HITOMINインタビュー 「一歩一歩、スキップせずに進みたい」最新EP『UNTITLED』を携え向かうネクストステージ
多彩なサウンドと思いが交わる最新EP『UNTITLED』
——今回リリースされたEP『UNTITLED』についても、わかりやすく「恋愛!」っていう印象のリリックが減ったような気がしていて。恋愛をテーマに設定することを敢えて避ける意図はあったんでしょうか?
その時の自分をそのまま映してるから特別意識したわけでもなくて。最近は恋愛もしてないし他に書きたいものがあったから、普段と違うところにフォーカスしているのが表れてる感じですね。前作のEP『MALACHITE』はわかりやすいサウンドと共感しやすい歌詞を重視したから、今回は自分がやりたいことを前に出すイメージで。
——直近2年は、年2枚のEPをコンスタントにリリースしてますよね。
やっぱり今はどの音楽も消費されるのが速いじゃないですか。少しの期間でもリリースが途絶えるといなくなっちゃったみたいな扱いになるから、半年に1枚は出せるようにしてます。制作期間中は、レコーディングの日にトラックを初めて聴いて3時間ぐらいでパパっと1曲作る。それを週1回のペースで繰り返すから、大体1か月半くらいで1枚のEPが出来ます。タイトルや曲順を決めるのは後からだから、いつもコンセプトとかも決めてない。
——だからこそ、その時の思いがリアルに作品に反映されるんですね。
そうです。
——でも毎作、ハードな楽曲と繊細な一面を見せる楽曲が絶妙なバランス感でパッケージされている印象があります。
1曲、2曲くらい、何も気にせずに強い言葉を並べるような曲を入れるようにしてて。あとは聴きやすいもの、共感してもらえるものが占めるような割合で。そのくらいアバウトにしか考えてないですね。
——今作は、オープニングからパンチのある楽曲が2曲続くのがインパクト抜群です。「KILLING TIME」は、HITOMINさん史上最も攻撃的な一曲といえるんじゃないかと。
実は前半は20歳くらいの時に書いてたリリックなんですよ。後半を最近書き加えて。見えてる景色の違いや言葉の選び方の違いが表れてて、これはこれで面白いかなと思ってあえて残しました。
——後半のバースは、他のアーティストや音楽業界に対しての本音をぶつけている?
そうですね。でも、それを20歳で書いてたらもっと波風立てるような言葉を選んじゃってたかもしれないから、大人になってようやく曲にできた感じです(笑)。
——「沢尻エリカ以外は許せない / 完璧なあの子にはディスられたい」はパンチラインだなと思います。
エリカ様、大好きなんです。綺麗だし、自分を守るための鎧を着ていそうだけど繊細なところが垣間見えるのが人間らしくて、美しいなと思います。
——2曲目の「Wolf」もハードなサウンドで攻めてますが、こちらはHITOMINさんのパーソナルな経験も盛り込まれた楽曲ですね。亡くなったお父さんへのメッセージも綴られていますが、このタイミングでそれを楽曲にしようと思ったきっかけはありましたか?
元々父親は私が音楽をやっていくのに反対していて、私は反骨心が強いから、父親に対する「今に見てろよ!」っていう気持ちを原動力に頑張れたっていう面もあるんです。だけど、自分がアーティスト活動をしていろいろな経験をしていく中で、仕事人だった父に対するリスペクトが強くなったんですよ。「いま父親がそばにいたらこんな話ができるのにな」「こんな姿を見せられるのにな」ってふと思うことも増えたので、「Wolf」のような曲が生まれたんだと思います。
—— 3曲目「Kids in love」は打って変わってソフトな一曲です。リリックにはHITOMINさんの人間観が表れていますね。
自己愛の強い人間っているじゃないですか。自分のことしか考えられない、他人と向き合えない人。そういう人のことを歌ってる曲なんですけど、彼らと付き合っていく中で、自分のこともよく知れるんです。だから冒頭で「君の中に私を見つけたんだ」って歌ってたり。いままで私と関わってきた人に言葉を捧げつつ、自分とも向き合ってできた曲です。
——なるほど。
誰でも自分の中にインナーチャイルド(※心の奥にいる「内なる子ども」を指す心理学用語)を持ってるんですよ。そういう過去のトラウマや傷と向き合っている人もいれば、それをしまい込んで遠ざけてる人もいて…… 私にこの話をさせたら1時間ぐらい喋っちゃうからやめといた方がいいんですけど(笑)。みんながこの楽曲を聴いて、もう少し視野を広げて自分と向き合って、温かく人のことを考えられる人が増えればいいなと思ってます。自分の心の奥底を引っ張り出して書いたから、キャッチーではないけどすごく気に入ってる曲ですね。
——続く「Wishing」はとびきりポップな楽曲ですね。
明るい、前向きな曲ですね。
——HITOMINさん自身は、「Wishing」のリリックのようにポジティブな切り替えが得意なタイプなんですか?
結果的にはそうですね。マイナスに考えようと思ったらどこまでも深く落ちていけちゃうから、途中で無理やり引っ張り上げるようにしてます。「過去と他人は変えられない」ってよく言うし、嫌なことだって考え方次第で上手く消化できるから。「Wishing」は、そういうマインドを少しでもみんなにシェアできたらいいなと思って歌詞にした曲です。
——終盤の「Trouble night」「Diaries」では、英詞の割合がかなり多くなっていますね。
いまブッキングの管理とかをやってくれている子に、「英語を増やして、あんまり深く考えないで聴ける曲も書いてみれば?」って言われて作りました。もちろん私としてはめっちゃ意味を込めてるけど、耳触りの良さだけでもポップに聴ける感じで。
——HITOMINさん自身が洋楽を聴いて育ったのと同じように、ということですね。海外のリスナーも意識しているかなと思ったのですが。
もちろんそれもあります。SNSのフォロワーとかコメントにも海外の人がすごく増えたし、アジアの国でチャートインすることもあるから、もっとリーチできたらいいなと思ってます。
——なるほど。
あと、最後の「Diaries」はNetflixで観た『ヴァンパイア・ダイアリーズ』ってドラマに影響を受けて作ったんです! 主人公のエレナの気持ちになって書いたので、ドラマを観た人が聴けばピッタリの曲だなってわかってくれるような歌詞になってます。
——ドラマや映画などからインスパイアされて楽曲を制作することは多いのでしょうか?
あるとしたらラブソングかな。よっぽど影響を受けた作品があったり、自分が恋愛をしてなくて恋愛の感覚が思い出せない時には、キャラクターになりきって書いてみることがあります。
——「最近は恋愛してない」と話していたのに絶妙なラブソングを書けるHITOMINさんの謎が解けました(笑)。