SugLawd Familiar(サグラダファミリア)ロングインタビュー 「Longiness」のチャート1位でも話題、沖縄発4MC1DJ新世代ヒップホップクルー「俺ら発展途上でもかっけえぞ」
SugLawd Familiar ――― いまだ未完成で建設中の「サグラダ・ファミリア」にちなんでつけられたというこのクルー名。それをあらわすかのごとく話題の楽曲「Longiness (feat. OHZKEY & Vanity.K)」の「俺ら発展途上でもかっけえぞ」というリリックからも彼らのマインドが伝わってくる。昨年10月21日に配信リリースされた「Longiness」は、その後12月17日にSpotify JP Viral TOP50の9位にいきなり初チャートインすると、その後徐々にランクアップを続け、2021年1月4日についに1位まで上りつめ、以来同チャートの上位をキープし続けている。これに限らずApple Music ソングランキング、LINE MUSIC TOP100、Spotify Teen Culture、Spotify Weekly Buzz Tokyoなど、様々なチャートやプレイリストも席巻。また、その楽曲も昨今のいわゆる”バズる”楽曲とは明らかに異なるテイストを帯びており、彼らのヒップホップとそのカルチャーへのリスペクトを感じさせる内容に仕上げられている。
高校卒業を控え現在年齢が18歳ということ以外ほとんど明らかになっていないSugLawd Familiarの素顔に迫るべく、THE MAGAZINEではリモートでメンバーからOHZKEY、Oichi、Vanity.K、XF MENEWの4人のMCにネットメディア初となるロングインタビューを敢行した。
(Photo L to R : Vanity.K, XF MENEW, OHZKEY, caster mild, Oichi)
未知の新世代クルー・SugLawd Familiar結成のきっかけ
——まずはメンバーの紹介をお願いします。
OHZKEY : MCのOHZKEY(オハジキ)です。
Oichi : Oichi(オイチ)です。MCです。
Vanity.K : 同じくMCのVanity.K(ヴァニティー・ケー)です。
XF MENEW : MCのXF MENEW(エックスエフ・メニュー)です。
OHZKEY : あとDJのcaster mild(キャスター・マイルド)がいて、4MC1DJでSugLawd Familiarです。
——SugLawd Familiarは現在高校3年生ということですが、結成のきっかけは?
OHZKEY : 全員同じ学校なんですけど、以前は特にみんな親しい訳ではなかったんです。高校2年の球技大会がきっかけでたまたまこの4人が自分の家に集まった時があって、自分の家にレコーディングができる環境があるんですけど、ちょっとみんなでラップしてみたら各々がカマしてて、それで「俺らヤバいじゃん!」って、そこから始まりました。
——みんなで最初に作った曲が今話題の「Longiness」ですか?
OHZKEY:いえ、SoundCloudにアップしてるんですけどビートジャックで「IT’S A PARTY」っていう曲を4人でRemixで作ったのが一番最初です。
——ビートはYouTubeとかネットで探すことが多い?
XF MENEW:そうですね、まだビートを一から作るっていうよりはYouTubeとかで探すことが多いです。
Vanity.K:それぞれの曲はみんな自分の好みで、4人でやる曲は全員のイメージがあうサウンドを絞って決める感じです。
OHZKEY:いつかはcaster mild君が作ったオリジナルのビートでもやれればと思っています。
——ちなみにSugLawd Familiarには誰か方向性を決めたりするリーダーはいますか?
XF MENEW:誰がリーダーっていうのは特に決めないようにはしてるんですけど、カタチ的にまとめ役はOHZKEY君がやることが多いです。
SugLawd Familiarのルーツ
——そういう中で「Longiness」が生まれたんですね。この曲で聴かれるのはブーンバップなビートですが、みなさんはどういった音楽、アーティストに影響を受けたのでしょうか?
Vanity.K : これは本当にみんなバラバラなんですけど、俺の場合はまずJinmenusagiさんです。あと、普段はブーンバップをはじめ、オートチューンがバチバチに効いてるのも聴くし、ヒップホップだけに限らず色んな音楽から影響を受けてます。
OHZKEY : 自分は志人さんやNORIKIYOさんとか、日本語を大切にしているアーティストに影響を受けてて。それで自分も日本語でストレートにちゃんと伝えるっていうのを大事にしています。
XF MENEW : 僕は自分でソロ曲をトラップ中心にやっているように、海外のトラップのアーティストに影響を受けています。国内だとAKLOさんですね。AKLOさんの日本語と英語の織り交ぜ方、リリック、フロウがすごく好きです。
Oichi : 自分はもう思いっきり沖縄のアーティストに影響されてて。例えばですけど、昔から見てた唾奇さんとかその拡がり方がやっぱりすごくて、めっちゃ沖縄をアゲてくれたと思うし。沖縄のアーティスト全員からくらってるし影響受けまくってます。
——SugLawd Familiarは普段から沖縄の先輩のラッパーのみなさんと交流はあるんですか?
Oichi : まだあんまりないです。自分たちとは現場が全然かぶらなくて。まだ高校生なので、ほとんどがデイイベントですし。
Vanity.K : 唾奇さんとかOZworldさんとか、普通に自分たちはリスナーとして聴く存在、雲の上の存在というか。でも、この間OZworldさんが「Longiness」のYouTubeのURLをTwitterでシェアしてくれてて、認知してもらえてるんだってみんなですごい感動しました。知ってもらえてるってだけで、モチベーションがめちゃめちゃ上がりました。
突然のバイラル ― “横を通る車から「Longiness」が流れてくる”
——今回の「Longiness」のヒットに関して、正直みなさんはどう感じていますか?
Vanity.K : SNSとかでバズってるヒップホップ、ラップはトラップやオートチューンだったり、けっこう誰でも聴きやすい感じの曲が多いと思うんですけど、自分たちの場合は、バチバチのヒップホップサウンドにひと味違うリリックとキャッチーなフックっていうSugLawd Familiarにしかないユニークさがあると思ってて。「Longiness」ができた時は、これはけっこういくかもっていう予感があったんですけど、正直ここまでになるとは思ってなかったです。
——地元でもかなり聴かれてるとか。
Vanity.K : 有り難いことにそうみたいで。歩いてたら横を通る車から「Longiness」が流れてきたりして。めちゃめちゃ不思議な気分になります(笑)。ちょっと前では考えられないというか。
OHZKEY : たしかに(笑)。
「Longiness (feat. OHZKEY & Vanity.K)」各配信ストア : https://linkco.re/6PA1MFmZ
——MVを作ってアップする前に、ライブの動画が今ほどじゃないにしてもTikTokで最初にバズったっていうのがあったんですよね。それは狙ってやった部分もある?
OHZKEY : それは全然狙ってなくて。誰かが勝手にライブの動画あげてて、そのコメント欄で「この曲何ですか?」って質問があってからばーっと盛り上がって。で、自分らのSoundCloudでも再生数が上がっていって。
Vanity.K : それで今度はYouTubeで探してもないっていう声があったので、やっぱMV出した方がいいよねってなって。
——そのライブ動画を勝手にあげた人はフォロワーが多かったり影響力がある人だったんですか?
OHZKEY : いや全然そうじゃなくて普通の人でしたね。
SugLawd Familiarの活動状況
——ライブはけっこうやってるんですか?
Vanity.K : 今はやっぱりコロナで少なくなったんですけど、こういう状況になる前はけっこうやってました。
——地元には一緒にライブをやるような同世代のラッパーは多い?
OHZKEY : 表に出てきている人たちも割といると思いますし、そもそもラップやってる人口自体が相当多いと思います。学校の後輩にもいるし。
——活動の拠点は那覇になりますか?
Oichi : そうですね、基本は那覇になります。
Vanity.K : 住んでるのが那覇と浦添で別れてるんですけど、連絡してすぐ会える距離なんです。OHZKEY君の家に集まってみたいな。
——「Longiness」のMVには5人以上いますけど、そういう大所帯のクルーの中のSugLawd Familiarという感じなんですか?
OHZKEY : いえ、あれはライブに来てくれたり、周りでスケボーやってる友達や知り合いをかき集めて出演してもらっただけなので、そういう大人数のクルーがあるわけじゃないです。
——MVのクオリティも高いですよね。
OHZKEY : 二つ年上の先輩のYUUTO MORIさんにお願いして撮ってもらいました。
沖縄の新世代が描くリリックの世界
——「Longiness」では、OHZKEY君とVanity.K君がfeatでお二人がラップしてますが、あのリリックで伝えたかった内容というのは?
OHZKEY : 俺の場合は、人の真似ばっかして自分から何も生み出さない人たちへのディスです。フックの「リーズナブルな完成度」は、ゼロからじゃなく誰かの物真似で全く努力せずに作ってるもの、「スケスケまくりのimitation」は、いくら上手くやってもパクリが透けて見えてるよって。パクったもので何かになろうとしても日の目を見ずに沈んでいくだけだぜっていう。
Vanity.K : 自分の場合は、プレイヤーへのリスペクトや信頼が無い上辺だけの大人だったり、そういう内輪ノリに対してですね。それが「何かあれば孤独気取りむしり取る金」っていうリリックに表れていたりします。
——そういうリリックのように、恋愛や共感というより、普段から感じている問題意識みたいなことを書くことが多い?
OHZKEY : そうですね、それは全員共通していると思います。サウンドやラップに対するアプローチは全員バラバラなんですけど、価値観だったりこういう問題意識の部分で通じているんだと思います。
Vanity.K : それはやっぱりみんなヒップホップが好きで、そのカルチャーが好きだからこそ気づけたことだと思うし、ヒップホップに出会ってなかったらこういう考え方にもたどり着かなかっただろうなって。
Oichi : CHOUJIさんもTwitterで言ってたと思うんですけど、ラッパーの方が普通の人より政治も含めて世の中の問題に厳しくて、関心を持ってると思うんですよ。だから、俺ら自身も世の中のおかしいことに対して敏感になれていると思います。
——クルーのスタンスとしては何か特に意識していることはありますか?
OHZKEY : 個人的にSugLawd Familiarはみんなラップの仕方が違くても、それぞれがかっこいいし今のような意識も共通してるんで、それぞれが突き進んで4人のカラーが混ざり合っていくうちに自然とそれがSugLawd Familiarの特徴になっていくのかなと思います。全員が同じ方向というよりは、違う4方向に尖ったまま進んでいるというか。
Vanity.K : そして同世代でもここまで問題提起しているクルーもあまりいないかもしれないので、そこはブレずにやっていきたいです。
スキルフルで個性的なメンバー
——恋愛や共感、チル、エモとかじゃなく、サウンドもリリックもみなさんのようなストレートなヒップホップらしいスタイルで10代のアーティストとしてバイラルしているのはあまりないケースですよね。そういうサウンドを作り出せているSugLawd Familiarですが、お互い他のメンバーのどういうところがヤバいと思っていますか?
OHZKEY : 自分からみんなを紹介させてもらうと、まずMENEW君はとにかくめちゃくちゃラップが上手い。普通に全国で通用するレベルだと思います。スキルフルだし、リリックもちゃんと内容があって伝えたいことが明確かつリリカルで。海外の影響を強く感じる引き出しの多いフロウも強みだなと思います。
Vanity.K君は、タイトな韻のラップもできる上に、歌も普通に上手いんで、今風って言ったらあれですけど、オートチューンでメロウなビートのアプローチもできたり多彩なスキルの持ち主だなと思います。
Oichi君は音に対する勘がすごく鋭くて、彼は多分無意識でやってるかもしれないんですけど、心地よいフロウを自然にできたり、リスナーが深読みできるような絶妙な日本語の伝え方、リリックの書き方に長けているんです。小説を読んでいるかのような情報量の多いかっこいいラップをするなと思います。
Vanity.K : じゃあOHZKEY君については俺から言います。普通、韻を踏んでたらある程度リズムが単調になってきたりするんですけど、OHZKEY君はフロウがグニャグニャな中に韻をばばばって入れてたり、ネットリした変則的なフロウにみんなが気付かないような韻を入れるのがすごくて。そういう部分が彼ならではだと思います。
Oichi : こんな風にみんながみんなそれぞれ強みがあって、お互い補い合って俺らにしかできないものが生まれてるのかなと。
共演したいラッパー / シーンへの思い / 今後の展望
——今高校卒業を控えていて、それぞれ進路があると思うんですけどこれからの活動はどうなっていくんでしょうか?
OHZKEY : 今よりももっと音楽に重きを置けるようになると思います。
Vanity.K : 誰かが沖縄を離れるとかも今のところ無いんで、未成年じゃなくなったらもっと活動の幅が広がると思います。2021年の目標としては、まずは沖縄県外でライブをしたいなと。
Oichi : ライブでも忙しくなりたいよね。
XF MENEW : そうだよね。まずは自分たちのスキルをもっと磨いて、またそこから何ができるかっていう。
Oichi : 最終的にはそれぞれでソロ作をリリースをできるようになりたいし、それで生活できるまでになれたらいいなっていう感じですね。クルーはクルーでちゃんと続きつつ。
Vanity.K : それでいうとほんと604のみなさんは理想というか。本当にすごいと思います。
——これから一緒に共演したいラッパーとかいますか?
XF MENEW : 僕はSANTAWORLDVIEWさんや、さっき言ったAKLOさんですね。
Vanity.K : 世代が近いところだとNormcore Boyzさんは面白いことやってるなと思うので、いつか一緒にできたらなと思ったり。
Oichi : あとはもちろん沖縄のラッパーの先輩みなさん全てですね。
——ちょっと話は変わりますが、今クルーの中で流行ってることとかありますか?
Vanity.K : それがみんな趣味や好きなことがバラバラ過ぎて(笑)。
Oichi : ドライブくらいかな(笑)。
OHZKEY : 自分が免許持ってるんで、車出してそれぞれ好きな曲を爆音でかけてみたいな。みんな音楽の趣味が違うんで、そのドライブは音楽を共有しあえるけっこう大事な時間になってるかもしれないです。
——ちなみに高校生のみんなにとってブーンバップのビートを新鮮に感じたりする?
Vanity.K : 普通に王道って感じですね。
OHZKEY : 自分もそうで、昔からヒップホップといえばっていうブーンバップ聴いてきましたし、でも新しいのも全然聴くし。そういう多様性もヒップホップの面白いところだなと思います。
——じゃあ今後はSugLawd FamiliarでMENEW君が得意なトラップのリリースもある?
XF MENEW : トラップはまだこの4人でやったことないんで、どんな感じになるか分からないんですけど、それはそれで新しい挑戦になると思います。
Vanity.K : SoundCloudにはMENEW君のソロ曲が上がってるんでぜひチェックしてほしいです。
——みんなの目には今の音楽シーンはどう映ってますか?
OHZKEY : まぁ良くも悪くもヒップホップ流行ってますよね。正直、TikTokが普及しすぎてて、ちょっと前だったら絶対ヒップホップに触れていなかっただろう世代や層もヒップホップって言ってるし。で、そういう中で恋愛とかがテーマのが流行ってんなぁ、っていう感じで見てます。
——SugLawd Familiarはそこに一石を投じてる感じがありますよね。
Vanity.K : TikTokで流行った曲があったとして、それをTikTokで流行ったから聴かないっていう風潮も嫌いで。
Oichi : 本当にかっこいい曲が埋もれてしまっていると思いますね。
OHZKEY : だからそういう色んな風潮がある中で、俺らみたいのもいるっていうのを伝えていきたいですね。
——今後の具体的な予定を教えてください。
Vanity.K : 2月後半か3月アタマにもアルバムを出せたらなと思ってて。やっぱ「Longiness」だけじゃないってのがあって、俺らの他の曲もちゃんと聴いてもらいたいくて。「Longiness」では自分とOHZKEY君しかラップしてないけど、Oichi君とMENEW君もヤバイよってのをみんなに知ってもらいたいです。
OHZKEY : あとリリックをちゃんと聴いてほしいなと思います。リリックには自分たちの魂を書き込んでるんで、リスナーにはそこにもぜひ注目してもらいたいです。
SugLawd Familiar
OHZKEY
Oichi
Vanity.K
XF MENEW
caster mild