ZOT on the WAVEインタビュー シーンを代表するプロデューサー/ビートメイカーがそのバックグラウンドからスタイル、スタンス、そして国内ビートメイカーのポジションを語る

インタビュー
2019.10.23
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【ロングインタビュー】ZOT on the WAVE ― シーンを代表するプロデューサー/ビートメイカー「」

随時更新される音楽配信ストアのチャート、特にヒップホップジャンルにおいて、関わった楽曲が常に上位へランクイン、世を賑わすアーティストへアクティブに楽曲提供/プロデュースしている ZOT on the WAVE

一聴しただけで、ZOT on the WAVEだと分かる特徴的なサウンドとクオリティ、そしてそのパーソナリティも含め、アーティストから絶大な信頼を寄せられている。

所属するFLY BOYのアーティスト(KOWICHI、DJ TY-KOH、Young Hastleら)をはじめ、飛ぶ鳥を落とす勢いのBAD HOPや若手実力派のNormcore Boyz、ERASER、OZworld a.k.a R’kuma、¥ellow Bucks、GOBLIN LAND、Y’S、そして盟友 Lil’Yukichiとの共作(KEIJU、JP THE WAVY&RIRI 他)など、数え上げればキリがないほど多くの楽曲を提供・プロデュースしている。そんなZOT on the WAVEに、自らのバックグラウンド、ビートメイクの環境とそのスタイル、音楽を作る上での考え方、そして、海外とはまだ状況が異なる国内ビートメイカーのポジションについて話を聞いた。

 

ビートメイクをはじめるまで

——ZOT on the WAVE(以下、ZOT)さんは宇都宮のご出身ということなのですが、元々はR&Bシンガーだったんですよね?

もともとはそうですね。いくつくらいだろう… 16歳くらいかな。その時にF.O.Hとか、その辺がすごい好きで。中学からの同級生と「ちょっと歌やってみようか」みたいなノリでボーカルグループ作って。俺らの世代って最初ラップから入るのがあるあるじゃないですか。同じ中学でもラップやり始めるヤツが15人以上いたりして、なんか同じことやってもつまんねぇなと(笑)。じゃあ俺は歌をやってみようって思って。でも、それまで歌ったこととかなかったんで、高校の時にボイトレに通ったりしましたね。宇都宮にある、ネットで適当に調べて出てきたとこに(笑)。

——けっこうアクティブに活動していたんですか?

いえ、全然ですね。ライブしたのも2、3回とかで。曲もオリジナルってわけじゃなくて、インストをレコードから引っ張ってきて(笑)。でもリリックは書いてました。

——それはどれぐらい活動されていたんですか?

めちゃくちゃ短いですよ。高校2、3年ぐらいまでだったと思います。

——どんな学生でしたか?

サッカーをずっとやってたんですよ。小学校一年生の頃から中学卒業するくらいまで。けっこう真剣にやってて、県の選抜で海外に行ったり。だから、何か楽器が弾けるとかそんなんもないし、家庭環境も特に音楽に関係あるっていう感じでもなくて。

——不良だった?

まぁいわゆるマセてる感じの(笑)。スケボー乗って、学校にラジカセ持って行って的な。ナードな感じではなかったですね。中学からはもう完全にブラックミュージックに興味があって。Mixを買ったり、そういう情報が集まる服屋に行って色々教えてもらったりして。だから、音楽自体は中学校一年のころから好きになっていきましたね。

——宇都宮だと、UC84のみなさんとかは同じ年代なんですか?

UC84は4つ上でRYUUKI(DJ RYUUKI)さんと同じ世代ですね、隣の中学で。サトシさんとかも。

——DJ LAWさんも?

LAWさんも隣の中学でした。

——当時のZOTさんが活動していたまわりの宇都宮の音楽シーンはどんな感じでしたか?

当時の地元の音楽シーンは、ウェッサイとアングラの二極だったんですよね。自分はどちらかというとアングラの方のイベントに出ていたって感じで。時雨、東ヨットスクールのイベントに出させてもらったり。

——高校を卒業してからも歌は続けられていたんですか?

はい、働きながらソロでシンガーをやり始めて、ローランドのFantomっていうシンセを買ってビートも遊びで作ったりしてて。なので、ビートを作るっていうこと自体を始めたのは10代後半ぐらいからですね。

その後、RYUUKIさんが経営してる宇都宮のスタジオを使わせてもらった時に、RYUUKIさんがハードの機材で作るより絶対PCで作ったほうがいいよってDTMについて色々教えてくれて、そこから本格的に作り始めました。

 

ターニングポイントとなったKOWICHIとの出会い

——最初に楽曲を提供したのはKOWICHIさんですか?

そうですね。25歳の時かな。外部に楽曲を提供したのはその時が初めてでした。

——KOWICHIさんと知り合ったきっかけは?

RYUUKIさんって若い頃横浜で活動してて、そのつながりで昔からKOWICHIさんとは友達だったらしくて。それからRYUUKIさんは宇都宮に戻ってきたんですけど、今度はKOWICHIさんが宇都宮に遊びに来る機会があって、その時に紹介していただいたんです。たしか最初にお会いした時もデモを渡したんですけど、それは刺さらなかったみたいで(笑)。その後、ヒップホップイベントの「CROSS ROAD」の時に沢山ビート持って行って、KOWICHIさんに「最近こんなの作ってんすよ!」ってその場でヘッドホンで聴いてもらったら「超いいじゃん!」ってなって。

——それは、今考えると大きなターニングポイントだったのかもしれないですね。

そうですね、自分のキャリアにとってかなり大きな出来事だったと思います。それがなかったら本当に今何やってたか(笑)。

——最初KOWICHIさんはZOTさんのビートのどういうところを気に入られたんでしょうか?

俺はトレンドな感じのビートが好きで、ちょうどKOWICHIさんもそういうのを求めていたっぽくて、そこがガチっとフィールしたのかなって。海外でもがっつりトラップのアーティストが出始めた時で、俺もタイムラグない感じでテイスト効かしてたんで。トラップやラチェット、ニューウェッサイの感じ。当時、自分が知る限り他にそういうの作ってる人はあんまりいなかったし、それが良かったのかな。

——それはまだZOTさんが拠点を川崎に移す前ですか?

ですね。その一番最初にKOWICHIさんと仕事した曲が「ROLL UP feat. KUTS DA COYOTE」。俺がラップのメロディだけ仮歌を入れて提案したり、そういうディレクションもさせてもらいながら、どういうメロディがいいかを試行錯誤して。それからしばらく2年近くはSkypeで毎日やりとりする感じでした。

KOWICHI – ROLL UP feat. KUTS DA COYOTE

 
——すでにその頃からディレクション含めてのアプローチですね。

なんでそんな風にできたかっていうと、当時は普段から宇都宮の仲間のクルーにビートを作るだけじゃなくて、ラップのディレクションもずっとやってたんですよ。だから、同じようなアプローチでKOWICHIさんともやってみたら、いい感じにできたっていうか。

——しかも仮歌で歌が歌える強みもあると。

たしかに(笑)。その辺に関しては、やっぱ歌やってて良かったなって思います。

——その頃は他に普通に仕事もしながら?

普通に正社員として働いてたんで、仕事して夜帰ってきてから音楽やってっていう時期ですね。

——ちなみにどういったお仕事をされていたんですか?

その時は飛行機部品のアルミを加工する仕事をしてました。6年間ぐらい、完全に町工場的なノリのところで(笑)。

——その後KOWICHIさんに誘われて川崎に移ると。

はい。27歳の時なんで、3〜4年前ぐらいかな。

——環境が変わる不安とかはなかったですか?

正直、最初誘われた時は「どうすっかな…」っていうのは若干ありましたね。当時長く付き合ってた彼女もいたし、20代も半ば過ぎて上京するってなると、やっぱめちゃめちゃ反対もされて。でも、「すまねぇ」って別れて(苦笑)。あと、ずっと実家だったんで。その辺の一般的な不安はありましたね。「ちゃんと生活できんのかな?」って(笑)。

一方で、音楽に関しては全然不安は無くて、絶対いけるって思ってたし。だから、ちょっと出てみようかって。

——聞くところによると、その際生活に関してもKOWICHIさんが「全部面倒見るから」と言われたとか。

いやもう、住むところ含めてそうですね。全部用意するからって言われて、引っ越しの時にはじめて「あ、ここに住むのか!」って知って(笑)。あと、引っ越してすぐはやっぱり音楽だけでは食べれなかったんで仕事も紹介してもらったり。

——そしてFLY BOYの立ち上げにつながっていくと。DJ TY-KOHさん、Young Hastleさんとは以前から面識があったんですか?

こっちに出てくる前からヤンハスさんには楽曲提供していたんですけど、それも最初はやっぱりKOWICHIさん経由ですね。FLY BOYに関しては、引っ越したその日にKOWICHIさんが迎えに来てくれて、そのまま一緒に川崎のDIAMOND NUTZさんがやっているBIG BLAZEスタジオに行って、「今日からFLY BOYだから」ってKOWICHIさんに言われて。

——いきなり?

本当にその一言でしたね。「あ、今日からFLY BOYなんだな」って(笑)。だからその日がFLY BOY結成の日なのかな。「4人(KOWICHI、DJ TY-KOH、Young Hastle、ZOT on the WAVE)と、チッタワークスの田辺とRILY MAFFIA、このメンバーで今日からやるから」って。

——なんだかZOTさんで最後のピースが揃った感じですね。突然言われてどう思いました?

普通に「えっ!」て思いました、「今日からなの? 」って(笑)。全然悪い意味じゃなくて、普通にびっくりしたというか。

——前もってそういう構想は聞いていたんですか?

「こういうのちょっとやりたいんだよね」みたいのはなんとなく聞いてはいたんですけど、具体的には特になかったかもですね。そこからFLY BOY所属っていう感じになりました。


【ロングインタビュー】ZOT on the WAVE ― シーンを代表するプロデューサー/ビートメイカー「」

 

独自のサウンドを生み出すビートメイクスタイル

——少し話は変わりますが、制作環境のこともお伺いしたくて、今年3月頃にLogicからFL Studioに変えたということをZOTさんのTwitterで拝見したのですが、DAWの移行ってビートメイカーにとってはけっこう大きな変化だと思うんですけど、それはどうしてだったんですか?

うーん、そうですね…。分かりやすく言うなら、今俺が作りたいことに対してできることの幅がLogicよりFLの方が広かったっていうか。まわりでもCherry(Cherry Brown / Lil’Yukichi)はずっとFL使ってるし、そういうの見てて「あ、それFLなら出来るんだ」ってこともあって。それで、一回使ってみるかってWindowsゲットして。Mac版もありますけど、やっぱせっかくFL使うならWindowsだろうって。ちょっとテンションあげるためにも(笑)。

——移行してから、ビートのテイストの変化などはありましたか?

まだ慣れきってないというか、Logicほどはいじり倒せていないですけど、それでも「こんなことできるんだ」っていうことはちょいちょいあります。

——たしかZOTさんはビートを作るときはメロディからなんですよね。メロが思いつく時ってどんな時ですか?

俺はパソコンの前に座ってから考えるタイプなんです。普段の生活でなんかパッとメロディが降りてきてっていうよりも、「さぁやるか!」って適当に弾いて、「あっこれいいかも」っていう感じ。

あと、パソコンの前に座った瞬間にもうその日のテンションが分かるっていうのはあります。だから「あ、今日できねぇわ」と思ったら極力その日は作るのやめます(笑)。締切がない時はですけど。 

——ラッパーからのオーダーのビートも多いですか?

オーダーがあれば、そのリクエストに沿って作りますし、作業するとこに来てもらって、その場で要望に答えながら作るっていうのもありますね。タイプビートに乗せてきたのを打ち直すっていうのもあったり。それ以外の時はストック作っていう感じで。

——ちなみに今までに何曲ぐらい作られましたか?

いやー、どうだろ(笑)。数えてないんですけど、多分ビートだけで言ったら1,000曲以上は作ってると思います。

——そのように膨大に作られてきた中で、ZOTさん的に印象に残っている曲がもしあれば教えてください。

「BOY FRIEND #2 feat. pukkey & DJ TY-KOH」ができた時は、「これはいい感じにラップ乗せてもらえれば間違いないな」と思いましたね。あとは、BAD HOPの「Ocean View (feat. YZERR, Yellow Pato, Bark & T-Pablow)」かな。これもできた瞬間に、「きっとたくさん聴かれるだろうな」って思いました。俺のキャリアの中ではその2曲がけっこうでかいバズというか。

 
KOWICHI – BOY FRIEND #2 feat. pukkey & DJ TY-KOH

 
BAD HOP – Ocean View feat. YZERR, Yellow Pato, Bark & T-Pablow

 
——音楽理論を学んだりとかは?

いや全然です。RYUUKIさんから機材の使い方を教わって、その後は全て独学で。俺の頃って今みたいにYouTubeのチュートリアル的なものもあんまりなかったんで、とにかくディグりまくって超色んな曲聴いて。「これどうやって作ってんだ?」って自分なりに分析して。「この音どうやったら出るんだ?」って色んなプラグインぶっ挿してみて「あ、この音だ」みたいな(笑)。

——音源やプラグインの変遷はどんな感じですか?

基本色々試してはいますね。一番最初に買ったのはOmnisphereとベース音源のTrilianだったかな。Omnisphereは新しいバージョンも出てるし、今プロデューサーはほぼ使ってるんじゃないですかね。

——バージョンアップはすぐに対応する方ですか?

俺の場合はバージョンを上げるよりも、他の新しいプラグインとかゲットしたくなっちゃうんですよね。知り合いのビートメイカーから「これヤバいよ」ってオススメされたらまずは試してみたり。

——ZOTさんってものすごく仕事が早い印象があって。『KOWICHI on the WAVE』にいたっては、全曲のビート制作から録りまで24時間以内で終わらせたんですよね。

調子が良ければけっこうできますね。仮に4曲仕上げるとしたら、1曲につき30分〜1時間で作れれば、まぁビートに関しては問題なくて。

 
——それに加えてKOWICHIさんも早いんですね。

KOWICHIさんはスタジオに入って作るタイプなので、ビートができたら俺が仮歌でメロディをまず入れて。そこから一緒に「もっとこうした方がいい」っていうディスカッションして。リリックもスタジオでその場ではめていって。

——ZOTさんの中で、時間をかけるかけないで、どっちがやりやすいとかありますか?

俺的にはどっちもなんです。作品によってはもっと詰めた方がいいっていう時もあるだろうし、それは曲によって自然とそうなると思うんです。1時間で出来ることもあるし、何日もかかることもある。ケースバイケースだと思います。

——時間をかけたものがかならずしもクオリティが高いとは限らないと。

多分その時できたものがベストだと思うので。自分的にはかける時間はあまり関係ないかなと思います。

——ちなみにミックスもされるんですか?

自分で組んだビートを外に出す時だけちょこっとイジって綺麗にして渡すぐらいはやりますけど、ボーカルのミックスとかまではやらないです。


【ロングインタビュー】ZOT on the WAVE ― シーンを代表するプロデューサー/ビートメイカー「」

 

新たな刺激を受けた海外でのクリエイティブワーク

——あと少し前の話になりますが、KOWICHIさんとはカナダでも制作されていましたよね。

あれは、カナダにKOWICHIさんの友達がいて、その流れで「カナダ行く?」、「カナダ行きたいっす!」っていうノリで(笑)。で、せっかく行くんだったら作品作ろうということで『KOWICHI on the WAVE 2』をカナダで作りました。

 
——スタジオはどうされたんですか?

行く前に、ネットで超ディグって4日間がっつりおさえました。そこがけっこうカナダのヤバいアーティストが使ってるスタジオだったんですけど、現地でビートから全部仕上げました。

——ある程度作って持っていったのではなく?

本当に向こうでイチから全部やりましたね。俺は8時間くらいでビート作り終わったんで、あとはコウイチさんがリリック考えて、ボーカル録って。それに加えて、動画の撮影もあったんで、時間的にはカツカツで。初海外RECだったんですけど、めちゃめちゃ楽しかったです。やっぱり出せる音量が違うというか。工業地帯にあるスタジオだったんですけど、建物もいい感じで、どんだけ音出しても大丈夫で。

——お二人で行かれたんですか?

二人で行きました。運良く向こうのエンジニアもすごくイケてて。スケジュール伝えたら「OK、それなら任せろ。ミックスとマスタリングまで俺も頑張るわ」ってやってくれて無事作り終えることができました。

——KOWICHIさんに聞いたら、なんか録りながらミックスする感じだったらしいですね?

そうそう、録りながら声もバッチリ作っていくんですよね。録ってる最中からもうバンバンにプラグイン挿してましたね。多分そのエンジニアも自分のデフォのパターンがあって、そこを軸に対応していく感じなんだと思いますけど。

——日本でそんなやり方をする現場ってありますか?

どうなんだろ…あんまり見たことないかもですね。

——じゃあREC終わると同時にミックスも終わってるんですね。

ですね。録り終わった時点で、「このミックスでどう?」って(笑) 。そのノリと早さは羨ましいです。

——日本だと一回録り終わってから、数日ぐらい間隔あって、またキャッチボール始まって。

そうなんですよね。でも、もう向こうじゃそういうのはないかもですね。

——もし次に制作で行くとしたら?

やっぱりアトランタのプロデューサーが好きなので、次はアトランタ行きたいですね。トラップの聖地だし、ヤバいビートメイカーもたくさんいるし。そういうとこと繋がれたらなって。

 

ビートメイカー/プロデューサーのためのプラットフォーム「Cook Up Japan TV」に込めた想い

——スタジオワークでいうと、昨年はPi’erre Bourneとも一緒にスタジオに入っていましたが、どういう経緯だったんですか?

あれは、まずCherryからPi’erre Bourneが来日するらしいよって連絡があって。で、DS455のKayzabroさんがPi’erre Bourneとコンタクトしてて、「Cherryと一緒に来れば?」ってお誘いいただいて。

なんかPi’erre Bourneはスタジオでアルバムのプリプロをしたかったみたいで。多分、向こうのアーティストって毎日スタジオにいるじゃないですか、どこにいても。だから、日本でもとりあえずスタジオに入ろうってことで来てて。スタジオに行った時、俺とCherryはどのタイミングで自分たちのビート聴いてもらおうかと思ってたら、Pi’erre Bourneの方から「お前らビートメイカーなんだろ? 聴かせてよ」って言ってきてくれて。それで、聴かせたら「ヤバいじゃん!これ録っていい?」ってそのまま俺のビート持ってブース入ってRECし始めて。「うわ!ヤバ!」って(笑)。その直前までCardo Got Wingsのビートでラップしてて、その後に俺のビートでラップしてたんで「なんかすげぇ状況だな」って。

——Pi’erre Bourneのスタジオワークでどういうことが参考になりましたか?

その辺もちょっと意識しながら作業を見てたんですけど、特別なことをやっているようには見えなかったんですよ。ただ使ってるサンプルがすごくいいのか、音がクソ太くて。あとはとにかく早かったですね。作業の全てがめっちゃ早かった。

——音楽制作を取り巻く環境では、去年、Cherryさんと、ビートメイカー/プロデューサーのためのプラットフォーム「Cook Up Japan TV」を立ち上げられて、最近もそれぞれのビートのブレイクダウン動画を公開されていましたね。

そうですね、”Kamikudaki” っていうシリーズで、最初Cherryのビートを使っているBAD HOPの「これ以外 feat. YZERR & Tiji Jojo」をアップして、その次に俺のビートでKOWICHIさんの「高嶺の花」をアップしました。USでビートのブレイクダウン動画ってたくさんあるじゃないですか。で、俺らも作ったんですけど、いざやってみたら超大変でした。自分たちの持ち曲でヒットした作品のビートがどうやって作られているのかを解説しているんですけど、撮影と編集含めて労力的に大変でしたね。

 
Kamikudaki: Breaking Down BAD HOP – これ以外 feat. YZERR & Tiji Jojo By Lil’Yukichi

 
Kamikudaki: Breaking Down KOWICHI – 高嶺の花 By ZOT on the WAVE

 
——「Cook Up Japan TV」を立ち上げた経緯を改めて教えていただけますか?

Cherryも俺もビートオタクなんですよね。でも、あまりにも日本での、主にヒップホップになっちゃいますけど、ビートメイカーに対する扱いがまだまだっていうか、フォーカスされないというか。昔からだとは思うんですけど。俺たちはUSのビートメイカーが超好きだから追ってますけど、やっぱりあいつらはいい車乗って、ラッパーみたいにフレックスしてるじゃないですか。一方日本だとずっと日陰的な。

でも、みんながただ知らないだけだとも思っていて。だから一つの動きとして、日本にもビートメイカー/プロデューサーでこんなヤバい奴らいるよっていうのをまず提示したいよねってことで。こういうのを自分たちでやっていかないと日本でビートメイカーはずっと隠キャっていうか、フォーカスされないままだろうし、それはあまり健全じゃないなと。

——海外だと下手すればプロデューサーがラッパーより名声があったりしますよね。

そうなんですよね。国内だとビートメイカーでそんなに表に出る人も多くないし、そうなると必然的にそこを追う人も少なくなってて。あと、クレジットをされなかったりするケースもあったり。それはやっぱり音楽作品に携わる人間として「どうなんだろうな」って思うし。そういう部分でもCherryとは共感する部分があるんで、一緒にこういう動きをやってるっていう。

——周りの反応はいかがですか?

昨年自分たちがイケてると思うプロデューサーに声をかけてビートテープ『CJTV The Mixtape』を公開したんですけど、若いビートメイカーに「俺もいつかあのプロジェクトで曲出したいです」、「あれを目標にしてます」とか言ってもらえたり。そういうリアクションがあるってことは、やっぱこういう動きは意味があることだなと思いました。

——ちなみにZOTさんが注目している若手のビートメイカーを挙げるなら?

やっぱりYamieZimmerくんはかっこいいですよね。マイアミ、フロリダなテイストが全開な感じで。仲の良いビートメイカーだと、理貴君、NocoNocoも。

YamieZimmer – This Must Be

 
理貴 – don’t waste my time

 
NocoNoco – I Got Some

 
今ってビートメイカーになること自体は簡単で、それこそスマホでも作れるし間口がすごく広くなってると思うんです。だからこそ、もっとみんなに興味持ってもらって、そこからどんどんヤバいビートメイカーが出てきたらいいなと思うし、もっと海外にも広がればいいなと。

さっきのカナダの話なんですけど、俺も実はカナダのスタジオに100曲ぐらいビート置いてきたんです。人気のあるアーティストもよく使うスタジオらしくて、「お前のビート使う人いるかもしれないからビート置いてけ」って言われて。じゃあ、あるだけ全部置いてくよって(笑)。2ミックスでタグ(ボイスタグ)も入ってるし、いいかなと思って。

——今って全曲にタグ入れてますか?

そうですね。基本入れてます。

——タグを入れる文化っていつから始まったんですかね。

たしかに、いつから始まったんだろう…2000年代初頭くらいからかな。多分、トラップになってからみんな入れるようになった感じはありますね。

——プロデューサーの「これ俺のビートだから」っていう意識ですよね。

それもさっき言ったプロデューサーがちゃんとオモテに出る文化に直結してくるのかなって思います。クレジットがなかったとしても、「タグは入れてるから!」っていう。

 

人間的信頼ありきのコラボワーク

——ラッパーで若手というと、Normcore Boyzとは今年のはじめに『Normcore on the WAVE』を作られていましたが、あれはどういう経緯だったんですか?

Normcore Boyzめちゃめちゃいいなって思ってて、普通に仲良くなってから「ちょっとやってみない?」って声かけたら「ぜひやらせてください!」って言ってくれて。あいつらとダブルネームでやったら絶対面白いものが作れると思ったし。

 
——彼らのどういうところがイケてると思いますか?

ラップはもちろん全員かっこいいし、人間的にもあいつらめちゃめちゃいいんですよ。「かわいいなお前ら」っていう(笑)。 だからラップの良さは大前提として当然ありつつ、そういう人間として合うっていうのがあったんで。

——プロデューサー、ビートメーカーって共同作業が必然的で、この間staRoさんも音楽の趣味はもちろん人間性が合わないとキツイって言ってたんですけど、やっぱりZOTさんもそういう感じですか?

それはそうだと思いますよ。別に緊張したりっていうのはいいと思うんですけど、自分的に「ん??」って思ってしまうアーティストとは厳しいかもですね。まぁ誰でもそうだと思うんですけど(笑)。だから今は基本、知り合いか信用できる人のツテとか、そういうつながりでの仕事しか受けてないんです。これまでSNSのDMで、もう何百、何千と依頼がありましたけど一回もやったことないですね。

——それは国内外問わず?

はい、海外からもけっこう来るんですけど、やってないです。

——共作に関して、Cherryさん以外ともやるケースもありますか?

数える程度の方たちですけど、やるはやりますね。「スタジオで遊ぼう」って数曲作ってどっかに投げてみたり。ビートメイカー友達、さっき「Cook Up Japan TV」の話の時に名前あげたようなプロデューサーとか、あとはRYUUKIさんだったり。まぁ多くはないですね。やっぱり誰でもいいわけじゃないんで。

——自分一人で作るときと共作する時って何か違いがありますか?

みんなもそうだと思いますけど、自分にないテイストと自分なりのテイストを化学反応させるのはやっぱ楽しいです。ちなみに、Cherryとは70〜80曲くらい一緒に作ってるかな。

 

盟友Cherry Brown/Lil’Yukichiについて

——Cherryさんとは最初どうやって知り合ったんですか?

ちゃんと会ったのは、こっちに引っ越してきた時ぐらいでしたね。俺がシンガー時代、Cherryはすでにインターネットをはじめ世間に名前が知られてる存在だったし、実は会う前から「Cherryさん、ビート聴いてください」って送ったりしてたんですよ。Cherryも「ありがとうございます!」って感じで。俺もずっとCherrのビートが好きで、かっこいいなと思ってて。

2016年の12月かな、BAD HOPのクラブチッタの時に初めて直接会って。俺のシンガーの頃の名前がKLっていうんですけど、その時Cherryに「実は昔KLって名前でやってて」って言ったら「えぇ!」ってなって(笑)。同い年だし、「今度スタジオでセッションしようぜ」ってなって、そこからめちゃめちゃ仲良くなったんです。ちなみに、未だにCherryはスタジオで俺の古い音源を急に流していじってくるんですよ(笑)。「お前マジやめろよ!」みたいな。そういう関係です(笑)。

——ビートメイカーとして、ZOTさんから見たCherryさんはいかがですか?

やっぱり素晴らしいビートメイカーですよね。Cherryの808とかマジかっこいいんですよ。ベースぶっといし。いいライバルで、一番刺激をもらえるのもCherryかなって思います。

JP THE WAVY&RIRI – Dilemma

Nelly, Kelly Rowlandの「Dilemma」のリメイクでは、ビートメイクをLil’ Yukichiと手がけた

 

ダークな感じより、明るい雰囲気でかっこいいものを作る方が実は難しい

——ZOTさんはビートメイカーとしてご自身のどこが他とは違う特徴だと思いますか?

多分それはキャッチーさだと思います。キャッチーなのを作るのは得意だと思ってて。一回聴いてもらって「これZOTっぽいよね」って言われることがけっこう多くて、それがキャッチーさの部分だったりするんで。

基本ビートを作るときは、ダークなビートにしても、明るいビートにしても、とにかく中毒性があるかどうかしか考えてないです。ループしたときにどれだけ中毒性のあるリフができるかっていう。メロディに関しては、そこをずっと意識しています。


【ロングインタビュー】ZOT on the WAVE ― シーンを代表するプロデューサー/ビートメイカー「」

——音楽を作るいわゆる音楽家として、行き詰まることはあったりしますか?

普通先のことを考えて色々悩んだりすると思うんですけど、俺は性格なのか、このままサボることなく鍛錬を続けていけばまぁなんとかなるでしょ、って思ってます。どう転ぶにせよ、自分のやることをちゃんとやって、それでダメだったらそれまででしかないし。もちろんダメにならないように大きなビジョンは描いてますけど、もしものときを考えたとしても、なるようにしかならないなと。

——じゃあスランプもあまりない?

そもそもスランプっぽい時はやらないですね。バーッと作って溜めて、もうできないって時は極力やらない。そういう時はどうせできないんで。オーダーで入ってきた仕事は納期があるんでやりますけど、そういう時以外は「あ、今できそうだな」ってバイブスが高まるまでチャージします。

——そういうオフの時は何をされていますか?

Netflixで映画とか自分の好きなのを見たりするかな。最近はずっと『テラスハウス』見てます(笑)。ゴロゴロすることが多いかも。あ、あと釣りが好きですね。バス釣りなんですけど、Y’Sさんとわざわざ俺の地元の沼に釣りに行ったこともあります(笑)。

 
Y’S – ロマン求めて feat. 田我流

Y’S『ツリジャンキーEP』では、ZOT on the WAVEが全曲プロデュース

 
——ZOTさんって、どちらかというと良い意味で楽天的な印象があります。

そうですね。別に鬱っぽくなるわけでもないし、「いやぁ、最近作れねぇわー」くらいで(笑)。それがいいんだか悪いんだかわかんないですけど(笑)。

——そういうところも曲に出てるのかのしれませんね。

たしかに、正直ダークな雰囲気で「ザ・かっこいい」曲を作る方が簡単なんですよ。でも、明るいんだけどかっこいい雰囲気の曲を作るのって、実はかなり難しくて。

 

ビートメイカーとアーティストのやりとり

——あと可能であれば教えていただきたいのですが、配信のリリースで一緒に作ったアーティストとは収益の配分ってどういう感じなんですか?

制作の段階で、例えば「じゃあこれは折半にしよう」とか、そういう感じかな。

——その辺について、もっと楽曲に携わる人のお役に立てればと、最近TuneCore Japanではスプリット機能をリリースしたんです。

めっちゃ待ってました!すごいいい機能ですよね。収益のパーセンテージを当事者同士で決めれるってやつですよね。

——はい、楽曲毎に設定できるので、コミットの度合いに応じてパーセンテージの話を事前にしておけば。

単発のギャラ以外の選択肢が出来るっていうのは、曲を作る人にとってはすごいことだと思います。ちなみに、これまでのリリースにも設定できるんですか?

——それも可能です。当事者間で設定した後にアクティブになるので、例えば過去のリリースでも今月設定したら、来月から収益分配が適用されていきます。

それはもう使うしかないですね。その機能、俺らのようなビートメイカーにとってはハンパなくありがたいですね。モチベーション上がります(笑)。

 

 

今後の展望 – セルフ・プロデュース作品

——ぜひ活用してください(笑)。最後にZOTさんの今後の動きや予定は?

自分プロデュースの作品を出そうと考えていて、もう実際に動いてます。自分がかっこいいと思ったビートに、自分がかっこいいいと思ったラッパーにやってもらって、パッケージして。それを通して「俺ってこうだよ」っていうのを提示できれば。

——何曲ぐらいできていますか?

数曲はできてますね。ただ、こういうやり方ってやっぱ難しいですね、もう全部フィーチャリングなんで。

——リリース時期はまだ未定ですか?

リリースのスケジュールとしては、とりあえず先にシングルで何発か切って、その間の余裕も調整しつつアルバムに持っていければなと考えています。焦ってやるものでもないと思ってるんで。ヤバい作品になるのは間違いないんで、楽しみにしていてください!

 

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