ガトリングチューン インタビュー | 【ボカロ × ストリーミング】で海外へ発信
以前から海外ストリーミングサービスで注目を集めていたSpotifyでいち早くヒットを飛ばし、今回、新作『ボカロのダンスカーニバル feat. 初音ミク』をリリースするガトリングチューン総合プロデューサー加藤さんに「ボカロ」、「Spotify」と言うキーワードでお話を伺いました。今回のインタビューでは、気になる「Spotifyへの見解とアプローチ」と「日本から生まれたボーカロイド楽曲を海外へ」という2面から、ボカロ楽曲を海外発信しているガトリングチューン総合プロデューサー加藤さんに迫ります。
——ガトリングチューン総合プロデューサーである加藤さんは、Spotifyについて、どのような印象をお持ちですか?
Spotify は去年ドイツに旅行した時にドイツ人の友達が使っていて知ったんですが、本当に驚きました。洋楽であれば、著名なアーティストの曲はほとんど聴けるんですね。「これは魔法か!」と(笑)。iTunesなどのダウンロード販売がCDのように世の中で完全に主流にならない理由にファイル共有が指摘されてますよね。ネットでがんばって探したり、友達からコピーさせてもらえれば、お金出して買うのとまったく同じものが手に入ってしまう。
それは違法だったりするんですが、その行為が重大な犯罪だとリスナーに教育することも音楽業界はできなかった。そしてYouTube やニコニコ動画。たいして売り上げは立たないのに、音楽を聴いてもらうため、手間暇かけて動画をつくる必要が出てきた。
その中で、このSpotifyは音楽を公平にリスナーに聞いてもらうための最終兵器という感じはしますね。Spotifyの宣伝になってしまいますが(笑)。アプリケーションもよくできていて、すごく無駄が省かれています。無料会員だと宣伝が出てきてしまいますが、それもそんなに嫌味ではないんですよね。本当に純粋に音楽だけを楽しむものという印象です。
——サービスについて好意的な印象を持たれているのですね。
問題なのはアーティストに支払われる利益ですよね。ただ興味深いことに、そのドイツ人の友達がSpotifyで気に入った曲はiTunesで買うというんですよ。「え?どうして?」と聞くと、「わからない。でもたぶん所有したいからかな?」と言うんです。「へー、ドイツ人でも所有願望あるんだなー」と(笑)。まあ彼女の理由は数ある理由の1つだと思うんですが、いろいろと制限があるSpotify は1つでシェアを独占するものではなく、ダウンロード販売やCDと並列で扱われるものなのかもなと。
それで、去年僕たちがiTunes限定でリリースした『ボカロのパレード feat. 初音ミク』も海外のリスナーの評判がよかったので、参加ボカロPさん達にOKをもらってSpotifyにアップしたんです。やはりというか、配信開始から半年して落ちかけていたダウンロード数が、再び上向いたんですね(笑)。右肩下がりが普通だと思うので、やはりSpotifyで発見してiTunes で買ってくれるリスナーは多いのだと思います。
ボカロのパレード feat. 初音ミク 試聴用プレイヤー
——DL数がストリーミングになんかしら影響を受けているのは興味深いですね。お互いに干渉しないんだという。ちなみに肌感覚として、ストリーミングに出す前と出した後で、DLや評判など何%くらいアップしたと感じるのでしょう?
40%くらいはアップしたような気がしますね。
——これはひとつの尺度になりそうです。”楽曲が発見される”ということが大切になってくるのでしょうか。次にボカロコンピ制作についてお伺いしたいのですが、これはどのように企画・進行しているのでしょうか?
僕はボーカロイド音楽が大好きで、ニコニコ動画初期からチェックしてきたボカロマニアなんですが(笑)、自分でボーカロイドの曲をつくろうとは思ってなかったんです。完全にファンですね。大学に行きつつ曲をつくったりバンドをやったりアイドルの楽曲のアレンジをしたりと音楽は続けていたんですが、その縁で知り合った、すご腕のプロエンジニアである渡辺紀明さんに、「ボーカロイドってのあるんですよ」、と何曲か聴いていただいたんです。
渡辺さんはスポーツカーで50Centやスヌープドックなどのギャングスタラップ()を爆音で聴いていたり、ボカロとは縁がなさそうな方なんですが(笑)、新しいサウンドにはすごく鋭いんです。その方が、「なにこれ?すごいね!面白いね」と。
——幅広いアンテナをお持ちなんですね。
それで「他にも色々聞かせてよ」と言うので、自分が好きなボカロの曲を聴いてもらったんですね。その中には再生回数がすごく少ない曲もありました。ただ渡辺さんは音楽を動画で見たりしない方なんで、耳だけで判断して、「こんないい曲無料で聞けるのに再生回数少ないのもったいないね」、「これ加藤君がまとめて世の中に出したら?」と言ってくれたんです。「そうか!それは面白い」と思いましたね。もうそれは僕の世の中に対する義務だと(笑)。言うなれば稲妻が走ったんです。
それからはボーカロイドの使用許可をとったり、また渡辺さんのご縁でおととしお亡くなりになった桜塚やっくんの遺したバンド美女♂men Zからギターのなつきさんとキーボードの透chさんにもボカロPとして参加していただいたり。そしてなんとかリリースにこぎつけたという感じです。
——そのようなストーリーがあったんですね。いずれにせよ、渡辺さんがキッカケだったと。こういった企画コンピによって、埋もれていたというと語弊があるかもしれませんが、それまで見つかりづらかった楽曲を“表に出す”という動きは大変素晴らしいと思います。他の音楽ジャンルでも参考になる動きかなと。ちなみに、ボカロが世界でもっと人気がでるにはどうしたらいいだろうという点で、着々と海外での認知度は上がってきてはいると思うのですが、このようなリリースを企画しているガトリングチューン加藤さんの意見をお聞きしたいです。
僕が17才の時にアメリカを旅行した時の体験なんですが、アメリカってストリートミュージシャンとかもうめちゃくちゃ上手いんですよ。みんな「プロなの?」みたいな(笑)。ニューヨークなんて地下鉄の車両内でサックスを吹いてる方とかいて本当にびっくりしました。駅じゃないですよ、車両の中で(笑)。これが下手だったら乗客は地獄なんですが、まあ上手。その中にはどんどん新しい事をやってるミュージシャンもたくさんいて、フリーセッションとかも盛んに行われていました。フリースタイルのラッパーもたくさん見ましたね。
——私もニューヨークに初めて行った時、ストリートパフォーマーのクオリティには驚きました。
それで何が言いたいかというと、本当の意味で音楽がストリートから生み出されていると感じたんです。すごく根付いてるんですよね。対するJ-POPはやれ洋楽の猿真似だと当時はまだ馬鹿にされていたように思います。日本だとプロの作家さんたちが参考にするのが海外で既に売れて評価されている音楽だったりするので。元ネタを知っているリスナーから見ればほとんどコピー同然だった。ただ2000年くらいからそれがかなり変わってきたんですよ。
——やはりインターネットが爆発的に広がってきたことが原因でしょうか?
オタク文化など、それまでダサいとされてきた日本独自の文化が日本でメインストリームになっていき、その中からアニメを中心に面白いものがたくさん世界に出て行った。それで軽い日本ブームがあったんですよね。アメリカで。「Japan is cool!」みたいな。
何が言いたいかと言うと、ボーカロイドは日本人ミュージシャンが洋楽の猿真似だとか長い間言われ続けてきた中で生み出された、日本オリジナルの歌手であり、日本が世界に誇るべきアートなんです。すでに日本文化が好きな外国人の方は沢山いるので、ボカロPはどんどん自分のやりたい音楽をやっていけばよいと思います。僕は一発で流れを変えるようなホームランを狙うつもりはありません。オリジナリティーのあるものを作り続けていけば、ボーカロイドの海外での認知度はこれからも上がっていくんじゃないでしょうか。
——日本の文化からの考察、すごく参考になります。以前、artistcrowdでコンペ募集しているのを見かけたのですが、こういった活動は前からされていたのでしょうか?インターネットサービスを利用した活動というか。
これもありがたいことに渡辺さんのご縁で一般のソングライターの方に向けて楽曲コンペをやるというお話をいただいたんです。不肖ながら自分が選曲させていただきました。美女♂men Zのなつきさんと透chさんも元々ボカロPではないですし、ボーカロイドを愛する一般ミュージシャンの方に参加してもらっているのが僕らのアルバムの特徴ですね。
——Spotifyへの配信で他の数字も上がったというお話がありましたが、では、ポップス・ボカロも含め日本での一般層の聴き方はどうなっていくと思いますか?
音楽を耳で聴くというのはまだ変わらないとは思うんですが(笑)。聴き方、聴くための手段という意味ではどうなっていくんでしょうね。5年後にはストリーミングが完全に主流になっていると思うんですが。でもまだまだSteve Jobs のように世の中を変えていくアイデアを持った天才はどんどん出てくると思いますし、僕の頭では想像もつかない、ストリーミングの後の世界が待っているかもしれません。もともと人類は音楽を記録する術を持たなかった。音楽の聴く方法は「誰かが生で演奏したものを聴く」という方法しかなかった。それがたったここ140年とかでアナログレコード、CD、デジタルファイルと急激に進化してきた。具体的にはわかりませんが、過去を振り返ると今後も急激に変化していくのは間違いないと考えています。
——また、今回配信が開始された『ボカロのダンスカーニバル feat. 初音ミク』について、今作の仕上がりはいかがですか?
今回も最高の楽曲が32曲もそろってます。また今回は前回と同様アメリカやギリシャのボカロPに加え、インドネシアやフィリピンのボカロPも参加してくれています。彼、彼女らの感覚のボカロ曲すごいですよ。ぜひ聴いてみてください!
——海外のボカロPが多数参加されているということで、日本とは違った感覚がまた面白そうです。ちなみにどこの国出身のPが参加されているのでしょう?
フィリピン、マレーシア、インドネシア、ギリシャ、アメリカです。apolPの曲、「Pseudoism」と「My Baby」は最強のボカロEDMだと思いますよ。ビートが無茶苦茶かっこいい。MJQ/ShinRaの曲、「Dream Guy」は、「これ本当にボカロなの?」と見事な英語調教が聴けますね。それ以外の海外P達の曲も本当に個性的ですよ。
——国際的ですね。近隣国で作品を出せるというのは素晴らしい。では最後にガトリングチューン加藤さんの今後の活動について、一言お願いします。
正直、いまは今回のボカロのダンスカーニバルの制作で憔悴しきっていますね(笑)。現在はこれを超える作品なんて想像もできませんが、少し充電したら、またとんでもないものを世の中のため投下していきたいと考えています。
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