【Who’s NXT】A.Y.A | 大胆なリリックと多彩でエッジィなサウンド、「自分らしく」表現を続けるシンガーソングライター
A.Y.A(エーワイエー)
センシュアルかつ多彩なボーカルアプローチと、幅広いソングライティングスキルで、ハイブリッドサウンドを乗りこなすシンガーソングライター。
2018年にシングル「gravity」を自主リリース、国内を超えプレイリストに選出されるなど注目されて以降、精力的にリリースを続けており、これまでにフルアルバム3作品、リミックスアルバム1作品、EP2作品を発表している。
最新作『Out of the Race』では、ダンスミュージックから多分な影響を受けた幅広いサウンドスケープと考察的かつ大胆なリリック、意表を突くパワフルなビジュアルを披露。リスクを恐れず進化し続ける、カッティングエッジなアーティスト像を提示し続けている。
Who’s NXT : A series of interviews with featured artists
——まず、A.Y.Aさんが音楽に興味を持ったきっかけを教えてください。
ロック好きな母の影響で、家や車の中ではThe PoliceやPrince、QueenやSex Pistolsといったアーティストの音楽が流れる環境で育ちました。その後自分でJ-POPも色々と漁ったりしてはいましたが、小3の時に、MTVで流れる洋楽MVとか海外のアワードショーに夢中になって。もう「洋楽なら何でも聴く」って感じでした。
よく、友達とモールに遊びに行っても「後で合流するわ」って言って一人だけ別行動して延々とCDショップの試聴機の前にいたり、CDの歌詞対訳とライナーノーツを擦り切れるまで読んでました。飽きずにずっと好きなのは音楽だけですね。
——ご自身で音楽をやるようになった経緯というのは?
幼少期まではインターナショナルスクールに通っていたので、小学校に上がってからは、保守的な日本型の教育がどうにも息苦しく、疎外感を感じることもありました。小さい頃は今と違って気が弱くて「NO」が言えない子だったし、からかわれやすかったんです。
でも、そこで見つけた突破口が音楽。家に帰って、自分の部屋で音楽を聴いている時間だけが唯一楽しかった。海外のアーティストたちが、エッジィでインスピレーショナルな作品を次々披露して、堂々と振舞っている姿に触発されて、「人に意地悪したり威圧するより、楽しませたり勇気を与える方がいい生き方だよな」って子供ながらに思って。それで音楽をやろうと思って、小6からオーディションを受けたりするようになりました。
当初は歌うだけだったのが、高校生から自分で作詞作曲も始めるようになって、アコギを持って弾き語りしたり、バンドもやったし、ループマシン使ってGrimesみたいなパフォーマンスをやったり、屈強なラッパーに囲まれながらクラブイベントに出たり…… どこに行ってもアウェーだったけど、自分のスタイルを探すために色々挑戦しました。その全部が今の音楽性に活きていると思います。
——現在主に活動しているシーンや地域はどこになりますか?
東京とインターネット。でも国境を飛び越えてどこまでも行きたい。
——A.Y.Aさんは、これまでもコンスタントに作品をリリースされていますよね。そして、先日10月29日には最新EP『Out of the Race』をリリースされましたが、本作はどのような作品になっていますか?
『Out of the Race』では、エレクトロ、テクノ、アフロビート、ハイパーポップ…… とにかく偏見を持たずに多彩なボディミュージックをやること、パワフルで鮮やかな作品を作ることをモットーに制作に臨みました。私史上、最もダンス/エレクトロからの影響が色濃く反映された作品になっていると思います。サウンドプロデュースは、今年5月にリリースしたアルバム『Uncured』にも参加してくれたKRICK君(https://twitter.com/krickonthebeat)にお願いしました。
前作はもう少し内省的なモードでしたが、今作を一言で表すなら「My f**k-it moment」。今って権威的なものに流されたり、システムの矛盾さえ自己責任にするような社会になりつつあるじゃないですか。そういった同調圧力に対して反旗を翻す作品です。「あなたが権威や権力で支配しようとするなら、私は美しいもの、知性やクールなもの…つまりソフト・パワーであなたを制圧する」っていうメッセージを潜ませました。
——たしかに例えば2曲目の「Fuck It, Just Dance」ではBPMの早いダークで硬めのビートだったり、全体的にかなりエッジィな仕上がりの作品だと感じました。改めてそれぞれの曲についての聴きどころなど教えてください。
1曲目の「Out of the Race」は、このEPの構想を思いついてから一番最初に生まれた曲です。ヴァースとフック、ヘビーベースなビートとトップノートのダイナミクスを大切にしました。鮮やかなレーシングジャケット着て、車の上によじ登って、レースフラッグを振り回しながら、「強いものに屈しない」って高らかに宣言するような曲。この曲を聴いた女の子は歓喜するし、男の子は…… 人によってはちょっと怒ってたかな?(笑)。「男」じゃなくて男「社会」への批判なのに。まぁ怒られても歌うけど(笑)。これは私の代表曲の一つになると思う。
次が「Fuck It, Just Dance」。元々明るい曲より暗い曲が好きなんですけど、特に最近はテクノ持つストイックさと暗さに惹かれていて。そういう最近の音楽嗜好が反映された、ダークなテクノ・トラックになってます。ウィスパーボイスのモノローグは、映画『トレインスポッティング』にオマージュを捧げたもの。豊かなはずの資本主義社会が生み出した幻想、そこから生まれるプレッシャー…… そういうものを皮肉たっぷりに表現してみました。
3曲目は「Tough Guy (feat. Jua)」。KRICK君に「トライバルなビートもやってみたい」ってお願いしたら、すぐにこのビートを作ってくれて。ただトライバルなだけじゃなくて、ミステリアスなエレクトロシンセのモダンさも融合されてて流石だと思いましたね。歌詞は「タフガイを気取ってるけど、ホントは違うでしょ?素のあなたで向き合って?」って、トキシック・マスキュリニティに焦点を当てた内容です。客演にはラッパーのJua君(https://twitter.com/salty_jua)に参加してもらいました。ちょうどLous and the Yakuzaとかを聴いてたので、絶対仏語のラップが入ったらカッコいいなって閃いて、依頼したら快諾してくれて。大正解でしたね。
そして最後が「Drive」。最初はKRICK君のGoogle Driveフォルダに眠ってた、1分無いぐらいのループを勝手に引き伸ばして、トップノート書いて彼に送ったんですよ。その時はもっとLo-Fiハウスっぽかったと思う。そこからエモーショナルで、ハイパーポップっぽいエンディングに変化していって。歌の処理も、ハスキーな中にちょっとアンドロイドっぽい無機質さがあって好きです。今回クルマがテーマになったのは、コロナ禍のライフスタイルも大いに影響してると思います。緊急事態宣言でクラブも閉まっちゃって、代わりに車内でダンスミュージックを大音量で流して過ごしてたから。その時に感じたことも、メロディやリリックに沢山反映されてます。
——普段の音楽制作はどのような環境やプロセスで行っていますか?
PCはMacBook Pro、DTMはLogic Pro Xを使ってます。
プロセスは、一緒に作るプロデューサーによって様々ですね。進め方も多種多様で本当に面白いなと思います。KRICK君と制作したEP『Out of the Race』は、ほぼデータのやり取りだけで完成させました。多分実際の制作より一緒に遊んでる時間の方が長かった(笑)。
歌詞は思いついたら、いつどこでも書きます。iPhoneのメモ、ノート、レシートの裏、紙ナプキンに殴り書き…… なんでもあり。でも絶対一度はEvernoteに書き写して、目で見ても文章として美しいかどうか、レイアウトを確認しながら推敲します。歌詞のクオリティを上げたかったら、これは絶対にやった方がいいと思う。
——A.Y.Aさんからは非常に高いクリエイティビティを感じるのですが、まだA.Y.Aさんについて知らない音楽ファンにアーティストとしての自分の特徴を伝えるとしたら、どんなところになりますか?
よく人から言われるのは…… 予測不可能なところ?あとエッジィさとか。でも奇をてらおうと意図したことは一度も無いです。ただストレートにカッコいいと思うことをやっているだけ。逆にそれが珍しく映るのかもしれないですね。個性は狙うものじゃなく、最初から各々持っているものだと思う。
——そういったA.Y.Aさんですが、どんなアーティストに影響を受けましたか?
Madonna。サウンドもビジュアルも変化し続けて、誰に何を言われても誇り高く生きて、音楽はもちろん、女性やLGBTQ+コミュニティに対する貢献も計り知れない…… そういう勇敢な所にずっとインスパイアされてますね。子供の頃に買った「Inspirations MADONNA」っていう本があって。読みすぎてもうボロボロなんですけど、今でも自分を奮い立たせたい時は本棚から引っ張り出して読んでます。プリンスもマイケルも死んだけど、マドンナだけは今も生きている。
——楽曲ではどんな曲に影響を受けましたか?
人生で影響を受けた曲はちょっと選びきれないので、今回のEP制作時に影響を受けた曲をあげますね。
ZHU – Lost It
トラップとダンスミュージックのバランス、あとアルバム一曲目にふさわしい「入場曲感」、逃げも隠れもしれない「王道感」がカッコいいなと。私のEPもそういう作品にしたいなって思ってました。
Charlotte de Witte – Doppler
元々ダークでアップビートな音楽は好きなんですけど、彼女がサーキット場でDJをしている動画を見て、テクノに興味を持つようになって。媚びがないハードテクノで商業的な所に食い込んでいくのもクールだし、今回のEPのインスピレーションにもなりました。
Park Hye Jin – Hey Hey Hey
彼女ってラップとも言えない、淡々と喋ってるような曲が多い人で。「歌じゃなくてモノローグ(喋り)だけで一曲完成させるのもアリなんじゃない?」と思い至り、「Fuck It, Just Dance」を書く時のヒントになりました。この曲はビートもテクノっぽいし。
Lous and The Yakuza – Amigo
今年の夏はよくこの曲を聴いてて。それでトライバルビートで一曲作りたいと思ったのかも。Jua君に仏語での客演を依頼しようと思ったのもこの曲の影響だと思います。
Tommy Genesis – a woman is a god
淡々とした力みのないフローでハウストラックを乗りこなすクールさに痺れました。ハイパーセクシュアルな歌詞、「女性は神だから」って言い切っちゃう強気さも良いですよね。
Charli XCX – Good Ones
チャーリーはデビュー時から大好きで、フェスも含めて来日公演は全部見てます。サウンドというよりマインドに刺激を受けてるかな。アヴァンギャルドでエキサイティングな事をメインストリームでやってのける度胸と覚悟にいつも励まされる。
Billie Eilish – Oxytocin
お得意のウィスパーボイスはもちろん、ナイン・インチ・ネイルズっぽい、挑発的でダークなクラブ・グルーヴがすごくクールだなって。
blur – song2
タイトル曲「Out of the Race」のHookの「Woo-hoo!」はこの曲へのオマージュ。前作『Uncured』のレコーディング後に、プロデューサーのKRICKとDroittteと一緒にカラオケに行って、この曲を歌ったのがすごく楽しくて。イントロの8ビートが流れてきただけで気分が高揚して「とにかくやっちゃえ!」ってみんな一緒に歌いたくなる。「Out of the Race」でも、そういうエネルギーを再現したかった。
Utada Hikaru – One Last Kiss
プロデュースのA.G Cookのハイパーポップネスも好きだし、そもそも宇多田ヒカルが好きですね。みんな好きでしょうけど。彼女は「もののあはれ」を知っている人。そこに惹かれます。
Rochelle Jordan – Dancing Elephants
霧に包まれた高速道路を思わせるような曲。トロントのアーティストなんですけど、今年リリースされたアルバムでの、R&Bからダンスまでどんなビートも乗りこなしていくボーカルアプローチの多彩さと表現力の高さに唸らされました。アルバムにJimmy EdgarとMachinedrumが参加しているのもグッとくる。
——A.Y.Aさんは音楽活動をするにあたって、なにか特に意識していることはありますか?
私自身が自由なアーティストでいること。恐れないこと。変わり続けること。今日明日の評価とか、半径10メートルの評判のためじゃなくて、もっと広い視点で音楽をやる。改めて考えてみると、けっこう目先の評価より使命感でやってるかもしれないですね。承認欲求を超えた先にしか本質的な作品は生まれないと思う。
——そういった意識の中で、リスペクト、あるいは共感するアーティストはいますか?
Madonna, David Bowie, Prince, Charli XCX, Rihanna などなど。変化すること、ユニークでいること、誤解されることを恐れない人たち。
——では、最後に伝えたいこと、メッセージをお願いします。
今後、世界がどう変化していくのか分からないけれど、周囲に惑わされずに「自分」をやっていれば、必ず何かが起こると信じて生きています。これからも自分が感じた時代の空気感を、私らしく切り取って表現し続けようと思います。来年もその先もずっと。
まずはEP『Out of the Race』、ぜひチェックしてくださいね。よろしくお願いします。
A.Y.A
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