ACE COOL インタビュー 1stアルバム『GUNJO』リリース、作品に人生を投影する孤高のラッパー

2020.4.19


ACE COOL インタビュー | 1stアルバム『GUNJO』リリース、音楽に人生を投影する孤高のラッパー【Who's NXT】

ACE COOL

広島県呉市出身のラッパー。日韓ヒップホップユニット”ASIEN”の一員としても活動する。

キャリア初期から研ぎ澄ましてきた”ラップスキル”、 表現者としての歩みの中で得た”繊細かつ力強い詩世界”は、聴く者の心を掴んで離さない。菅原文太や辰吉丈一郎といった人物を用い自身を形容する彼は、シーンの中で”孤高の存在”として光を放っている。

そして、今回自身の半生の”光と影”を映した自伝的 1st Album『GUNJO』を発表。内向的な幼少期からヒップホップとの出会い、そしてラッパーになり上京し今に至るまでの物語を軸に、ACE COOLの”現在と過去”、”光と影”を描くコンセプトアルバムに。今までのスタイルを踏襲するバンガーから、パーソナルな内容を淡々とラップする落ち着いた楽曲まで幅広く収録。客演には盟友Riou Tomiyama (Jinmenusagi)、Moment Joon、MuKuRo、そしてコーラスには玉名ラーメンらが参加した注目作に仕上がっている。

音楽・ヒップホップとの出会い

——まず音楽、ヒップホップとの出会いを教えてください。

一番最初に音楽を意識したのは中学の時、当時仲の良かった友達にKICK THE CAN CREWの『VITALIZER』を借りたんです。家に帰って聴いてみるとそれは今まで聴いたことのないラップと音で「こんなに格好いい音楽があるのか!」ってなりました。そこからキングギドラの「公開処刑」や「平成維新」など覚えてカラオケで歌ってました。その頃は家に帰るとひたすら歌詞カードを見てラップを覚えてましたね。

 
——それからどういう風にご自身でも音楽をやるようになったのでしょうか?

『VITALIZER』を貸してくれた奴と遊びで歌詞を書くようになったんです。授業中にプリントの裏とかに書いて見せあったり。でもその時はビートを作る術を知らなかったのでそこまででした。

その後、通ってた高校でレゲエが流行ってて、自分もレゲエを聴くようになりました。それで定番のRiddimで歌詞を書いてて、オープンマイクを狙ってイベントに行ってラバダブで歌ったりしてました。でもラバダブの客を盛り上げなきゃいけないっていう空気が自分に合わなくて、それもやめちゃって…… その後就職して、それが辛くて夜勤のある仕事だったんですけど、夜中職場でずっと歌詞を書いてて、多分ずっと歌詞を書くのが好きだったんだと思います。やっぱラップやりたいってなって、それから本格的にライブや音源制作を始めました。

 
——広島ご出身ということですが、今の活動の拠点というのは?

今は東京ですね。

 

自身の半生を投影した1stアルバム『GUNJO』

 
——今回、短編映画的コンセプトアルバムと銘打たれた1stアルバムをリリースされましたね。

4月17日に『GUNJO』という自分にとっては処女作となるアルバムをリリースしました。このアルバムは、”ACE COOL”という一人の人間の人生そのものです。ラッパーというのはボースティングをする生き物だと思います。しかしラッパーと言っても一人の人間。ネガティブな部分やコンプレックスもあります。そういった部分を曝け出した時に初めてその人の人間らしさを感じ取れますよね、今回は今まで以上にそういった部分に焦点を当て、深く掘り下げてます。そうすることによってリスナーとの距離も近くなり、もっと自分のことを知ってもらえるんじゃないかと思ってこういったアルバムを作りました。


ACE COOL インタビュー | 1stアルバム『GUNJO』リリース、作品に人生を投影する孤高のラッパー

『GUNJO』 各配信ストア : https://linkco.re/2M0nrX8a

 
——『GUNJO』ではご自身の現在と過去を投影した曲が交互に収録されているとのことですが、そのような構成にしたのはどうしてでしょうか?

このアルバムでは一人の人間の成長を描きたかったんです。ACE COOLといういつも強気でいるラッパーも、昔は内気な少年だった、こんな過去があったんだっていうことをラッパーとしての現在を投影した楽曲との間に入れることでそれがより際立つと思いました。そうしてアルバムが進んでいくにつれ、現在と過去が重なり普段の自分とACE COOLとしての自分が繋がる。最後の「FUTURE」はその二人の自分が同時に出てきて未来へと向かっています。

 
——作品タイトルを『GUNJO』にされた理由、そしてそこに込められた気持ち、意味を教えてください。

『GUNJO』というのは色の群青なんですけど、群青という色は人によって捉え方が違うみたいで…… 僕がイメージするのは暗くぼやけた青。昔工場で仕事をしていた時に夜勤でよく工場のネオンを見てたんです。それは綺麗なんですけど、どことなく憂鬱になるんです。それを自分は何故か群青色として捉えてて、上京した後も新宿のネオンを見た時に同じような気持ちになったんです。それで「FUTURE」でも無意識に群青という単語が出てきて、そこでこのアルバムは群青の雰囲気が覆ってるという風に感じ、このタイトルをつけました。「FUTURE」ではそこから抜け出し未来に向かっているという意味もあります。

 
——では、過去と現在が混在する今回の収録楽曲の中で、現在のACE COOLさんの心情に一番近い楽曲というのが……

「FUTURE」ですね。過去や現在の自分を理解し、気持ちに余裕が生まれ、未来に目を向けれるようになった状態です。

 
——2019年の7月に本作にも収録されているRiou Tomiyama(Jinmenusagi)さんプロデュースの「EYDAY」、「ABUNAI (feat. Riou Tomiyama)」、そして同年10月にDubbyMapleさんプロデュースの「FUTURE」をリリースされていますが、それらを制作されていたときから今回のアルバムのコンセプトは考えていたのでしょうか?また、このコンセプトはどういうきっかけで思いついたのでしょうか?

「EYDAY」、「ABUNAI」を作り出した頃は今のコンセプトではありませんでした。前作の『present progressive – EP』より『MAUE – EP』の方がリスナーの反応が良かったので、そういったスキルフルなラップ中心のアルバムを作っていました。ですが「FUTURE」を作ったタイミングでやはり中身のあるものを作りたいという思いが強くなり、今のコンセプトにシフトしたんです。21歳くらいから「CADILLAC」や「AM 2:00」の元となる曲や今のアルバムの構想は持っていたので。

 
——過去を描いた楽曲、例えば「SOCCER」では内向的で周囲と打ち解けられず自分に自信を持てない少年期を赤裸々に表現されていますよね。”弱さ”も含めて表現することはある意味で勇気のいることだと思いますが、作品をつくるにあたって過去と向き合う中で改めて感じたことはどういったことでしたか?

答え合わせみたいな感じです。”やっぱそうだよな、あの時辛かったよな”と思いながら歌詞を書いていました。幼い頃の記憶って場面場面で覚えてるんですよね、嫌な思い出ほど鮮明に。けれどその作業で今ものすごく辛いかって言ったらそうでもないんです。ただ単に 自分がどういう人間だったかを確かめにいく作業なんです。

 
——10曲目の「27」では以前のリリースで期待通りにはいかなかった自身への悔しさ、またプロデューサーでもあり今回リリースをサポートされているEVOELのAtsu Otakiさんとの出会いなども歌われていますが、以前のレーベルからのリリースと今回のリリースで心境的にもっとも変化したことを教えてください。

全て自分達でコントロールできるのは大きいですね。以前のレーベルからのリリースだと先が見えなかった。今こういう動きをして次こうしよう、みたいなことを話せる相手がいなかったんです。けれど今はAtsu Otakiと二人三脚でやっているので、全て共有して先を見て今どんな動きをするのか話し合いながら決めてますね。そのマインドが作品にも反映されていると思います。

 
——今回プロデューサーにおいて、TOKYOTRILLさんが「RAKURAI」、「BOTTOM (feat. MuKuRo & Moment Joon)」、「FAMOUS」、「I KNOW」、「東京」の5曲、Atsu Otakiさんが、「REAL」、「SOCCER」、「CADILLAC / FREE」、「AM 2:00」の4曲、Riou Tomiyamaさんが「EYDAY」と「ABUNAI」、NF Zesshoさんが「27」、DubbyMapleさんが「FUTURE」と、それぞれ手がけられていますが、ACE COOLさんはビートを選んで決めるときに、基準のようなもの、ピンとくる要素はどういったものでしょうか?

まずは直感、音として良いと思うか、ラップが主役になれるかどうか。それとアルバムであればその空気感を持ち合わせてないと選ばないです。

 
——今回このみなさんのビートを使われたそれぞれの経緯というのは?

TOKYOTRILLとは一緒にやってる歴も長いので、まずアルバムの原型となるものを一緒にスタジオに入り話しながら作りました。うさぎくん(Riou Tomiyama)のビートは彼のストックから使いたいものを選びました。DubbyMapleはアルバムに入れる予定の曲のプリプロやビートを送ってその中に入っても馴染みそうなものを作ってもらいました。Atsu Otakiに頼んだ曲は過去を語るストーリーテリングのものが多いんですけど、まず書きたいことが先にあったので、そのイメージに合うあり物のトラックにラップを乗せてテーマや意図を組みとってもらいビートをあとから付け足してもらいました。NF ZesshoもAtsu Otakiと同じようにラップが先にありました。ラップを録った時点で”これはゼッショーに頼んだ方がいいんじゃないのか?”となって頼んだ感じですね。

 
——客演について、5曲目「BOTTOM」でMuKuRoさんとMoment Joonさんが参加したきっかけ、経緯というのは?

この曲では自分のハングリーな部分、今だ道半ばで上を目指すものの心境を描きたかったんです。なので同じようなマインドや熱を持った人を呼びました。2人とも同じ91年生まれで普段からライブが被ったり、Momentに関しては東京に来た時に自分の家に泊まりに来たり。自分のラッパーじゃない部分を知ってるというのは客演で呼んだ意味としてかなり大きかったです。

 
——6曲目「CADILLAC / FREE」で歌われている友達というのは、冒頭の『VITALIZER』を貸してくれた方なのでしょうか?この歌詞を書いたときの心情やエピソードなどがもしあれば教えてください。

そうですね、その友達です。彼がいなければ自分は今ラッパーとして活動していないかもしれません。それほど大きな存在なんです。その彼が19歳の頃突然飛んでいなくなって自分の心の中にぽっかりと穴があいたというか、当たり前にそこにあるものが無い感覚。この出来事を曲にすることは自分にとっては必然だったんです。

 
——玉名ラーメン(tamanaramen)さんが、「SOCCER」でアディショナルボーカル、「CADILLAC / FREE」、「AM 2:00」でバッキングボーカルで参加されていますが、玉名ラーメンさんとのつながりというのは?

玉名さんを知ったのは去年の8月頃でした。最初インスタをフォローされて名前を見た時に”玉名ラーメン?”と名前が目について、それで彼女のページを見ると格好よくて、名前とのギャップに惹かれました。それで曲とか出してるんだと思って聴いてみたらめちゃくちゃ格好良くて、その頃は『organ』を聴いてたと思います。それから少し経って玉名さんとカトーマサカーのコラボパーティーにライブアクトで呼んでくれて、その時初めてお会いしました。ちょうどその頃自分はこのアルバムの制作中でコーラスを入れたい曲が何曲かあったので、彼女の曲を聴いてる時にふと頼んでみたら合いそうだなと思い誘いました。

 ——ちなみに、「RAKURAI」と「東京」のアウトロの声の女性は実の親御さんなのでしょうか?

はい、実の母です。

 
——さらに、韓国のラッパーで一緒にヒップホップユニットASIENをやっているSKOLORさんも「FAMOUS」のアディショナルボーカルで参加されていますが、もともとSKOLORさんとASIENを結成した経緯というのは?SKOLORさんはニートtokyoでインスタのDMから交流が始まったとおっしゃっていましたが。

そうですね、最初SKOLORからインスタのDMがきて、”一緒に曲やろう!”みたいな内容だったと思います。それでできたのが「EKJ」という曲です。それから頻繁に連絡をとるようになって、日本に来た時によく遊んでました。そうするうちに”何か一緒に出さない?”ってなって単にACE COOL X SKOLORというのもあれなんで、ASIENという名前をつけました。結成するまでは自然な流れでしたね。

 
——収録曲からのMVとしては、「EYDAY」を映像にされていますが、「EYDAY」を選んだのはどうしてだったのでしょうか?

「EYDAY」はライブでも爆発的な人気がありサブスクリプションでの反応も良かったの で、皆がイメージするACE COOLを代表する一曲としてMVを撮りました。

 
——「EYDAY」のMVは、まさに北野映画の”キタノブルー”な仕上がりになっていますよね。この映像で表現されていることを、手がけられたMESSさんのご紹介も含めながら解説いただけますでしょうか。

あのMVではアルバムの雰囲気を映像で表現したかったんです。アルバムの中の世界がそのまま映像として出てきたみたいな。そのイメージしてたものがまさにキタノブルーのような空気感だったので、そういうカットや色味でMVを撮れる人を探してました。そんな時にKaine dot Coさんの「BROKEN HEART」を見つけて、自分が想像していたものそのものだったので、そのMVのディレクターのMESSさんにすぐに連絡しました。色味のことや、キタノブルーをオマージュしたカットを撮りたいということも伝え、参考となる映像を見ながら頭の中を細かく共有しました。一部タランティーノの『レザボア・ドッグス』のオマージュも含まれてます。見つけてみて下さい。

 
——『GUNJO』は半生を振り返った作品ということですが、これまでのご自身の作品でおすすめ、あるいは思い入れのある楽曲をあげるなら?

1st EP『MAUE – EP』ですね。初めて出したEPで、名前を知ってもらうきっかけになった作品です。未だにライブでも人気の「RAGE」も収録されてますし、タイトル曲の「MAUE」もお気に入りです。

 
——普段、楽曲を作るときはどういった流れで制作されていますか?

歌詞はほとんど家の中で書いてます。PCでビートを流し、フローして歌詞を打ち込むみたいな感じです。スキルフルな曲はフローを先に組み立て、後で歌詞をハメていってます。伝えたいことがあったり、ストーリテリングの曲などは大体歌詞が先に出てきて、後からフローするといった流れでやってます。

 

“孤高の存在” ACE COOLを構築する作品・人物

 
——ACE COOLさんがこれまでに影響を受けたアーティストを教えてください。

まずはKENDRICK LAMAR。ケンドリックが出てくるまでヒップホップのアルバムでここまで作品で魅せた人はいませんでしたよね。当時すごく衝撃だったのを覚えています。『good kid, m.A.A.d city』は人生のバイブルです。

 
次に、BON IVER。この人も作品の人で、個人的には3rdの『22, A Million』、単曲だと「Woods」が好きです。アルバムごとに全く違うアプローチをしているし、ライブで感情の爆発を起こせる数少ないアーティスト。この人がいくつになってもずっとファンだと思います。自分の今のライブスタイルにもかなりの影響を与えている人です。

 
そして久石譲さん。北野映画の時の久石譲さんが好きで、日本人の奥底に染み付いたメロディーを奏で、そのメロディーと風景が同時に来るというか、うまく言えないんですけど…… 『HANA-BI』のサントラが大好きで今だに聴き返したりします。

 
——楽曲単位でいうとどういう曲に影響を受けたか、最近聴いてる曲など、アーティスト名と曲名をお願いします。

Bon Iver – Woods

 
Radiohead – Pyramid Song

 
Pop Smoke – PTSD

 
GRISELDA – DR BIRDS

 
Blood Orange – Hope

 
Yves Tumor – Medicine Burn

 
Organ Tapes – Sunset In E5

 
SEEDA – BURBS

 
ZONE THE DARKNESS – 雨、花、絵描き
https://music.apple.com/jp/album/%E9%9B%A8-%E8%8A%B1-%E7%B5%B5%E6%8F%8F%E3%81%8D-prod-by-michita/444457266?i=444457286

 
Moment Joon – Dog Tag

 
——ACE COOLさんは音楽活動にあたって特に意識していることはありますか?

自分の言葉で伝える。人生を投影する。

 
——そういった意識の中で、リスペクトあるいは共感するアーティストはいますか?

北野武さんと辰吉丈一郎さんです。

 
——プロフィールを拝見すると、そのお二人に加え、菅原文太さんのお名前もあげられていますが、その方々のどういったところから影響、そしてインスピレーションを受けていますか?

完璧じゃないところですかね。人間として隙のある方が魅力を感じるんですよね。この人達のそういった部分を見て人生のストーリーを垣間見たり自分と重ねてみたり、人間の弱さと強さを合わせもった人達に惹かれるんだと思います。

 
——ちなみに、北野武さんと菅原文太さんの映像作品で最も好きなもの、そして辰吉丈一郎さんのベストバウトをあげるなら? また、どうしてそれらが一番好きなのかもあわせて教えていただけますか?

北野武さんは『HANA-BI』です。『HANA-BI』は映画の中でも最も好きな作品です。どこを切り取っても綺麗で絵として格好良いカットが多いです。そして事故後ということもあってなのか死生観をこれまでの作品より強く描かれていますよね。1人の人のことを思うということはどういうことなのか。そしてちゃんと隙もあるんです。見ている人がそこに入り込める余地がある。それはとても大事なことだと思います。

菅原文太さんだと『仁義なき戦い』。実は菅原文太さんの出演作品は仁義なき戦いシリーズしか見たことなくて…… というのも、ああいう映画が好きっていうわけじゃないんです。ただ自分の地元は呉で、『仁義なき戦い』の舞台となった街なんです。文太さんは広島出身の方ではないんですが、呉を象徴する人物として形容させていただいてます。

辰吉丈一郎さんの好きな試合は、『対シリモンコン戦』ですね。薬師寺戦からタイトルマッチで勝てなくなってた辰吉さんが王座に返り咲いた試合です。自分は当時まだ幼かったので大人になってからYouTubeでこの試合を見ました。その執念と辰吉さんの壮絶なストーリーを感じとれる試合だと思います。リアルタイムで見てみたかったです。

 
——ありがとうございます。では最後に、今後の予定や告知などがあればお願いします。

アルバムも出たので、世の中が落ち着いたらツアーなどしたいですね。


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