mezz 新EP『mezz bunny 2』インタビュー 懐かしさと新しさを鮮やかに融合させグローバルに羽ばたくシンガー/ラッパー
シンガー/ラッパーのmezzがニューEP『mezz bunny 2』を10月23日にリリース。UK Drillと00年代J-POPを融合させた「Gyal Drill」で鮮烈なデビューを飾った彼女は、今年『SUMMER SONIC 2024』やバリ島の音楽フェス『Suara Festival 2024』に出演し、9月には台湾公演を敢行。さらにUKガラージを代表するSharda (a.k.a. Murlo)や、UKファンキーのパイオニアであるロンドンのRoska等世界的なプロデューサー達とも作品をリリースするなどグローバルかつダイナミックに活動を加速させている。
躍進を経て放たれた今作は、「Gyal Drill」「ROYAL MILK TEA」といったmezzの代表曲を手がけてきたプロデューサー・dubby bunnyと全曲を共作。Trap、Jersey Club、UK Garage、Afro R&B、UK Drillと収録された5曲それぞれが固有の最先端サウンドを持ちながら、彼女の原体験を投影しているというキャッチーなメロディが、色鮮やかな東京の街々を横断するように貫く。そのルーツや現在地、EP制作の裏側について話を聞いた。
取材・文 : サイトウマサヒロ
企画 : Jiro Honda
“アガる曲をショッピングモールで流したい”
——現在のキャリア以前は、メタルコアバンドのボーカリストとして活動されていたそうですね。
そうなんです。バンドが解散してからは、もう音楽をやることはないだろうと思ってました。でもコロナ禍で暇していた時、当時付き合っていた彼氏が作ったビートにボーカルを入れてみてって頼まれたのでやってみたら、やっぱり音楽は楽しいなって気持ちが再燃して。バンドは人とぶつかって辞めちゃったので、次は一人でやってみようかなって。当時はバンドものの音楽を聴くのも避けていて、PARTYNEXTDOORとか王道のR&Bをよく聴いてました。
——バンドでの経験は、現在の活動にも活きているのでしょうか?
やっぱりハードコアのバンドマンってステージ上でよく動くから、mezzとして最初にライブをしたときから、こうやって身体を動かすものだっていうのは自然にわかりました。あとは、バンドではお客さんがほとんどいない平日の夕方のイベントに出演するようなことも多かったので、そういう面でのガッツは培われたかもしれないですね。
——HIPHOPとバンドシーンで、空気感の違いのようなものは感じますか?
いや、それは意外と。今自分がお世話になってるスタジオのクルーもバンド時代の先輩だったり、プロデューサーのdubby bunnyさんも元々バンド出身だったりするので、周囲の環境に大きな違いはなくて。どのシーンでも、いい意味でオタク気質な人が残っていくよなとは感じます(笑)。でも、クラブの方が女の子の友達が出来やすいっていうのはありますね。
——そういったルーツがある一方で、mezzさんの楽曲や活動はJ-POPに対する憧れや愛着を表明したものが多いですよね。
やっぱり小さい時に両親が聴いてた音楽って身体に染み付いてるじゃないですか。それが私の場合は00年代初期のJ-POPで。「あ、この曲知ってる!」っていうあの感覚を手繰り寄せている感じです。当時のJ-R&Bが今聴いてもすごくカッコいいっていうのはもちろんなんですけど、それをカッコいいかどうかもわからないうちにまっさらなスポンジに吸収していたっていうのは、すごく大きいことだと思います。別にY2Kを明確に意識してるわけじゃなくて、自分が幼少期を00年代初期に過ごしたから、その原体験が音楽に表れてるだけ。
——中でも宇多田ヒカルさんからの影響は大きいのかなと。「Gyal Drill」のリリックにも「最後のキスもたばこのflavor」というラインが登場しますし。
めちゃくちゃ大きいですね。それこそ父親がずっと車の中で流していて、振り返ってみると彼女の言葉に気付かないうちに救われていたこともたくさんあるし。一番好きなアーティストの一人です。
——具体的には、宇多田さんの魅力ってどんなところだと思いますか?
ありすぎてどれを言えばわからないですけど……やっぱり、寄り添ってくれるところじゃないですかね。ディーバにも色んな像があって、「私に付いてきなさい」って引っ張っていくリーダータイプもいるけど、宇多田ヒカルさんはそばにいてくれるタイプ。背中で示されすぎると、カッコいいなって思いつつも自分はこうはなれないなと感じて疲れちゃうことがあって。宇多田さんは辛い時にも「そういうことあるよね」って語ってくれるので、そこに救われますね。
——mezzさん自身が創作をする上でも、宇多田さんはロールモデルとなるような存在なのでしょうか?
そうですね。何かのインタビューで宇多田さんが、歌詞は自分が経験してきたことをベースにしないとできないけど、その全てがノンフィクションというわけではなくて、「こうだったら良いな」「こう思ってたら良かったのにな」という思いを脚色として加えるって仰ってて。それは自分も作詞の過程でやってることだなと思ったんです。なるべくリアルではありつつ、寄り添いたい相手のことを想像して書けるのは私の味だなと思います。
——mezzさんのプロフィールには「今までにないJ-POPのスタイルを模索」するとありますが、mezzさんが描く新たなJ-POP像とはどういったものなのでしょうか?
純粋に、日本ってアガる曲がショッピングモールでかかってないよねっていうのは思いますよね。それを変えるのが自分の曲だったら良いなっていう感じ。だから、今一番イケてる音に耳馴染みのあるメロディを合わせて。感覚的な話ではあるんですけど、サウンドは前衛的で、だけどボーカルには懐かしさもあるな、みたいな曲を作れたら良いなと思ってます。