音楽デジタルプロモーション・マーケティングの可能性 アーティストがSNSからチャンスを掴む方法とは

2021.11.2

音楽デジタルプロモーション・マーケティングの可能性 アーティストがSNSからチャンスを掴む方法とは

インディペンデントアーティストがチャートのトップになり、億を稼ぐ時代となりました。全世界でインディペンデントアーティストは存在感を増し、日本でも例外なくその勢いは拡大しています。

そんなインディペンデントアーティストのためのWebメディア『THE MAGAZINE』が、音楽家に無料法律相談サービスを提供するMusic Lawyer Collective「Law and Theory」代表の水口瑛介弁護士(アーティファクト法律事務所)とともにインディペンデントアーティストをサポートするため、音楽活動に関するトピックや役に立つ情報などをお届けするPodcast番組『THE MAGAZINE talk』を開設。アーティストエンパワーメントプログラムを更新しています。

今回は番組の#3、#4から展開された本編の内容をご紹介。音楽アーティストのデジタルプロモーション・マーケテイングを専業でサービス提供する株式会社arne代表の松島功氏をゲストに迎えた”ストリーミング時代の音楽デジタルプロモーション・マーケテイング” のトークをみていきます。

THE MAGAZINE talk
TuneCore JapanによるWebメディア・THE MAGAZINEのポッドキャスト番組『THE MAGAZINE talk』。音楽家に無料法律相談サービスを提供するMusic Lawyer Collective「Law and Theory」代表の水口瑛介弁護士(アーティファクト法律事務所)をMCに迎え、インディペンデントアーティストをサポートするため、音楽活動に関するトピックや役に立つ情報などをお届け中。

 
 
■日本にはないサポートサービス「可能性が確信に変わった」

『THE MAGAZINE talk』#3では松島氏のバックグラウンドやarne社立ち上げの経緯、社名の由来、提供しているサービス、アーティスト支援などについてトークを展開。コロナ禍での起業を決意した理由には、海外に普及している音楽に特化したデジタルマーケティング会社に可能性を感じていたからだといいます。


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【Ko Matsushima / 松島 功】
音楽と美容が好きな人。 音楽専業のデータ分析・デジタルプロモーション・マーケティング会社arne代表。DIYなインディペンデントのアーティスト様のためのアーティストサービス、国内レコード会社のデジタル事業サポートなどにつとめる。

 
松島 : 私は前職では音楽配信サービス(DSP)側にいまして2020年に独立後、音楽アーティストのデジタルプロモーション・マーケテイングを専業でサービス提供する株式会社arneを設立しました。arneではTuneCoreから配信しているインディペンデントアーティストのほか、メジャーレコードレーベルのお手伝いをメインでしております。

水口 : 前職でSpotify Japanにいらっしゃったとお聞きしたんですが、どんなお仕事をされていたんですか?

松島 : レーベルとマネジメントのコミュニケーションの窓口となる部署にいまして、いわゆる営業窓口的なところでした。私が担当していた取引先のひとつがTuneCoreさんでもあったりしたんです。

水口 : Spotifyを辞めた後に独立されて、その時の決意や展望があったと想像しているのですがどんな感じだったのでしょうか。

松島 : 私が起業したタイミングが2020年5月末頃で、ちょうどコロナ禍に入ったばかりだったんです。ほかの企業に転職しようと考えた時期もあったのですが、いつか独立しようとは思っていて。というのも、海外にある音楽専業のデジタルプロモーション・マーケテイング会社が日本にはなかったので、そこに可能性を感じていたんです。もちろん事務所やレーベル内にそういった部署を置いているケースもありますが、専業としている会社は国内にないなと。茨の道とまではいわないですが、ハードな方を選択して起業することにしようと思い立ったんです。

その頃からTuneCoreから瑛人「香水」の大ヒットからMステ出演があったり、インディペンデントアーティストが盛り上がってきていてドキドキしながら会社を立ち上げましたが、いまは確信に変わっていますね。

水口 : 日本の音楽シーンではデータ分析やデジタルマーケティングがそこまでフォーカスされていなかったというのがあるんですか?

松島 : それもあると思いますね。あとはマネタイズの部分が大きいかもしれないです。果たしてデータ分析やデジタルマーケティングが仕事になるのかという点があると思います。

水口 : 海外には事例はあるけど日本にはあまりない点に関しては、弁護士と似ている気がします。海外のアーティストだと自分で弁護士を雇ったり、弁護士が権利会社の社長をやっているケースがありますが、日本ではそういった話はあまり聞かないんですよね。

松島 : 一緒に頑張りましょう(笑)。Law and Theory同様にarneでもインディペンデントアーティストさんの30分の無料相談を受け付けておりますが、活動するうえで自分で調べるということは大事なので厳密にいうとまずは自身で勉強してくださいと伝えています。その上でわからなかったら連絡してくださいという風にしているんです。

水口 : たくさん記事がありますからね。松島さんが書いているnoteもありますし。あともうひとつ、僕と共通点がありまして。好きな曲を社名に入れているというところが一緒なんですよ。松島さんの会社はharuka nakamuraさんの「arne」からなんですよね。

 
松島 : そうですね。10年近く前の曲になるんですけど、この曲が大好きで。少し前にはNintendo SwitchのCM曲にもなっていたりしていました。過去の曲で、かつメジャーではない曲が数十年越しにタイアップになるケースはかなり珍しいでことですよね。

 
 
■“誰かが拡げてくれる・気づいてくれる”ことはチャンスになる

コロナ禍真っ只中の2020年に起業したarne社。日本でもデジタル音楽市場が拡大しデジタルプロモーションやマーケティングの需要も高まってきています。#4では音楽デジタルプロモーションやマーケティングの現在地について、またアーティストマーケティングの運営事例や今の時代にあったプロモーションの考え方をトークしていきます。


水口瑛介
【水口瑛介弁護士】
アーティファクト法律事務所代表。音楽家に無料法律相談サービスを提供するMusic Lawyer Collective「Law and Theory」の代表もつとめる。アーティスト、音楽レーベル、音楽関係企業などをクライアントとする案件を多く手がける。

 
水口 : たとえば洋服を売ったりするのと、音楽のファンを増やしていくのは具体的にどのような点が違うのでしょうか。

松島 : ストリーミングやYouTubeが使われるようになってからは聴く環境も変わってきていますよね。音楽は毎日寄り添うものであり、繰り返し聴いて楽しむものなので、そこがほかと違う点といえます。もし誰かの人生に寄り添う曲になればその人が長い間、繰り返して聴いてくれるとその分が収益になり続けますよね。なので、お金になるポイントもあるんです。洋服の場合だと一生着るものって数点だったりするじゃないですか。エンターテイメントメディアでいうと、たとえば繰り返し見るYouTuberの動画って少なくて、一方音楽は永続的に聴いてくれるということですね。

さらに、音楽の場合だとエンゲージポイントも見れるようになっているところも大きいですね。こだわって作られた服や食器とかも毎日使われる可能性もありますが、どこでどのように使われているかはみえないですよね。その場合、売った後のエンゲージメントポイントがゼロになってしまう。

音楽はその辺りが明瞭になってきていて、たとえばYouTube Studioではいつ・どこで・どうやって・どこからみられたのかすべて見れますし、for Artist系の分析ツールも世界中のデータが見える化できているので、きちんと確認して自分たちの活動に活かしてもらえたらいいなと思っています。

水口 : たしかに、洋服売った後はその洋服を誰がいつ着ているかなんてわからない、でも音楽ならわかるってことですよね。分析ツールではどれくらいの情報が見られるんですか?

松島 : リスナーの年齢層、性別、国・地域別とかですね。あとはYouTube Studioだとどういった関連動画からやってきたのか、Amazon Music for ArtistsではAmazon Echoにコールされている数はどれくらいなのか、コールされている場合は曲名、またはアーティスト名のどちらで呼ばれているのかなどが確認できます。Amazon EchoのデータはほかのDSPにはないデータなのでおもしろいですね。

水口 : データでみると同じ国でも都市のなかで違いがあったりするんでしょうか。

松島 : あると思います。日本アーティストだと台湾で聞かれる方が多いのですが、北部と南部ではリスナーのカルチャーゾーンが違ったりします。フェスやパーティ系の内容も異なるそうなので、台湾内でも違いはあるでしょうね。

水口 : データ分析やデジタルマーケティングをした結果、目指すところは再生数を稼ぐだけじゃなくて、ストーリーを作っていくようなところを意識されているのかなと感じました。

松島 : その通りですね。再生回数は目に見える数字ですし、収入にも直結しますが大切なのは小さいところからでもファンベースを大きくしていくのに尽きるかなと。そうなるとファンとのコミュニケーションだったり、ストーリーや世界観を伝えていくことが大事になってきますよね。

水口 : 一時的に再生数がすごく伸びたとしても人生に寄り添う曲、長期的に聴いてくれる曲になるということとはまた別ですよね。

松島 : そうですね。もちろんこれをビジネスと捉えて稼ぎ方をするのは間違ってはいないのですが、いろんなアーティストが健やかに活動される際には長期的なファンベースを構築する方がいいんじゃないかなと思います。

水口 : あまり知識がないアーティストが「ここからでも手軽に始められる」と思えるマーケティング手法はどんなことがあるんでしょうか。

松島 : たとえば、いま活動しているアーティストだといかにチャンスを見逃さないかというのが大事になっていると思います。小さいファンベースだったとしても、SNSを活用して自分たちにあった手法でその輪を拡げていくことはマストでしなくてはいけないことですよね。

これを実行している方も多いんですが、並行して「誰かが拡げてくれるもの」を注視することが大切です。誰かが拡げてくれるもの、つまりUGCは TikTokで曲が使われたり、YouTubeでカバーしてもらえたり、もっというと誰かが気づいてくれる流れってあったりするんです。この拡げてくれる・気づいてくれている=チャンスなので、見逃さないようにしてほしいなと思います。

データ分析やデジタルマーケティングという言葉自体は難しく思えますが、まずは自分たちでしっかり調べてみてください。エゴサーチも立派なマーケティング手法のひとつになるので、そこからはじめてみるのでもいいと思います。Twitterでエゴサするほかにも、Instagramでメンションつけてくれた人の投稿を見にいくとか。そういったリサーチを重ねていくとファンの人たちのことを分かってくるんですよね。身近なSNSからで構わないので、そこからしっかり見てもらっていって分析ツールを使っていくのが順番としていいと思います。

水口 : 自分の曲を聴いてくれている人に興味を持つところからはじめると。

松島 : そこが大きいですね。次の方向性とか決める前に、一度ファンや聴いてくれている人の特徴を認識したうえで次のステップにいくのがいいかと思います。

水口 : 今の若い世代の人たちはマーケティングに関する行動は意識的、もしくは無意識的に行っていたりするのでしょうか。

松島 : エゴサの延長線上で無意識的にやっているアーティストは結構いると思います。

水口 : 松島さんからみて、そういった行動をしているアーティストはどんな方ですか?

松島 : 挙げるとすれば、Wurts、tonun、4naあたりが実験的にいろんな投稿をしているイメージがあります。この3アーティストはとても上手な投稿をしていますね。大事なお知らせをする前に、過去にバズったことのある投稿をあえて入れるとか戦略的にやっていたりします。こういった動きは無理してやるのではなく、楽しんでやることが一番なので自分にあったやり方で実行することが大切ですね。 TikTokに限らず、違うアプローチの仕方でやっている人も多くいますので。

 
水口 : マーケティングに関して詳しく知っている必要はなくて、何かあったときに違和感を覚えられるようになったり、アイデアを出せるようになっていたりすることが大切なんじゃないかなと思いました。引き続きお話を伺っていきます。

 
 
#5、#6ではインディペンデントアーティストのプロモーションの具体的な考え方や異なる地域へのアプローチ方法をはじめ、レコード会社からアプローチされた際の判断基準についてなどさらに深堀りしたトークが展開されます。すでにポッドキャストには全編配信されているので、ぜひチェックしてみてください。

 
 
THE MAGAZINE talk #3, #4

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Ko Matsushima / 松島 功
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この記事の執筆者

aya/綾

株式会社arne / Webメディアで編集&ライターもやっています / 趣味→Spotify / 好き→焼肉 / エンタメマーケ勉強中

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