アンと私 インタビュー「あとは僕たちに任せてもらえれば大丈夫」自称・裏アカでしか呟かれないバンド、満を持してオーバーグラウンドへ

2024.1.12

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3人組ギターロックバンド・アンと私が1stフルアルバム『FALL DOWN 2』を1月10日にリリースした。初アルバムかつ初CD作品となる本作には、昨年夏にロングバイラルヒットを果たした「Tinder」をはじめとする既発曲や「せめて音楽だけはやめないようにね」「手首と太腿」の再録バージョンに新曲3曲を加えた全12曲を収録。精力的なライブ活動による叩き上げで成長してきたバンドの軌跡とさらなる飛躍へのポテンシャルがパッケージされており、「どうせ裏アカでしか呟かれないバンド」を標榜してきた彼らをオーバーグラウンドに押し上げる一作となることだろう。今回は、そんなアンと私のフロントマンでありブレーンを担う二口(ふたぐち/Vo, Gt)にインタビュー。ロックミュージシャンらしい矜持とその一方で併せ持つクレバーな視点、そして意外な音楽遍歴を明かしてくれた。

取材・文 : サイトウマサヒロ

 
 

「裏アカ」的感情に蓋をしないロックバンド

——二口さんが初めて音楽に興味を持ったきっかけを教えてください。

音楽自体は小さい頃から好きで、両親が車で流していた曲から興味を持ち始めました。母親が嵐のファンでライブにも連れて行かれたり、親父がエレファントカシマシとかTHE YELLOW MONKEYを聴いてたりで、その辺りに触れて育って。ロックバンドというものを意識するようになったのは、小学校6年生ぐらいのころにRADWIMPSを聴いてからですね。

——自分で演奏をするようになったのは?

中学生の頃、リサイクルショップで売ってた5000円くらいのアコースティックギターを親父に買ってもらって、ちょっと触ってはいました。ただ、18歳から20歳まで札幌にいた頃はロックから少し離れていて。田舎出身だから、デッカい音が流れてめっちゃ光ってるだけで楽しい!みたいな感じでクラブに行くようになったんですよ。それからはクラブで流れてる曲をShazamして、HIPHOPをよく聴くようになりました。日本のラッパーだとSALUとかKOHHとか。AwichやBAD HOPのライブも行きましたね。バンドを始めたのはその後上京して、コロナ禍になってからです。

——アンと私の音楽性からすると意外な趣味ですね!

でも、今も好きですよ。新譜も全然聴きます。自分でやってると、バンドの音楽がしんどくなる時もあるので。

——そのような経験を経て、なぜロックバンドという表現を選んだのでしょう?

たまたま目の前に転がってきたチャンスがバンドだったので。歌って踊れるわけでもないし、僕はやんちゃな人がやってるHIPHOPが好きだけど、自分がそうなれるわけでもないし。そう考えると、バンドは普通の人でもやりやすい音楽かなと思います。

——二口さんにとっては初めてのバンドがアンと私なんですよね。始動のきっかけは?

僕がコールセンターでバイトしてた時、職場で出会ったバンドマンの方と親しくなって、カラオケに行ったときに「上手いね」「バンドやりなよ」って言われたんですよ。で、その人が「バンドをやるならまずはレコーディングだ!」ってことでレコーディングの場所も押さえて、メンバーもかき集めてくれて。曲を書き始めたのもそれからで、ライブハウスに行ったのもその人に誘われたのが初めてだったし、何から何までやりながら学んでいきました。

——なるほど。当初はけっこう勢い任せというか。

はい、勢いでした。

——アンと私を語る上で欠かせないのが、「どうせ裏アカでしか呟かれないバンド」という肩書きだと思います。いつ頃から名乗り始めたのでしょう?

活動初期からですね。僕は22歳からバンドを始めたんですけど、10代からバーンと売れていくバンドもいっぱいいるじゃないですか。その分ハンデがあるから、手っ取り早く目につくための方法を考えた結果、そのコンセプトに辿り着いたっていうか。

——マーケティング的な戦略でもあったんですね。

そうですね。歌詞も実体験はあまり含まれていなくて、けっこう妄想が多めです。とにかく人に見られたいっていう承認欲求から出発したので、人が言ってないようなことを言ってみたり、そういうキャッチコピーを付けてみたりしたんだと思います。でも、「裏アカでしか呟かれない」っていうのはね……アレ、もう消したい(笑)。クリープハイプやMy Hair is Badを大々的に「好き!」って公言する人が、サブアカウントでひっそりと語るみたいな立ち位置を最初は意識してたりもしたんですけど。

——今はもうそういうフェーズではないという意識がある?

その肩書きが板に付いてしまっているなって。

——でも個人的には、実はクリティカルなコピーなんじゃないかと思っていて。「裏アカでしか呟かれない」ことをあえて表現することで、リスナーに対して「表には出さないけど、実際のところはこんな感情を抱えてるんでしょ?」という鋭い目線を投げかけているようにも感じられます。

ヒットしてるバンドの曲を聴くと、「嘘つき!」って思うんですよ。僕が曲の中で語ってることって、本当は誰しも持ってるはずの感覚で。ましてやバンドやってる人だったら絶対裏で色々やってるクセに……って言うのもアレなんですけど(笑)。僕はハッキリ感じてることを言う。そこだけは曲げずにいようと思ってます。

——SNSなどでライブ会場を「世界で一番安全な場所」と表現しているのも印象的です。

僕自身、ライブハウスが一番安らぐ場所だと思っているので。

 

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