2018.12.27
1999年生まれのラッパー/ソングライター・Lick-G。スキルフルなラップで注目を浴び、また、独自の世界観の作品をコンスタントに発表してきた。ライブを一時休んでいた時期もあったが制作活動は止まることなく、今年11月には自らのレーベル名を冠したシングル「Zenknow」をリリース、12月には立て続けに3つのシングルを発表。年齢こそ若いが様々な音楽体験を経てきた中で、改めて音楽に対するスタンスが明確になったというLick-Gに、現在の考え方やスタイルを含め深く話をきいた。
目次
アクティブなリリーススタイル
——2017年から最近にかけて取材などの露出は割と少なかったですよね?
最近は水面下での動きが多くて、あまりメディアには出てなかったですね。今回は改めて新曲の話も詳しくできるし、こちらのメディアなら今の自分を出しながらお話ができると思って。
——そういう中、音源のリリース自体はコンスタントにされていましたよね。“シングルを定期的に出す”という、いわゆる時代の流れをみたリリーススタイルで。
そうですね、海外の流れも理解した上で。やっぱり最近のリスナーの傾向として、アルバムやEP単位で作品を聴いてるかといったらあまりそうでもないと思うし。もちろんまとまった作品の良さもあると思うんで、来年はそれもふまえた上で考えながらリリースしていこうと思ってます。
——コンスタントにリリースがあるとアクティブな感じも伝わりますよね。
今のストリーミング時代、アーティストにとってトピックや話題を途切れさせないというのは大事ですよね。そういう意味でもシングルを連続的にリリースするというのは意識していましたね。あと年末はイベントごとも多いし、いつもより音楽が聴かれる時期だろうと思って、12月は多めにリリースをしました。
自主レーベル「Zenknow」
——現在は自主レーベル「Zenknow」で活動されていますよね?2017年2月にリリースされた1stアルバム『Trainspotting』はKEN THE 390さんのレーベルからリリースされていましたが。
自分でレーベルをやろうとした理由にそんなに深い意味はないんです。単純に自分で一つずつやっていきたいという思いがあって。そして、その自分の動きひとつひとつに対する手応えや収穫をダイレクトに把握していたいというか。
——『Trainspotting』の時は第三者な感じが少しあった?
話題にはなったと思うし、本当によくしていただいてありがたかったんですけど、音源制作にせよプロモーションにせよ、一つずつ確実に自分のペースで取り組むほうが自分には向いているなと思ったんです。それは、自分で行動した場合と人にお願いしてやってもらった場合を両方経験したからこそ、そういう風に考えることができるようになりました。
——11月にリリースされた「Zenknow」はそのレーベル名と同じタイトルですが、そうした理由は?
今年の3月にリリースした「Bones」以降、リリースが途切れつつも制作自体は続けていたんです。それで、またタイミングが整ってリリースを再開しようという時に、レーベル名と同じタイトルの曲をリリースすることによって、改めて自分のレーベルの名前を広く知ってもらえるかなと思ってそうしました。曲の内容自体も、所信表明というか、自分の思いやこれからどうしたいかを詰め込んだものになっています。
——「Zenknow」は“全能の神”の“全能”ですか?
そういう意味もあるかもしれないし、“禅”にかかっているのかもしれないし。レーベル名でも色々な解釈ができるっていうのは面白いなと思って。
音楽に対する覚悟
——『Trainspotting』の頃からもうすぐ2年が経ちますが、そのころと比べて何か変化はありますか?
たくさんありますね。音楽的な部分でいうと、前からオリジナリティは追求していたつもりなんですけど、今はそれがもっと全面に出てきました。「自分が死んだ後も遺るものを作りたい、そのためには突出したものを世に出さなければならない」という考えがもともと少しあったんですけど、2017年からその気持ちが一気に強くなって。やりたくないことをやっている時間はないし、音楽を作ることだけに全てをかけようっていう“覚悟”みたいなものが生まれたんですよね。
——自分のスタイルが固まってきた?
固まってきたし、逆に言うとずっと変わらず“破壊と再生”は繰り返しているとも思っていて。“周りの形式にとらわれず、なんでもあり”っていうのが自分のスタイルなので。聴いてもらえるとわかる通り、曲毎でスタイルがぜんぜん違うし、根底にある“破壊と再生”っていう部分は変わらなくて、中心にある軸がブレないからこそスタイルも自由に変えられるし変えやすいっていうのはあるかもしれないです。
——以前おっしゃっていたように、ストーリーがフィーチャーされているよりも、純粋に音楽として良い楽曲を作りたいという気持ちは変わっていない?
変わらないですし、むしろ以前よりもっと強くなりました。
途切れないクリエイティブを支える制作環境
——コンスタントに楽曲をリリースするにあたって、作り続ける大変さもあると思うのですが、Lick-Gさんの場合トラックメイクはどのようにされていますか?
最近のリリースは、メールがきっかけで知り合ったビートメーカーの方々などとの共同作業で作っています。
——今ってType Beatを使ったりも多いと思うんですが、その辺りはどのように考えていますか?
Type Beatもそろそろ終わりっていうか、やっぱり限界があると思っていて。海外の曲でもType Beatの権利を買ってそれをもとにプロデュースし直すって言うパターンがたくさんありますけど、今はもう出尽くしたっていうか、もう流れは変わってきていると思うんですよね。てっとりばやくて安いうえに、一般受けしやすいサウンドになるってことで、Type Beatの文化って相当盛り上がりましたけど、自分のスタイルにおいてはもう違うかなと。イントロで「あ、これType Beatだな」ってもう分かっちゃいますしね。
——ちなみに、Lick-Gさんは気になる曲があったときに、その曲のクレジットを見て作っているプロデューサーの他の曲を探したりしますか?
最近はあんまりないですね。以前はかっこいい曲だなと思ったときにビートメーカーを確認したりしていましたけど。あと、ヒップホップって一般的な音楽からみると言葉の定義が独特じゃないですか。曲全体の構成や歌い方のディレクションを含めて“プロデューサー”だと思うんですけど、最近、ヒップホップでいうプロデューサーというのはビートメーカーという意味に直結していますよね。だから、僕の場合は一般的な音楽の定義にあわせようということで、クレジットの仕方にも気を遣っています。
——現在の音楽制作の環境はどのようになっていますか?
自分の家でMacと機材をそろえてやっています。また、トラックメイクやエンジニアリングに関して父親に少しづつ教わっているので、ミックスやマスタリングもできるようになってきました。マイクプリやハードウェアのコンプレッサーなども良い物を選んでいますね。最終ミックスで大きいスピーカーで聴くためにちょっとスタジオに行ったりもしますけど、基本的にはぜんぶ家で作っています。
——レコーディングスタジオと比べると、やはり自分の家のほうが作りやすいですか?
僕の場合は自分ひとりで録るほうがあってるというか、やりやすいですね。あんまり人がいるところでレコーディングしたくないっていう感じがあって(笑)。あと単純に“すぐ録れる”っていうのは大きいです。機材的にも今はレコーディング・スタジオじゃなくても満足のいく音が録れるようになっていますし。
——インスピレーションが湧いた瞬間や、気分が乗った時にすぐ録れるっていうのは、自宅スタジオのいいところですよね。
プリプロを録ってその後ちゃんとしたスタジオで録る方法のメリットもあるし、どっちがいいとは一口には言えないと思うんですけど、宅録だととにかく融通が効きますよね。
——ひとりで作るというところで、Lick-Gさんは客演を迎えることがあまりないですよね。
自分が作る世界観がけっこう独特なので、今のところは一人で完結させています。でも、世界観やイメージが合致する方がいれば、今後はぜんぜん一緒にやることもあり得ると思います。
——また一時期ライブはお休みされていましたが。
準備期間中だったので一時的にやっていませんでしたが、それももう終えたので、今後はたくさんやっていこうと思っています。
新曲「Akira Asa」、「夢の恋」に込めた想い
——直近のリリースについてお伺いしたいんですが、まず「Akira Asa」は全くサウンドの異なるリミックスを出されていましたね。攻撃的な通常バージョンと綺麗なアルペジオで構成されたリミックスバージョンと。
通常の「Akira Asa」は挑戦的でキレキレなサウンドにしたんですが、そこに足りない部分を聴きたい人もいるだろうなと思って、もっとスローで聴きやすいリミックスバージョンを作りました。ビートが少し違うだけで歌詞の聞こえ方も変わりますし、2通りの楽しみ方をしてほしくて。
——ちなみに「Akira Asa」ってポルノ女優の名前ですよね?
そうです。
——以前は「Mellow Akira」という曲もリリースしていましたが。
どちらの曲も聴き手のモチベーションを持ち上げる曲ですね。「Akira Asa」は「Asa Akiraみたいに、お前のそのなまけたケツを起こせ」っていう内容の歌詞になってます。ポルノ女優ってお尻を上げるじゃないですか。この曲のフックはそれの比喩表現ですね。あとは、世界で活躍する日本人のAsa Akiraへのリスペクトもあるし、そもそも彼女の作品が好きっていう(笑)。
——「Akira Asa」のリミックスのほうはエモラップな雰囲気もありますが。
トレンドはそんなに意識してないですね。その流行り自体は分かってますし、エモ系も個人的に好きなんですけど、自分の場合は、型にはまっているというよりはもう少し深い表現をしているつもりです。
——自分の内面から出てきたものが、自然とトレンドにもリンクしている?
どっちかというとそういうパターンが多いですね。あと、歌詞で「I’m not a rapper」って言ってるんですけど、それはラップやヒップホップをやめたわけじゃなくて、単純に「自分を既存のスタイルや枠とか固定観念に当てはめるなよ」ってことを少し過激に言ってるだけです。「more like a punk star」の部分は、「俺は俺のやりたいことを好き放題やる」ということを意図していて。日本だと歌詞にすごく重きが置かれているけど、僕としては100%その歌詞の通りに直球で受け取る必要はないと思うし、そればっかりじゃつまらないと思うんで「この発言の裏にはどういう意味があるのか?」っていう部分をもっと汲んでもらえたらさらに楽しんでもらえるんじゃないかなと思います。
——また、12月23日にリリースされた「夢の恋」は、やはりこれまでとテイストが異なるサウンドになっています。レトロな雰囲気のメロだったり。
曲の世界観を引き出すためにサビのリヴァーブのボーカル処理にもこだわりました。ヒップホップが好きな人だけじゃなく、もっと広い層の人にも聴いてほしくて、ラップはラップでちゃんと聴かせつつも、フックはキャッチーな物に仕上げることができました。
——ちなみに、このラブソングのリリックは実体験でしょうか?
そこはご想像にお任せします(笑)。タイトルも「夢の恋」ということで、現実か夢かわからない境界線を楽しんでもらえればと。
——作品を作るとき、自分がこだわる表現と多くの人に聴いてもらえるような表現とのあいだには、やはりズレが生じることもあると思うんですが、その部分はどうお考えですか?
僕が惹かれる音楽の傾向は、たとえ一聴してポップな音でも最後までスーッと流れていってしまうのではなくどこかに引っかかりがあるもの、良い意味での異物感があるものなんです。なので、自分にとっての大きな音楽的価値観である“引っかかり”は外せないんですが、もちろんポップ的な部分への嗜好もあるので、妥協することは絶対にないですが広く楽しんでもらえれるものは今後も出していくつもりです。
「夢の恋」に関しては、「こんなポップなものも?」という驚きの反応もけっこうあるんですが、あれも自分の音楽性や嗜好の一つなのは確かですし、自分から寄せていっている感覚はまったくないです。
現在進行形の評価
——以前は、わかってくれる人だけが聴いてくれればいいという発言もされてましたが、それも変わってきた?
自分の表現に共感してくれる人がいればそれでいいのかなっていう思いからそういう風に言っていたんですけど、そもそもの部分でもっと大きい視野を持たないと広まっていかないなと思うようになりました。
——そのように「より多くの人に聴いてもらいたい」と思うようになったきっかけは?
去年、自分自身と真正面から向き合う時間が増えたんですよ。それで、「人生やりたいことしかやっちゃいけない、無駄なことしている時間はない」って気付いて。生きている間に一人でも多くの人に自分の音楽を聴いてもらいたいっていう思いが強烈に強くなったんです。当たり前ですけど、人間死んだらおしまいじゃないですか。生きているあいだは音楽だけに時間を費やして、その手応えを感じたいと思っています。
——そうやって自分の思い通りにスピーディーにアクションを起こしていきたいアーティストにとって、いまは良い環境ですよね。ストリーミングで自らリリースもできるし、世界にも届けられるし。
それは痛感してますね。だからいまの時代の環境はすごく自分に合っていると思います。ネットでなんでも自ら広められるし。少し昔だと人に頼らなければできなかったことも全部自分でできるから。時代に恵まれたなと思うし、だからこそ、その恵まれた時代環境を最大限に活用するべきですよね。特にインディペンデントのアーティストは。
——創作の部分で、日常の中でインスピレーションを受けることってありますか?
もちろん映画とかも好きですけど、結局「〇〇にインスピレーションを受けた」って言っていてもキリがなくて、身の回りのこと全部だと思うんですよね。そもそも身の回りの環境や日常で起きた出来事で成り立っているのが音楽だと思うんで。
——創作のモチベーションの部分はいかがですか?
やっぱりフラストレーションが大きいかな。最近は不条理を不条理だとすら感じない人もけっこう増えているなと思ってて。ネットの普及によって膨大な情報で溢れてる中で、「じゃあ本当に良いモノって何だろう?」っていうのを考える余裕もなく満たされちゃってるのかなって。みんなが当たり前のように満足していることも、僕はわりとシンプルに不満に感じるほうなので、そこがエネルギーや創作意欲になっていますね。だから根本のモチベーションとしては反骨心が大きいです。
——フラストレーションがある中でも「夢の恋」のようなラブソングが作れる幅広さも持ちつつ?
そうです、一息つく感じというか。モチベーションが反骨心とはいえ、四六時中ずっと不満に支配されているわけじゃないし、生きている中で溜まったものが濃くなって楽曲のメッセージとして強烈にでてくるわけですけど、表現がそれだけじゃつまらないですから。いろんな方向性やテーマで、マルチに聴かせつつ根本にあるものは変わらずに。
世界を見据えた視野
——先ほども少し触れましたが、音楽のトレンドについてはどうお考えですか?
星の光じゃないですけど、最先端を作ってる人って、その作品が人に届いた時点でもうその先にいってるわけじゃないですか。だから、僕はそれを追いかけるんじゃなくて、自分が基準になろうっていう考えでいます。トレンドを取り入れるのが悪いわけではないんですけど、どういう風にアウトプットできるかを考えないと限られた市場だけで終わってしまうと思いますね。自分はそれより上を見据えているので。2019年は全編英詞の作品も考えています。日本の市場も見つつなんですけど、今は世界に配信できるんでちゃんと海外の展開も視野に入れて動こうかなと。
——国内のヒップホップシーンは意識されていますか?
「I’m not a rapper」って言いましたけど、ヒップホップやラップをやめたわけではないし日本にいるんでその枠にいることにはなっていますけど、もっと広い視野で考えています。やっぱり日本発のものをガンガン世界に出して「日本ってすごいよね」って思わせたい。世界のトレンド自体が停滞気味にも感じてるんで、逆に新しい動きを生み出すチャンスだと思うし、こういう時こそ「チャンスだ!」って感じないといけないんじゃないかな。
——ご自身で活動されているということで、プロモーションやマーケティングについて自分なりの考えはありますか?
その辺はいろいろ調べてやっています。色んなツールをちゃんと使いこなしつつ。
——映像からのアプローチはどう考えていますか?
MVって今の時代には必須だと思うんですけど、曲のイメージが映像にひっぱられるのが少しもったいないとも思っていて。割り切るしかないとは思うんですけど、例えばTrapNationでもアートトラックだけでやり方によって再生回数は伸びているし、もっと音楽だけを聴く人が増えたらいいなと思っているんです。ただMVももちろん大事なので、今後作っていくとしたら、その楽曲に対して映像が存在する意味をきっちり提示できるものを考えたいです。
——最後に何かメッセージがありましたら。
まずやっぱり固定観念をとっぱらって、もっと自由に、新しいものとして聴いてもらいたいなと思います。逆に世界がフォローするような新しいものを日本から出していきたいし、そうするためにも、みんなが自分の耳に自信を持って音楽に接するような世界が広がってほしいですね。
Lick-G
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