挫・人間 インタビュー「幸福って、やっぱり苦悩の先にしかない」 生々しいロックを体現した最新作『銀河絶叫』が描くハッピーエンド

2024.3.8

バンドの「生」を閉じ込めた最高傑作『銀河絶叫』

——今回リリースされた『銀河絶叫』は、非常に焦点が定まっているアルバムだと思いました。前作はまさにタイトル通り『散漫』なアルバムで、だからこそ挫・人間らしさが表れた作品でもありましたが、今作はその個性を保ったままよりサウンドが洗練されたような印象です。

今作は、外部の音を入れずに4人だけで完結する楽曲作りをしようというコンセプトがあって。ある意味シンプルに聴こえることも目指しながら、そのままライブで披露しても遜色のない仕上がりにしたいと決めてました。ギター、ベース、ドラムだけでやる!みたいな。

——打ち込みのビートを取り入れた楽曲なんかも前作までは収録されていましたもんね。

今まではそういう反則技の曲があったけど、今回は全部生演奏で。当たり前だろって言われるかもしれないけど、実は昨今はそういうアルバムの方が少ないんですよね。でも、やっぱりライブやってなんぼのロックバンドですから。ライブを良くしていきたい。そういうテーマがあったから、バンドが一丸となれたんだと思います。

——逆に、ライブの熱気を作品に閉じ込めることにも成功しているように思います。

勢いや身体性を感じられるように作ってはいます。たとえばテクノって、聴いても人間が演奏してるイメージが沸かないじゃないですか。でも、エレキギターの音が響くと、それを弾いてる人の映像が頭にパッと浮かぶ。もちろんどっちの良さもあって、テクノのそういう面が好きでもあるんですけど、今の挫・人間にはそのロックの生々しさが必要なんじゃないかっていうことは意識してたと思います。

——現体制になって、楽曲制作のプロセスには変化がありましたか?

「セイント・ギロチン」などの曲では、持ち寄ったフレーズをメンバーみんなで膨らませるみたいな方法を初めて取りました。今までは一人で組み立ててた曲を、セッションや話し合いで展開を決めて。

——サウンドについては「生」を追求するというコンセプトがあったということですが、歌詞にも一貫性を感じます。下川さんのパーソナルな、内省的な言葉が占める割合が増していて。

自分の恥ずかしい部分までさらけ出さないと、歌詞として成立しないですからね。よそ行きの言葉は歌詞にはならないんですよ。取り繕って良い歌詞を書ける人もいるだろうけど、僕の場合はそうじゃない。

——それにしても、自己憐憫、自己嫌悪的なフレーズが多いですよね。

この1年、音楽的には素晴らしい出来事もありましたけど、生活は最悪としか言いようがなかったですから。親友の吉田(拓磨、ドラマーとして結成時から2014年まで挫・人間に在籍)を亡くして、それからはずっと調子が悪かったです。そういう時に暗い曲って聴きたくないけど、同時に無理に立ち直らせようとしてくる曲も聴きたくなくて。両方の気持ちがあるから、こういう形になってしまいました。

——下川さんが『鬱の本』に寄稿したエッセイで、ファンの方から「私も鬱なんです!」って声をかけられるというエピソードを語ってましたけど、確かに挫・人間の楽曲を聴いてると、同じ悲しみを共有してくれているような気持ちになります。

でも残酷な話ですけど、人の悲しみを全部わかってあげることはできないですからね。小池徹平みたいに「わかるわかるよ君の気持ち」って言いたいけど、僕がそんなこと歌い出したら脳波が読めるようになったみたいで怖いじゃないですか(笑)。どちらかというと、みなさんの方が僕に寄り添ってくれてるんですよ。共感してもらおうというよりは、僕みたいな存在があるということをわからせてやろうと思って歌ってるし。僕は好き勝手にやっていて、そのヤケクソさにフィットする人が挫・人間を聴いてくれているんだと思います。

——今作の素晴らしさは、そういったルサンチマン的感情が、アルバムのラストを飾る11曲目「下川くんにであえてよかった」で昇華されていく構成にあると感じています。

そうですね、「下川くんにであえてよかった」はすごくポジティブな曲です。幸福って、やっぱり苦悩の先にしかないんですよね。どちらかを選ぶものなんじゃなくて、コップの底に沈んでる幸福を掴むために、その上に積み重なる苦悩の中を潜っていかないといけない。だからこそ作品では、ゴールには救いが待っていて、そこに我々はもがきつつも向かっているんだということを表現したくて。

——すごく個人的な感想なのですが、「下川くんにであえてよかった」を聴き終えた時に、『新世紀エヴァンゲリオン』みたいなアルバムだな、と思いました。

たしかに。TVアニメ版の最終話みたいってことですよね。僕はあのラストが大好きなんですよ。不可解だし、突飛だし、伏線や謎も回収されてないけど、これ以上ないハッピーエンドだと思います。

——世界がどうであれ、シンジの中では一つの答えに辿り着けたという。

『エヴァンゲリオン』は一人の男の子がたった一歩踏み出すだけの物語だけど、そのたった一歩をどう描くか、どう終わらせるかってすごい大事なんですよ。バッドエンドを作るのってきっと簡単で、観た人にハードなパンチを食らわせれば、「すごい衝撃を受けた!」と思わせることができちゃう。それは本当に不健康なエンタメの流行だなと思っていて(笑)。突然キャラクターを殺したり、強引に派手な出来事を起こすことで無理矢理物語を転がすようなものは絶対作りたくないなとはずっと思ってました。僕は、ラブコメの最終回で結婚式を描いて、全登場人物がお祝いに来るような展開が好きなんですけど、そういうハッピーエンドを挫・人間的に描いた結果が、「下川くんにであえてよかった」なんです。

 

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