EASTA × NAOtheLAIZA『T.U.R.N.』インタビュー 「その時のマインドを表現したい」

2023.5.17

EASTA, NAOtheLAIZA

次世代ラッパーを発掘するオーディション番組「ラップスタア誕生 2021」にて、明るいキャラクターとラップスキルで注目を集めた奈良出身ラッパーのEASTAと、韻踏合組合の「一網打尽」のスマッシュヒットをはじめ、多くのHIPHOP/R&Bアーティストの楽曲を手がけているプロデューサー/ビートメイカーのNAOtheLAIZAが、世代を超えタッグを組んだアルバム『T.U.R.N.』を5月10日にリリース。今回のアルバム制作に至った経緯や、楽曲やリリックについて、ラップスタアのメンバーが参加し、話題を集めているリード曲「笑って生きる」についてなどを訊いた。
 
取材・文 : カービィ少佐
企画 : Jiro Honda
 
 
ラップスタアで見つけた逸材

——まず、どのような経緯でアルバム制作に至りましたか?

NAOtheLAIZA : 元々、自分自身で若いラッパーをプロデュースしたいという気持ちがあって、「ラップスタア誕生 2021」を見た時にEASTAがめちゃくちゃヤバいなと思ったんです。自分も大阪に住んでたから関西の子だしその点もいいなと感じて、去年の春くらいに僕の方から声をかけました。ちょうど大阪の先輩の後輩がEASTAの相方のKVGGLVだったので、そこから繋げてもらいました。プロジェクトをもとに声をかけたので、今回は自分の名前も前面に出しているんです。

実は、最初はEPの予定だったんですけど、世代が違うラッパーとやるとなると、EPだと自分自身の全てを表現しきれない部分が出てきたのと、EASTA自身のラップの体力がすごくて、サッカーでいうと「リフティング1,000回できます」みたいな(笑)。色んな事を自分のビートで表現してもらえたので、曲数が増えて結果的にフルアルバムになりました。

——EASTAさんは、最初にNAOtheLAIZAさんに声を掛けられた時はどう思いましたか?

EASTA : 元々、なおちんさん(NAOtheLAIZA)を知っていたし、大先輩なので正直驚きましたね。「めっちゃチャンスやん、カマしたい」って思いました。

——先ほどラップの体力の話も出ましたが、NAOtheLAIZAさんの思うEASTAさんの強みって何ですか?

NAOtheLAIZA : バランスがいいですね。メロディーも作れるし、ラップもうまくて韻も固いし…人としても面白いじゃないですか。とんちが効くので、かっこいいこと言いながらも面白いワードが入ってくるのがいいですよね。

——確かに色んなアプローチができてすごいですよね。それはどうやって培ってきたんですか?

EASTA : 昔はタイプビートが無かったので、「Hipstrumentals」というサイトでビートを探していたんですよ。でも探すのが大変だから、ここからここまで全部使うって感じで選んで、結果的に色んなジャンルのビートでラップするようになったんです。個人的にも、色んなことができた方がかっこいいなと思ってたし。

——NAOtheLAIZAさんのビートもアプローチが多彩だと思うのですが、EASTAさんの思うNAOtheLAIZAさんのビートの良さはなんですか?

EASTA : まず、音の良さですね。自分らの周りでやってるのと比べて、プロフェッショナルの音というか。ビートの作り方もロジカルに考えてるかと思えば、臨機応変に対応しているところも垣間見えて、めっちゃ好きっすね。あと、自分も色んなラップしたいタイプなので、何でもできるのはありがたいです。

——NAOtheLAIZAさんから、ラップのディレクションなどはありましたか?

NAOtheLAIZA : フローに関してはほとんど無いんですが、リリックに対してはありました。今回は俺の名前も出るので自分自身もEASTAのリリックに共感したくて、「これは俺的に無しやな」っていう時は変えてもらいましたけど、基本的には任せていました。1番最初に「Osaka Lover feat.KUJA」を録ったんですけど、バースのBメロのトップに上がる時のメロディー聴いて、「このメロディーセンスはヤバいぞ」って鳥肌たちましたね。

——メロディーは自然とおりてくる感じなんですか?

EASTA : そうですね。まずビート聴いて、音をはめていく感じです。昔はライブばかりしていたので、実はあまりレコーディングに慣れていなくて、レコーディングの時に声を作るのって大事だと思うんですけど、それができなかったんです。なおちんさんとやる直前くらいからレコーディングにやっと慣れてきた感覚があって、いい感じで臨めたと思います。

——リリックもその場で書くんですか?それともストックを用意しておくんでしょうか。

EASTA : ストックは基本ないです。

NAOtheLAIZA : 東京までわざわざ来て「書いてないんですよ!」って言ってきて、最初は「ハァ?」ってなりましたけど(笑)。僕らの世代だとリリックを事前に書いてくる方が多いけど、EASTAの世代だとその場で書く事が多いのかな。かといってEASTAは濃度が薄い感じじゃなく、その時の感情を切り取ったものが多かったので逆に良かったです。

EASTA : リリックをその場で書くのには理由があって、その時のマインドを表現したいからなんですよ。

EASTA × NAOtheLAIZA

 
 
アルバム『T.U.R.N.』について

——アルバム通してのテーマはありますか?

EASTA : タイトル通り『T.U.R.N.』なんですけど、音楽でもプライベートでもターニングポイントになったっていうことと、“TURN”って回る・折り返すっていう意味もあるし、“俺らのTurn”ってRENZOくんのバースもあってそこからもインスパイアされてます。あと、頭文字“TRUST・UNITY・RESPECT・NOTES”は、自分に必要な四元素でもあります。

——「笑って生きる」みたいなアッパーな曲もある一方で、内省的な部分や葛藤がストレートに出ているなという印象だったのですが、曲を作る1年間で心境の変化などはありましたか?

EASTA : アルバムを作り始める1年前にラップスタアがあって、環境の変化からの心境の変化は大きかったです。音楽の仕事が増えたし、なおちんさんもそうですけど、今まで憧れの存在やった人と実際に会ったり一緒に仕事したり、現実やけど夢みたいな気持ちでした。他にも経験した様々なことをメタファー的にリリックに入れていて、曲のなかではありのままの自分を表現していると思います。

——「らしいな」とかもそういうテーマですよね。

EASTA : そうですね。「らしいな」はアルバムで1番最後に作った曲で、制作の1年間を終えて更に環境が変わったので、自分の中で周りにのみこまれないように、無理に取り繕ったり、カッコつけたりせん方がいいなと改めて思って、それを最後に表現しました。

——「Happy End 2022」も等身大なリリックで好きです。

 
EASTA : 実は「Happy End 2022」は、5年前に作った曲なんですよ。改めて録り直して、ビートもなおちんさんがアレンジしてくれて。同じトピックで、5年後を書いたのが「Straight Up feat. JAGGLA & NORIKIYO」です。

——その曲も大先輩と共演されていますが、NAOtheLAIZAさん経由で?

NAOtheLAIZA : JAGGLAには僕がオファーして、NORIKIYOくんはたまたまなんです(笑)。別件でNORIKIYOくんとレコーディングしてた合間に、JAGGLAとEASTAで録ったものをMIXの修正をしていて、それを聴いたNORIKIYOくんが「これEASTAくんですよね?一緒に曲やってみたかったんですよ。」って言ってたので、「じゃあこれ入ります?」で急遽参加することになったんです。

——それはびっくりですね。

EASTA : 聞いた時は驚いたんですけど、憧れてきた人にラップで認めてもらえたってことなんで嬉しかったです。今もびっくりしてます(笑)。

NAOtheLAIZA : 世代が違う3人の人間模様がみれるというか、深みが増したよね。

EASTA : 一緒にやっている曲だけど、2人からの自分自身へのメッセージに感じます。「Happy End 2022」から5年後にこの曲やっているっていうのもアツいです。

NAOtheLAIZA : SoundCloudに上がっている原曲を聴いて、「これは絶対入れた方がいい」ってEASTAに言ったんですけど、アルバムに入れるの嫌がってたよね。ラッパーとして何年も前の曲を入れるのが嫌な気持ちは分かるけど、曲としてめっちゃ良かったので推しました。

EASTA : 18歳の時の曲なんで最初は抵抗があったんですけど…。「Straight Up feat. JAGGLA & NORIKIYO」とも繋がるし、当時にしては評価された曲でもあったので入れてもいいかなって。ほんまはめっちゃ嫌やったっす(笑)。

——確かに、5年も経つと考えとか価値観とか大きく変わりそうですよね。

EASTA : 全然違いますね。ただ、「Happy End 2022」と「Straight Up feat. JAGGLA & NORIKIYO」の両方に“everything’s gonna be alright”っていうリリックがあって、変わるものもあるけど、変わらんのはポジティブな自分っていう。

——一方で「Do My Damn Thang」はラッパーとしてストイックな姿勢が見られます。

 
EASTA : ラッパーとしてカマす曲が欲しくて。この曲はビートめっちゃ悩みましたよね?

NAOtheLAIZA : アレンジ何回したんやろ…最初と比べてめっちゃ変わりましたね。バースで攻めようってなって、それにはもっとヤバいビートを…って追求していった感じです。リリックもこの曲が1番好きかも、“男も女も サクッとアゲる 天麩羅”のくだりとかいいよね。

——他にも、“窮鼠猫噛み”とかユニークな言葉選びもEASTAさんらしいです。他のラッパーが使わなさそうというか。

EASTA : そこは結構心がけています。ラッパーのリリックとか似たような感じになりがちなんで。

——あと、“RapperってFakeが8割”っていうバースが印象的でした。ありのままがテーマの「らしいな」とは対照的な言葉ですよね。

EASTA : それは俺の棘の部分ですね(笑)。ラッパーはカッコつける人が多いんですけど、俺的には疑問な部分もあって。本当の不良が不良の音楽するのは分かるけど、めっちゃいい人なのに悪ぶってることもあるから、無理しているのかなと感じることもあります。

——「Sauna feat.EMI MARIA」は、UKガラージに2人のメロディーラインがバッチリハマってます。

EASTA : 女性アーティストが入るのを意識してラップしました。あと、録る前日に彼女とサウナに行って整ってできた曲で、整いラブソングです。新しいジャンル(笑)。

——“五反田”っていうワード出てきますよね。なぜ五反田なんですか?

EASTA : なおちんさんのスタジオが五反田にあって。最初はアルバムの名前を五反田にかけて「Go Town Down」にしようと思ってたんですよ。

NAOtheLAIZA : 売る気ないやろ(笑)。

——ちなみにサウナ結構行くんですか?

EASTA : 頻繁に通っているわけではないんですけど…浅いサウナ愛。でもサウナ自体流行っているし、曲でサウナってワードあんまり聞かないから、トピックとしても面白いかなと思って。

——サウナもそうですけど、“波浪警報”とか、耳にのこる言葉が印象的です。そういう言葉選びは意識されてるんですか?

EASTA : 外国語とかも入れているんですけど、耳馴染みのある言葉を使って、あまり難しい言葉は入れないようにしてます。そういうスッと入ってくる言葉と、珍しいけど皆知っている言葉を選んでますね。

——外国語といえば、「笑って生きる」の“Chingu”と“Everything good”で韓国語と英語で韻踏んでいて、多言語で踏むなんて粋だなと思いました。

EASTA : そういうのが好きなんですよね。RENZOくん(ShowyRENZO)とのVerでは、RENZOくんペルーの血が入っているので“Yo quiero, yo quiero, dinero”っていうスペイン語入れたら、RENZOくんも“Yo también quiero more Dinero Yo quiero this world”で返してくれて。

でも、あんまり“Yo quiero”とか馴染みないですよね。自分はJennifer Lopezが歌詞で“Yo quiero”って言ってて、そこからインスピレーション受けてました。(※2018年リリース 「Dinero」より)

——他にも好きな部分はありますか?

EASTA : 個人的にアガるのは「123」ですね。「123」はラップもメロディーも全部良さが出せていると思います。

NAOtheLAIZA : ビート的にも「123」を1曲目に持ってくるのは結構気合い入ってます。序盤は結構シンプルなんで、普通のラッパーだと単調すぎて持たないけど、EASTAは逆にラップのうまさが引き立ってると思います。

アルバム『T.U.R.N.』
アルバム『T.U.R.N.』

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“笑って生きる”

 
——リード曲の「笑って生きる」はキャッチーで反響が出そうな楽曲ですよね。“笑って生きる”というサビが印象的ですが、そのテーマはどこからきたんですか?

EASTA : テーマというより、ビート聴いてこのフレーズが思い浮かんだ感じです。あんまり明るい印象ではなかったんですけど、逆にポジティブにはめたいなと思って。あと“笑って生きる”ってポジティブにも聞こえるけど、ある種葛藤みたいに感じないですか?そのトピックって全人類に共通しているものだと思うし。あと、サビはキャッチーで分かりやすいものが良くて、ラップで遊べるものを作りたかったんです。

NAOtheLAIZA : ラップで遊べる曲だと思うので、ビートも配信してます。たくさんの人にラップをチャレンジして欲しいなと思ってます。

EASTA : 今で数十件くらい曲上がってますよ。2回もやってくれてる人もいて。

NAOtheLAIZA : そうなんや!嬉しいね。

 
——各々のラップに合わせてビートを変えているのもいいですよね。

NAOtheLAIZA : RENZOくんは自分自身でもアレンジしてくれたんですけど、できる限り面白く聴かせたかったので、それぞれのカラーに合わせて変えてます。ワンループやけど、ちょっとずつ違うのって良くないですか?分かりにくいけど、今までビートメイカーとして培ってきた部分をだせたかなと思います。

EASTA : 個性が出てますよね。自分がヘッズでも好きな曲やと思う。

——RENZOさん以外もFuji Taitoさんやeydenさんなど、ラップスタア 2021のメンバーが勢揃いですが、ラップスタアのメンバーでやろうという意図だったんですか?

 
EASTA : 最初はRENZOくんしか誘うつもりなかったんですけど、出来上がってから、ラップスタアのメンバーでやったら面白いかな?と思って誘いました。皆仲良いと思うんですけど、全員と均等に仲良くてプライベートで遊んでるのは多分俺だけなんですよ。だからこういう企画できるの俺しかおらんと思って。ちなみに、eydenって突っ込みめっちゃうまいんですよ。ボケたら絶対突っ込んでくれる。

——意外ですね(笑)。ちなみにどういう系統の突っ込みなんですか?

EASTA : “オイ!”みたいな、関東突っ込みです(笑)。

——楽しそうですね(笑)。「サマスノ生活」を見ててもボケ倒してますが、シリアスに曲を作ることはあまりないですか?

EASTA : シリアスな時ほどふざけたくなっちゃいます。病気すね。

——ムードメーカーですね。

EASTA : 逆です、ムード壊しです。

——今後のやってみたいことなどはありますか?

NAOtheLAIZA : 今回のアルバムで色んな系統の楽曲に挑戦したので、逆にMPC単体で曲作りたいなと思ってます。鍵盤とか弾かないで、サンプリングのコラージュして、逆に制限のある中で作ってみたい。荷物も少なくて楽だし(笑)。

EASTA : アルバムのプロモーションを頑張りたくて、MVもたくさん出る予定です。リリースツアーとかワンマンライブもやりたいですね。

——ありがとうございました。

 

EASTA × NAOtheLAIZA

 

 

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この記事の執筆者

カービィ少佐

元fnmnlライター、アニメとレコードとお散歩が好き