君がそうなら僕はこう(君僕)インタビュー 諦めなかったバンドマンの逆転劇、10年以上前にリリースの楽曲が今年いきなりバズヒット “やめなければどうにかなるかもしれない”

インタビュー
2025.11.30
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「さっきスタバで世界で一番大事なメールを消しました」。そのインパクト抜群のフレーズとリズミカルな演奏をSNSで耳にしたことはないだろうか? 一躍注目を集めた大阪発青春メロキュンバンド・君がそうなら僕はこう(君僕)による2014年リリースの楽曲「恋するあなたは美しい」。SNSでバズった楽曲をランキングするSpotify国内バイラルチャートでは米津玄師「IRIS OUT」やNumber_i「Numbers Ur Zone」に続き最高3位を獲得するなど、ダンス動画などをきっかけにTikTokを席巻している。2012年に結成され、現在はサイツアキノリ(Gt,Vo)の“一人バンド”として活動する君僕。「今がこの13年間で一番頑張り時」と語る彼に、これまでの活動やヒットへの率直な思い、SNSへの向き合い方などを聞いた。

取材・文:サイトウマサヒロ

 
 

諦めず続けられた一番の原動力はお客さん

――君僕は、2012年に大阪で結成されたんですよね。

元々は別のバンドでドラムをやってたんですけど、2年間活動をしてもファンが一人も付かなかったので、「これはまずい」となりまして。もともとギターもちょっとだけ弾けて曲も作っていたので、今度は自分が中心になってバンドをやろうということで、「君がそうなら僕はこう」を作りました。オリジナル曲を作って、ご飯を食べられたらいいなっていう気持ちで。

――ということは、結成時からプロ志向が強かったんですね。

当初はもっと簡単に考えてたというか、「バンドをやって人気が出たらご飯も食べれてチヤホヤされるやろうな」くらいで。ただ有名になれたらいいなって気持ちでした。実際それから何年間も、ずっと売れてなかったわけですから。

――現在は「青春メロキュンバンド」というキャッチコピーを掲げていらっしゃいますが、その方向性は結成時から意識していたんですか?

いや、やっていくうちに定まっていきましたね。最初はただ自分のやりたい曲をやっていたんですけど、続けていくうちにファンの方の年齢層も上がっていって。僕は今36歳なんですけど、僕より年上の方も見に来てくださるんです。そういった方々にご家族ができたり、仕事が忙しくなったりして、だんだん青春できなくなる姿を見ていて。だから、僕が音楽で青春を身近にできたらいいなと思ったんです。どんな人でも青春していいんだよ、ということが伝わればいいなと思って、後から「青春メロキュンバンド」を掲げるようになりました。

――始動当初は現在と音楽性が違ったり?

「恋愛を応援するバンド」を名乗ってる時もありましたね。僕はサンボマスターとRAG FAIRが好きで……全然系統は違うんですけど(笑)。でも二組ともラブソングがめっちゃ多いですし、僕もそんな曲を書きたいと思っていたので、影響は大きいです。ただ、お客さんのことを考えるうちに、恋愛以外の曲も作って、みんなのやる気が出るような音楽を届けたいと考えるようになりました。

――一般的に、「青春」と聞くと学生時代の日々やノスタルジーな記憶が思い浮かびますが、君僕の楽曲は必ずしもそういった内容ばかりではないですよね。君僕にとっての「青春」とは?

「好きなことをやる」っていうことですかね。自分と同い年のバンドマンやそれより上の世代のお客さんと会うことがここ数年は多いんですけど、みんな自分の好きなことに時間を使えなくなっていくんですよ。家族を守らなあかんとか、生活せなあかんとか。それはもちろんしょうがないんですけど、その中でも自分の趣味だったり、バンドマンだったら音楽をやることだったりを、どうにか生活に取り入れることで、その延長線上に青春みたいなものが見えてくるんじゃないかなと思います。全員が全員できることではないかもしれないけど、少しでも時間を見つけてやってみたらいいんじゃないかと。

――サイツさんが音楽活動に取り組むことには、「青春」のやり方を背中で示すという意味合いもあるんですか?

めちゃめちゃあります。僕、バンドをめっちゃ楽しくやってるんで。その姿を見てもらって、「みんなも好きなことやったらどう?」っていう活動をしてますね。

――現在、君僕はサイツさん一人によるバンドという形で活動しています。

もう、ほぼ銀杏BOYZです(笑)。一人でやってます。

――どういう流れで今の編成になったのでしょう?

これはもうシンプルにですね、初めは正規メンバーが4人いたんですけど、歳を重ねて現実を見て、もう続けてられへんぞと。就職だったり、資格勉強だったり、いろんな理由で一人ずつ卒業していって。2年前くらいに女性ボーカルが抜けて、それから一人になりました。問題があって辞めたわけではなく、それぞれの人生に向き合った結果ですね。

――となると、節目節目でサイツさんも自身と向き合うことになったでしょうね。バンド存続の危機に瀕したことはあるんですか?

ありましたね。それこそ2年前に女性ボーカルが抜けるタイミングで、君僕を解散させるか続けるかはすごく考えました。ここで終わらせてもいいのかなと思ったんですが、親身になって応援してくれているお客さんのことが思い浮かんで。僕がバンドを辞めて「売れるの無理でした」って諦めるのは簡単ですけど、お客さんは全然僕のことを諦めてなくて、「行け、頑張れ!」って言ってくれてたので、もうちょっとやらせてもらうことにしました。続けられた一番の原動力はお客さんの存在ですね。

――ソロアーティストではなくバンドという形にはこだわりが?

やっぱり、バンドがやりたいですね。4人で音をドーンと出してお客さんの前に立つ方がやっぱり楽しいです。一応ソロで弾き語りをやることもあるんですけど、裏話を言うと、これもバンドをやるためなんですよ。バンドではサポートメンバーを雇ってるから、毎回ギャラがかかるじゃないですか。だから、ライブをするたびにマイナスになるんで(笑)。サポート費のかからないソロでのライブでどうにかプラスにして、そのお金をバンドで使う、みたいな。やりたいのはずっとバンドです。

――お客さんへの思い、ひいてはお客さんと向き合うライブという場所に対する思いは、楽曲制作にも反映されていますか?

「こんな曲があったら面白いやろうな」「あの人、楽しんでくれるんじゃないかな」みたいなところから作ることもあるので、そういう意味ではお客さんを喜ばせようとしてると思います。ここで一緒にこのフレーズを叫ぶとか、ここで手を挙げるとか、そういうのはわかりやすければわかりやすいほど良いと思ってて。初めて見たお客さんも一緒に楽しませたいので、できる限りわかりやすく作って、参加型のライブができたらいいなと思ってます。

――生粋のエンターテイナーですね。

ありがとうございます。めっちゃ嬉しいです。僕自身、エンタメのバンドだと思ってます。やっぱり、人前に立って曲とかMCで笑ってもらうのが好きですね。

――MCしかしないライブをやったこともあるそうですね。どんな方法でも楽しませたら勝ち、みたいな。

そうなんです。サーキットイベントでソロのライブだったんですけど、25分喋ったりフリップ芸したりしたらめっちゃ面白いんじゃないかと思って。お客さんからは「変なやつがおる!」みたいな反応で、他の演者からも「やったなー!」って言われて、面白かったですね。歌わないからガッカリされるんじゃないかと思ったんですけど、むしろ「あのライブを観たんだぜ」っていう記念になるみたいな(笑)。

 
 

10年以上前の曲が今年いきなり大きくバズヒット

――さて、そうした活動を続けてきた中で、現在は楽曲「恋するあなたは美しい」がTikTokを起点にバイラルヒット中です。まず、現状について率直にどう感じていますか?

もう、めちゃくちゃ嬉しいです(笑)。13年売れてない反動がありますから。信じられないくらいの人数に聴いてもらってますし、色んな方に目をかけてもらって、ライブに呼んでもらったり、インタビューしてもらったりとか、今まで携われていなかった人たちにも届いていることを実感しています。すごく求めていただけているから、どうにか僕からも返していきたいです。


君がそうなら僕はこう「恋するあなたは美しい」

「恋するあなたは美しい」

 
――2014年リリースの楽曲が、11年の時を経てヒットしたのもすごいです。

そう、すごい前なんですよ。干支が一周しそうなくらい。

――制作した時のことは覚えていますか?

それがあんまり覚えていなくて(笑)。暗い歌詞を明るくポップに歌う楽曲を作りたかったっていうことだけは覚えてますね。なので、歌詞は男性に大事にされない女性の体験談を盛り込んでいて。なおかつサビでは、男女関係ない別の視点から「泣かないで美しき人」というメッセージを送っています。

――歌詞は実体験に基づいたものですか?

いえ、僕はそもそもスタバにあんまり行かないというか、コーヒーを飲めるようになったのも30過ぎてからなので(笑)。だから本当に脳内で作り上げた歌詞です。「女の子が男の人に大事にされないとどんな感じになるんだろう?」って考えてたら、凝り固まった考え方なんですけど、多分スタバに行って、多分携帯見て、多分メールを消したりしてるだろうな、みたいな。当時はLINEじゃなくてメールですから。想像、妄想ですね。全部。

――楽曲の完成時やライブでの披露時には、他の楽曲と異なる手応えを感じましたか?

それが全然感じてなかったんですよ、本当に(笑)。今もなんであんなに視聴、再生されてるのか不思議。10年間、ライブでたまにやるくらいの曲なんですけど、お客さんからも特に人気が高い定番曲というわけでもなく、数あるレパートリーの中の一曲みたいな感じでした。

――最初にバズってることに気付いたタイミングは?

11月30日にワンマンライブがあるんですけど、その100日前から毎日SNSに動画を投稿し始めて。その10日目くらいに上げたのが「恋するあなたは美しい」のAメロやったんです。そしたらアップしてから、通知が鳴り止まなくなって。その日の夜には何十万再生になっていて、この動画だけがすごい再生されてるんだって気付きました。後日Spotifyのバイラルチャート3位になった時はちょっと信じられなかったですけど、「これ、多分バズってるんやろうな」と。

@akinorinngo312 🦐ノールック #かっぱえびせん🦐 #恋するあなたは美しい の曲中にかっぱえびせんを投げます👍 もらえたあなたはラッキー✌️ですね! お土産に持って帰ってね😆🦐 ワンマンでもなげるかも!? #100日後に100人呼ぶバンドマン #満員御LADY ♬ オリジナル楽曲 – サイツ アキノリ – サイツ アキノリ(君がそうなら僕はこう)

 
――ヒットの理由を、ご自身ではどう自己分析しますか?

Aメロの音が拍の頭で止まるのがリズム的に耳心地良いというのと、歌詞が女性にとって共感しやすくて、SNSのショート動画に合っているのかなと思いました。もちろんそんなのを作ろうと思って作ったわけじゃないので、たまたま。それと、僕の投稿が伸びた後に、ローカルカンピオーネさんが振付を付けてくれて、それも大きな要因になったと思います。

――バイラルヒット後、環境の変化は感じていますか?

辞めたバイトのあんまり知らない人とか、昔の同級生からLINEが来たりしましたね(笑)。「見たで!」みたいな。今のところ「お金貸してくれ!」とかはないです。そういうのがあれば、MCとかでネタにできるんですけどね(笑)。

――身の回りのリアルなテーマを取り扱った楽曲が得意なサイツさんのことですから、そういう「バズあるある」も曲にするんじゃないかなと思ってました(笑)。

うわ、やめて! ネタバレせんといてください(笑)! ウルフルズさんの「借金大王」みたいな。

――君僕の最新シングル「配信WORLD」には「君の周りで僕たちの音楽が / 流れているなんて信じられないぜ」というフレーズがありますけど、まさに今の状況にピッタリですよね。

まさに今ですよね。僕の主戦場は大阪インディーズのライブハウスなので、周りのバンドマンもやっぱり知ってくれてて。彼らの中にも色んな気持ちがあると思うんですよ。「おめでとう!」って言ってくれる人もいれば、やっぱり悔しがっている人もいるだろうし。でも、36歳の僕がここでもう一踏ん張りして売れることができたら、同じ年齢のバンドマンに夢を与えられますよね。「おっさんになってからでも行けるで」って伝えられたらいいですね。

――仰る通り、10年、15年と続けて芽が出ず悩むバンドマンを勇気づけるヒットだと思います。

はい。だから、もっと頑張らないといけないですね。

 
 

やめなければどうにかなるかもしれない

――君僕のように、TikTokなどSNSのショート動画がきっかけでヒットするインディペンデントのアーティストはここ数年続々登場しています。アーティストにとって、TikTokってどんなものだと思いますか?

うーん…… 無料で使える宣伝媒体みたいなものなのかな。僕も正直、以前から力を入れてたわけではなくて、今になってどうにか頑張って毎日動画を上げているところなんですけど、今までやらんかったのはもったいなかったですよね。力を入れても全員が上手くいくわけじゃないけど、まずはやらないことには当たらない。だったらやったほうがいいかなと。

――少し乱暴な言い方かもしれませんが、「宝くじはそもそも買わないと当たらない」みたいな。

そうですね、そう思います。繰り返しですけど、結局やらなかったら絶対当たらないですから。僕はほんまに運が良くて、TikTokが上手な人にアドバイスをもらったということもなく、ただ毎日一個動画を上げてたらバズっただけなので、ありがたいです。ほんまに楽曲の相性が良かったんやなって。

――もちろん、バンドマンの中にはTikTokに注力することに抵抗がある方も少なくなさそうですが。

僕もそういう考えの時期がありました。ライブハウスに来てる人を盛り上げてればいつか芽が出るだろうって。それもわかりますけど、まずはSNSで色んな人に知ってもらってライブハウスに足を運んでもらうっていうのも一つの手段ですから。ただムズいのが、SNSでバズった時に、自力というか、ライブハウスでしっかり魅せる技術がないとそれはそれでキツい。「曲めっちゃいいやん」と思って見にいったら、ライブはイマイチでガッカリ……そういうことにならないように、しっかりライブを磨きながらSNSも更新できたら良いですね。

――SNSはあくまでその自力を拡散させるための方法ということですね。説得力を感じます。

ありがとうございます。

――SNS投稿やネット上でのリスナーとのコミュニケーションにおいて、気を付けていることはありますか?

めっちゃシンプルなことなんですけど、マイナスなことは絶対に呟かないようにしてます。バンドの活動を通してみんなに楽しくハッピーになってほしいので。だから、基本的に真面目なことか、あるいはヘンなことしか呟かない(笑)。

――そこにもお客さんファーストな考え方が浸透しているんですね。

そうですね。僕がマイナスなことを呟いて喜ぶ人はいないと思うので(笑)。それが面白ければいいんですけどね。

――今後の活動についても聞かせてください。11月30日のワンマンライブは「#100日後に100人呼ぶバンドマン」としてプロモーションに励んでいらっしゃいましたが、なんと早々に150枚を売ってソールドアウトになってしまったそうですね。

ありがとうございます!150枚いきました!今年の2月に無料でワンマンをやったんですけど、その時は動員が95人だったので、そのリベンジとして今回は有料で100人を呼ぶことが目標だったんです。70枚くらいは売れてたんですけれど、「恋するあなたは美しい」がバズってからはもう一気に売れました。

――では、ワンマンに向けての意気込みをお願いします。

初めて見るお客さんにはまた足を運びたいと思ってもらえるように、昔から応援してくれているお客さんには新曲も交えて今まで君僕が培ってきたライブの楽しさを改めて感じてもらえたらと思います。あと、面白いMC考えておきます(笑)!

――今回のヒットによって新しい景色も見えてきているのではないかと思いますが、その先の活動の展望はいかがですか?

実は、次はもっと大きいところでワンマンをしようと思ってて。来年の6月に大阪のBIG CATでやるのが決定してるんです。150人を呼ぶために頑張ってたバンドにとってBIG CATってかなり大きなチャレンジですけど、この先の半年間はとにかくそこに向かって頑張ります。今がこの13年間で一番の頑張り時だなと。デカいステージで、みんなと変なことや面白いことがしたいです。めっちゃ楽しみですね。

――最後に、君僕と同じくインディペンデントで活動する若きバンドマンたちにメッセージをお願いします。

おじさんバンドマンとしては、ライバルになるので早くやめて堅い会社に入ってほしい(笑)。まぁ冗談はさておき、バンドとか音楽活動ってやめなければどうにかなるかもしれないよって言いたいですね。僕がめちゃくちゃ良い例だと思うんです。もちろん運とか色々ありますし、無責任に「絶対に夢は叶うよ」とはよう言いませんけど、とにかくやめた時点で夢が叶う可能性は0%なんで。だから、音楽が好きだったらとりあえずやめずに続けてみたらいいんじゃないかなと思います。

――やめない限り、可能性はいくら小さくてもゼロにならないですからね。

ほんまにそうですね。バッターボックスに立ち続けていればいつかは球が当たるかもしれない。僕がまさにそうですから。一人になっても諦めないで本当に良かったです。

 
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この記事の執筆者
サイトウマサヒロ
1995年生まれ、フリーのライター。インタビュー、ライブレポート、コラムなど書きます。