【コラム】Made in Japanの高い技術 | 高く評価される日本の映像クリエイターによるミュージックビデオたち

コラム・特集
2019.2.21
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近年、日本のクリエイターやテクノロジストによる、先進的なアート表現が世界中の注目を集めています。

その技術力・表現力の高さを世に知らしめたものとして、多くの人の記憶に残っているのは、2016年8月、ブラジル・リオデジャネイロオリンピックの閉会式にて行われた「フラッグハンドオーバーセレモニー」での8分間のパフォーマンスではないでしょうか。日本を代表するクリエイター、テクノロジスト、パフォーマーたちが集結し完成させたこのパフォーマンスは、国内外の様々なメディアに取り上げられ、いよいよ来年に迫る、東京オリンピックへの全世界からの期待を高めることとなりました。

こうした高い技術力・表現力は、昨今、ミュージックビデオの現場でも活用されることも多くなっています。アーティストたちがテクノロジストやクリエイターたちと手を組むことによって、これまでに見たことのないような映像表現・技術で、アーティストや楽曲の世界観をより明確に、エッジに表現しようとするケースが増えています。

今回は、そんな高い技術力を持ち活躍する日本人クリエイター/テクノロジストによる、新たな映像表現を用いたミュージックビデオをいくつかご紹介していきたいと思います。これらはもはや、ミュージックビデオ本来の「音楽をプロモート(販売促進)する」という意味合いを凌駕した、”アート作品”の数々とも言えるでしょう。

OK Go – Obsession

 
まず紹介するのはアメリカのインディーバンド「OK Go」のミュージックビデオです。と言っても、音楽好きの読者の皆さんであれば、彼らのミュージックビデオを見たことがあるという人も少なくないのではないでしょうか。ホンダの開発する「ユニカブ」に乗りながら軽快な踊りを披露し、その模様をドローンでワンカット撮影するという壮大なプロダクションにより製作された「I Won’t Let You Down」や、トリックアートの技法をもちいた「The Writing’s On the Wall」など、ミュージックビデオが登場するたびに、ファンのみならず多くの人々を驚かせる彼らたちですが、今作品で用いたものはなんと、「プリンター」と「」。

歌が始まると、背景の模様や色がどんどんと変化を繰り返します。そして色が変わるたびに、なぜか床にはコピー用紙がどんどんと落ちていきます…。そう、実はこのMV、メンバーの後ろに総567台のプリンターを設置し、そのプリンターから吐き出される用紙の色によって、背景の模様や色を変化させているのです。

画面に映るグラフィックの変化はすべて紙の印刷で表現しており、それらをコマ撮りすることで表現しているため、撮影には5日間を要したそう。また、実際にこのアイデアを技術的に実現させるためには、プリンターから紙が落下する時間や、設置の高低差による時差などをシミュレートすることが必要で、撮影までに2年のテスト期間を設けたと言います。

このMVのアイデアは、製紙会社の「Double A」の発売する用紙が非常に滑らかであるという特性を広告として知らしめるため、日本の広告エージェンシーが提案。実際に撮影中一度も紙詰まりがなかったとのことですから驚きです。

テクノロジストとしてアイデアを実現させた真鍋大度さん(Rhizomatics Research)、振付師を務めたMIKIKOさん(PerfumeやBABYMETALなどのダンス振り付けなどを担当)を始め、制作に関わるスタッフのほとんどが日本人で構成されているという、まさに「Made in Japan」なミュージックビデオなのです。

以下の動画では、本MVの制作の裏側を、OK Goのメンバーや携わったクリエイターたちが解説。これがミュージックビデオの製作現場での話だとは思えないほどの高い技術力、発想力が詰め込まれています。

 

group_inou – EYE

続いてご紹介するのは、日本人音楽ユニット「group_inou」(現在活動休止中)のミュージックビデオ。監督を務めたのは、映像作家/デジタルアーティストの橋本麦さんと、同じく映像作家でメディアアートなどの作品も発表しているノガミカツキさんの二人です。

このミュージックビデオの驚くべきポイントは、出てくる景色(道路、街、自然)がすべて、Street Viewの画像を使って表現されていること。Street ViewとはGoogleマップ上で場所を指定すると、その場所の実際の風景を360°ぐるりと閲覧できるというツール。本MVでは、指定したスタートとゴールの2点間のStreet View360°パノラマ画像をすべて取得し、その画像をコマ撮り的に繋げ、group_inouの2人が歩いている様子を合成することで、まるで2人が地球上のさまざまな場所を移動しながら歌っているような映像に仕上がっています。

制作はロケーション場所の調査(ロケハン)からスタート。と言っても実際に場所に出向くのではなく、Googleマップ上で世界中のあらゆる場所のストリートビューを調べ、映像に使えそうな場所をピックアップしたそうです。

その後、映像に合成するgroup_inouの二人の撮影は、変化するカメラアングルや、場所ごとに異なる明るさのために照明を調整するなど、こちらも膨大な作業量を経て行われ、総計3500枚の写真撮影を行なったそうです。

【橋本麦さんによる、制作の解説】

まとめ

本MVは公開後、Google Mapsの公式Twitterによるリアクションを受けるなど、動画共有サイト・SNSで大きな注目を集めた。そして2015年の「第19回文化庁メディア芸術祭」のエンタテイメント部門・新人賞を獲得しました。

さまざまな技術や表現の結集が音楽と結びつくことで、”コマーシャル”であった映像が”作品”へと変わる。作品となることで、これまで聞いてきた音楽でも違う楽しみ方や、受け取り方を知ることができる。ミュージックビデオが担う役割は今、確実に大きなものになっているのです。

この記事の執筆者
Video Kicks
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