Mili インタビュー 『ENDER MAGNOLIA』「Classroom Dreamer」の裏側、そしてアーティストとして暮らし続けるために
『ENDER MAGNOLIA』サントラで知った“続編”の難しさ
——続いて、2月6日に配信開始された『ENDER MAGNOLIA: Bloom in the Mist』のサウンドトラックについて伺わせてください。前作『ENDER LILIES: Quietus of the Knights』に続いての起用ですが、前作での仕事はどうでしたか?
Yamato Kasai:『ENDER LILIES』は、僕と同年代くらいのプレイヤーが多い気がしていて…… 今、僕って38歳だったっけ?
Cassie Wei:うん、38。
Yamato Kasai:(笑)。なので、今までのMiliの活動とは少し異なる層に届けることができたのかなと。「『ENDER LILIES』の曲をやった人」という形で新たに認知してくださる人も増えたので、新たなリスナーに刺せたという実感はありました。あと、Miliは活動の最初期にはインスト曲を多く書いてたんですけれども、『ENDER LILIES』を手がけたことで、最近ファンになってくれた方の間にも「Miliってインストもやるんだ」という認識がかなり広がったと思います。
——そもそも、『ENDER LILIES』の音楽を担当することになった経緯は?
Yamato Kasai:制作チームのディレクターから直接、「Miliのファンなので、ぜひ音楽をお願いしたい」という連絡をいただきまして。一度お会いしてゲームのコンセプトをお伺いしたら、すごく僕らと相性が良さそうだったので、すぐに快諾しました。そもそもゲームに携わる仕事というのは個人的に嬉しいオファーなんですよ。小学校低学年くらいから漠然と、ゲームやその音楽を作る人になりたいという夢を抱いていて。
Cassie Wei:お話をいただいた時に初期段階のゲーム映像が送られてきたのですが、その中で勝手にMiliの楽曲が使われていて(笑)。でも、おかげでイメージしやすかったですし、Miliにピッタリの作品だなと思いました。
Yamato Kasai:『Deemo』もそうだったんですけれど、初期段階の映像や資料でも、「これはハマるかもしれないぞ」みたいなのってビビッと来るんですよね。なので、オファーをいただいた立場なのに「やらせてください」っていう感じで。
——その予想の通り作品は見事にヒットし、かつMiliの楽曲もマッチしたことで、『ENDER MAGNOLIA』でも続投となったんですね。今作では、前作とどのような差別化を図りましたか?
Yamato Kasai:前作はいわゆる王道的なダークファンタジーだったんですけれども、今作にはスチームパンク的な要素が加わって。かといって、画面を見ればわかる通り、完全にSF的なビジュアルに切り替わったわけでもないので。『ENDER LILIES』にプラスアルファするようなイメージで作らせていただきました。
——確かに、インダストリアルな音使いの楽曲が印象的です。前作から数十年後の世界が舞台という設定も反映されているのでしょうか?
Yamato Kasai:そうですね。今までゲームのBGMは色々やらせていただいたんですけれど、全曲を僕らが手がけた作品の続編がリリースされるのは初めての経験だったんです。『FF』『ドラクエ』『ロマサガ』とか、同じ作曲家さんが担当しているナンバリングタイトルにはこういう苦労があるのかっていうのを実感しました。まず、「前作の方が良かったね」って言われる恐怖。なおかつ、まったく同じことをしてもダメで、同じ世界観を保ちながらそのタイトルに合うようにアプローチを変えないといけない。もし『ENDER LILIES』と『ENDER MAGNOLIA』が全然違う世界の物語で、ゼロから考える必要があるんだったらその方が全然楽でしたね。
——2024年3月に配信開始されたアーリーアクセス版から今年1月に配信開始された製品版までの間に、楽曲の差し替えもあったんですよね。
Yamato Kasai:はい。もちろんアーリーアクセス版の時点で自信を持ってはいたんですけれど、実際にプレイしながら、あまり合わないような気がする楽曲があって。やっぱりその微調整は難航しました。『ENDER LILIES』ではそういうことがなかったんですけどね。続編を作るっていう経験は自分のためにもなりましたし、楽しい作業でもありました。
——キャシーさんの歌のアプローチにも、前作からの変化はありましたか?
Cassie Wei:そもそも『ENDER LILIES』は歌入り曲が少なかったし、主題歌以外だとウィスパーっぽいBGM感のある歌声の曲が多くて。今回は歌のバリエーションが増えました。
Yamato Kasai:マップによって印象が変わるからね。
Cassie Wei:そうだね。街や、文明を感じるステージが増えていて。たとえば「この曲は昔のフランスのセクシーなお姉さんをイメージしよう」とか、「若い商人の少女が踊っているように歌おう」とか、いろんなシチュエーションを想像して歌に表情を付けていきました。
Yamato Kasai:『ENDER MAGNOLIA』の世界に合わせて、人の営みや自分以外の何かの存在を感じられるような楽曲が自然に増えました。ボーカル曲が多くなったのもそれが理由ですね。
——主題歌「Hearts Stay Unchanged」はどのような思いで制作されたのでしょう?
Yamato Kasai:『ENDER MAGNOLIA』は、エンディングを迎えた時に大きく花火が打ちあがるような物語ではないんですよね。なので、余韻が後を引いて考えさせられるような、映画館でエンドクレジットの後にシーンとなってしまうような雰囲気を出せればなと思っていました。ストーリーの規模感が大きい分、弦楽器やオーボエ、クラリネットを生演奏で収録して、壮大にまとめてみました。軽井沢大賀ホールで初めてのホール録りにもトライして、エンディングに相応しい曲を目指していきました。

——仰る通り、スケールが大きくはあるんですが、ハッキリとしたカタルシスはないというか。この曲だけでワーッと感動が押し寄せるような楽曲ではないのかもしれません。
Yamato Kasai:そうですね。この曲をたまたまYouTubeで聴いた人が惹きつけられるような曲かというとそうじゃないんですけれども、エンドクレジットとともに楽曲が流れた時に色々な思いを馳せられる楽曲になりました。
Cassie Wei:前作の主題歌「Bulbel」は「私とあなた」の二人に焦点を当てたアプローチだったんですけれど、「Hearts Stay Unchanged」はそこから一歩踏み出しています。自分語りや演説ではなく、世界中に点在する寂しい思いをしている人に囁くような塩梅で。あくまで同じ立ち位置から、「私はここにいることに気付いてほしいな」っていう感じです。ちょっと抽象的な表現なんですけれど。
——Miliさんのタイアップ楽曲は、登場人物の誰かに感情移入するというよりも、物語全体を捉えるような楽曲が多いように感じます。
Cassie Wei:私は、タイアップの楽曲を作る中で必ず守っているルールが一つありまして。作品と関係がなくても意味を持つようにしているんです。「このキャラクターのこの心情を歌ってるのかな」という想像もできつつ、作品を知らない人が単純に一つの曲として聴いてもちゃんと自分の現実世界の何かと重ねられるようにしています。ゲームをやってなかったら、アニメを観てなかったら意味がわからないような曲は作りたくないんです。

Mili『ENDER MAGNOLIA: Bloom in the Mist Original Soundtrack』
——最後に、2025年の活動のビジョンを教えてください。
Cassie Wei:まず、今は『ENDER MAGNOLIA』のLPを絶賛制作中です。かなり気合が入ってまして、知る限り世の中にこんなLPはないと思います。そのリリースに伴って、何かしらリアルイベントを用意したくて。まだ検討中なんですが、今年の5月から6月ごろにできたらと思ってます。
——オフラインでのアクションも予定しているということですね。
Cassie Wei:そうですね。何年間もともに仕事をしている韓国のProjectMoonというゲームスタジオとコラボした日韓ツアーも予定していて。冬の開催に向けて準備しています。あとは、オリジナルアルバムを作りたいな。もう5年前から作ろうっていう話をしているのに結局できてない。あんまり時間が経ってもハードルが高くなるだけなので、早めに作りたいんですよ(笑)。
Yamato Kasai:僕も、まずはアルバム制作に入ることが目標ですね。タイアップ楽曲でも引き続きMiliの色を出していきつつ、アイデアを蓄える時間を確保して。Miliのタイアップとは関係ない曲を待っているファンはたくさんいらっしゃるので、そのための時間と余力を持つのが2025年の抱負です。