1番の理想だと思っています。その結果として5周年、10周年で日本/海外で周年イベントができれば理想じゃないかと。
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