TORIENAインタビュー 「みんなにとっての『圏外』が、私にとっての『安全圏』」 シューゲイザーを取り入れた新作アルバムに込めた思い

インタビュー
2024.11.8

——『PURE FIRE』以降のTORIENAさんは、ハードな一面を押し出すことで、誰かから求められるTORIENA像ではなく自身のやりたいことを追求するスタイルを体現してきました。けれど、そのハードさ自体がまた一つのTORIENA像になってしまうというジレンマを抱えつつあったと思うんです。そのタイミングでさらにもう一度固定観念を破壊する『圏外』が完成したのは大きい意味があると思っていて。

全部、私なんですけどね。人間ってやっぱり多面的じゃないですか。で、私はめっちゃ音楽が好きだから、アッパーな時はハードコアを聴きたいし、落ちちゃってるときとかリラックスしたい時はエレクトロニカやアンビエントとかが聴きたい……いつも色んな音楽が隣にあるんですよ。それがTORIENAを構成してる。ハッピーなTORIENAもいれば、怒りのTORIENAもいて、今回は寄り添い型のTORIENA、みたいな。内包しているものを、一つずつ見せてるだけ。

——なるほど。

でも、2020年以前の自分のイメージは、憧れの姿に近かったんですよね。明るくて可愛くて完璧、みたいな。その見せ方と本来の自分の乖離が激しすぎて、メンタルがガタガタになったりもしたんですけど。ただ、作ってきた音楽に関してはどれも嫌々やったことではないし、ずっと本気なんです。何かのために音楽を利用したこともない。なのに、ファッションやブランディングによって食わず嫌いされてるんじゃないかって、未だに疑心暗鬼になったりして。「TORIENAってKawaii系の人でしょ? ハードコアもギターもファッションでやってるんでしょ?」みたいな。それに対して、「なんで分かってくれないんだ! これでダメなら死んでやる!」って怒りを込めたのが『PURE FIRE』だったんですけど。

——そういう「わかってない人」に対する思いは、作品を重ねて変化しましたか?

今は怒ってはないかな。「わかんないよね、だって変だもん」「変じゃなかったら、こんな音楽やってないもん」って感じ。

——ここまではTORIENAさん自身の名義での創作についてお伺いしてきましたが、最近の活動を追っていると、商業的なワークスの充実も感じます。

それはやっぱり、仕事に真摯に向き合ってきたからじゃないですかね。私は音楽系の学校に通ったことがないけど、楽典も勉強したりしましたし。まあ、結局は自分の感覚が大事だなと思って、今は一度置いてるんですけど(笑)。でも、その知識や経験って何か壁にぶち当たった時に活きるじゃないですか。そうやって真面目に取り組んで要求に応えることを積み重ねた結果ですよね。自分の色んな要素を何年もかけて少しづつ出してきたことで、「こんなこともお願いできるかも」って思ってもらえるようになったとも思いますし。その仕事ぶりを見てくださる方には本当に感謝です。怒ってた時にも落ち込んでた時にも曲は作り続けてきたから、諦めなくてよかったと思いますね。そういった仕事が、ボーカルの処理や音像のバランス感といった面で、自分の名義の作品に良い影響を与えているとも感じます。

——アルバムをリリースしたばかりで気が早い話ではありますが、今後の作品のイメージはありますか?

めちゃくちゃなアホなテクノも、超ハッピーな楽曲も作りたい。あとはデジタルハードコアもやりたいな。

——Atari Teenage Riotみたいな?

まさに。あとは無邪気な気持ちで、バンドをやりたいなとは思ってるんですけど。

——最後にそれに関する質問をしようと思っていました。アルバムの世界観を堪能できる長尺のライブや、通常とは異なるセットのライブの展望について。

すごくやりたいんですよね……。私って、ブッキングするのが難しいアーティストだと思うんですよ。完全にテクノかと聞かれたらそうでもないし、かといってバンド系のイベントでも浮いちゃうし、Hyperpopのシーンに混ざるのもなんとなく違和感があるし。だからこそ自分のワンマンライブはやりたい。ぶっちゃけ、自分のファン層もよく分かってなくて。クラブで知った人もいれば、音ゲーで知った人もいるし、未だにチップチューンのイメージを持ってる人もいる。最近は女の子が増えてきたかなと思いつつ、老若男女さまざまで。一度集めてみたいですよね。こういう人が聴いてくれてるんだっていうのを肌で感じたい。その時に、「アンコンシャスバイアス」や「エミリー」をバンドセットをできたらいいなと考えてはいるんですけど、果たして実現するんだろうかっていう感じです。ここ数年はCG制作もハマったりしてるんで、映像演出も自分で考えたいですね。

——楽しみにしています。こちらで用意してきた質問は以上ですが、最後にアルバムを聴くリスナーに伝えたいメッセージはありますか?

やっぱり曲順にはこだわっているので、なるべく一人でじっくりと、頭から最後まで聴いてもらいたいですね。ループできるようになっているので、眠れない夜にも。あとは、篠田利隆監督に撮ってもらった「エミリー」のMVは全編本物の8ミリフィルムで撮ってるので、そちらもチェックしてほしいです。
 

 


TORIENA『圏外』

TORIENA「圏外」

 
 
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この記事の執筆者
サイトウマサヒロ
1995年生まれ、フリーのライター。インタビュー、ライブレポート、コラムなど書きます。