【対談】Rie fu × 石崎光 ― 新アートロックプロジェクトASAMASAMA始動 “時代に寄り添いながら、異端児になる”
浅間山の麓から発信する魂の叫び、ASAMASAMA(アサマサマ)がデビューシングル「123」をリリースした。Rie fuと石崎光による、日本のカルチャーへのオマージュやウイットに富んだ風刺要素を取り込むオルタナティブアートロックプロジェクト・ASAMASAMA。智慧と反骨の精神を胸に、ハイブリッドなサウンドを生み出しながら未開の山頂へと向かう2人が、結成の経緯から今後の展望まで語り合う。
聞き手&ライター : 山田邦子
Photo credit : Maria Ishii
結成のきっかけ
石崎光 : 「Rie fu」とは別のプロジェクトをやりたいって話、結構早い段階からしてたんだよね。
Rie fu : 子どもが産まれて半年くらい経った頃、子育てや音楽の現場に限らず、もっと大きな視点で、日本は特に女性の主張とか強さっていうものが抑圧されてきたんだなって気づいて。怒りとか反骨精神、個性や自立、独立。そういう女性の強さをもっと前面に出した作品を作りたい、固定観念を覆したいっていう衝動が、浅間山の噴火のように爆発して(笑)。(補足 : Rie fuは2023年より浅間山のある長野県軽井沢を拠点にしている。)
石崎光 : “浅間山”は後付けだけどね(笑)。

Rie fu : あとは母親としての強さも出てきたし、逆に、母親になったからといってソフトな方向に行きたくないっていう天邪鬼精神もあったから、いろんな要素が混ざった曲が一気にできて。それをすぐ光さんに聴いてもらったんです。
石崎光 : Rie fuとはずっと一緒にやってきてるし、イギリスで活動してた時の音源にも参加してるけど、「あれ?これで通じないんだ」、「じゃあもっとやっちゃって、オンリーワンなやつにしないと世界で通用しないんだな」みたいに思ったことも、このバンドを結成するきっかけになった。
Rie fu : 20年近く光さんと試行錯誤してきたからこそ、行き着いたというか。イギリスでは<Rié>名義でEPをリリースしたけど、そのときは結構UKのマーケットとかに寄せて作ってたのかな。今回のASAMASAMAの方が、より日本らしさを堂々と出してるような気もする。
石崎光 : うん。単純に世界に投げて、一つのアイテムとして同列に今売れてる人たち――Justin BieberしかりMåneskinとかと並んだ時に勝てるものしか作りたくないみたいな意識が、今回のプロジェクトはさらにあるっていうか。本当に、世界で勝負したいって気持ち満々でやってる。ほぼ毎日Spotifyで新譜を聴いたりいろんなものをチェックしてるけど、ASAMASAMAがどこにいるのか、こいつらより勝ってんのかみたいな、もうそれしか興味がない(笑)。
Rie fu : 光さんの作るアレンジやサウンドは、やっぱり日々Spotifyとかで聴いてるものをすごく意識してるなって気はする。たとえばVampire Weekendの、スタイルは一緒だけど新作ごとに音色がアップグレードした感じとか。音自体で攻めてる感じはありますよね。

ASAMASAMAが目指す姿
石崎光 : 今話してて思い出したんだけど、単純なロックバンドにはしたくないって言ってて。
Rie fu そうそう。
石崎光 : すごく時代性のある、ハイブリッドなバンド。打ち込みだったり、808とかシンセを使ったり、ロックバンドって枠にとらわれないっていうのがコンセプトかもしれない。
Rie fu : かといってHi-FiでもLo-Fiでもない。
石崎光 : オルタナティブを一直線にやりたいってわけでもないし、日本の音楽を混ぜたいと思ってやってるわけでもない。ちょっとふざけてやってる部分はあるけど(笑)。
Rie fu : でも光さんがやると、やっぱり日本の音楽の要素も出汁みたいな感じで混ざってるよね。
石崎光 : 出汁ね(笑)。いわゆる三味線みたいな和の要素を足して「これが日本のハイブリッドな音楽です!」みたいなのにはものすごい抵抗があって。それよりもうちょっと、日本人がふざけて「これ日本っぽいだろ!?」ってアピールしてるみたいな、それに近い感じだよね。
Rie fu : わかる。タランティーノ映画の日本の表現を、逆に日本人がふざけてやってみたみたいな(笑)。
石崎光 : それがどう伝わるかは、どうでもいいというか(笑)。それは聴き手に任せるけど、多分聴く人が聴けばふざけてるっていうのはわかると思うから。
Rie fu : そこが、パンクでロックでも、ちょっと可愛いとか笑っちゃうみたいな要素になってるのかもね。
石崎光 : うん。それはもしかしたら、世界の人が感じ取ってくれるポイントなのかもしれない。
Rie fu : 海外で知られてる日本のアイドルやアーティストって、あんまり真面目な話ができる相手というより割と子供っぽく扱われてる気がして。映画「SING」のオーディションに登場する日本のパンダのアイドル(※キューティーズ (The Q-Teez)、日本から来た女性レッサーパンダ5人のユニット)みたいに、シリアスには捉えてもらえないっていうところにも挑戦したい。ふざけてやってるけど、それも真面目にやってるよっていう。
石崎光 : 大真面目にふざけてる。だってRie fuがイギリスでやったときも、結構方向性を迷ったね。最初は尖ったものを作ろうぜみたいな感じで「St.Martin」って曲やったんだけど、向こうに行ったらプロデューサーに「ポップな感じにしたらいいんじゃないか」みたいに言われたりして。
Rie fu : そう。
石崎光 : それで売れてもどうなんだみたいに思ってた。だけどASAMASAMAはそんなことじゃなくて、2人が作って2人が面白いと思うものをどーんと出して、「はい、どうぞ!評価してください!」っていうくらいの感じにしたいっていうのが本音かもしれないね。
Rie fu : さっきタランティーノ映画の話をしたけど、”海外の人から見た日本”をパロディーというかちょっと揶揄したような要素も入ったASAMASAMAの音楽を、海外の人が受け取ってどう反応するのか。キャッチボールっていうか、発信して返ってくるものをまた作品に生かすことで、より大きな規模で広がっていけたらいいなと思う。
石崎光 : 単純に面白い曲をたくさん作って、世の中に投げたい。 あわよくば、Paul McCartneyとかに聴いてもらう流れになったりね。
Rie fu : あとはイギリスの「ジュールズ倶楽部(Later with Jools Holland)」。
石崎光 : 元SqueezeのキーボーディストのJools Hollandがやってる、世界中の面白い音楽を紹介してる歴史的な番組ね。
Rie fu : あの伝説の音楽番組に出たいって、この10年ぐらいずっと思ってる。

時代に寄り添いながら、異端児になる
石崎光 : 今の日本って基本的に全レコード会社がSNSに全振りしてるけど、若い子たちが見ているTikTokでも、僕らの音楽を聴いてほしいよね。ティーンエイジャーが熱中するような音楽、見つけたこともない音楽がASAMASAMAだったら嬉しいなって思いがあるから。そこで「なんだこいつら」みたいになったら、Paul McCartneyに届くのと同じくらい嬉しい。どう反応されるかは、いい意味で常に気にしてる。しかも、彼らにとって新しいものであるということが重要というか。
Rie fu : そうだね。今ものすごい量の音楽がソーシャルメディアで流れてるけど、いかにそれらとは違うかっていう意味では、歌い方にもこだわってる。たとえば「123」って曲は、サビでちょっと声が上擦ってる感じを強調したかったから、何回もテイクを繰り返したりしてね。その変な歌い方が逆に新しいんじゃないかって思うから。ちゃんとした綺麗ないいメロディーは、もう何百曲も作ってきたし。
石崎光 : たしかにね。
Rie fu : 自分の子どもが作った替え歌とか発した奇声とか(笑)、そういうのにインスピレーションをもらってる。子供が反応するリズムとか。あと、息子は「この曲のこの部分は好きだけど、ここはちょっと好きじゃない」とか、結構はっきりこだわりもある。だから、1リスナーとしての子の意見を取り入れてたりする。
石崎光 : うちの家族も、音楽は好きだけどやっぱり生半可なものには1mmも反応しないし。
Rie fu : 世代が違うとか感性が違うっていうのは、貴重なフィードバックだよね。
石崎光 : うん。もともと僕はやり過ぎる質なんだけど、やっぱりディレクターからは「もうちょっと、ここは抑えてもいいかな」って言われることも結構あって。認めてくれてるんだけどね。そうやって仕事的に、気をつけてはいるけど、自然な流れとしてちょっと丸くなっていった部分もあるんだよね。でもそういうことじゃなくて、自分が1リスナーとして音楽を何も知らなかった10代の頃に戻ったときに、例えばLed ZeppelinとかQueenのレコードを聴いた時の「ギターの音、でか!」みたいなあの感覚って、たぶんちょっと鈍ってるっていうか。その初心を思い出すような衝撃とか、そういうものすら巻き込んで音にしていきたいみたいなのはずっと思ってる。
Rie fu : でも光さんがレーベルとの仕事で抑え込まれてストレスが溜まれば溜まるほど、ASAMASAMAで発散してもらえるから、どんどん溜めてって思う。エネルギーを蓄積して!って(笑)。
石崎光 : (笑)。何か単純に楽しみたいだけなんだよね。”音楽”やってるから。みんな音楽やってるくせに、収まりたがるし綺麗に整えたがる。「え?音楽ってそんなだったっけ」ってことをずっと思ってるからこそ、やっぱり自分が驚きたいし自分が楽しみたい。そこをサプライズにしていきたいし、そういうものを届けたいみたいなところはやっぱりあるかもしれないよね。ずっと、常に。

ASAMASAMAデビューシングル「123」
(2025年4月20日リリース)
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シンガーソングライター‧油彩画家‧翻訳家。日本語と英語がミックスされた歌詞、カーペンターズに影響を受けた歌声、タイムレスなソ ングライティングが特徴。2004年デビューと同時にロンドンで油彩画を学び、アルバム アートワークなども手掛ける。ガンダムやBleach(ブリーチ)などのアニメ楽曲も担当し、 2015年からはアジアやイギリスなど活動拠点を海外に広げる。2018年、ロンドンの大学院 にて翻訳の修士号を取得。「音楽、アート、言語」をテーマに唯一無二の活動を展開している。
プロデューサー、アレンジャー、ソングライター、マルチプレイヤー、ミキシングエンジニア。
2001年、キーボーディストの渡辺シュンスケとバンド「cafelon」結成。
これまでにaiko、杏、家入レオ、片平里菜、カノエラナ、Kiroro、くるり、コレサワ、さかいゆう、私立恵比寿中学、高橋優、堂島孝平、Negicco、Rie fu、吉澤嘉代子、他多数のプロデュース、アレンジ、ギター演奏、ライブ、作詞・作曲等で参加。
RickenbackerとLONDONをこよなく愛す鬼才プロデューサー。