2019.5.22
昨年11月にリリースした1stアルバム『PLAYGROUND』からわずか半年のスパンで、早くも2ndアルバム『Detox』を発表したMom。 “ラッパーでもバンドマンでもない” スタンスでコンスタントに作品を作り続け、ヒップホップを軸にしながら、“違和感” を伴ったオルタナティブなサウンドで独自のスタイルを貫き続けている。歌と自身の内面にフォーカスしたという新作について、どこまでも “音作り” にこだわるMomに話を聞いた。
前作の手応え
——昨年11月に1stアルバム『PLAYGROUND』をリリースされましたが、その手応えはいかがでしたか?
自分が思っていたような手応えが実はあまりなくて。というのも、前作では自分としてはけっこう尖った表現や要素をたくさん入れたつもりだったんですけど、そういった評価よりも、普通にポップな面でとらえられた感じがあったんです。それが、ショックとまではいかないんですけど、意外だったなと。だから、次の作品を早く作りたいっていう気持ちにすぐなりました。
——それは以前から言われていた “ヘンテコ感” が伝わらなかったという?
ですね。僕が表現したい “違和感” がまだあまり伝えきれていないと思いました。自分が意図したように違和感を感じてもらえるハードルは、思ってるよりも数倍高いんだなっていうのを実感しました。
——『PLAYGROUND』をリリース後には、AppleのWeb広告にも起用されていましたが。
あれは身内がとにかく喜びました(笑)。ただ、広告出演の件で感じたのは、自分のやってることを面白がってくれてる人も少なからずいるんだなっていうこと。こういうスタイルで全然やっていいんだ、間違ってないんだっていうのは思いました。
Macの向こうから — Mom
より内面を表現した新作『Detox』
——そういった流れがあった上で作られた2ndアルバム『Detox』ですが、コンセプトやテーマというのは?
コンセプトは 「健康になりたい」 です(笑)。デトックスっていうのは後付けなんですけど、1stを出して自分の伝えたいことが上手く伝えられなくてめっちゃヘコんでたんです。基本的にはドライな人間なんであまり落ち込むことはないんですけど、だからこそ、そうやってへコんでる状態の自分がイヤ過ぎて。「こんな状況、早く脱しないと!」と思って。そういう感情が今作のモチベーションになりました。前作の『PLAYGROUND』までは、パーソナルな部分と表現することにあえて距離をつくって、いったん物語を構築して後から自分の意思を介在させていくスタイルだったんですけど、今回は内省的な部分をそのまま表現しようっていう意識で作りました。ちょっと私小説的というか。
H o w T o ” D e t o x ” S i m p l y
——よりストレートに内面をさらけ出せるようになった?
僕はいちリスナーとして音楽を聴く時、歌う人の自意識みたいなものがけっこう気になる方なんですよね。だからこそ、歌う人間として成熟していたいなと思ってて。優れたシンガーは自分の事を歌っていたとしても、別にこっちも恥ずかしくならないじゃないですか。パーソナルな部分を出しても、受け取る側に「これはちょっとキツイな」って感じさせないのは、多分表現者の技量によるところが大きいんですよね。これまではそういった部分がまだまだ青かったと思うし、次にいくには、自分の内省的な面を歌うっていうことを今このタイミングでしなきゃいけないのかなって。青い、ドライなまんまではもういられないなっていう、そういう気持ちの変化の時期なのかもしれない。
——アーティストとしての成長?
そう願いたいですね(笑)。
——先行リリースには、「Boys and Girls」と「ひみつのふたり」などが選ばれていますが、これらにした理由は?
「Boys and Girls」は今回のアルバムで初期段階にできた曲で、自分が言いたいことをダイレクトに歌っている曲でもあるので、新作のコンセプトやスタンスを伝えるのにはちょうどいいなと思って選びました。曲自体キャッチーですし、キャッチーさで言えば「ひみつのふたり」も特にそうだと思うんで。
Mom / Boys and Girls
Mom / ひみつのふたり
——今作で、特にこだわった曲はありますか?
あえて言うなら「シングストリート」ですかね。さっき言ったみたいに、ちょうどこのアルバムを作ってる時期って精神的に参ってたんですけど、その時、昔の自分や昔好きだったもの、人、色んなものに思いを馳せてみたんです。落ち込んでる自分の気持ちを整理する上で、改めて色んな物事を振り返って、じっくり考えることが大事なのかもしれないって。
その中で、すごく影響を受けたヒップホップとの出会いや、これからヒップホップとどう付き合っていくか、ヒップホップを軸に自分の移り変わりに思いを巡らせて作ったのが「シングストリート」で。曲としてはラブソングみたいな体裁をとってはいるんですけど。
——影響を受けたというChance The Rapperのことを考えたり?
Chanceのことはめっちゃ思い浮かべました(笑)。ヒップホップへの愛を歌ってます。
——今回15曲と多めの曲数ですが、作品としてバラエティ感は意識しましたか?
いえ、あまり意識しませんでした。前作は色んな切り口で自分の音楽を表現できたらなっていうのはありましたけど。今回は、もうとりあえず自分の好きなテクスチャーをどんどん詰め込んだっていう。好きなようにやった結果としてバラエティ豊かになってるだけで。
——例えば「卒業」は童謡の要素があったり、「スーパースター」はTrapサウンド、「Good Thinking」ではシューゲイズテイストがあったり、いつもMomさんの引き出しの多さに驚かされますが、今作はどういったところからインスピレーションを得ましたか?
これといったものはなくて、作ることに完全に入り込んで衝動的に作ってる部分が大きかったです。けっこう勢いっていうか。だから逆に、トレンドの最先端とか、今の海外アーティストと時差のないことをやろうっていう意識はいったん置いておこうと。「最先端なことやるぞ!」っていう意識は、今回歌を歌う上ですごい邪魔だと感じたんです。とにかく歌が魅力的なアルバムを作りたかったので。
——曲の一番最初のアイデア、ベースの部分はどのように作られていますか?
もともとギター主体に曲作りをするので、曲にもよりますけど、ギターから作る曲が多いです。ギターで作る曲がなんか好きなんですよね。すごく人間味がある気がして。
そこから、曲のアイデアやトラックのイメージと、詞のテーマが別々にあって、その2つが合致した時に仕上げていくパターンが多いです。
——ちなみにアコギで作るんですか?
いえ、エレキでヘッドフォンしてシャカシャカ弾いてみたいな。ビートが先にあってギターを弾くこともあります。
——ヒップホップというスタイルがベースにあった上で、ギターがあるオルタナ感って、最先端を意識しなくても自然とトレンドと重なっているのが、やはりアーティストとしての世代を感じます。
たしかにSteve Lacyとかもそうだし。ただ、Trapなリズムとか、インディーR&B的な浮遊感とか、もう今の時代には当たり前に常にあるものなので、その辺に関して、どう取り入れようとか、どうアプローチしようとか、そういったことを考えなくても自然と染み付いてる感覚はあります。だからこそ、新しいことをやろうっていう意識も一旦外しといてもいいかなっていう。
——Momさんはヒップホップだけど、歌もあるということで、トップラインはどうやって作っていますか?
直感ですかね。もともと専門的な音楽理論に基づいて作るタイプじゃないので、ギター弾きながら音を探していく感じです。
——1曲作るのにだいたいどれぐらいかかりますか?
家で歌録りまで全部やってるんですけど、早ければ本当に1〜2日でできちゃうのもあります。長い間温める場合もありますけど、制作のスピード感はあると思います。わりと多作な方だと思うし。
——長い間温めると言えば、以前のデモに入っていた「Mr.Lonely」が今回収録されていますね。
そうですね。昔の自分に思いを馳せる曲もあっていいかなと。その上で未来を見据えるという。新しい曲だけで、自分の言いたいことだけ言ってるのもちょっと寂しいなと思って。未来に対してウキウキしたいっていう気持ちもあったんで。「ひみつのふたり」にもそういう要素があると思います。
音作りへの飽くなき探求心
——今回、音の質感、音作りの面ではどういうところをこだわりましたか?
今回もミックスまで自分でやりました。だから、音のバランスは最初マスタリング・エンジニアさんを困らせちゃうぐらいメチャクチャだったかも(笑)。マスタリングは、kimken studioのキムケンさんにお願いしたんですけど、かなりバキバキにしていただきました。
具体的に曲の音に関して言えば、例えば1曲目の「Spike Jonze」はボーカルマイクを使って、ギターと歌を一緒に録りました。ボーカルも一緒にギター用のプリセットで鳴らして。「シングストリート」も同じような方法で録ってます。
オートチューンをかけてる曲は、スマホのオートチューンアプリで歌って録りました。あと環境音はけっこう入れましたね。街の音とか、新幹線の車内アナウンスとか、スマホのボイスメモで録ったやつをほとんど気付かないぐらいの音で奥行きを出す程度にして、箇所箇所に入れました。そういう普段から面白いなってアンテナにひっかかった音は、何に使うかとかは考えずにとりあえず録りためてます。
他にも色々ヘンなことやってるんですけど、やりすぎて思い出せないですね。よくカタチにできたなっていうぐらい(笑)。
——そういう試みは偶発的に思いつきますか?
というより、1つずつ試してます。だから、普段から音楽聴いてて、「この音どうやって出してんだろう?」とかはけっこう気になりますし、自分もそういう風に思われる音楽を作りたくて。「これどうやってんだろう?」みたいな。そういった興味をそそる音楽を作りたくて、色々実験しています。
——ストリーミングかつスマホで聴かれるリスニング環境も前提に音作りをしていますか?
音の質感に関してはこだわりますけど、いわゆる一般的な音質が良い悪いに関してはあまり頓着していないかもしれないです。専門的に数値がどうこうより、音を聴いて自分がOKかどうかっていう判断だけで。それよりも、やっぱり「音として面白い」っていうことにこだわってます。
音楽が聴かれる環境に関していえば、ストリーミングで聴かれることも考えて、1曲の尺を短くしたほうがいいんだろうなっていうのはなんとなくありましたけど、結果言いたいことが多すぎて尺が長くなるっていう(笑)。ストリーミングっていうフォーマットを意識しすぎることで、削がれる作品の良さもあると思うので。
——制作環境は引き続きGarageBandですか?
はい、そうです。やっぱりその時の鮮度と熱量を持って、そのままクリエイティブを作りたいっていうのをかなえるにはGarageBandが最適なので。多分僕はGarageBandの限界まで駆使してると思います(笑)。決められた範囲で工夫するのが大好きなんで、GarageBandは自分のそういう特性にもすごくあってると思います。
“おしゃれ” はつまらない
——少し話は変わりますが、先日Baticaで本作のリスニングパーティーを開催されましたね。
ノリで企画したんですけど、単純にこのアルバムを聴いてる人の反応を直接見たい、肌で感じたいなと。ライブじゃないカタチで、リスナーの反応に直で接する機会があっていいのかなって思いました。あとBaticaっていうハコ自体も大好きなんで。
——Momさんのライブの際、DJをDJ nasthugさんがやられているときもありますが、どういうつながりなんですか?
なにかのライブイベントに出た時に、彼女が僕のことをたまたま知ってくれてて。話かけてくれて、仲良くなってそのままお願いしました。気のいいギャルですね(笑)。キャラクターがめちゃめちゃ良くて。ライブの映像見返したら僕より踊ってたりするんですよ(笑)。
——ライブをするにあたって興味のあるシーンはありますか?
そこはこだわらずに、機会をもらえるならどこでもっていう感じです。曖昧なポジションにいるのが今の自分らしさだとも思うので。
——アーティストとしての活動のスタンスの面では、どういうことを意識されていますか?
とにかく広く聴いてもらいたいっていう意識が昔からすごくあって。やっぱり、音楽は広く聴かれてなんぼでしょって。ただ、音楽やアートワークとか、クリエイティブ、企画に関して考えるのはすごい好きなんですけど、それ以外のメールのやりとりとか、作業とか、これまで自分で管理してきたんですけど、それは本当にもう苦痛です(笑)。
——誰にでも音楽を届けられる時代ですが、海外へのアプローチは現時点でいかがでしょうか?
そういうのをバンバンやっていきたいんですけど、今の時点で、そこに対してクレバーに戦略的にアプローチするのはまだ違うのかなっていうか。
——苦痛なところだから?
いや、それは多分楽しいんですよ。ただ、自分の音楽は日本でさえまだ根づいてないし。日本語でやってる部分もあるし、まずは日本の方々にちゃんと伝わるものを作って、そこから自然な流れで海外を視野に入れていければいいのかなって。やってる音楽の自信はすごいあるので自然に移行できたらなって思いますけど、今はまだ違うなと考えてます。
——音楽活動をされていて、現状で打開していきたいことや思うことなどはありますか?
悩みではないんですけど、なんか今のおしゃれとされているものが、すごいつまらないなって最近感じてます。今一番簡単に作れるのって、おしゃれなものなんですよ。音楽でもそうだし、アートワークにしてもそう。だいたいもう決まったカタチ、テンプレートがあるじゃないですか。ここにこういう色でその上に写真のっけて、そしたらそれなりの人に見られて、それなりの人に届いてみたいな。ある程度決まったカタチがあって、それになぞらえて作っただけのおしゃれなものっていうのがけっこうあるなって。
特に若い世代は、すぐ吸収して吐き出すっていう土台がもうInstagramやTwitter、SoundCloudにあって、スピード感もすごいし。ただ、作ったものがめちゃくちゃ尖ってて、それが結果としておしゃれだと思ってくれる人がいたらそれはいいと思うんですけど、誰でも作れるものは作りたくないなと。今の子はとても器用だから、おしゃれの運動神経は本当にすごいと思うんです。だけど、もうちょい人間味があってもいいのかなって。その人のパーソナルな面を見たいのに、それがおしゃれっていう表現やテンプレートで殺されてる状況があるんじゃないかと感じてます。音楽でも、もっと本質的なところ、そういうとこに目を向けたい。それは歌心においてもそうだと思うし。
——そういう中に、Momさんは違和感を投じていきたいと。
そうですね、とことんヘンにしていきたっていうか。
——今後の活動については?
リッチになることは念頭におきつつも、しばらくは着飾らずにちゃんと身の丈にあったクリエイティブ、自分が表現したいことを正直に発信していきたいなと思います。身の程はわきまえつつ。とりあえず今はおしゃれがつまんないっていう、そこが一番モヤモヤしてるかな(笑)。
Mom自身による『Detox』収録曲の紹介 on Twitter
『Detox』のリリースが直前に迫ってきました。少しずつですが、自己分析も兼ねて収録曲の紹介をしていきたいと思います。15曲もあるので骨が折れそうですが👨🏻💻 pic.twitter.com/pNNp7rjp21
— Mom(マム) (@karibe_mom) 2019年5月19日
Mom
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